MONO「御菓子司 亀屋権太楼」ザ・スズナリ
<2024年3月6日(水)夜>
江戸時代から続く老舗、のはずが、実は創業者の社長による作り話らしいと話題になって非難を浴びている和菓子屋。売上が大幅に下がっているところで、和菓子屋でなく会社員として働く長男と、後継ぎとして和菓子屋で働いている次男とで話題への対応に意見が分かれ、長男の娘は学生時代の先輩を呼んで和菓子カフェによる打開を図る。そんな中、社長が入院してしまう。今回は危ないという。
ここから半年とか一年半といったまとまった時間が何度か過ぎて、和菓子屋と一家、それにそこで働く人たちの10年くらいの行く末が語られます。非常によく出来た芝居で、久しぶりにいい小劇場を観た気分になりました。お勧めできる出来でしたので間に合う人は挑戦してはいかがでしょうか。
出てくる話の後ろには、悪評を見て突撃してくる炎上といった今様な問題、昔ならそれほど大きな問題にならなかったかもしれないけれど今だと叩かれる創業話の嘘、昔から問題になっている部落出身の話などが横たわっています。そこに乗って家族の仲、経営家族と従業員、上司と部下、先輩と後輩といった上下の絡む人間関係が出てきます。最後のひとつ手前、喫茶店で家族が話す場面があるのですが、そこまでの積重ねで説得力の増した名場面でした。
これだけ書くと湿っぽい話に聞こえるのですが、そこに自然な笑いと力技の笑いを絡めることで湿っぽくならないように運ぶのが上手いです。結果、登場人物のほとんどに長所と短所が出てきて、劇中のあちこちに想いを馳せて楽しめました。この日は観客席も笑うべきところは笑って湿っぽくなりすぎない日だったので、その点でもついていました。
どの役も微妙に不自然なところ意図的にを残さないといけないのが難しい中でみな好演していましたけど、そんな中で思いっきり胡散臭い役の作演出はちょっとずるかったですね。スタッフでは、いかにも和菓子屋っぽい箱型の模様の壁から机や椅子を出したり片づけたりしながら場面転換するのが素晴らしかったです。具象と抽象の間を取った小劇場ならではの名美術でした。
MONOはこれまで一度も観ていなくて、それはもう随分と昔に同じザ・スズナリの上演で当日券狙いで観に行ったところ、列整備がまったく行なわれずにチケットを取れず、腹を立ててそれ以来避けていました。が、今回観に行って満足できて、勝手に和解できた気分です。
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