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2023年9月30日 (土)

タカハ劇団「ヒトラーを画家にする話」シアターイースト

<2023年9月28日(木)夜>

美大生で画廊の息子の僚太は、卒業後に画家の道に進むか、両親から言われている画廊の跡取りになるべきか、進路に迷っている。すでに就職の進路を決めた朝利と板垣の二人と教授のゼミ室で悩んでいたら、教授の科学美術の発明により手違いで1908年のウィーンのタイムスリップしてしまい、そこで美術アカデミーへの入学を目指して練習するヒトラーと出会ってしまう。現代に戻れるまでの約一か月、ヒトラーを美術アカデミーに合格させることで後の世の悲劇を回避することを目指すと決めた三人だが、同じ下宿にやってきた、やはり美術アカデミー入学を目指すポーランド系ユダヤ人クラウスの画力は、ヒトラーとは比べ物にならないほど優れていた。

初日。タイムスリップやら何やらの理屈付けにはそれらしい話を用意していますが、メインは僚太、ヒトラー、クラウスを巡る進路の話です。ヒトラーを画家にできるかどうかのネタ勝負かと思ったらそういうわけでもなく、もちろんこのころもユダヤ人相手の差別はありますからそれも絡んできます。

タイムスリップしたのにスマホがつながるという無茶を押通して反対に設定に活用しながらも、ユダヤ人を巡る話は真摯に扱い、ただし画家を目指して絵を描くことを反対された人が画家を諦めさせる立場にもなる入れ子にして大きな柱に据えることで、差別の具体例が生きてくる。個人的には最後の場面二つだけ順番を入替えて、マイクの台詞で終わってほしかったですけど、それくらいです。小劇場が重たい話題を扱う際のアプローチとしてお手本にしたいような脚本でした。「レオポルトシュタット」は向こうに任せておけばいい。

その反面、役者の明暗が分かれて、ベテラン勢はみないい仕事をしていたのですが、メインの若手、特に男性陣が全滅でした。一瞬だけいい場面があっても続かない。進路の話と親との葛藤、絵を描くことの意味、才能と評価の話、ユダヤ人差別の状況に対してどのような態度をとるか。とっかかりはいくつもあって、役者という仕事を選んだ人たちには身近な話題も多かったはずですがすべて中途半端で、初日だからとはいえない力不足に見受けられました。良く言えば脚本全体に寄添っていましたが、設定からしてごりごりに小劇場な脚本なので、繊細を通り越して小さい、近頃の日常系小劇場の役作りは合いません。あれは演出でもう少し何とかしてほしかったです。

あとは額縁とかキュビズム? っぽい美術がシンプルな割に空間をきれいに埋めて、映像も頑張っていましたが、画家の話で絵をどこまで見せるかは難しい判断でした。小劇場なら絵を一切見せずに枠と照明だけで押通すのもありなのですが、ナチスの説明をするときに当時の写真を盛大に使ったのと、描いて破いた絵を進行の都合で一枚だけ見せたおかげで、他の絵を見せないのが逃げに思えてしまいました。ヒトラーの絵は権利を含めて適当な画像の入手が難しかったのかもしれませんが、それとは別に最後の一枚は、見せたかった。あれこそ観客の想像に委ねたかったのかもしれませんが、それなら照明でなく小道具としてベールをかぶせた絵を用意してベールを取らずに進めるべきだった。このあたりは演出や制作に関わるところですけど、まあ個人的な趣味の問題です。

これは再演するならどこかに脚本を託して再演したほうがいいです。ちょっともったいないことが多かったので。

ヨーロッパ企画「切り裂かないけど攫いはするジャック」本多劇場

<2023年9月28日(木)昼>

19世紀のロンドン。下町の同じ場所で4日で3人が攫われてロンドン中で騒がれている。3人目が攫われたときには花売り娘の叫び声を聞いて付近の住民が現場に駆けつけたが、犯人も花売り娘も姿が見えなかった。事件を調べるためにやって来た警部だが、自分で犯人を推理して押しつけてくる人たちを相手に聞込みにも難渋する。

25周年企画にして初見。ミステリーコメディらしいですけど、どたばたコントですね。辻褄を合わせようとはしていますが、発散することすること。適度に考えつつも深く考えないのが正しい見方だと気がついてからは素直に笑って楽しめました。

テンションと突っ込みの間合いで勝負の2時間みたいなところがあって、それで最後まで走り切った技量はすごかったです。ただし、100求められるところにきっちり100で答えていた感はあります。勢いがあるように見えて、振りきってはいなかった。ミステリー要素とコメディ要素、両方とも外したらいけない間があるのでそこは守らないといけないのですが、引出しは3000くらいあるけどそのうち100だけ出してみましたというような役者はいなくて、みんな真面目に100を積んでいました。

カーテンコール含めて観終わったあとでこの雰囲気はどこかで観たことがあるなと思い返していたのですが、演劇集団キャラメルボックスの舞台がちょっとこんな雰囲気でした。良くも悪くも劇団と観客との間で信頼が大きいようです。泣かせる話が得意な向こうと笑わせてなんぼの今回とは違いますが、多少強引な設定を最後まで持っていきつつ、絶対に客席に不快を与えないであろうと思わせる安心感も似ています。

この日はおまけトークがありましたが、「役者によっては出ずっぱり」「たくさん推理できる人とできない人がいる」「台詞が多いので緊張感が切れると台詞が出て来なくて真っ白になることがある」「当時の言葉に寄せつつもミステリー関係の言葉だけは現代の言葉を使わせてもらった」「某役を追詰める場面の方法はミステリーとしてぜひやってみたかった」などなど、いろいろ面白かったです。

それで言えば、脚本は言葉選びで微妙に作品世界に馴染んでいないところがいくつかあったのですが、理由は納得です。それと、某役を追詰める場面の方法をやってみたかったというのはわかります。私もあの場面は好きでした。

ネタばれしたら面白くないのでネタばれはしません。観た人が楽しんでください。

2023年9月18日 (月)

梅田芸術劇場企画制作「アナスタシア」東急シアターオーブ

<2023年9月17日(日)夜>

帝政ロシアに革命が起きてロマノフ王朝は滅亡したが、パリで過ごしていて難を逃れた皇太后以外に、死体が見つからなかったため皇女アナスタシアはまだ生きているのではと噂されていた。アナスタシアを見つけたものには報奨金を出すという話に、サンクトペテルブルクでくすぶっていた詐欺師ディミトリと元伯爵のヴラドはアナスタシアの身替りを探す。そこにやってきたのが偽の国境通過証を求めるアーニャ。記憶喪失だがパリに行きたいとロシア中を歩いてサンクトペテルブルクまでやって来たという。これはものになりそうだと二人はアーニャにアナスタシアの情報を覚えさせてパリを目指す。

この日はこんなキャスティングでした。ミュージカルはダブルキャストどころかトリプルキャストまでやるので忙しいですね。私はこだわらずに時間の都合だけで観に行きましたけど、目当ての役者がいる人は大変です。

・アーニャ:木下晴香
・ディミトリ:内海啓貴
・グレブ:堂珍嘉邦
・ヴラド:大澄賢也
・リリー:マルシア
・リトルアナスタシア:鈴木蒼奈

筋は前半がロシアからの脱出、後半がパリでのあれこれときれいに通っているのでわかりやすいです。木下晴香は台詞はやや軽いですけど、歌は声に重さが乗っていていいですね。個人的にはややチャラいヴラド伯爵を演じた大澄賢也と、なんといっても皇太后をシングルキャストで演じた麻美れいがいいです。

日本語歌詞のイントネーションが曲の旋律に乗りづらいところ、麻美れいだけは少し台詞っぽさを混ぜていたのがよかったです。あれは海外もののミュージカルをやるときの解法のひとつだと思いますけど、他の人はあまりそういうのはありませんでしたね。

他にも劇中劇で白鳥の湖の超ダイジェストをやってくれるんですけど、全員上手でしたね。この前観ておいたのであれは王子様こっちは邪悪な魔術師と中身がわかってよかったです。

この日はアフタートークがありましたが、ちょっとリピーターチケットの宣伝が多すぎた。主役二人はフリートークが苦手そうだったので、事前に聞きたいこと質問しておいた方がよかったのではないかと思います。だいたい客が聞きたいのは、自分が芝居のどこで悩んだか(または大事にしたか)、相手役をどう思うか、同じ役を務める他の役者をどう思うか、くらいに集約されるでしょうし。その点、大澄賢也の「今回はあまり役を作らずに地でいけた」「いくつになってもときめきは大事ですよ」(どちらも大意)はアフタートークとして面白かったです。

あとは映像パネルを多用した美術が本当に見事だったんですけど、あれは映像を映した上にさらにプロジェクションマッピングを重ねて奥行きを出しているそうです。あとパネルとケーブルには絶対に触るなと厳命が出されているとか。あれは、映像も美術も海外のものをそのまま持ってきたのかな。クレジットがよくわかりませんでした。場面転換を素早くするために、オブジェらしいオブジェは上手と下手に固めて、電車みたいな大物はたまにひとつだけどんと出して、非常によく考えられていました。

話だけを考えると、前回の公演から今回の公演の間にロシアのウクライナ進行があって、あとはパリのエッフェル塔での写真撮影騒動があったりして、芝居鑑賞に邪魔くさい現実社会のノイズが増えているんですけど、それはそれ、これはこれで気にせずに観るのがよいかと思います。

劇団☆新感線「天號星」THEATER MILANO-Za

<2023年9月16日(土)昼>

口入屋の主人半兵衛、実は裏家業の元締、と思いきや実は妻の元締の身替りに見た目の怖さだけで婿入りした元は流れの大工の気弱な男だった。だが裏家業の同業者、白浜屋真砂郎から手を組むように持ちかけられたのを断ったため、たまたま江戸に流れてきていた一匹狼の殺し屋、宵闇銀次を差向けられる。もともと暮らしていた長屋に立寄った帰り道、雨の中で銀次に襲われた半兵衛だが、そこに雷が落ちて二人は気を失う。そこにいた半兵衛の昔なじみの占い師弁天に介抱されて目覚めたが、半兵衛と銀次の二人が入替っていた。

久しぶりの劇団☆新感線はチャンバラでした。以上。そのくらいまあ、いのうえ歌舞伎と聞いて想像できるいつも通りの劇団☆新感線でした。やや渋めなもののネタもそれなりにあって、安心して見ていられます。タイトルになっている天號星の入替りの話だけ解決はなくて「そういうものだ」で進みますが、受入れましょう。そうすれば親切な脚本とチャンバラが最後まで運んでくれます。

裏事情のようなものを察するに、客が求めるもののそこまで動きたくない古田新太にほどほどのチャンバラをさせて、代わりに早乙女兄弟に存分にチャンバラをさせるための設定なのではないかと思います。一応後半は古田新太もチャンバラしますけど、主人公は入替ったりする早乙女太一です。

そしてそれでいいんじゃないかと思いました。やっぱりチャンバラは身体の切れがある人がやったほうが格好いいです。あれだけ芝居を通してチャンバラできるなら、もう劇団員として毎回呼んでもいいんじゃないでしょうか。そう思わせる立回りの格好よさがありました。早乙女友貴演じる渡世人の人切の朝吉とのチャンバラになる前半ラスト、格好いいですよね。あれは拍手が起きます。

若干もったいなかったのが山本千尋で、素手のアクションの方が上手だったので剣を持たせずにかんざしとか短剣とか、もう少し得物を考えたかった。ひょっとしたら公演後半にはもっと慣れているかもしれませんが。個人的にはうさんくさい役の池田成志が久しぶりに観られたのが楽しかったです。

割と場面転換が多い芝居でしたが、場面転換の早さとチャンバラの事情を汲んで、舞台美術でオブジェも床もあまりないのですね。そういうところでも工夫をするのだなと、次の日のミュージカルともども感心していました。

2023年9月 6日 (水)

国立劇場主催「菅原伝授手習鑑 三段目/四段目/五段目」国立劇場小劇場

<2023年9月3日(日)朝、昼>

菅原道真が大宰府に追放されて、仕えていた梅王丸と桜丸は浪人の身。参詣する藤原時平に主の仕返しをと待ち構えて、藤原時平に仕えていた松王丸と争いになる。兄弟三人で争っていたが、騒ぎで車から出てきた藤原時平に睨まれて梅王丸と桜丸は動けなくなる。見逃された梅王丸と桜丸は、松王丸となお争おうとするが、まもなくの父の七十の祝いまでは喧嘩を控える。その七十の祝いのための父の家では、三人の妻が先にやってくるが、息子三人はなかなかやってこない。やっと来たかと思いきや(三段目)。大宰府の菅原道真が夢に促されて参詣に来たところ、菅原道真の様子を見に来た梅王丸が、藤原時平に命じられた刺客を捕まえるところに出くわす。藤原時平が天皇の座を狙っていると聞かされた菅原道真は怒って天神と化す。そのころ、菅原道真の妻を狙った刺客によって梅王丸と桜丸の妻は桜丸の妻八重の犠牲を出すものの何とか助け出される。また菅原道真の息子は手習鑑を伝授した武部源蔵に匿われていたが、藤原時平の追手が迫るところ、その日寺入りした子供を身替りにして松王丸の検分を何とか難を逃れたものの実は(四段目)。雷の鳴り響く御所に斎世親王、苅屋姫、菅秀才がやって来て、菅原道真の後を継げるように天皇に願い出る。それを止めようとする藤原時平とその仲間だが(五段目)。

初段/二段目」もたっぷりでしたけど、こちらも負けず劣らずたっぷりとした演目でした。実際にはチケット二枚で、四段目の頭、筑紫配所の段で道真が天神になるところで切られた二部構成です。いい切りかたでした。道真が怒り荒ぶって天神になるところは、火花に毛振りまであって一番派手に盛上がる演出ですが、人形遣いと太夫と三味線の息があって荒ぶる様子が実によかったです。

四段目はいわゆる寺子屋の場面で、やっぱり今の目で観るとひどい話だと思うわけですが、ここまで通して観ることで、武部源蔵には武部源蔵としての道真への恩義があり、松王丸は松王丸で道真への忠義を見せたい想いがあるという、物語の構図はしっくりきました。「梅は飛び桜は枯るる世の中になにとて松のつれなかるらん」と道真が詠んだことが伝わって、世間で「松はつれないつれない」と言われて苛まれるというのも、よくできた脚本です。五段目で復讐が果たされてめでたしとなります。

前半のダイジェストとか、寺子屋だけとか、それもいいかもしれませんが、やっぱり通しで観ることで、理解が深まります。道真と時平とその手下の線、道真と母と苅屋姫の線、道真と武部源蔵の線、道真と三人兄弟とその家族の線、これらの線をそれぞれ取出しても話は成立ちますけど、線が絡み合って一本の流れを作るところに長く演じられる古典演目としての力があるので、それを通して観るのは意義があるなと観客ながらに思うわけです。

ちなみに後半の頭に寿式三番叟の上演が挟まりましたけど、これもよかったですね。めでたい感じが出ていましたし、人形に踊らせてそこまで上手に見えるものだとは思いませんでした。あと、これは字幕がよく働きました。歌舞伎座で踊りを観ても唄がどうなっているのか聞いてわからなかったのですが、それを字幕で見ると、ちゃんと踊りの説明になっている唄でした。

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