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2022年11月27日 (日)

松竹主催「平成中村座 十一月大歌舞伎」平成中村座

<2022年11月12日(土)夜>

入れ上げた花魁に見捨てられ家からも勘当された若旦那、かばった八百屋の主人から唐茄子(かぼちゃ)を売って来いと言われて始めて棒手振りに挑戦したはいいが帰りにひもじい母子を見つけてしまい「唐茄子屋」。隅田川で舟を待つ客が七福神に見立てた踊りを踊る「乗合船恵方萬歳」。

「唐茄子屋」目当て。元となった落語があるそうで、ハロウィンに掛けた演目。だから頭としっぽはものすごくしっかりした歌舞伎。演出のノリが派手でも宮藤官九郎でなくともいいのではという内容。中盤の花魁が忘れられずに吉原に入ったところが腕の見せ所で、子役活用まで含めてにぎやかに盛上げる。世話物の途中に小劇場を混ぜた展開。

配役が不思議だった。勘九郎の若旦那はわかる、駄目でも憎めない主人公を好演。七之助の花魁とお仲の二役もわかる、派手な花魁も苦しいお仲も真面目に役を突詰めた形で、しかも芝居に馴染んだ好演。子役2人も上々。

不思議だったのは他。まず荒川良々が盛上げ役のイントロやアメンボ役なんかもやるけど、メインの八百屋の主人をまっすぐな演技で大人計画では観られない役どころ。そして片岡亀蔵が蛙のゲゲコを超が付くくらい真面目に演じていたのが、観る側にはありがたい。素人考えだとこの2人は逆になると思いますけど、入替えてどちらも熱演でした。悪い意味で気になったのは、大工の熊の橋之助と大家の坂東彌十郎。上手いけど浮いていたというか、一人で役を作って演じて対話していないように見えた。

なんか歯切れの悪い感想なのは冒頭とか途中とかで引っかかったから。冒頭で荒川良々が「自粛自粛ってやってられねえなあ(大意)」と客席を煽ったところは、体調不良で中止の回に当たってチケットキャンセルになった身としてはそれなら体調管理しっかりやってくれよとか。途中で「金にならないことなら何でもできる若旦那」「これが不要不急(大意)」ところは、いやそういう商売だろう今さらかよとか。ここら辺に長らく実力脚本家の座を張る宮藤官九郎の反骨精神みたいなものが見受けられるんですけど、観たときの心境と合わなかった。

「乗合船恵方萬歳」は踊りづくし。七之助が一番キレのある、って表現が歌舞伎の踊りで適当かわからないけどキレがあってきれいに見えた。驚いたのは表情。ものすごくまぶしい笑顔で、さっきまでお仲をやっていた人がこれだけ違う表情が作れるのは、やっぱり役者ってすごいんだなと再認識。勘九郎の踊りはそこまでキレがないのだけど動きに愛嬌があって、若旦那役もそうだったけどあの愛嬌が色気に見える人もいるんだろうな。

あとは劇場というか小屋の話。ものすごく観やすい。シアターコクーンと同じくらいの規模で、このくらいの規模だと熱気が集まって盛上がりやすい。いい劇場だった。十八代目勘三郎にちなんで隈取が劇場内の18か所にあるって紹介されていたけど、3か所しか見つからなかったのは無念。

2022年11月 5日 (土)

2022年11月12月のメモ

また新型コロナウィルスが増える気配があります。

・KERA・MAP「しびれ雲」2022/11/06-12/04@下北沢本多劇場:「キネマと恋人」と同じ島が舞台の新作、これを書いている時点で11/11までの公演が新型コロナウィルスで中止

・松竹主催「十一月吉例顔見世大歌舞伎」2022/11/07-11/28@歌舞伎座:昼の部は新之助菊五郎で外郎売と幸四郎猿之助で勧進帳、夜の部の助六は菊之助仁左衛門に加えて後半玉三郎も出演、海老蔵改め團十郎が出なければ両方観たいけどチケットも売切れているしどうしたものか

・KAAT×城山羊の会「温暖化の秋」2022/11/13-11/27@神奈川芸術劇場大スタジオ:城山羊の会じゃないのと思ったら主催企画制作が全部神奈川芸術劇場だった

・インプレッション製作「管理人」2022/11/18-11/29@紀伊國屋ホール:小川絵梨子演出だしイッセー尾形も出るけどいまいち事前イメージがつかめない脚本

・世田谷パブリックシアター企画制作「建築家とアッシリア皇帝」2022/11/21-12/11@シアタートラム:岡本健一と成河の2人芝居だけどそこに文学座演出家の生田みゆきでさらに事前イメージがつかめない脚本だけど、世田谷パブリックシアターはよくわからないことにわりと挑戦するイメージだからその点はイメージしやすい

・Bunkamura主催企画製作「ツダマンの世界」2022/11/23-12/18@Bunkamuraシアターコクーン:松尾スズキが作詞作曲まで自分で手掛ける新作ミュージカルはねっとりした展開を予感させる粗筋

・シス・カンパニー企画製作「ショウ・マスト・ゴー・オン」2022/11/25-12/27@世田谷パブリックシアター:三谷幸喜の再演もの、今回の本命

・小田尚稔の演劇「よく生きろ!」2022/12/09-12/18@こまばアゴラ劇場:説明がいつも粗筋に触れなくて事前イメージがつかめない小田尚稔の演劇の新作

・座・高円寺企画製作「アメリカン・ラプソディ」「ジョルジュ」2022/12/21-12/26@ 座・高円寺1:前半3日と後半3日で演目を切替える毎年恒例の企画、「アメリカン・ラプソディ」も「ジョルジュ」も真面目な話とおしゃれなピアノや歌を両立させているので観て損のない演目

・公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ制作「ジョン王」2022/12/26-2023/01/22@Bunkamuraシアターコクーン、2023/02/17-02/24@埼玉会館大ホール:中止公演のリベンジだけどさいたま芸術劇場が改装中なので埼玉公演目当ての場合は会場に注意

他に平成中村座「唐茄子屋」が11/27まで、と書くのは新型コロナウィルスの公演中止に被弾したから。嫌な予感がしていたから10月に行こうとしたのだけど体調不良で二の足を踏んで11月の早い日程のチケットを取ったらくらってしまった。

2022年11月 4日 (金)

まつもと市民芸術館企画制作「スカパン」神奈川芸術劇場大スタジオ(ネタバレあり)

<2022年10月30日(日)昼>

港町ナポリで港湾労働者として日雇いをしつつ、頼まれたら嫌とは言えないスカパン。世話になっている町の金持ちのボンボンからは一目ぼれした女性と結婚した直後に父から許嫁を紹介されたと泣きつかれ、その友達の別のボンボンもジプシー育ちの女性に一目ぼれしたが金が用意できなければ相手の親から結婚が許されないと泣きつかれる。双方の父親から金を引出して解決してやろうと一肌脱ぐことにする。

モリエールだから古典芝居の範疇で、筋書きは現代劇に比べればシンプルなもの。だけど仕上がりは不思議な手触りの舞台で「K.テンペスト2019」を思い出す。いいものを観たとは思うのだけど、ちょっと普通のいい芝居とは種類が違う。

古典喜劇だけど素直に終わらない。ボンボンを助ける過程で口八丁が過ぎて折檻され、その仕返しをするもののばれる。金持ちの父親に殺し屋を差し向けられて、助かるかと思いきや事切れて終わる。助けたはずのボンボンたちは偶然の勘違いで結婚が認められてめでたくなるも、スカパンの怪我を気にせずに盛上がり、スカパンが倒れて幕になる。古典らしからぬ展開はモリエールの脚本通りなのか演出なのか迷うところ。

スカパンだけ見れば金持ちの都合に振回された挙句に報われない末路を迎える悲劇だけど、芝居にそこまでの悲壮感はない。この演出を自分なりに言葉にすると、劇場で芝居をしているのではなく「祭に呼ばれて小屋で上演するけど祭だから観に来た客を楽しませる演目を持ってきた旅回りの一座の芝居」みたいな雰囲気を出すのに注力していた。たぶん美術もそういうイメージで作っていたはず。串田和美がいつもそんな感じだけど。

それでいて演出が投げっぱなしではないんだなと思わされるのが特にラストの場面。包帯を巻いたスカパンを金持ち親子は笑って迎えるけど、周りの人間は「この人大丈夫か」って顔で遠巻きに眺めたり、依頼主の金持ちが殺し屋をねぎらう動作があったり、いろんな想いの人間が同席していた。こういう細かいところがリアル。

ただしそれ以外の場面はなるべく明るく描く。スカパンがひとりだけの場面でふてぶてしいところも描くけど、明日は明日の風が吹くし何かあっても何とかならあな、というおおらかさがある。「先のことばっかり考えて何もしないやつなんか大嫌いだよ」の台詞がすごく似合っていた。最近そういう話をあまり見かけないので古典なのにむしろ新鮮に見える。それで結局悲劇に終わるのだけど、真面目に生きたからって大往生できると保証されるわけでもなし、いっそリアルに感じる。

たぶん演劇に求めるリアルの勘所がいまどきの一般的なリアルとは違う。現代的なストレートプレイよりも、極端な衣装や化粧と客席を意識した派手な演出をしながらも観客の心をつかもうとする歌舞伎に近い。元からそうだったのか、コクーン歌舞伎を演出してそうなったのかはわからないけど。

そのスカパンを演じた串田和美。声が若干小さかったけどこの劇場サイズなら大丈夫だし、おっさんがおっさんを言いくるめようとするマシンガントークが台詞回しを超えた味だった。そして身体がよく動くこと動くこと。やられたり逃げたりででんぐり返る元気もさることながら、腰を落とした姿勢の決まり具合やスローモーションの滑らかさは保たれていた。金持ちをからかう食卓の小細工なんかも器用にこなして、まだまだ役者を続けられる感がある。あとあの表情がスカパンですよね。若手役者にはできない面構えです。

役者は大森博史とか小日向文世もよかったし、二世組もいい感じだったけど、脇にいい役者が揃っていた。特に従僕仲間のシルヴェストルの武居卓と、ジプシー育ちの女性ゼルビネットの湯川ひなが、役どころを押さえた役作りと今回の演出に合った大きい演技を両立。殺し屋になるカルルの細川貴司はスカパン以外ではひとりだけ芝居の陰を作るところをきっちり。若手に恵まれるのは、これまでの芝居人生が報われている証拠。

長々と書いたけど一言でいえばやっぱり、何かいいものを観たという感触が残る芝居だった。観てよかった。観に行ったのがたまたま大千秋楽で、カーテンコールで「5年くらいしたらまた」って言っていたから期待したい。

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