株式会社パルコ企画製作「海をゆく者」PARCO劇場
<2023年12月16日(土)昼>
アイルランドの田舎町。仕事を辞めて久しぶりに家に戻ってきた弟は帰ってきて早々、目の見えない兄が友人と酒を飲み明かす世話に追われることになる。それから数日が経ったクリスマスイブの日、兄と兄の友人と三人でクリスマスを祝おうと街で買物をしてくるが、目を離した隙に兄が弟と因縁のある男を呼んでしまった。男はバーで知合った紳士も一緒に連れてやってきたが、弟は昔、その紳士と出会ったことがあった。
三演目ですけど、初演を観て、再演は見送って、今回また観ました。当時は吉田鋼太郎が演じていた兄が高橋克美に交代したものの後の四人は継続です。観終わっての満足度は高いです。
初演の記憶よりもずいぶんとわかりやすくなっていたような気がします。初演がプレビュー公演でまだこなれていなかったからでしょう。吉田鋼太郎の声の大きさと勢いに引張られていた前半が高橋克美で整理されて、弟の平田満にスポットが移ってはっきりしていました。加えて兄の友人の浅野和之、因縁のある大谷亮介がこなれていたからでしょう。初演のときよりも派手目になっていました。
ただ、浅野和之と大谷亮介はややこなれすぎな感もありました。どこで受けるのかわかってやっているというのかな。いや面白いんですけど。後半修正してきていました。その点は磨いた感がある平田満、交代して役の大きさを見せてくれた高橋克美のほうが好みでした。
高橋克美は汚いことを気にしないおっさんという立場を痰を吐くという工夫で浅野和之と連携して笑いを取っていましたが(初演にはなかったような)、客席から「やだぁ」と言われているのが印象的でした。痰を吐く人って最近見かけなくなりましたね。そして名前の呼びかけで思いっきり台詞を間違えていましたけど、客席に言うような言わないような風に謝って進めてしまえるのがベテランです。身体に丸い愛嬌があるんですけど、神様に祈るところはすっと決めるあたりもベテランです。
そしてずっと同じ役を務めているのに今回が初演ですといわんばかりの緊張感を見せてくれたのが小日向文世。新鮮だったというのかな。受けやすい役ではありますけど、新鮮さの点では一頭地が抜けていました。手練れ揃いの5人で誰が一番かといえば私は小日向文世でした。
で、初演の感想で「落込みそうなところで観ると慰められるというか励まされるような芝居で、実際励まされるところがありました」と書きましたが、今回はその感想に加えて、この芝居は駄目なおっさんだって一生懸命生きて何が悪いと小さくつぶやくような芝居だとも言いたい。やっぱりいい芝居です。ただし、それを演じているおっさんどころか年齢だけならじいさん5人は全国のじいさんたちの上澄みで、魑魅魍魎のうごめく芸能界という荒波を乗切ってこの場に立っている海千山千のつわものです。そういう意味では5人とも「海をゆく者」ですね。
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