漫画家の政治家立候補と表現の自由問題について
表現は、だいたい時代が進むごとにおおらかになるというか過激になるというか、そういう方向に発展するものです。マンネリ打破で、かといって新しい表現を見つけるのも簡単ではないので、過激にするのが手っ取り早いからです。あとは制限されているからこそ挑戦したくなるという面もあるでしょう。マンガの世界だと、以前は暴力関係の描写が「残酷だ」ということで問題になっていた気がするのですが、そちらはどうやら一段落して、ストーリーに沿っていればだいたい何でもアリ、になっているようです。
で、次はエロ方面の描写について「性搾取だ」という話で昨今問題になってきました。ここらへん、最近マンガをまた読みだして間がないので今どきのマンガの流れに詳しくないのですが、世の中の流れで基準が緩めになってきたのか、二次創作関係で過激な表現が当たり前になってきたのか、他の流れもあるのか、そこらへんの歴史には追いついていません。おっさんとしては「一人で裏門支えてんのに勝手に表門開けられちまっちゃあな」と話題になったグラビアで出版社側も世の中の基準を緩めるのに加担したとは記録しておきたい。それと、マンガだからといって「萌絵」という単語を使ってごまかしたくはない。かれこれいろいろ範囲を考えたうえでなお「創作でエロはどこまで認められるのか」という問題だと理解しています。
この問題は、エロが過ぎる、いくら何でも不愉快だ、という素朴な感想が、表現規制、表現の自由の侵害と背中合せになる微妙な話題です。なんなら暴力表現だってもう一度検討対象になり得る。それに加えて「聖地巡礼」とか経済効果を期待するから多少は目をつぶるみたいな立場の人達もいるので、一筋縄ではいきません。ただ、実際に被害を受けた人物がいるケースと、表現内にとどまっている架空の創作キャラのケースとは混在させないほうがいい、ということだけは理解しました。 前者は本人の被害、後者は閲覧者の不愉快が主対象です。範囲をどれだけ拡大してもそこが外れることはない。
他に、実際の被害というか性搾取はマンガ業界と芸能界なら芸能界のほうが本場だろうという話と、そうは言っても各種の「色気」が芸能界の売りの一部だろうという話もあります。ただ、ここまで素人がうかつに議論に踏込んだら大火傷するのでこれ以上は割愛します。
マガジン系というか講談社は各種表現についてはかなりおおらかなほうだと思います。マンガに限らず、週刊現代やFRIDAYも講談社ですし。そこが主掲載媒体だった赤松健は、何というか、サービスカット多めのマンガを描いていた漫画家のひとりですから、この手の表現規制に敏感になるのもわかります。ただ、表現規制が問題になってきた数年前から、「マンガで表現規制の問題なら赤松健」というくらい名前を見かけてきたので、業界有数の有識者でしょう。インタビュー記事を何回か見かけましたが、かなり真面目に問題の整理に取組んでいた印象です。
それが自民党から立候補するかもしれない、という記事が出て、本人もTwitterで認めています。タレント議員で票を稼ぐのは与野党問わず行なわれてきたことですが、今回は漫画家というのが異色です。
赤松 健@KenAkamatsu
一部報道にあるように、自民党本部で面談をさせて頂きました。
私は表現の自由を守るために、来夏の参院選への立候補の意志を固めています。
現在は選考過程の最中であり、党からの正式な発表がありましたら、改めて私の意思を皆様に伝えさせていただきたいと思います。
表現の自由について、これまでだったら票にならない問題だと思われていたでしょう。だけどそれに取組んできた漫画家に擁立の動きが出て、擁立された側も目的として全面に掲げています。つまり今は表現の自由は票を左右する問題になっており、こちらに振ったほうが票になると自民党が判断した、ということです。表現の自由は別にマンガにとどまらず創作全般、芝居関係だって大いに影響を受ける話です。この動きは芝居関係者も注目しておいたほうがいいです。
この話題、芝居業界だって負けず劣らず向いていて、それがテーマの芝居だって創られてきました。本当だったら平田オリザがこのポジションに入っていてほしかった。のですが、旧民主党とのしがらみもあれば、新型コロナウィルスであれだけミソをつけたこともあり、さすがに今は出番ではない。他に適任者がいるかというと、いるかもしれないけど思いつかない。あとは先にも書いた通り、芸能界でこれを適切に論じられる素地があるとは思えない。時代の流れというか、タイミングというか、巡り合わせはあるにしてもマンガ業界が赤松健を輩出したわけで、そこらへん、層の厚さというより裾野の広さが生みだしたのだろうな、マンガ業界が今のサブカルチャーの雄だな、と改めて思い知っています。
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