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2023年2月16日 (木)

パルコ企画製作「笑の大学」PARCO劇場

<2023年2月11日(土)夜>

昭和戦前。浅草の喜劇劇団「笑の大学」の座付作家は、来月上演する芝居の脚本の検閲結果を確認するために警視庁を訪れる。今月から担当になった検閲官はこのご時世に喜劇の上演はけしからんという堅物。脚本の書直しか上演中止かを迫る検閲官に、座付作家は翌日までの書直しを選ぶ。

名前は知っていたけど観たことがなかった三谷幸喜の再々演二人芝居。無理な書直し指示と、それをかいくぐろうと更新される脚本。粗筋で展開はだいたい想像がつきますね。そして文句なしに面白かったです。

キャスティングは2人ともはまり役でした。座付作家の瀬戸康史は笑わせたがる性分と、何とかしてやろうという根性の両面を表現。検閲官の内野聖陽は度が過ぎていらいらするくらい堅物でありつつ、家族その他の話で奥行きを表現。観たのが日程初期のため2人とも若干固いところが残っていましたが、それがむしろ設定に合って良い方向に作用していました。

シリアスな設定と喜劇脚本という相反する組合せ、起承転結とおもいきや起承転転結の展開、昨今の流行よりやや押さえられた情報密度と展開速度でありつつ1時間50分に収まる無駄のなさ。どこを取っても一級品の脚本に恵まれたキャスティングで、誰が観ても面白い仕上がりはさすが三谷幸喜です。若干難癖をつけるなら音楽はもっと少ないほうがいい、少なくても行けたと思いますが、その辺は好みの範疇です。

昔の上演を観た人は比べてあれこれ言うかもしれませんが、映画も含めて観たことのなかった自分には文句ありません。開演から4ステージ目ですが3割くらいスタンディングオベーションでした。ひねくれものの私でも観終わって思わずスタンディングオベーションで腰を浮かせそうになった出来です。いまさら緊急口コミプッシュを出したりしませんが、大満足でした。

ここまではすぐに思いついた感想で、ここからは蛇足の妄想です。

この芝居は検閲官という役と時代背景を置いていますが、個人的にはスポンサーやいわゆるお偉いさんのことを揶揄した芝居じゃないかと読みとりました。

三谷幸喜は自分の芝居や劇団を、劇場を出た後はなにも心に残らないような芝居が理想、同時代に何も影響を及ぼさなかった劇団などと評しています。この辺りは喜劇好みの三谷幸喜が狙っていた作風でもあるでしょう。

今でこそお笑いが一世を風靡していますが、笑いや喜劇を一段下に見る風潮は、20世紀にはまだ残っていました。個人的には、笑いを目指してつまらなかった時のつまらなさ、くだらなさ、醜さの下限がストレートプレイよりひどくなるという笑いの特性に基づくもので、今でもまったく根拠のないものでもないと考えています。それはさておき。

この芝居の初演はラジオドラマで1994年。劇団は10年目、脚本家としてもキャリアを積んでいましたが、まだ大手を振って威張れる前の時代です。後に「ラヂオの時間」のもとになった脚本を書直された1993年のドラマ「振り返れば奴がいる」の翌年で、古畑任三郎の初回は1994年です。

何を言われようが受入れて書直す、なんならそれでもっと面白くして見せる、という本作の話は、そのころの三谷幸喜の脚本家のキャリアから来た話だと思います。それをそのまま描くわけにはいかないので検閲官という設定まで出てくるある種壮大な喜劇論になってしまいました。が、結果として「劇場を出た後はなにも心に残らないような芝居が理想」を作風とする三谷幸喜としては異色に分類されます。他に観てわかる限りでは、離婚を扱った「グッドナイト スリイプタイト」くらいです。

25年ぶりの上演について三谷幸喜は、似合う役者が見つかるまで上演したくなかったと言っています。それ自体は本当でしょうが、自意識が前に出ている脚本を上演したくなかったという気持ちもあったのではないでしょうか。それを解禁していいと思えるようになった心境の変化がどのようなものかはわかりません。ただ、今後の新作はもっと伸び伸びとした芝居が増えるような気がします

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