National Theater Live「かもめ」
<2023年8月4日(金)夕>
電波すらろくに届かない、風光明媚であること以外何もとりえのない退屈な田舎の島。女優の母を持つが精神不安定で叔父に預けられている息子と、伯父の娘である従妹は、夏休みで戻ってきていた母たちを前に余興の実験的な芝居を見せるが、失敗する。本土の街に行きたいけど行けない、行きそびれた人間の様子を描く。
たしかオリジナルはロシアの田舎だったけど、それを現代風にリライト。電波も届かない湖のある島に設定を置換えての上演。だけどそれは格好が今風になる以上に効果があったとは良くも悪くも思えない。まあ「かもめ」です。それよりはリライトで細かい設定をいろいろ変えたところほうが効果が大きい。
演出で、オリジナルだと売れていて鼻持ちならない作家として描かれているところ、神経質で自分の成功にまったく懐疑的な作家として描かれました。これで芝居全体が、田舎にいる人たちが街に憧れるというより、田舎に引っ込んだり、田舎にいたまま街に出そびれた大人たちが、残された自分の人生に絶望するところがより強調されていました。撃たれたかもめの扱いが雑で、最後にニーナがコンスタンチンに対してまだ作家のトリゴーリンが好きだと言うあたりといい、椅子を動かすだけで場面を作っていくそっけない舞台美術と合せて、ものすごく地味、そして苦いところを突いてくる演出でした。
休憩時間中に息子が出ずっぱりで横たわる映像が流されていましたが、あれはオープニングの失敗した芝居をばっさり切った代わりの演出でしょう。最後、椅子をかもめの形に並べて見せたところと言い、古典の上演には海の向こうもいろいろ考えるんだなと思いました。
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