新国立劇場主催「終わりよければすべてよし」新国立劇場中劇場
<2023年10月21日(土)夜>
未亡人である伯爵夫人の一人息子バートラムと、医者の父がなくなり伯爵夫人が引取って侍女としているヘレナ。ヘレナはバートラムに恋しているが、バートラムにはまったくその気がない。バートラムはフランス王に召しだされて王の元に向かうが、王は病が重く医者も匙を投げたところだった。バートラムを追いかけたいヘレナは亡き父の薬で王を治すといい伯爵夫人も後押しをする。無事に王は病が治り、ヘレナはその褒美としてバートラムとの結婚を認めてもらうが、そもそもバートラムはまったくヘレナを愛していなかった。王と母の命令を断れないため、バートラムは策を弄して戦地へ赴くと称して初夜のないまま逃げてしまう。
2本立てのその2(もう1本はこちら)。こちらのほうがもう1本と比べて素直な演出で楽しめるところも多かったですが、そうしたらダークコメディじゃなくてホラーじゃないのかという出来になりました。私の感想ですが。
もともとそういう脚本ですが、もう1本と合せて女性を主人公として応援する、今回だとヘレナを徹底的に応援する演出です。その分だけバートラムと、バートラムの部下のペーローレスが嘘つきな男として描かれます。バートラムは女性に対する嘘つき、ペーローレスは男性に対する嘘つきですがバートラムが策を弄するのにも協力します。
バートラムから見れば、怖いですよね。家で働いていた母の侍女にまったく何も興味がなかったし王の元に向かう前に何か言われたわけでもないのに、母を味方につけて、王の信頼を勝ち取って、王命で無理やり結婚を迫ってくるんですから。しかも戦場の帰りに口説いた女性がいつの間にか入替っているとか。素直にコメディとして上演すればバートラムは遊び人の年貢の納め時になるはずですが、ストレートプレイで上演したらヘレナが有能過ぎるストーカー女性に見えてしまって話が変わります。
バートラムを演じた浦井健治がもっと遊び人で応じるならよかったですが、おそらくわざと、感情をあまり表に出さない演技で応じるものだから、見た目が格好いいだけでろくに話もできなかった男性に執着するヘレナがますます怖く見える。このあたり、演出を好意的に解釈するならもう1本のアンジェラの岡本健一や公爵の木下浩之がやっていたことを女性が男性にやるとこう見えるんですよ、と訴えているのかもしれませんが、怖いものは怖い。芸能界だと思い込みの強いファンに結婚を迫られるようなこともあるのかなとか考えたり考えなかったり。
そういう場面とのバランスを、ペーローレスの亀田佳明の場面で取っていました。こちらは大げさにふざけて、戦場で自分の手柄にほらを吹くだけでなく味方の情報を敵に売るような役ですが、大げさにやってみせました。白状させる場面は全員ノリノリでしたよね。ああいう場面できっちり笑わせるからこそ真面目な場面も真面目に観ようと思うわけで、よかったです。
こちらはやや前方の席で観られたので芝居が小さいと感じることはありませんでした。初登場の場面では誰が演じているのかわからなかった王様の岡本健一もいい味だしていましたし、真面目な役でも安定の那須佐代子でした。やっぱり浦井健治の使い方がもったいないとは思いますが、こちらのほうがまだ納得いきます。
スタッフのコメントはもう1本と同じです。他のスタッフはよくてもやっぱり音響が中途半端でした。
最後に終わりよければすべてよし云々と王様が客席に台詞を言いますが、全然よくないですよねという芝居です。今回は2本とも意地悪な演出のシェイクスピアでした。
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