松竹主催「義経千本桜 第二部(Bプロ)」歌舞伎座
<2025年10月12日(日)昼>
平維盛が高野山でまだ生きているとの噂を聞き、妻の若葉の内侍と子の六代君が、家来の小金吾を連れて旅路の途中、休んだ茶屋で木の実の採り方を教えてもらった親切な男に荷物から金を取っただろうと因縁を付けられる。実はこの辺りでも評判の悪者、いがみの権太だった。この勢いで実家の金も取上げて見せようと思案する「木の実」。旅を続ける若葉の内侍一行だが、頼朝の追手が掛かり小金吾が奮闘するも「小金吾討死」。権太の妹お里が、店で働く弥助と結婚することになっている。そこへ父親の留守を狙ってやって来た権太が母親に金をせびるも、そこへ戻った鮓屋の主人は権太とお里の父で、慌てて隠れる。じつは父親は討死した小金吾の首を持って帰ってきた。こっそり桶に隠してから人払いして弥助に今日の出来事を話す。実は弥助は平維盛で、その父平重盛に恩あって維盛を匿っていた。だが鎌倉方に噂が伝わり維盛を寄越せと言われた、ついては明日早々に逃げてほしいと伝える。だが追手の梶原景時はその日のうちにやって来た「すし屋」。
第二部がまた困ったもので、義経が一切出てこない。仁左衛門が演じるのだからいがみの権太が主役の場なのだろうと想像は付きましたが、それで出てくるのが平知盛ではなく平維盛が生きていると聞いて旅をする若葉の内侍と六代君と主馬小金吾。これ、オリジナルの初段には「北嵯峨庵室の段」という場面があって、隠れ住んでいた若葉の内侍と六代君が小金吾から維盛が生きている噂を聞いて旅立つ、かつ追手も掛かっていることが描かれているのですね。そこが省かれているから戸惑うことになる。
ただし、その事情だけ把握していれば非常に独立性の高い場面なのが第二部でもあります。そこを見せるために主人公のいがみの権太は、旅人から金を奪いながらも妻子に優しく、実家の金をだまし取ろうと母親を騙すも父親の企みに気が付いて自分の妻子を身替りに引渡す、悪いのも優しいのも両面見せることが必要になる。やりがいは合っても現代演劇的な理屈の辻褄合わせでは処理しきれない役ですが、そこは仁左衛門がしっかり務めてくれました。顔芸含めて、引出が多くていいなあと思いながら観ていました。
ただ初見ではやはりわからないところがあって、権太の父親である鮓屋弥左衛門が平維盛を恩ある人の息子として匿っているという下りや、褒美の陣羽織を維盛が確かめる下りなどは台詞をしっかり聞き取れずに雰囲気だけで察しました。首を使ったすり替えの内容が先月観たばかりの寺子屋と重なるところがあるのが惜しいです。間が空いていたらもう少し素直に見られたでしょう。
物語全般を追うだけなら三部のうちこの二部が一番わかりやすかったのですが、その分だけ平維盛がのんびりしているのが目に付きました。お前が追われているんだぞ、お前を助けるために周りが慌てているんだぞ、何をのほほんとしているんだ、と突っ込みたくなりました。同じ何もしていないのでも、ただ座っているのと、緊張感あふれているのとでは違うもので、そこは演じた萬壽に文句を言いたい。Bプロは第一部と第二部が初日でしたけど、だとしても文句は文句です。
<2025年11月12日(水)更新>
誤字訂正。
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