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2021年12月28日 (火)

2021年下半期決算

恒例の下半期決算です。

(1)Bunkamura・大人計画企画製作「パ・ラパパンパン」Bunkamuraシアターコクーン

(2)世田谷パブリックシアター企画制作「愛するとき 死するとき」シアタートラム

(3)Bunkamura企画製作「泥人魚」Bunkamuraシアターコクーン

(4)風姿花伝プロデュース「ダウト」シアター風姿花伝

(5)座・高円寺企画製作「アメリカン・ラプソディ」座・高円寺1

(6)座・高円寺企画製作「ジョルジュ」座・高円寺1

以上6本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は43400円
  • 1本あたりの単価は7233円

となりました。上半期の9本と合せると

  • チケット総額は151100円
  • 1本あたりの単価は10073円

です。なお各種手数料は含まれていません。

下期は上期よりも少ない本数に1万円越えの芝居を2本も混ぜたせいで、年間単価1万円を切ることができませんでした。そしてチケット代が面白さの保証にならないことを思い知らされた年でもありました。

チケット代は関係者の有名度に左右されるものであり、逆に言うとどれだけ面白くても高いチケット代を正当化するためには有名人を呼ばないといけないのが一般です。もちろん、有名人が集客力を盾にぼっているかというとそんなこともなく、実力や華があるからこその有名人ですし、集客力です。その辺は芝居の世界はやはりシビアで、応援する側にだって限度がありますから、客も制作者も、時間と財布をどれだけつぎ込む価値があるか常に問い続けています。つかみどころのない、しかもわかる人にはわかる芸という成果を客は求め、はっきり数字で出てしまう集客力という成果を制作は求め、その両方が一致しないことも珍しくない。そんな両極端な評価に四六時中さらされることを考えると、芸能は並の神経ではつとまらない商売であるとあらためて思います。

そんな中で、芝居関係者以外には地味オブ地味な小規模芝居にもかかわらず高めのチケット代をつけて、しかも芝居ファンならずとも観た人全員満足させたであろう(4)を下期の1本、かつ通年の1本に挙げます。(5)(6)もその作曲家の音楽好きなら満足できる出来でしたが、芝居好きとしてはゴリゴリのストレートプレイに軍配を上げます。

劇場オーナーとしてもっと安いチケット代から始めたプロデュースを毎年続けてここまで育て、時期によってチケット代に差をつけて口コミを促すような集客の工夫も取入れて、人気が出る前から発掘した演出家を起用し、少人数でも面白そうな脚本を探し、でもやるからには自分も出演して存分に実力を見せつけてくれる、那須佐代子の気合の集大成のような公演でした。

そして今回の演出は何度目かの登板の小川絵梨子。観た芝居が少ない中で上期の1本の演出家と重なりました。やっぱりこの人の演出を見逃してはいけない、と思いつつ、最高においしそうだった「検察側の証人」は新型コロナウィルスの第5波で挑戦すら見送りました。もったいない。

出演者側では通年から選んで、「東姫」の仁左衛門に1票を入れます。玉三郎と組んでのあの色気は双方ともすごかったのですが、私は仁左衛門を贔屓します。こちらも、古典寄りの歌舞伎を、勉強ではなく楽しむための道しるべとして、出演機会はなるべく押さえたい。なのにせっかく玉孝コンビで上演された「東海道四谷怪談」は新型コロナウィルスの第5波で挑戦すら見送りました。もったいない。ただ、1幕立見のない昨今、歌舞伎は気軽に観ることもままならないので、そこは財布との相談となります。

財布と相談も必要ですがもうひとつ、総額だけでなく単価が上がりすぎなので、自分の芝居選びの眼が偏ってきているのではないかと心配しています。偏ったって誰に悪いこともないのですし、己に自分の趣味を厳密に問うて偏るなら結構なことですが、見極めるのを放棄して高いほうが品質安定だろと安易になるのはよろしくない。そしてチケット代が面白さの保証にならないのは先に書いた通りです。新型コロナウィルスのため気軽に観に行けない例外的な時期だとしても、それは意識しておかないといけません。あらゆる観た芝居に楽しさを見出す達人の領域には程遠いので、体力の続くうちは選択眼くらいは磨いておきたいという思考です。

自分で書いていて、趣味を楽しむために趣味に対して厳しくなるという、本末転倒な領域で迷子になっているなと思いました。早くこの領域を脱け出してもっとリラックスして楽しめる領域までたどり着きたいです。

その他の話題です。芝居っぽい話だと劇場建替えとか芸術監督交代とかさいたまゴールドシアター解散とか、時の流れを感じさせる話題が多くありました。そして今年は延期されたオリンピックが開催されたのに、開催されたのかというくらい記憶がない。一番記憶にあったのは小林賢太郎の解任話です。が、そこはもう触れません。

さらに、引続き新型コロナウィルスに振回された1年でした。芝居関係ではクラスターもあれば中止もあれば感染者もあり、とても全部をブログにできる分量ではありません。その中でも一番気になったのは芝居でなく音楽イベント開催を強行した話です。

開催にあたっていろいろ適当に申告していたことがわかり、強行した理由がお上に突っ張るでもなんでもなく単にイベントでいっちょ稼ぎたいという、素朴と言えば素朴な理由だったことが後でわかりました。が、それを評して「単純に"ちゃんとしてない人"だった」「ダサい」という輪をかけて素朴な感想のツイートを目にしたとき、私の中にあったいろいろな思い込みが洗い流されました。「格好いい」ものは存在せず、それを格好いいと思いこむ自分および周囲の価値観の表れが格好いいの正体である、「格好悪い」もまたしかり、どちらも人の思い込みによる相対的なものである。そう考えたらいろいろ楽になりました。

まだ考えがまとまっていないところで大げさに書きますが、別に「格好いい」に限らずこの思い込み、なんというのか、人間は自分の外に「いい」と「悪い」を作りたがる、作らないと生きるのがつらいんじゃないかとうっすら思いました。それの最たるものが宗教なわけですが、宗教に限らず、何か基準を外に求めたがるとでもいいますか。全部を自分で引受けることの困難さといいますか。

適当に書いたので気にしないでください。以下は来年に向けての話題になります。

一番は自民党が参議院の立候補に漫画家を立てての表現の自由に関する話題です。ことさらに取りあげるのは、表現の自由なんて芝居関係者には自明のことと考えるのは早計だからです。もともと左翼的イデオロギーの強い舞台関係者の中に自民党大嫌いという人達が一定数いて、表現の自由より自民党嫌いを優先させるひねくれものが一定数出てくる可能性があります。私自身もその傾向がありますが、大義のために気に入らない奴のことを我慢するくらいなら、大義なんて蹴っ飛ばして気に入らない奴をけなすほうがいい、と思うことは度々あります。それが行き過ぎて、自民党を応援することになるくらいなら表現の自由をあきらめてもいいと言い出す関係者が出てこないか、比べられないものを比べて蹴っ飛ばす人が出てきてしまわないか、今からドキドキしています。出てこないことを願います。

次に新型コロナウィルスの話。第6波が来そうな現状ですが、国内はオリンピック後の3か月はかなり上手に推移してきました。が、日本だけが落着いてもまだ駄目で、世界経済がつながっている現代では、海外も落着いてくれないと混乱が収まりません。来年には収まってほしいですが、収まる気配は遠く、特に欧米は一向におさまりません。ワクチンを疑うから打たない人たちの気持ちはまだわかるのですが、あれだけ人が死んでも、買えないとか物がないとかの理由もなくマスクをしないのは、あれが文化なのか死ぬのが怖くないのか、さっぱり気持ちがわかりません。自分が感染するのを防ぐためのマスクではなく、他人に感染させるのを防ぐためのマスクなのが難しいところで、着けたい気分をそそってくれないのでしょうか。

(6)で書き忘れたのが、ああ2年前に観たかったという感想です。パリで社会活動を頑張ったフランス人文学者、という登場人物を素直に格好いいと思えたのは2年前までです。新型コロナウィルスに関連したヨーロッパの記事、それは悪いからこそ記事になるという偏りがあるのは事実ですが、それにしてもヨーロッパは、上は自国を守るのが最優先だし、下はとりあえず何でも気に入らなかったらデモをやるのが、よくいえば伝統だと感じました。別に間違ってはいませんが、日本は武士道の勇気と忠義、中国なら儒教の倫理と道徳のように、その国にないものが出てくるんだな、それが欧米だと自由平等博愛なんだな、という歴史をかみしめました。なんだか上から目線ですが、でも、(6)で主人公が活動にのめり込む終盤に、ちょっと引いてしまったのは事実です。

最後は戦争の話題です。新型コロナウィルスという世界的危機でも、世界は団結できないという歴史の貴重な1コマを体験中です。芝居でも映画でもマンガでも、全世界の危機には各国が一致団結して立ち向かうものなのに。で、直接は、中国が戦争を始めるかどうかです。台湾を取られたら日本の海上物流が死ぬので、日本も参戦せざるを得なくなります。そうなったら芝居どころではありません。そして、西は西でウクライナ周辺でロシアとNATOのにらみ合いが続いています。両方いっぺんに戦争になったらどうにもなりません。今年は無事でしたが、北京冬季オリンピックの後がどうなるかと言われているので、何も起きないことを願います。

波乱含みの1年に何事もないように祈りながら、果たして何本の芝居が観られるのか想像もつきませんが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2021年12月27日 (月)

2022年1月2月のメモ

妙に2月に偏ったメモです。少し前に調べたので直すかもしれません。

・国立劇場主催「通し狂言 南総里見八犬伝」2022/01/03-01/27@国立劇場大劇場:読んだことがないから通し上演なら観てみたい

・パルコ・プロデュース「ロッキー・ホラー・ショー」2022/01/13-01/16@神奈川芸術劇場ホール、2022/02/12-02/28@PARCO劇場:古田新太の一世一代

・新国立劇場主催「理想の夫」2022/02/01-02/06@新国立劇場小劇場:オスカー・ワイルドの喜劇が気になる演劇研修所修了公演

・松竹製作「二月大歌舞伎 第二部」2022/02/01-02/25@歌舞伎座:仁左衛門で義経千本桜だけど部分上演だしどうしたものか

・松竹/Bunkamura主催企画製作「天日坊」2022/02/01-02/26@Bunkamuraシアターコクーン:チケットが手に入らないことを除けば期待度高いです

・劇団民藝+てがみ座「レストラン『ドイツ亭』」 2022/02/03-02/12@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA:粗筋も重そうだし自分でも理由不明だけどなんとなくピックアップ

・Makino Play「モンローによろしく」2022/02/03-02/13@座・高円寺1:マキノノゾミの自作演出団体による第2弾

・東宝/キューブ企画製作「SLAPSTICKS」2022/02/03-02/17@シアタークリエ:パルコ劇場でやってた再演版がとても良かった記憶がある

・地人会新社「二番街の囚人」2022/02/10-02/20@赤坂RED/THEATER:濃ゆい役者を揃えてニール・サイモン

・神奈川芸術劇場企画製作主催「ラビット・ホール」2022/02/18-03/06@神奈川芸術劇場大スタジオ:この役者とスタッフでこけたら許さんという陣容

オミクロン株による新型コロナウィルス第6波がどうなるか、と固唾をのんで見守るところで、前売券を買うのもためらわれます。第6波が明らかになったら諦めやすいですけど、それを望むものではないので、実に悩ましいです。

2021年12月26日 (日)

座・高円寺企画製作「ジョルジュ」座・高円寺1

<2021年12月26日(月)昼>

恋多き女として知られたフランスの女流作家ジョルジュ・サンド。恋人だった弁護士に連れられて聴いたショパンにほれてショパンとつき合い始め、にも関わらず2人を支える弁護士。病がちなショパンの看病と社会運動の盛上がりにやがて分かれるまでを、ジョルジュと弁護士との往復書簡で描く。

同じ斎藤憐脚本で往復書簡にピアノを加えた「ピアノと音楽」シリーズだけど、「アメリカン・ラプソディ」がガーシュイン中心に描いていたのに比べると、こちらはタイトル通りショパンではなくジョルジュの話。ただしショパンとつき合っていた時代のジョルジュを取りあげることで、音楽家のことも描く「ピアノと音楽」シリーズの形式に寄せている。

それはジョルジュが恋多き女というわかりやすい面に加えて、女性の自立とか社会の変革のために奔走した活動家の面があったから。「アメリカン・ラプソディ」でガーシュインが行なっていた活動の役回りを担っていたのが、今回だとジョルジュ。やっぱりそういう志向があったんだろうな脚本家、と勝手に裏読みする。

今回はさすがに芝居成分多め。簡単そうにやっているけど絶対簡単じゃない演技というか朗読をさらっと展開する竹下景子。何年もやっているからこその境地か。一方の植本純米はおどけたおおげさな演技に小ネタを加えることでドロドロさせずにおしゃれさを維持しつつ引いた線は壊さない芸達者。相手の読みにも細かいリアクションを入れておりそれが楽しめるのはこの規模の劇場の特権。関本昌平のピアノは曲によって細やかさと激しさを使い分けて自由自在。いまさら「あの曲もショパンだったんだ」という発見も多かった。

弾いていたのは「アメリカン・ラプソディ」と同じピアノだったけど、今回のショパンの曲は馴染んでいた。たぶん、ピアノ自体がこういう曲向けで、さらに軽く弾いても音の響きが強く出るように作られている。前回不思議な音と思ったのはピアノが理由だった。

何年か前から気になっていた演目を今年になって観ることができたのに満足だし、実際に楽しかったことにも満足。

あとは劇場メモ。劇場に入るところで検温と消毒、場内マスク着用依頼、くらいしか前回はしていなかった。今回行なわれていた工夫で「おっ」と思ったのは、場内入場口に台と固定したスマホを用意して、スマホのカメラで動画撮影しっぱなしにしておき、焦点距離の合った台にチケットを置いてから(客が)もぎりを行なっていたこと。券面に名前が書かれているから、その記録を省力化するためだと思われる。いろいろ応用できそう。

もうひとつ。盲人の客を見かけた。白杖の人を劇場の人が案内していたり、夫婦で片方が盲人で盲導犬と一緒に入場していたりした。音楽朗読劇なので相性がいいのだろうけど、こういうところで融通が利くのはほどほどの規模の公立劇場ならでは。劇場の客席は段差が多いから危ないのだけど、何年もやっている企画だから慣れているのか案内も無事だった。機会があれば芝居はいろんな人が観に来るものだと今さらながらに考えさせられた。

2021年12月22日 (水)

Wキャストの主演女優が亡くなった時の対応の記録

「マイ・フェア・レディ」の話です。あまり細かい話には触れないで、記録のつもりで。まずはスケジュールの確認。

・2021/11/14-11/28 東京
・2021/12/4 埼玉
・2021/12/10-12/11 岩手
・2021/12/17-12/20 北海道
・2021/12/25-12/26 山形
・2022/01/01-01/03 静岡
・2022/01/06-01/07 愛知
・2022/01/12-01/14 大阪
・2022/01/19-01/28 福岡

新型コロナウィルス以降、今どきこんな絵にかいたようなツアースケジュールがあるのと思いつつ、陽性者が出たときの中止対応もスムーズに行なえる、理想的なスケジュールです。

出演者はイライザ、ヒギンズ教授、フレディがWキャストで組まれていて、それぞれ
・A 朝夏まなと、別所哲也、寺西拓人
・K 神田沙也加、寺脇康文、前山剛久(博多公演は寺西拓人)
となっていました。

東宝公式サイト「公演に関する重要なお知らせ」より。

神田沙也加さんは12月18日(土)に急逝されました。
ここに謹んでご冥福をお祈りいたします。

現在全国ツアー公演中の『マイ・フェア・レディ』札幌公演につきましては、公演の継続は困難との主催者の判断により、12月19日(日)、20日(月)の公演の中止が決定されました。お客様には大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません。

チケットの払い戻し方法につきましては、道新プレイガイドのホームページにて12月2
0日以降発表させていただきますので、そちらをご確認くださいますようお願い申し上げ
ます。なお以降の全国ツアー公演については、後日改めて当ホームページおよび各地の主催者のホームページにてお知らせいたします。

広く日本のエンタテインメント界に多大な功績を残された神田沙也加さんに敬意を表し、心からの哀悼の意を捧げます。

2021年12月19日
東宝株式会社

報道では、12月18日の昼公演がチームKの予定だったところ、神田沙也加と連絡が付かないので当日は朝夏まなとが代演、翌日以降の北海道公演を中止した、となっています。

このあとどうなるかと思いましたが、チームAのみでの公演続行となりました。「ミュージカル『マイ・フェア・レディ』12月25日(土)以降の公演に関する重要なお知らせ」より。

神田沙也加さんは12月18日(土)に急逝されました。
ここに謹んでご冥福をお祈りいたします。

12月25日(土)から明年1月28日(金)にかけての山形・静岡・愛知・大阪・福岡公演につきましては、各主催者との協議のうえ、イライザ役・ヒギンズ役・フレディ役の3役を、朝夏まなと・別所哲也・寺西拓人の「チームA」にて、全公演を務めさせて戴くことといたしました。神田沙也加・寺脇康文・前山剛久の「チーム K」の公演を楽しみにされていたお客様におかれましては大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございません。何卒ご了承いただけますと幸いに存じます。

広く日本のエンタテインメント界に多大な功績を残された神田沙也加さんに敬意を表し、
心からの哀悼の意を捧げます。

2021年12月21日
東宝株式会社

両チームからの代表コメントをスポーツ報知「寺脇康文、沙也加さん遺作『マイ・フェア・レディ』25日再開も出演キャンセル『本当に悩みました』」より。

2021年12月21日 17時15分
(前略)
 沙也加さんの訃報を受け、札幌公演は19、20日の2公演が中止に。関係者が公演続行について協議を重ね、25日から再開することになった。沙也加さんが演じていた主人公イライザ役はダブルキャストの朝夏まなとが一人で演じきる。お互いをリスペクトし合い、プライベートでも仲良く深い絆で結ばれた2人。朝夏は悲しみをこらえて舞台に立つ。

 寺脇康文「この度、『マイ・フェア・レディ』の残りの公演の出演を、キャンセルさせていただくことに致しました。舞台人として、どうあるべきか、本当に悩みました。プロ意識に欠けるのかもしれません。それでも、イライザとヒギンズの二人三脚で作ってきたこの作品をこのまま続けることは今の僕には難しく、東宝さんをはじめとするカンパニーの皆さんもそのわがままを受け入れてくれました。楽しみにしてくださったお客様には大変申し訳ありません。自分にとっても本当に大切なこの作品は、朝夏まなとさん、別所哲也さんコンビが引き受けてくれます。最大の感謝とともに、千穐楽までの完走を祈ります」

 朝夏まなと「いつもインタビューで一番好きなミュージカルは『マイ・フェア・レディ』と言っていたさぁちゃん。(神田沙也加さんをこう呼んでおりました)私の宝塚退団後の初ミュージカルが本作品で、さぁちゃんからたくさんのことを教えてもらったり、他愛もない話をしたり、すぐに打ち解けて仲良くなりました。生き生きとイライザを演じるさぁちゃんが眩しくて、歌声も大好きでした。今、思い浮かぶのはさぁちゃんの笑顔です。日本で初めて上演された歴史あるミュージカル『マイ・フェア・レディ』。上演か中止か、どちらの決断が下されてもきっと様々な方々のお気持ちが複雑に交錯することもあるかと思います。けれどこの作品を愛する皆さまの気持ちも一緒にすべてのカンパニーキャスト、スタッフが一丸となり『マイ・フェア・レディ』を続けていくこと、この作品を全国の皆さまにお届けしたい…それがみんなの願いです。カンパニーを代表しまして、心よりご来場をお待ち申し上げます」
(後略)

公演中に亡くなった例としては、初日の上演中に亡くなった中嶋しゅうの例があります。その場で上演停止、代役を立ててから1週間後に再開、でした。

ただ今回は追加の話があります。FRIDAY DIGITAL「神田沙也加さん急逝 結婚の話もあった交際俳優の悲しみ」より。これが本当なら寺脇康文が大人のコメントを出して引いたのも納得です。

2021年12月21日

多くの人に衝撃を与えた突然の死。ここに姿を見せていないもう1人も、悲しみの淵にいる。舞台『マイフェアレディ』で共演していた舞台俳優の前山剛久だ。

「沙也加さんと前山さんは3年ほど前から面識はあったようですが、今年に入ってから本格的に交際をスタート。舞台だけでなく、アニメ作品など、共通の話題が多くあったことから、すぐに意気投合したとのことです」(芸能プロ関係者)
(中略)
共演者だけでなく、関係者からも2人の親密ぶりは有名だった。

「実は2人は結婚の話までしていたそうで、それくらい幸せに包まれていた。最愛の人の突然死に、前山はまだ現実を受け入れられていないようです。彼のツイッターは12月17日を最後に更新が途絶えています」(前出・芸能プロ関係者)

裏でどのようなやり取りがあったかわかりませんが、今回はこのようになりました、という記録です。合掌。

2021年12月20日 (月)

世田谷パブリックシアターの次期芸術監督は白井晃に交代

コンパクトにまとまっていたので読売新聞「野村萬斎さん、世田谷パブリックシアター芸術監督を来春退任…後任は白井晃さん」より。

2021/12/20 18:25

 東京都世田谷区の公共劇場「世田谷パブリックシアター」は20日、2002年から芸術監督を務めている狂言師、野村萬斎さん(55)が、来年3月末で退任すると発表した。後任は、演出家・俳優の白井晃さん(64)で、来年4月に就任予定。

 同劇場の芸術監督の任期は1期5年で、萬斎さんは連続4期を務めた。18年の読売演劇大賞で最優秀作品賞となった「子午線の祀り」など、伝統芸能と現代劇の融合を求めた多数の作品の企画や演出などに携わった。

野村萬斎はまだまだやると思っていたので驚きました。4期20年で一区切りとはいえ、今後は狂言の家元業に注力するために退任するのか、さすがに20年経ったから交代してもらいたいと劇場側が思ったのか、その両方なのか。記者会見は2月に行なうそうなので、そこで話が出るでしょう。

そして白井晃。個人的には、白井晃は訳わかんない系の芝居が好きな人という印象を持っているので、劇場主催演目のラインナップが妙に凝ったものにならないか心配しています。もともと世田谷パブリックシアターはダンスに強くて、それは芝居好きのダンス苦手から見ると訳わかんない演目を上演しがちな劇場です。ダンスが悪いわけではありませんが、芝居の演目は、劇場側が意識して派手目に引張ってほしいです。

ところで、白井晃は神奈川芸術劇場の次期芸術監督発表の時に「2021年には僕は63歳で、もし2期目を務めたら68歳。そんなおっちゃんがやってどうすんねん!と思う」って言っていたのに引受けるんだとこちらは別の驚きです。もっと続けてもらうつもりだったのが野村萬斎が急に辞めると言ったか、他の候補者を探していたけど調整が着かなかったか、どちらにしても時間がない中で1期5年のつなぎではないかと思います。

じゃあつなぎが終わった5年後に誰を狙うんだと言ったら、まさか次も神奈川芸術劇場から長塚圭史を引っ張ってくることはないはずです。長塚圭史本人も劇場側も、2期は務める予定でしょう。なら劇場として誰を狙うか。まっさきに思い浮かぶのは、2期8年が終わって演劇研修所の所長をやっているであろう小川絵梨子が第一候補ですよね。そこから開始なら最低3期15年は務まる年齢です。個人的には新国立劇場で3期12年を務めるに不足のない芸術監督だと思いますが、劇場側がよしとするかがひとつ、本人が次の環境を望むかもしれないことがひとつ、ということで可能性十分です。このブログでは5年後は小川絵梨子、に勝馬投票権を張ります。

2021年12月19日 (日)

座・高円寺企画製作「アメリカン・ラプソディ」座・高円寺1

<2021年12月19日(日)昼>

ユダヤ系ロシア人の移民の息子として、貧しい生活からピアノと作曲の腕でアメリカを代表する音楽家となったガーシュイン。数多いたガーシュインのパートナーの一人である女性作曲家と、同じユダヤ系ロシア人としてガーシュインの理解者だったバイオリニスト、友人だった2人の手紙のやり取りを通して描かれるガーシュインの生涯。

多少は立って動きもあるけど、脚本は手にもって、朗読で交互に手紙を読んで進める「ラヴ・レターズ」形式。そこにピアニストが入ってたくさんガーシュインの曲を弾き、歌入りの場合は作曲家役が歌う。

時代背景もあり、実際にガーシュインが行なった活動もあって、よく聞いていると差別に対する抗議を込めた場面も多々ある、穏やかならざる脚本。最初は翻訳モノだと勘違いしていたけど、後で見返したら斎藤憐だった(この劇場の館長も務めていました)。ただし今回はそこには踏込みすぎず、最後の曲だけ少し力を入れて弾いていたくらいで全体にはフラットに、ガーシュインの功績と曲を紹介することをメインにした演出。ほどよい規模の空間にピアノと歌で、休憩を挟んで2時間10分のおしゃれなコンサートを楽しんだ気分。

秋本奈緒美の歌も上手かったし、田中美央も抑え気味にすすめて好印象。不思議だったのは佐藤允彦のピアノ演奏。鍵盤の見える席だったけど、軽く弾いているのにザクザクとした荒っぽさと整った印象とが両立してさらに音色がカラフルで音の情報量が多い、目と耳が一致しない演奏だった。あれは腕前なのかピアノ(Shigeru Kawaiって河合ですね)なのか両方なのか。曲は素直に楽しんだけど、音色の謎はわからなかった。

2021年12月18日 (土)

漫画家の政治家立候補と表現の自由問題について

表現は、だいたい時代が進むごとにおおらかになるというか過激になるというか、そういう方向に発展するものです。マンネリ打破で、かといって新しい表現を見つけるのも簡単ではないので、過激にするのが手っ取り早いからです。あとは制限されているからこそ挑戦したくなるという面もあるでしょう。マンガの世界だと、以前は暴力関係の描写が「残酷だ」ということで問題になっていた気がするのですが、そちらはどうやら一段落して、ストーリーに沿っていればだいたい何でもアリ、になっているようです。

で、次はエロ方面の描写について「性搾取だ」という話で昨今問題になってきました。ここらへん、最近マンガをまた読みだして間がないので今どきのマンガの流れに詳しくないのですが、世の中の流れで基準が緩めになってきたのか、二次創作関係で過激な表現が当たり前になってきたのか、他の流れもあるのか、そこらへんの歴史には追いついていません。おっさんとしては「一人で裏門支えてんのに勝手に表門開けられちまっちゃあな」と話題になったグラビアで出版社側も世の中の基準を緩めるのに加担したとは記録しておきたい。それと、マンガだからといって「萌絵」という単語を使ってごまかしたくはない。かれこれいろいろ範囲を考えたうえでなお「創作でエロはどこまで認められるのか」という問題だと理解しています。

この問題は、エロが過ぎる、いくら何でも不愉快だ、という素朴な感想が、表現規制、表現の自由の侵害と背中合せになる微妙な話題です。なんなら暴力表現だってもう一度検討対象になり得る。それに加えて「聖地巡礼」とか経済効果を期待するから多少は目をつぶるみたいな立場の人達もいるので、一筋縄ではいきません。ただ、実際に被害を受けた人物がいるケースと、表現内にとどまっている架空の創作キャラのケースとは混在させないほうがいい、ということだけは理解しました。 前者は本人の被害、後者は閲覧者の不愉快が主対象です。範囲をどれだけ拡大してもそこが外れることはない。

他に、実際の被害というか性搾取はマンガ業界と芸能界なら芸能界のほうが本場だろうという話と、そうは言っても各種の「色気」が芸能界の売りの一部だろうという話もあります。ただ、ここまで素人がうかつに議論に踏込んだら大火傷するのでこれ以上は割愛します。

マガジン系というか講談社は各種表現についてはかなりおおらかなほうだと思います。マンガに限らず、週刊現代やFRIDAYも講談社ですし。そこが主掲載媒体だった赤松健は、何というか、サービスカット多めのマンガを描いていた漫画家のひとりですから、この手の表現規制に敏感になるのもわかります。ただ、表現規制が問題になってきた数年前から、「マンガで表現規制の問題なら赤松健」というくらい名前を見かけてきたので、業界有数の有識者でしょう。インタビュー記事を何回か見かけましたが、かなり真面目に問題の整理に取組んでいた印象です。

それが自民党から立候補するかもしれない、という記事が出て、本人もTwitterで認めています。タレント議員で票を稼ぐのは与野党問わず行なわれてきたことですが、今回は漫画家というのが異色です。

赤松 健@KenAkamatsu
一部報道にあるように、自民党本部で面談をさせて頂きました。
私は表現の自由を守るために、来夏の参院選への立候補の意志を固めています。
現在は選考過程の最中であり、党からの正式な発表がありましたら、改めて私の意思を皆様に伝えさせていただきたいと思います。

赤松健
午後9:30 ・ 2021年12月16日

表現の自由について、これまでだったら票にならない問題だと思われていたでしょう。だけどそれに取組んできた漫画家に擁立の動きが出て、擁立された側も目的として全面に掲げています。つまり今は表現の自由は票を左右する問題になっており、こちらに振ったほうが票になると自民党が判断した、ということです。表現の自由は別にマンガにとどまらず創作全般、芝居関係だって大いに影響を受ける話です。この動きは芝居関係者も注目しておいたほうがいいです。

この話題、芝居業界だって負けず劣らず向いていて、それがテーマの芝居だって創られてきました。本当だったら平田オリザがこのポジションに入っていてほしかった。のですが、旧民主党とのしがらみもあれば、新型コロナウィルスであれだけミソをつけたこともあり、さすがに今は出番ではない。他に適任者がいるかというと、いるかもしれないけど思いつかない。あとは先にも書いた通り、芸能界でこれを適切に論じられる素地があるとは思えない。時代の流れというか、タイミングというか、巡り合わせはあるにしてもマンガ業界が赤松健を輩出したわけで、そこらへん、層の厚さというより裾野の広さが生みだしたのだろうな、マンガ業界が今のサブカルチャーの雄だな、と改めて思い知っています。

輸送中の事故からのショーマストゴーオン

遠征公演の話を見て、これは輸送中に事故が起きたらどういう対応を取るんだろうと想像することの多い妄想魔でしたが、実際に起きたら何はともあれ御無事で何より、という話です。ヘタリアはマンガが原作だということくらいしか知りませんが、大阪公演前に輸送事故が起きたという話です。公式サイト「大阪公演についての重要なお知らせ」より。

平素より『ミュージカル「ヘタリア~The world is wonderful~」』を応援いただき誠にありがとうございます。

この度12月16日(木)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて開幕を予定しておりました『ミュージカル「ヘタリア~The world is wonderful~」』につきまして、運送会社による機材輸送時、トラック事故が発生し、大道具、小道具が一部損壊、音響機材が全壊する事態となりました。本事故関係者の命に別状はございません。

現在、上記損壊復旧作業による進行の遅れや、急遽取り寄せた機材による再調整などが発生している状況です。復旧作業に時間が足りない状況にて、大阪公演自体の中止も検討しましたが、製作委員会にて慎重な協議を重ね、本作の上演をお待ちいただいたお客様の為にも、限られた時間の中で最大限の準備をし、本来皆様にお届けしたかったクオリティに届かない公演になってしまう可能性もございますが、カンパニー一同で、今できる最高の上演を目指したいと思っております。しかしながら、現時点で100%のものに仕上げられる保証がないため、以下の公演に関しましては、ご希望の方への払い戻し対応をさせて頂くことにて決定致しました。また、公演時間に関しましても、少しでもクオリティを上げるための時間を頂戴したく、開演時間を変更しての公演とさせていただきたく存じます。何卒ご了承いただけますと幸いです。

【開演時間変更】

(変更前)12月16日(木)18:00公演→(変更後)12月16日(木)19:00公演

※開場時間はロビー開場、客席開場ともに開演の45分前を予定しております。
※開演時間変更に伴い、物販開始も1時間後ろ倒しとなり、16:00より開始となります。

【払い戻し対象公演】

12月16日(木)18:00公演

※上記日時のチケットをお持ちのお客様で、ご希望の方は払い戻し対応を承ります。

対象公演の払い戻し方法につきましては、後日公式サイト・公式Twitterにて発表させて頂きますので、ご案内をお待ちくださいますよう、何卒お願い申し上げます。

公演を楽しみにご来場を予定されていらっしゃいましたお客様には、ご迷惑とご心配をおかけしますこと、心よりお詫び申し上げます。
ご理解をいただきますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

引き続き、『ミュージカル「ヘタリア~The world is wonderful~」』を宜しくお願い申し上げます。

2021年12月14日
ミュージカル「ヘタリアWW」製作委員会

公演スケジュールを見ると、大阪が2021年12月16日から12月19日まで4日間6ステージ、その後東京で2021年12月23日から12月31日まで13ステージ。機材がないからといって全公演中止するという選択肢は取れません。急いで調達、間に合うもので上演、という方針はわかるところです。ただ1時間遅れで済ませたのがすごい。照明だと仕込みに影響が出やすい(バトンの上げ下げで舞台美術との兼合いがあるので仕込みの順番が早くなりがち)ところ、影響を受けたのが美術と音響機材だったのが、幸いしたというと怒られそうですけど幸いしたのでしょうか。同じ機材で調達の都合がついても、ミュージカルは会場ごとに場当たりでの音響の調整が大変そうですが、そこはもう機材の仕込みだけ間に合えばオペの腕の見せ所、最悪公開ゲネプロで勘弁、が判断だったのかなと推測します。

もう1点の見どころは「※開演時間変更に伴い、物販開始も1時間後ろ倒しとなり、16:00より開始となります」です。物販開始時間を削れば開演時間を遅れさせる必要ないんじゃないの、とならないのは、興行収入における物販の占める割合が非常に高いことを示しています。物販がなければ遠征公演は赤字、という話はよく見かけます。物販は断じてあきらめない、という強い意思を感じます。

で、無事に初日も開幕できたようなので、関係者の皆様お疲れさまでした。帰りは事故にならないようにご注意ください。

2021年12月13日 (月)

風姿花伝プロデュース「ダウト」シアター風姿花伝

<2021年12月12日(日)夜>

ケネディ暗殺の翌年、という時代のアメリカ。教会は司祭と神父によって、教会に併設されるロースクールは校長を筆頭に修道女たちによって、運営されている。校長を務めるシスター・アロイシスは厳格で恐れられている。人はいいが生徒に甘いとみる教師シスター・ジェームスを叱咤し、子供たちに人気のフリン神父を警戒する校長。やがて、シスター・ジェームスが、担任する少年の様子がおかしかったことを校長に報告してくる。その報告にフリン神父への疑惑を確信に変えた校長は神父を問い詰めるが、神父は疑惑を否定する。

このほかに少年の母親役を含めて、4人だけの登場人物が時に励ましあい、時に激しく口論を交わす。これこれ、こういうのが観たかった、というごりごりのストレートプレイ。いいお値段だけど芝居好きなら観ておけよ損はさせないから、の一本。たまらん。シアタートラムや新国立劇場小劇場くらいならこのまま持っていける芝居をこの規模の劇場でやる濃密さ。

こなれた翻訳で交わされる激論が、よくよく聴いていると言質を取らせないとても上手な言い回し。教会関係者だから基本は神に誓って嘘は言わないはずとか、いやいや教会の大規模な不祥事とその隠蔽は海外で大きなニュースになっていたよねとか、たまたま私は知っているけど知らなくても楽しめる。そういう現実や材料を背景に、何があったのかを追求するのが縦糸。その追求の焦点となる少年にとって、この問題に対して周囲がどのように振舞うのが本人の幸せになるか、この少年の幸せを願ったとしてそれがより広い共同体にとって益になるのか害になるのか、が横糸。

この話をタイトル通り、神父だけでなく校長の過去も明かさず、疑いのまま進めるのがポイント。そうすることで観ている側に、お前ならどうする、と問いかける。「テロ」では投票で二択を観客に迫ったけど、この芝居は問いかける選択肢がもっと広い。

4人しかいない中でも中心人物の校長を演じる那須佐代子が実力全開の切れ味。人が良さそうでも校長と全力で議論する亀田佳明。その間で悩むシスターの伊勢佳代。校長との会話でまったく違う視点から真っ向ぶつかってくる津田真澄。4人のバラバラな方向が、どこか一方に傾かないように調整したというより、拮抗するように引出した演出はさすがの一言。

スタッフワークは、狭い劇場を狭いと感じさせない美術と照明を挙げておく。美術は広さに加えて、見切れを減らして座席を増やしたことも今回の功績に挙げたい。どちらも客として本当にありがたい。あと誰にも通じそうにないマニアな話として、適切な暗転の使い方を久しぶりに観た気がする。たぶん脚本で指定されている通りだと思うけど、今どきの芝居は、暗転なしで場面転換できて当たり前、みたいなところがあるので新鮮だった。

新型コロナウイルスが一時期よりは落着いてきたとはいえ、次はオミクロン株か第六波かと言われている中、この規模の劇場に来るのは迷った。迷ったけど、来てよかったし観てよかった。大満足。

Bunkamura企画製作「泥人魚」Bunkamuraシアターコクーン

<2021年12月11日(土)夜>

都会の片隅、店主は昼間はぼけ老人だが夜はうどん屋の娘をくどくダンディーな詩人の二面性を持つ男が店主のブリキ屋に、主人公は居候している。そこに故郷の関係者が次々と訪ねてくる。そこに、漁師の養女だった娘がやってくることで話は展開する。

粗筋を書くのはあきらめました。ネタバレってほどでもないので書くと、諫早湾の干拓事業による地元関係者の苦悩を元に、これぞ唐十郎、これに比べたら野田秀樹なんてわかりやすすぎて困る、というくらいの詩的脚本で書いた一本。正直、物語を追うものではない。

前半、主人公の磯村勇斗と店主の風間杜夫がメインになるのだけど、非常に不調だった。喉がイガらっぽかった磯村勇斗が出だしでつまづいて、そのまま休憩時間まで取り戻せなかった感じ。後半に宮沢りえの出番が増えたところから巻き返した。この訳の分からない芝居を巻き返したのはすごい。六平直政がいい出来だったのに加えて身体まで張って熱演。愛希れいかも宝塚出身でこのアングラに立ち向かえていたのは感心。

オープニングの美しさを含めて、音響照明が素晴らしかった。だけど特に後半、音と明かりで盛上げたと思ったら元に戻す、の繰返しで興醒めすること著しい。あれは演出が悪い。そこからネタに走るならまだしも、もう少し考えてほしい。

諫早湾の話が一段落した現在、雰囲気に浸れるかどうかで評価がわかれる芝居。個人的にはいまいち入り込めなかった。シアターコクーンは思っていたよりも広い劇場で、あの空間を雰囲気で満たすのは相応の技量が求められるのだな、これまでこの劇場で観てきた芝居は選ばれし精鋭たちによって上演されていたのだな、と再認識。

2021年12月 3日 (金)

さらば吉右衛門

どこから訃報を引こうかと思ったら歌舞伎美人が「中村吉右衛門さんご逝去」を出していたのでそちらから。

 歌舞伎俳優の二代目中村吉右衛門<なかむら きちえもん、本名:波野 辰次郎=なみの たつじろう>さんが、11月28日(日)午後6時43分、東京都内の病院でご逝去されました。77歳。謹んでご冥福をお祈りいたします。

 八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)の次男。のちに母方の祖父、初代中村吉右衛門の養子となる。昭和23(1948)年6月、東京劇場『御存俎板長兵衛』の長松ほかで中村萬之助を名のり初舞台。昭和41(1966)年10月帝国劇場『祇園祭礼信仰記 金閣寺』の此下東吉ほかで二代目中村吉右衛門を襲名。

 歌舞伎界を代表する立役の一人として深い人物造形と巧みなせりふ術で魅了し、『熊谷陣屋』熊谷直実、『仮名手本忠臣蔵』大星由良之助、『菅原伝授手習鑑』松王丸、『梶原平三誉石切』梶原平三、『一條大蔵譚』一條大蔵長成、『盛綱陣屋』佐々木盛綱、『俊寛』俊寛僧都、『籠釣瓶花街酔醒』佐野次郎左衛門、『天衣粉上野初花』河内山宗俊、『極付幡随院長兵衛』幡随院長兵衛、『勧進帳』武蔵坊弁慶など数々の当り役をもつ。初代中村吉右衛門の俳名、秀山にちなみ、生誕120年を記念して平成18(2006)年9月から始まった「秀山祭」では、初代以来の当り役に挑むほか、次世代を担う後進の指導も行う。また、先祖所縁の松貫四の筆名で数々の作品で脚本などを手がける。平成18年から24(2012)年まで文化庁の舞台芸術体験事業に参加し、全国各地の小学校をまわり、小学生に歌舞伎の楽しさを伝える活動も行う。映像作品ではドラマ「鬼平犯科帳」に平成元(1989)年から28(2016)年まで、実父の初代白鸚も演じた長谷川平蔵役で主演し、人気シリーズとなる。最後の舞台は令和3(2021)年3月歌舞伎座『楼門五三桐』石川五右衛門。

 昭和59(1984)年芸術祭賞優秀賞、日本芸術院賞、平成14(2002)年日本芸術院会員、平成14年度芸術祭演劇部門大賞、平成23(2011)年重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)、平成29(2017)年文化功労者。令和2(2020)年日本放送協会放送文化賞。平成25(2013)年より公益社団法人日本俳優協会専務理事。
2021/12/01

2年前に休演したころからまあ気配はあった。今年1月に長期休演したあたりが境目。3月に倒れたときはもう覚悟したから取上げなかった。そもそも鬼平のFINALと銘打った2016年時点で殺陣が緩かった。毎日上演の歌舞伎と違って映像であれだったから、体が資本の役者としては厳しかった。

歌舞伎を観始めたのがここ数年でしかも熱心ではないから、吉右衛門の舞台を観たのは数えるほど。勧進帳の弁慶は、NHKが映像に残していそうだけど、元気なうちに劇場で一度観てみたかった。本人は「俊寛」が一番好きだとどこかのインタビューで答えていたけど、あれは一人で入り込みすぎて好みではなかった。「河内山」みたいな、周囲とのやり取りがあったほうがよかった。

ただ、自分にとってはやっぱり鬼平の吉右衛門。初回がもう30年以上前、役者として乗っている時期に、周囲の役者、スタッフ、撮影ロケーションもまだ昔からのものが残っていた時代が重なった。かつバブルの勢いで予算をかけて映像に残せたのはやはり時の運が味方したもので、それで文句を言ったら罰があたる。

合掌。

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