神奈川芸術劇場プロデュース「最後のドン・キホーテ」神奈川芸術劇場ホール
<2025年9月14日(日)夜>
「ドン・キホーテ」を上演中の劇団で、主演していたゲスト役者が遍歴の旅に出るから探さないようにと書置きを残して失踪する。主宰兼演出家が代役探しに奔走する中、失踪した本人は悪を倒す遍歴の騎士ドン・キホーテと信じてお供のサンチョを連れて何もない世界を旅する。どうやらそちらの世界では応急救護所の世話になり、医者や牧師や看護婦からはやはり頭のおかしくなった老人と見られているようだが、とある「奇病」のために牧師がサンチョとして付き合っている。失踪した役者の代役を探す主宰兼演出家と、医者の愛人だったが手を切って老人探しと看病に奔走する看護婦だが、その中心の老人は今日も放浪の旅を続ける。
初日。いつも通りのKERA芝居の手つきでありつつ、いつもよりも真摯な芝居でした。「ドン・キホーテ」を読んだことがなくて、「ラ・マンチャの男」を一度観たことがあるものの内容をすっかり忘れている自分ですが、ドン・キホーテの作品精神を相当に含んでいるのだろうという感触です。だからいつものように笑いつつ、終演後にはいつもよりもいいものを観たなという感想の残る仕上がりでした。
感想の理由を考えていたのですが、劇団が危機を迎える側の世界と、悪を倒す騎士のつもりでいるのに周りからは呆れられる世界、どちらもKERAの経験や内面、少なくとも身近で見聞きした出来事が背景にあるのではないでしょうか。KERAの経歴には詳しくないのですが、思い返せばあの場面はひょっとしたらこういう理由かな、あれはこんなことの隠喩かな、みたいなことはいくつか思いつかないでもありません。だからまったく違う2つの世界の出来事でも、どちらもある種のリアリティを持っていて、あるところから急にくっついても違和感がありません。もっとも、このあたりはKERAお得意の技術でもあります。
役者ですが、KERA芝居に悪い役者が出るわけないので誰を褒めてもいいです。KERA芝居に慣れている大倉孝二が力技を減らしつつ軽さと重さを調整してドン・キホーテと思い込む老人を演じきったのが新鮮で、キャスト表最多の6役を演じた犬山イヌ子の芸達者を芸達者と思わせないところは相変わらず。そして笑いのための笑いのない役に臨んだ主宰兼演出家の安井順平が追詰められた役を真摯に通してみせて初日から大好演で、ついにこういう役も務めるようになったかと感慨深い。複数役を演じても役の塊というか手ごたえみたいなものを残す山西惇もさすが。まあ好きに誰でも褒めてください。メモとしては、たいてい1か所はアドリブで笑わせようとする場面(そしてたびたび滑る場面)を入れてくる菅原永二も、さすがにKERA芝居でアドリブは入れられませんでした。
あとはスタッフワークですが、今回ははっきりとよかった。生演奏バンドは編成からして珍しかったですが、いいノリと迫力でした。ここは音楽家KERAの眼鏡にかなっただけのことはあります。風車から発想したであろう美術と繊細な照明が、大きな空間を埋めつつ多数の場面転換をこなします。そして映像。これはもう、毎回どうやって打合せているんだろうという出来です。雨の中から地下への場面、飛行機の場面、橋の場面は必見です。ただ、これを実現させるためにサイド席は売止めにしていたのでしょう。正面から見ないと成り立たなそうな仕掛けもありました。
段取り多数であろうに初日からここまで仕上げただけでも脅威で、しかもKERA芝居にしてはいつも以上に波長の合ったこの芝居。非常に観られるものならもう一度観に行きたいところですが、相変わらずの長尺で最長タイではないかという上演時間3時間45分、そしてアクセスの微妙に悪い神奈川芸術劇場というところで二の足を踏みます。だからこそKERA芝居なのにチケットが余っているんですが、悩みます。
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