パルコ企画製作「ヴォイツェック」東京芸術劇場プレイハウス
<2025年9月27日(土)昼>
冷戦時代の西ベルリン。共産主義からの防衛のためにイギリスから兵士が派遣されている。そこに赴任したヴォイツェックは、アイルランドの赴任時に知合った事実婚のマリーと赤ん坊と一緒にやって来たが、結婚していないため兵舎に入れず肉屋の上の部屋を借りて暮らすも、兵士の給料では暮らしが厳しい。幼少時のトラウマに悩まされるヴォイツェックはアイルランドで騒動中に持場を離れた前科があるため少数の兵士を除いて他の兵士から評判が悪く、母の反対を振切ってやって来たマリーはドイツ語が出来ない中で上官の妻のボランティアの手伝いを押付けられる。厳しい環境に追詰められてトラウマに悩まされるヴォイツェックを、慣れない環境で子供の世話をしながら苦しむマリーは少しでも繋ぎとめようとするが・・・。
小川絵梨子演出で観てみれば、いかにも小川絵梨子好みで初めから終わりまできつい話です。そしてこのきつい話にも関わらずきっちり仕上げてきました。19世紀に書かれた未完の原作を冷戦時代に置きかえたという元脚本ですが、冷戦で兵士云々はそんなことがあったと薄い背景として知っていれば差支えなく、ヴォイツェックとマリーを追えばいいです。それをさらに整理した演出と、役者の努力ががっちりかみ合った仕上がりですが、かみ合うほどに話のきつさが伝わって、観る側に体力が求められます。
追詰められるほどに自分のことしか話せなくなる、相手のことを話しているようで結局自分のことを話してしまうヴォイツェックですが、そこまで余裕がないことにも十分以上の理由がある。そんなヴォイツェックを何とか励ますマリーも、少しずつ余裕が削られていくだけの理由がある。この2人の会話がかみ合わなくなっていく様子を演じる役者が、がっちりかみ合っています。
弱く追詰められていくヴォイツェックを森田剛が演じるのは意外ですが、これがびっくりする好演で、卑屈な様子も長台詞も格好つけることなくやってのけました。ただこれは長いキャリアを考えれば褒められこそすれ驚かなくてもいい。マリーを演じた伊原六花がびっくりで、けなげで明るくヴォイツェックに寄添うところから段々と余裕がなくなっていく様子をきっちり演じて、しかもヒロインとしての華を保っている。調べたらこれで26歳、ただしそれでキャリアは14年なのかな、事務所所属から数えても8年、今時の若い人は本当にすごい。これを追詰める側は現元イキウメの浜田信也と伊勢佳世に、突き放すのが大ベテランの冨家ノリマサと栗原英雄 。全員よく似合っていた。伊勢佳世は2役をこなしつつ、マリーへの意地悪な奥様の様子が実にいいですね。もっとこういう役をやるべき。スタッフワークでは高い空間を埋めつつ頻繁な場面転換を上手に具現化した美術が見事。
仕上がりはほんとうにいいですが、話はきついですし、見た目は地味です。芝居を耳で観る人にはすばらしい出来ですが、芝居を目で観て楽しむ人にはしんどいかもしれません。だから座席に余裕があったのでしょう。2階席のある劇場よりはパルコ劇場の規模向きでした。この後ツアーでまた東京に戻ってくる変則日程なのでどうですか、と勧めるにはいささかチケット代が高い。歯ごたえを望む観客には勧めたい。
<2025年11月12日(水)更新>
役者名訂正。
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