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2025年10月19日 (日)

松竹主催「義経千本桜 第一部(Bプロ)」歌舞伎座

<2025年10月12日(日)朝>

京都にいる間に兄頼朝の追手に襲われ、伏見稲荷まで逃れて来た義経と従者。静御前も追付いて一緒に逃れたいと願うも義経は許さず、会えない間はこれを自分と思えと初音の鼓を授けるが・・・「鳥居前」。船で逃げようとする義経一行を追ってやってきた頼朝の手先だが、荒れる海に船が出せないのを廻船問屋に無理やり出させようとするが、店の主人が先客優先と追返す。先客は義経一行だが、実はこの主人は亡くなったはずの平知盛だった。実は落ち延びていて、義経に復讐するためにわざと船に乗せたところを狙おうとするが、戦の大勢は義経一行に傾く「渡海屋・大物浦」。

通しで観ました。第二部はこちら、第三部はこちら

あらかじめ断っておくことが2つあります。まずは疲れていたところに前日昼夜2本の芝居を詰込んだため、芝居を観る集中力に欠けた1日だったこと。古典芝居を通して観るのに良い体調だったとは言えません。

それともう1つ、「義経千本桜」は名前こそ何度も目にしていましたが初見です。そしてあまり芝居の事前情報を入れないで観ることが好みのため、まったく内容を知らずに臨んで、むしろタイトルから「義経が活躍して、それを疎んだ頼朝に追詰められて、桜の花の下で最期を迎えるのだろう」くらいの筋だと先入観を持って臨んでしまいました。結果、義経がほとんど出てこなかったため、ただでさえ体調不良で減っていた集中力の半分くらいを先入観との戦いで費やしてしまいました。だから物語が頭に入らず、いつもブログの頭に書いている粗筋も、ネットで調べながら書く始末です。

これは調べたらわかりました。オリジナルが人形浄瑠璃で、五段目まであるうち、今回の通し上演では二段目、三段目と、四段目のダイジェストで構成されていました。で、省略された初段には義経が逃げることになった経緯が、四段目、五段目では、頼朝の家臣が義経を追詰める場面が多数ありました(なおオリジナルでは最期は義経は助かることになっています)。だから歌舞伎版の場合、タイトルに義経と残っているものの、実は平家の落人の末期に焦点を当てた再構成版となっています。

これだけでも驚きましたが、Wikipediaで調べたら千本桜についても書かれていました。

ただし断っておかなければならないのは、本作は題名に「千本桜」と付いているにも拘わらず、実は桜の咲いている場面は全段の中にはひとつもない。現行の文楽・歌舞伎においては桜の花が「道行初音旅」、「河連法眼館」に見られるが、浄瑠璃の本文にもとづけば、本来はいずれも桜の咲いている時分ではないのである。「千本桜」という言葉は初段大序「院の御所」の終わりに、

「…鼓を取って退出す。御手の中に朝方が悪事を調べのしめくゝりげにも名高き大将と。末世に仰ぐ篤実の強く優なるその姿。一度にひらく千本桜栄へ。久しき(三重)君が代や」

とあるだけで、「桜」という言葉が出てくるのもここだけである。しかし「院の御所」でも桜が咲いていたわけではない(後述)。また「壇ノ浦」のことも出てこない。平家が壇ノ浦の合戦において滅んだのは周知のことであるが、この『義経千本桜』においては平家が滅んだのは屋島の合戦であるとし、このときに安徳天皇や二位の尼も入水したのだと義経は「院の御所」で物語る。すなわち原作の浄瑠璃では「千本桜」と称していながら桜の花は出ず、壇ノ浦の戦いについては敢えて史実を枉げ、無かったことにしている。『新日本古典文学大系』の注では壇ノ浦のことについて触れないのは、「歴史には裏があるとの設定から、あえて壇浦合戦の語を避け」たとしている。

これをあらかじめ知っていればもう少し助けになっただろうと考えたのですが、後の祭です。後でチラシを見返したら、義経以外の3人が主人公扱いになっていたのだから気が付いてもよさそうなものなのに。だから今回は、何も知らない素人の頓珍漢な感想をできるだけ素直に書くことを目指します。

という前書きの上で。

「鳥居前」は伏見稲荷と書かれた鳥居の前の出来事ですが、義経がのんびりしていたから、これから出陣の場面と勘違いしてしまいまいした。だから遅れてきた弁慶が叩かれたのだろうと考えましたが、それにしては出陣で静御前が一緒に連れて行ってほしいと願うのはおかしいし、とさっぱりわかりませんでした。オリジナルの初段を省いた構成なら、ここは義経が狂言回しになって状況をきっちり説明してほしいところ、節回しの多い台詞が体調不良もあって聞き取れませんでした。佐藤忠信実は源九郎狐の尾上右近は母の見舞で遅くなり、という事情は伝わったのですが、うーん、と首を捻っている間に終わってしまいました。

「渡海屋・大物浦」でようやく義経一行が身分を隠して逃げていて、それを鎌倉方が追う、という展開だとわかりました。追手役は相模五郎で松緑で合っているかな、わかりやすくやってくれて助かりました。渡海屋銀平実は新中納言平知盛が落ち延びていて、義経一行を逃がすふりをして海の戦で復讐を目論む、というのが芝居ならではの大転回。ただしここで焦点が義経でなく平知盛と匿う安徳帝一行に当たるのが、やっぱりいささか混乱したところです。

それはそれとして、平知盛の役は演じる役者に一段大きくなることを求めるような役で、それに応えた巳之助が気合十分見応え十分で見せてくれました。お柳実は典侍の局の孝太郎もわりと素直に演じてくれたので、この2人のおかげで何とか話を追えました。そして安徳帝に従う一行の悲劇は並み居る大人に混じって子役の安徳帝が健気に通してくれましたが、これはクレジットがないけどAプロに続いて巳之助長男の守田緒兜でいいのでしょうか。だとしたら初お目見得であれだけしっかり台詞を言えるのがびっくりです。

で、仕掛けられた戦に勝って戻ってきた義経が、やっぱりぼおっとしている。戦に勝って高揚しているでなし、平知盛が生き残っていて驚いているでもなし、自害した典侍の局に哀れを覚えるでもなし。平知盛を見せる場だとしても、義経が大きく演じればこそなお一層平知盛が輝くだろうに。これは鳥居前と合せて第一部で義経を演じた歌昇に文句を言いたい。Bプロは第一部と第二部が初日でしたけど、だとしても文句は文句です。

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