東宝製作「天保十二年のシェイクスピア」日生劇場
<2024年12月21日(土)夜>
漁師上がりの親分が治めていた宿場。引退を考えた親分は3人の娘のうち、業突張りな上の娘たちではなく、養女だが心優しい末娘に縄張全部を譲りたいと考えていたが、お互いの思い違いから末娘は家を出ることになる。やむなく長女と次女に分けて譲ることになったが、相手を蹴落とそうとする2人のために宿場は2つの勢力にわかれてしまう。もともとこの宿場の生まれだが流れ者になって戻ってきた男が、この現状を見て、うまくのし上がってやろうと算段を働かし始める。
新型コロナウィルスで途中中止になった2020年版に近いキャストで再上演で、木場勝己が前口上を披露してから始まる。やっぱりよくできた話だなとの認識を新たにする。
前回はきじるしの王次を演じた浦井健治が佐渡の三世次に回ったけれど、ここ一番で見せてくれる役者から伝わる波動のようなものが今回はものすごくはっきり感じられて、ああこれが主役オーラかとはっきりとわかった。あれも色気の一つの形態なんでしょう。のし上がっていくことに楽しみを見出す役作りで、非常に脚本に合った役作りをしていた。それだけに前回の高橋一生の佐渡の三世次の異様さを思い出した。あれはのし上がってもまったく満たされない、ただただめちゃくちゃにしてやれという虚無の人間の役作りだった。どちらがいい悪いではなくて、ほとんど同じ座組みで上演してもそのくらい役作りは幅のある作業だということ。
ただ、「絢爛豪華 祝祭音楽劇」と銘打った割には2020年版と比べるとどことなく暗い雰囲気が付きまとって、あれは狙って演出したというよりは、飛び立とうとして飛び立ちきれなかった。もちろんシェイクスピアの悲劇がベースにあるし、登場人物はどんどん死ぬしで、酷い話ではあるけど、役者スタッフ一同が慣れて洗練されすぎたからだったかもしれない。木場勝己ですら洗練されていた。この芝居にはもう少し雑味の多い賑わいを期待したい。ただ、その分だけ花見の場面の美しさは際立っていたから悪いばかりではない。観客は勝手なものです。
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