Bunkamura・大人計画企画製作「パ・ラパパンパン」Bunkamuraシアターコクーン
<2021年11月14日(日)昼>
デビュー作が佳作、以降は鳴かず飛ばずの女性ファンタジー作家。それまでの路線から心機一転、新作はミステリーを書くと宣言したものの、粗筋すら思いつかずに締切が迫る。呆れる担当編集者だったが、編集長から今回の企画をあきらめるように指示されたことで、むしろ協力姿勢を示す。ふと話題に挙がったクリスマスキャロルから、守銭奴のスクルージが殺されればミステリーになると思いつくも、有名なミステリーも読んだことがない作家なので、展開も時代考証もでたらめなまま、勢いで書き進めるうちに、現実と作中とが曖昧になっていく。
翻訳でなく完全新作で松尾スズキが演出専念。ファンタジックミステリーコメディと銘打って、年末を狙った古典を題材に。ミステリーの要素もそれなりに考えられているが、肝心な何か所かをファンタジーに頼って解決しているので、ファンタジックコメディのほうがしっくりくる。ものすごい雑にまとめると、松尾スズキが演出した「サンタクロースが歌ってくれた」だった、とか書いて何人わかってくれるか。
スローな場面が、特に前半に多くて何かと思ったら、あれはテレビドラマのテンポか。脚本の藤本有紀は舞台脚本経験もあるが今時点ではテレビの脚本歴のほうが長い模様。テレビの連続ドラマと違ってつきっきりで観る芝居の場合、説明は劇中のどこかでされればいい、むしろ説明情報を散らしたほうが自然になるのでまとめて説明する必要はないところ、ちょっとうっとうしい会話が多かった。大勢の豪華メンバーにはそれなりに見どころを用意するという副作用もあって、それも重たくなった一因。
そんな中でも攻めてこその小劇場出身者。いまも全力でカマす皆川猿時に敬意を表しつつ、どんな演技でも常にテンション全開だった小松和重と、あれだけボケてもスクルージ役の雰囲気を壊さない小日向文世の技を挙げたい。歌も演技も上手い松たか子には満足だけど、松たか子に歌わせれば元は取ってもらえるだろうという姿勢も感じなくはない。スレた観客としては、松たか子が観たいのではなく、立上げ至難の舞台で成立困難な役を成立させたときにこそ役者は輝くのであり、それを成立させる実力を持つ松たか子が実力を発揮したところを観たいのだと言いたい。
それなりに笑いながら観たのに何でこんなに辛い感想になるのか、チケット代が高かったからか、と書いてから考えた。たぶん「現実と作中とが曖昧になっていく」パターンを芝居でよく見かけるから、自分の中でハードルが高くなっている。先に挙げた「サンタクロースが歌ってくれた」は映画の登場人物が現実に出てくるパターン。後藤ひろひとなんかはそれがとても上手で、「人間風車」が有名だけど、今回の連想では作中というか伝説を語る体の「ダブリンの鐘つきカビ人間」を思い出す。どれもだいたい2時間強で収まっていた。
今回は演出と演技で頑張って成立させた印象だけど、歌を入れて、休憩20分を挟んで、カーテンコールまでで3時間10分。ここから絞って、歌抜きなら2時間でいけるくらいまで密度を濃くした脚本で観たかった。絞る価値ある脚本だったと感じたからなおさら。
昨今は長い芝居の上演に寛容で、そのおかげで上演できる芝居の幅は広がったかもしれないけど、必要性を感じられずに無駄に長いのはよくない。無駄かどうかを何で判断するかと言ったら密度。笑いでも、情報でも、役同士の関係でも、雰囲気でも、なんでもいいけど、舞台上を流れる空気の密度。
あとメモ。今回の休憩時間、シアターコクーンが1階の入口前を一部閉鎖して(傘置き場のあたりから、レストラン手前まで)、休憩中の人がロビーに溢れないように、かつそこまでなら再入場不要になるよう工夫してくれていた。吹抜けだから外気にも当たれるし、あれはとてもよかったので記録しておく。思いついた人と実施決断してくれた人に拍手。できれば中二階も外に広げてほしかったけど、あそこはオーチャードホール入口への通路をふさぐから駄目だったか。
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