松竹主催「十二月大歌舞伎 第三部」歌舞伎座
<2025年12月6日(土)夜>
大店の番頭に囲われているお富が、雨宿りしている顔なじみの番頭を連れて家に戻ると、強請目当てでやって来たのは蝙蝠安と与三郎。かつての色男もお富を逃がした見せしめに身体中が傷だらけで強請の手伝いをする毎日。そこでお富に顔を明かした与三郎が詰寄るところに「与話情浮名横櫛 源氏店」。大きな国を総べる大王が病がちになって、二人の王子であるヤマヒコとウミヒコに命じたのは永遠の命を得られるという火の鳥を捕まえてくること。長い旅路の果てにようやく捕まえたかと思ったのだが「火の鳥」。
「与話情浮名横櫛」は前に通しを観ていたので「源氏店」だけでも筋に迷うことはありませんでしたが、それがなかったらここだけ切出すのは不親切と考えたところでした。玉三郎のお富に染五郎の与三郎で、話題の組合せと芸の継承を急いだのでしょうか。玉三郎はさすがでしたが、染五郎は悪さと色っぽさとを兼ね備えた役はまだまだ苦手そう。強請仲間の蝙蝠の安五郎を演じた松本幸蔵の下手から強気まで幅広いところが目を惹きました。
「火の鳥」は壮大なロードムービーとでも言うべき仕上がり。物語の筋立てで言えばやや性善説というか、人類と地球の対比というか、正直に言えば20世紀の楽観が残ってやや古い世界観ではないかとは感じました。あと脚本の言葉選びももう少し大和言葉に寄せてほしかった。ただし、歌舞伎座の素舞台をさらけ出したり、あの広い舞台いっぱいの幕に映像を映して後ろの舞台と合せて長い旅を示してみたり、そこに長く厳しい旅に相応しい音楽を流したりと、昨今は忘れ去られたようなスケールの大きさはさすが玉三郎でした。火の鳥を演じたのも玉三郎ですが、ああこれは玉三郎でないと成立たないだろうなと思い知らされました。
で、兄王子ヤマヒコを演じたのが染五郎なのですが、これがものすごく格好いい。高麗屋と言えばニンは三の線と勝手に思っているのですが、父である大王のために弟を連れて長旅を目指す責任感と真っ直ぐな心を衒いなく出して行動する主人公感が、そして殺陣の立ち回りが、ものすごくいい。客席を歩くサービス(兼場面転換の時間稼ぎ)もあって割と近くでも観られましたが、顔も整っていました。「源氏店」の与三郎よりは現代っぽさのある2枚目が得意なんでしょうか。これは「阿修羅城の瞳」も「阿弖流為」も待ったなし。松竹はここで全突っ張りするべきです。
そして病がちな割に妙に目を惹いた大王が誰かと思ったら中車でした。いろいろあって謹慎から少しずつ慣らしているところで、報じられた話は褒められたものではありませんが他の役者のもっとひどい所業に比べるとまだまし。そして上手なものは上手。
これが歌舞伎かと言われると迷うところですし、先にも書いた通り不満も目につくのですが、観終わってみれば結構良かったという感想です。それは夏の初演を経て再演でこなれていたのもあるでしょうし、何と言っても玉三郎に加えて染五郎と中車を得られたのが大きい。このタイミングで一度は観られてよかったと満足しています。
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