松竹製作「八月納涼歌舞伎 第三部 狐花」歌舞伎座
<2024年8月4日(日)夜>
作事奉行の上月監物の側用人から殿の御用と屋敷に呼ばれた口入屋と材木屋。娘が彼岸花の小袖を着た謎の男に魅入ってしまい、その男からの文を娘に届けた女中が寝込んでしまった。謎の男の手掛かりを得たい監物だが、女中は口入屋と材木屋の娘に会わせてほしいというばかりなので会わせてやってほしいという。後ろ暗いところのある四人だが、そうとあってはと娘たちを送り出す。だがその後に娘たち、それに口入屋と材木屋の身に起きた一大事で、幽霊の仕業ではないかと疑われる事態となった。そこで側人は監物の屋敷に憑物落とし・中禪寺洲齋を招いて事を調べさせようとする。
こちらは第三部を丸々使っての京極夏彦の書下ろし。京極夏彦はまだ読んだことはないのですが、楽しめました。という前提での感想です。
ミステリーというよりは上月家騒動始末といった内容でした。1か所、説明されてもわからないところがありました。それでも歌舞伎向きに向いた話であり、大筋は楽しめます。ただ、どうしても説明台詞が多くなるのはしょうがないにしても、一回当たりの台詞が長台詞になってしまう場面が多いのがつらいです。それと一応はミステリー仕立てを試みているので、後半になると、実は、実は、の展開が増えます。そこにひと捻りがあってさすがという話と、それを後出しにするかという話が混ざっていました。あまりネタバレはしませんが染五郎の役は後者かと。楽しめる筋だっただけに、かれこれ含めて、やや無理の残るところがもう少し舞台向けに整理されているとよかったです。
ところが、その無理の残るところを何とかするべく、役者スタッフがかなり頑張ることで面白くなるのだから舞台というのはわからない。役者でいえば、まず真っ先に勘九郎の上月監物の太さ。第二部の髪結新三をさらに大きくして出てきます。他にも側人の染五郎が期待以上に観られたとか、七之助にいい役を上手に当てたなとか、米吉演じる監物の娘の変わりようがいいとか、口入屋の片岡亀蔵と材木屋の猿弥が上手に回すとか、そのそれぞれの娘の虎之助の勝手なところとか新悟の高飛車なところとか、挙げたら切りがない。後半の場面、七之助と米吉、からの一連の流れは、あれはいい場面でした。
スタッフも、普通の歌舞伎らしいセットの場面と、出や照明を工夫した場面とのメリハリをつけて、歌舞伎の枠組みというのはなかなかに使い回しの利くものなのだなと再認識しました。
ただ、何でもよかったわけではない。役者では、憑物落としの幸四郎がさっぱりだった。歌舞伎の時代物とは違う調子の長台詞が多いのは気の毒だったけれど、だからこそびしっと決めてほしかった。明らかに台詞が出てこなかったところと、思い出しながら話しているところがあちこちにあって、観ているこちらがはらはらした。人の名前も1か所間違えていたような。主人公というより狂言回しに近いので、幸四郎には向いていなかったかもしれません。こういう台詞なら第二部にちょい役で出ていた香川照之こと中車が得意じゃないかと思うのですが、半分謹慎中ですから駄目ですよね。
あと音楽が、おおむねよかったけれど、ちょっと後半に緩い穏やか目な音楽をかけてしまった場面があって、あそこはもう少し緊迫感を煽ってもよかったと思います。録音だったはずですけど、生の三味線でもいけたのではないかなと私は考えました。あとは笛とか使ってもよかったかもしれません。ただ、舞台美術の都合で奏者の居場所がない。そこは美術にもうひと頑張りしてもらって、何とかできなかったかなと思います。
観終わった感想では、楽しめたけど、いろいろ作り直して再演してみてほしい1本でした。絶対もっと面白くできる。
そして人によっては他の役者を推したくなるくらい周りがいいのを認めた上でなお、勘九郎がよかった。第二部もそうでしたけど、この八月はそんな勘九郎の贔屓を作るための演目のようにも思えます。そんなに熱心に追っているわけではありませんし、見える人には見えていたのかもしれないですが、勘九郎が歌舞伎を背負える役者になったとこの2本を観て実感しました。
ちなみにこの日は京極夏彦が観に来ていました。関係者は初日に観に来るものだとなんとなく思い込んでいましたが、初日はどたばたするでしょうし、本人だって同行者だって都合もあるでしょうし、別に3日目だって悪いことはありませんやね。着物姿で首に巻いているものはまだわかるのですが、あの手袋だけはよくわかりません。ただ、そういう格好の人が書いた芝居と考えるとぴったりの内容でしたし、そういう格好が浮かない歌舞伎座は懐の深い劇場だと思います。
<2024年8月6日修正>
8月2日が初日でこの日が3日目だと思い込んでいましたけど、この日が初日でした。もう駄目です。暑さにやられたということで勘弁してください。
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