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2021年5月 5日 (水)

文化庁のホームページから文化の定義を考える

新型コロナウィルス以降、このブログでは文化や芸術を批判的に取上げてきました。何とかこの言葉を使わないで済むようにしたい。ところであらためて、文化や芸術とは何だろうかと考えたら、これは範囲が広くて手に負えるものではありません。Wikipediaの「文化」には以下のようにありました。

文化(ぶんか、ラテン語: cultura)にはいくつかの定義が存在するが、総じていうと人間が社会の構成員として獲得する多数の振る舞いの全体のことである。社会組織(年齢別グループ、地域社会、血縁組織などを含む)ごとに固有の文化があるとされ、組織の成員になるということは、その文化を身につける(身体化)ということでもある。人は同時に複数の組織に所属することが可能であり、異なる組織に共通する文化が存在することもある。もっとも文化は、次の意味で使われることも多い。

ハイカルチャーのように洗練された生活様式
ポップカルチャーのような大衆的な生活様式
伝統的な行為

なお、日本語の「文化」という語は坪内逍遥によるものとされている。

こんなところに坪内逍遥が出てくるとは思いませんでした。シェイクスピア以外にもいろいろ翻訳している。

それはさておき、もう少し具体的に定義されている情報が何かないかと考えて、文化庁のホームページを見てみました。それらしいページを探して「1.文化芸術振興の意義」を見つけました。

文化芸術は,最も広義の「文化」と捉えれば,人間の自然との関わりや風土の中で生まれ,育ち,身に付けていく立ち居振る舞いや,衣食住をはじめとする暮らし,生活様式,価値観など,およそ人間と人間の生活に関わる総体を意味する。他方で,「人間が理想を実現していくための精神活動及びその成果」という視点で捉えると,その意義については,次のように整理できる。
(略)

意義ではなく、このページで呼ぶところの文化芸術を定義してほしいのですが、なかなか上手くいきません。そこで思いついて、文化庁の組織図を見てみました。食文化や文化観光も文化庁の対象なんだ、という発見もありますが、寄道してはいけません。これによると今は9課4参事官で以下の構成です。カバーする分野に対して定員294人は少ないですね。3倍くらいいると思っていました。契約社員などもそれなりにいるのでしょう。

・政策課(会計室、文化政策調査研究室)
・企画調整課
・文化経済・国際課(国際文化交流室)
・国語課(地域日本語教育推進室)
・著作権課(国際著作権室、著作物流通推進室)
・文化資源活用課(文化遺産国際協力室)
・文化財第一課
・文化財第二課
・宗務課
・参事官(文化創造担当)
・参事官(芸術文化担当)
・参事官(食文化担当)
・参事官(文化観光担当)

今回の目的だと「参事官(芸術文化担当)」あたりが対象になりそうです。そこで芸術文化のページを調べると、このような記載が見つかりました。

 音楽,演劇,舞踊,映画,アニメーション,マンガ等の芸術文化は,人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に,社会全体を活性化する上で大きな力となるものであり,その果たす役割は極めて重要です。
 文化庁では,我が国の芸術文化を振興するため,音楽,映画,舞踊等の舞台芸術創造活動への支援,若手をはじめとする芸術家の育成,子供の文化芸術体験の充実,地域の芸術文化活動への支援,文化庁メディア芸術祭の開催をはじめとした映画やアニメーション,マンガ等のメディア芸術の振興等に取り組んでいます。

なるほど、と思いつつ、絵画や彫刻などはどこに含まれるのだろうと調べたら、文化財の紹介ページがあり、「有形文化財(建造物)」「有形文化財(美術工芸品)」「無形文化財」「民俗文化財記念物」「文化的景観」「伝統的建造物群保存地区」が挙げられていました。そこから有形文化財(美術工芸品)のページに飛ぶと、以下の記述があります。

 建造物,絵画,彫刻,工芸品,書跡,典籍,古文書,考古資料,歴史資料などの有形の文化的所産で,我が国にとって歴史上,芸術上,学術上価値の高いものを総称して有形文化財と呼んでいます。このうち,建造物以外のものを総称して「美術工芸品」と呼んでいます。

つまり、我々が何となく狭義に芸術と呼んでいる範囲から、有形文化財となる建造物と美術工芸品を除いたものが、芸術文化とみなされます。具体例は先に引用した通り「音楽,演劇,舞踊,映画,アニメーション,マンガ等の芸術文化」です。

ただ、これは具体例であって、定義と呼ぶには微妙です。もう一度引用します。

 音楽,演劇,舞踊,映画,アニメーション,マンガ等の芸術文化は,人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に,社会全体を活性化する上で大きな力となるものであり,その果たす役割は極めて重要です。

役割は書いてありますが、定義としては曖昧です。最初は美術工芸品を作品系、芸術文化を表現系と区分できるかと考えました。でも、美術工芸品で表現する作家もいれば、映画やアニメやマンガは作品と呼べます。ならは表現系に代わって上演系はどうかと思いましたが、記録されて購入や配信されるものを上演系も違和感があります。なによりマンガを含めにくい。実演系とメディア系で分けられないかとも思いましたが、音楽と映画が場合によってどちらの区分にも含まれうるので、それも難しいです。

なので、鑑賞時間という区分を考えてみました。「最初から最後まで鑑賞するのに、鑑賞側に一定の時間を要する作品分野」を文化庁流の芸術文化と呼ぶ、ですね。文化庁の記述で色付けするならこうです。

「鑑賞に一定の時間を要する分野の作品のうち、人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に、社会全体を活性化する上で大きな力となる価値の高いものを総称して、芸術文化と呼ぶ」

書いてみて、まだ違和感があります。「芸術文化」という大括りな言葉に対してです。なぜかと考えるに、美術工芸品なら「品」が対象なのに、こちらは「文化」が対象となっています。大きさが合いません。

これは芝居を考えると想像がつきます。上演されるまで仕上がりがわからないものを文化庁が支援するときに、「品」が対象では支援ができません。なので「文化」を支援するという建付けをそこはかとなく表した言葉になっているのでしょう。文化庁の組織では、大まかに「育成と振興」が目的の部署と、「保護と継承」が目的の部署とがあり、「育成と振興」が目的の部署なら、それはもう組織の都合なのでしょうがないですね

でもここでは定義を問題にしていますので「品」を付けましょう。ただ、メディアで定着するものと、上演したら一過性のものとがありますので、「作品」と呼ぶほうが良さそうです。あと、芸術という言葉は一般的には美術工芸品などを含みますから、使わないほうが無難です。

あと、作品と関係者や業界を混同しないように定義しておきたいです。単に文化と呼ぶと、俺が文化だとか言い出す人が出てきてややこしくなります。

それで直すとこうなります。やや強引ですがしょうがないです。

「鑑賞に一定の時間を要する分野の作品を総称して、鑑賞作品と呼ぶ。そのうち、人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に、社会全体を活性化する上で大きな力となる価値の高いものを総称して、文化作品と呼ぶ。鑑賞作品の製作から鑑賞可能な状態を提供するまでの一連の作業に携わる関係者の仕事を総称して、鑑賞業界と呼ぶ」

価値は誰が判断するんだって話ですが、何事も上中下があらあな、としかいえません。美術工芸品だって上中下があるので。私は、文化や芸術という言葉が濫用されることを制限したいので、ひとまずこの定義でよいと考えます。自分の中で整理がついたのですっきりしました。

補足です。文化庁のホームページを読んでいて、「芸術文化」の一区分にメディア芸術のページがあり、ゲームがここに含まれていました。将来、独立した扱いになると予想します。

そして文化庁のホームページを読んでいて見つからなかったのが小説です。今回の私の定義に従えば鑑賞作品に含まれます。「芸術文化」の具体例にマンガはあっても小説の記述がありません。「著作権課」があり、著作権のページがあるので書籍出版関係はそちらと縁が深いのかなと想像しますが、文化庁内の区分がどうなっているのか、気になります。

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