KOKAMI@network「朝日のような夕日をつれて2024」紀伊国屋ホール
<2024年8月12日(月)夜>
とあるおもちゃ会社。他社の真似で出した商品が当たらずに倒産寸前。何とかヒット作を出すべく色々な遊びを試しているうちにいつの間にかゴドーがやって来るのを待つようになる。ゴドーは来ないと言われたが、そこで考え付いたゲームを販売してみる。そのゲームとは・・・。
第三舞台の旗揚げ作品ですが、初見です。上演されるたびに改稿されているらしく、近年のネタを取込んでの仕上がり。開演しばらくはやっちまったかもと思いましたが、そのまま見ているうちに楽しめてきて、観終わったら割と楽しめました。
唐十郎や野田秀樹の芝居の系統、もっと雑な括りでは80年代小劇場芝居ですよね、あっちこっちの世界を行き来してひたすらネタと訳のわからない台詞を大量に浴びているうちにそれっぽいラストに連れて行かれて、結局全てはその数行か数十行の台詞に集約させるためのどたばただったという作りは。序盤が終わった後はダンス以外に黙っている瞬間がないというくらいの台詞の洪水で、ああこれは考えるより先にまずどっぷり浸かるのが先の芝居だと気が付いてからは乗れました。野田秀樹ですら近年はもっとかっちりした芝居が多いし、そもそも80年代演劇は名残を観たくらいだから、この手の芝居の楽しみ方を完全に忘れていました。久しぶりすぎてこの手の芝居の粗筋をまとめることすら下手になっている。
そういう芝居なので、観終わった感想のひとつが「よくここまで芝居に似合う役者を揃えたな」です。身体を鍛えて動けて、膨大な台詞を噛むことなしに明瞭に話せて、小劇場のノリをこなせて、圧倒的なテンションを2時間維持し続けられる役者ばかりを5人揃えていました。誰がいいとはいいません。観たのは2日目ですが、5人全員ばっちり仕上がっていました。
それと脚本が、古いようで古くなりきらない。改稿したって古い芝居は古くなる。構成に関わるネタに「ゴドーを待ちながら」があるから当然のように思えますけど、そちらはおまけで、むしろ古くなりかけている。大本のメッセージが真っ直ぐだから、上演に耐えるのでしょう。そのメッセージ自体が今時の時代精神からすると傍流のような気もしますが、それでもありかなしかで言えばありです。
ただし、ならば脚本が古びていないかというと、古びているかどうかよりも、出てくるネタやメッセージに、年代の齟齬がある。当日のごあいさつによれば、鴻上尚史が22歳のときに出し惜しみせずにネタをぶち込んだと書いていました。おそらくこの芝居の初演時、ネタもメッセージも鴻上尚史の22歳の感性で統一されていたでしょう。それを上演にあたって改稿する際に、ネタの部分が時代だけでなく年齢を重ねた鴻上尚史の感性に引っ張られて、完全に若い感性で統一というわけにはいかなくなった。そこを統一してみせたのは演出というよりは役者の肉体でした。
元ネタがわかると楽しめる場面と、わからなくても楽しめる場面があって、個人的にはこの日一番湧いていたと思われる2.5次元の場面を推します。ただし、ネタとして取上げるにあたってはあれで攻めたつもりになられては困る。どれだけ面白くてもおふざけの範疇です。あとは、こういう芝居なら今朝のネタをそのままアドリブで出すような鮮度の高い場面があってもよかったかと思いましたが、その手の役者の仕掛け合戦はありませんでした。
スタッフワークだと、おそらく学生時代のテント舞台を模した舞台美術と、音響はよかったです。ただ、照明はもっと大量に機材を投入してほしいなと思う場面もありました。こちらは劇団☆新感線のほうが発達しましたね。それと映像はスクリーンを使ったのが場面によっては損で、後ろの幕を目いっぱい使う形にすればよかったのに、ちんまりした印象を受けました。ちんまりした印象がはまる場面もありましたが、後で脇のトラスも気にせずに線を出すのを見せられるとなおさらです。こちらはKERAがプロジェクションマッピングを毎回上手に使っていますね。照明と映像、このあたりは負けずに追いついてほしいところです。
だから楽しめる場面の合間に、ちょっと微妙に感じる場面が混じって、でも全体では楽しめた2時間5分、という感想です。ただし私の感想はおそらく少数派で、この日の来場者は圧倒的に楽しんでいた。その証拠にカーテンコールの拍手がすごかった。過去の芝居を振返ってもあんなに熱い拍手を聞いたのは数えるほどでした。劇場を出てから客席の年齢層をもっと注意して見ておけばよかったと気が付きましたが、若い人多目だったか、元若い人多目だったか、どちらだったろう。
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