2022年上半期決算
恒例の決算、上半期分です。
(1)松竹製作「三月大歌舞伎 第二部」歌舞伎座
(2)加藤健一事務所「サンシャイン・ボーイズ」下北沢本多劇場
(3)小田尚稔の演劇「是でいいのだ」三鷹SCOOL
(4)新国立劇場主催「ロビー・ヒーロー」新国立劇場小劇場
(5)イキウメ「関数ドミノ」東京芸術劇場シアターイースト
(6)日本総合悲劇協会「ドライブイン カリフォルニア」下北沢本多劇場(1回目)(2回目)
(7)松竹製作「六月大歌舞伎 第二部」歌舞伎座
(8)鵺的「バロック」ザ・スズナリ
(9)新劇交流プロジェクト「美しきものの伝説」俳優座劇場
以上9公演10本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、
- チケット総額は81750円
- 1本あたりの単価は8175円
となりました。なお各種手数料は含まれていません。
観ている本数の割りに単価が高いのは歌舞伎2本のせいで、それを除けば単価5000円弱です。やっぱり歌舞伎は高くつきます。
また今シーズンは映画館で観る芝居映像に初挑戦しました。
(A)National Theatre Live 2021「リーマン・トリロジー」(1回目)(2回目)
と同じものを2回繰返しました。こちらは
- チケット総額は6000円
- 1本あたりの単価は3000円
です。各種手数料が含まれていないのは同じです。
自分の都合から振返ると、1月2月は新型コロナウィルスの第6波で引きこもり、3月に減少傾向になってきたので観始めたものの、4月5月は忙しいのと観たい芝居が公演中止になったのとでタイミングが合わずにまた減って、5月後半から6月で取返したのが主な傾向です。この中で思い入れがあって明確に観たいと願ったのは「ドライブイン カリフォルニア」です。このブログを始めることなった芝居だからです。
芝居を観始めたころは、今はなき「えんげきのぺーじ」というWebサイトに感想を書込んでいました。私の「六角形」という管理人名も「えんげきのぺーじ」で使っていたハンドルネームです。その後ブログが登場して、早い人たちは自分のブログを開設して感想をまとめていました。「ドライブイン カリフォルニア」の再演を観たのがそのころです。観終わった後、この面白さを長さを気にせずに書きたいという想いと、書いた文章は他人の管理するWebサイトにまかせるのでなく自分で所有したいという想いと、両方に突き動かされてブログを開設しました。
やりたくないことは多くてもやりたいことの少ない自分が、明確にやりたいと自覚して行動に移した数少ない事例です。そのような情熱をかき立ててくれた芝居として長年片思いして、それが高じて今回2回も観てしまいました。18年前の芝居を観て当時と同じくらいの満足感を得られたということは、当時でも高かったクオリティよりさらに高いクオリティで上演してくれたことになります。満足しました。当時と今回の関係者に感謝です。
SNSがあまり好きではなく今でもブログに書いているのは、「長文と所有」というこのときの想いが続いているからです。当時は18年も続くとは考えませんでしたが。その後、長い文章をブログでは書けるので短く表現できるようになりたいという願いが増えましたが、それは同じ内容をできるだけ端的に的確に表現したいという願いであり、140文字など決まった上限に収めたいという欲とは違います。
ちなみに「えんげきのぺーじ」は短文感想の自由投稿欄が、今でいうメインコンテンツでした。最初は文字数制限がなかったところ、長文感想を書込む人が増えたので、1本200文字くらいの文字数制限が導入された記憶があります(曖昧)。私は今も昔も文章が長くなりがちなので、なるべく短い文字数でたくさんの感想を書けるように、新聞の三行広告のような文体で書込んでいました。あのころの文体が今に残っていますね。今期だと(4)(7)(8)あたりにその名残があります。自分の文章の癖がいったいどこから来たんだと悩んでいたのですが、あのころの短文感想が理由だったかと思い至りました。時期によってムラがあってもブログを続けている理由のひとつに文章が上手くなりたいという願いがあったので、癖の由来に気がついて、この文章を書きながらちょっと感動しています。
ただ、本当に文章が上手くなりたかっただけなのかな、と改めて考えています。そもそも書きたいことがないのに文章の巧拙だけを問うてもしょうがなく、書きたいことがあって始めて文章の技術が必要になるのですから。
「ドライブイン カリフォルニア」の再演を観たときと同じ情熱を等しくすべての芝居に持っていたわけではない、それでも文章を書いていたのは自分の気持ちを整理して把握したいためであり、文章欲とは重なるところもあるけど似て非なるものだったのではないか。そんな基本以前の話を今さら考えています。
(9)を書いたとき、これは何日がかりになるだろうと身構えていたのですが、1日であっさり書けました。書きはじめるまでに2日ありましたし、それなりに時間はかかりましたが、書きたいことは初稿で書きだせました。文章が上手くなくとも、書きたいことがあっさり書けた経験を通じて、文章力の上達とは違うところにも自分の欲がありそうだと気が付きました。私が欲していたのは自分の気持ちを整理することで、その手段としての言語化や文章化とごちゃ混ぜにしていたようです。文章が上手くなりたい欲は間違いなくあるのですが、気持ちを整理したい欲はそれ以上に大きかったです。
振返ってみれば、観た芝居の好き嫌いを本当に自分の気持ち通りに判断できるようになったのはここ数年のことです。ブログに書いた後でいや待てよと悶々とすること幾たびか。そう言えるようになるまで本当に長かった。それが行き過ぎて、芝居自体の感想にとどまらず、メタな周辺情報が増えたよじれた感想が増えました。安からぬ木戸銭を払っているのだからもっと積極的に芝居に没入して楽しめばいいのにと自分で自分にツッコミを入れる日々です。一方で、周辺情報も含めた妄想を刺激するところまでが木戸銭の対価だと主張する自分もおり、そこは性分だとあきらめています。
そんな気分で上半期の芝居一覧を眺めると、新作が1本もありません。一応(4)は日本では初演だと思いますが当然公開は海外初演、他は古典も現代劇も再演ものばかりです。さらに大半は過去に観たことのある芝居です。気になっていたものをもう一度観るのはかまいませんが、初挑戦要素が少なすぎです。ならばそれが悪いか。そうでもない、むしろこれでもいいんじゃないかと最近は思えます。
好感度の高かった芝居を取上げると、過去の感想の疑問が解決できたり前作からの半分続きだったりで見納め気分になれた(3)(8)、お手本のようながっちりとした構成にぴったりのキャスティングを実現した(4)、ようやく観られてこれぞ新劇と堪能した(9)、そして上にも書いた通り思い入れのあった(6)、です。1本選ぶなら思い入れ抜きでも小劇場が生んだ名作と呼べる(6)、僅差で次点が(9)になります。
あとはやっぱり(A)ですね。西洋芝居は、古典はいざ知らず、近現代の芝居は(4)のようにはっきりしたテーマとがっちりした構成を持ったもの、あるいはエンタメに徹したものの両極端が多いと思っていました。が、会社の発展と倒産までを創業者一族の視点で描いて、雰囲気と余韻が支配する(A)のような芝居が大成功するあたり、偏見だったと反省します。原作はイタリアとのことで、やっぱりヨーロッパの文化は奥が深いです。舞台映画1本目にして緊急口コミプッシュを出して、思わず2回観てしまいました。
打率はそこそこ、当たった時の満足が大きい、さらに過去に気になっていた芝居がいろいろ観られた、本数は少なくても結果として満足、が上半期の総括となります。
あとは下半期に向けてです。ストレートプレイはミーハーに演目に選んで、古典やミュージカルを増やしてもよし、他の趣味の割合を増やしてもよし、もう少し肩の力を抜いて気楽に芝居を観ることが今後の目標です。目標に掲げている時点で力が抜けていないのが難点です。
新型コロナウィルス前は3年連続50本以上、2019年は63本観ました。観るのが仕事の人、まだ見ぬ才能を探す業界人、あるいはこの業界を目指して目と耳の修行をする人なら年間100本が目安のひとつとは以前から考えています。でも趣味で観る人には100本どころか50本でも時間と金と体力が一苦労です。年間の本数がそこまで多くない代わりに観ている年数が長くなったので、日本語のストレートプレイなら一般観客として最低限の鑑賞力は身に着きました。なので、本数を追うことは控える方針です。なお過去にも似た宣言をした覚えがありますので話半分で読んでください。
ただし鑑賞力とは別に選球眼という軸があって、一般観客には観ている演目を味わう鑑賞力よりも、好みに合う演目を選ぶ選球眼のほうが大事というのが最近の自分の意見です。これこそ養うためには本数が必要だったのですが、今後数年単位で観る本数が減ったら選球眼が維持されるか衰えるかは気になります。
芝居以外の話題だと、半年前に書いた話の続きですね。表現の自由を巡る話は、今まさに参議院選挙の最中で現在進行形です。新型コロナウィルスは、落着くかと思ったら次の変異株なのか人の移動が増えたのか、また陽性者が増加傾向にあります。戦争の話は、ロシアとウクライナは始まってしまいましたが、そこが難攻したせいか中国は自重していますので自重が続くのを願うばかりです。ただし物資物流の混乱はもうしばらく続きます。これらに加えて、新型コロナウィルス以外にサル痘の話、酷暑と電力の話、秋口以降の食料品事情がどのような形になるか、あたりがいま挙がっている話題です。
それでも日常は続きます。その合間をぬって、不要不急の文化で息抜きをして、また日常を生抜ければと願っています。引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。
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