チケット代から予想する舞台の出来について(2025年末版)
世の中の物価上昇に伴ってチケット代も値上がりしています。関係者だって物価上昇を埋合せられるように稼がないといけないので、それは致し方ありません。
それで2004年に書いた(ブログの移動に伴い2011年に再掲載した)「再録:チケット代から予想する舞台の出来について」を、今の感覚に直してみようと思います。
前回はその公演の一番高い席を基準にしていたのですが、昨今だと土日祝日公演が高い、夜公演が安い、子供割がある、学生割引がある、など1つの公演の中でもチケット代がばらつきます。なので基準は「その公演で一番標準的で割増も割引もないと考えられる平日昼間公演の大人料金で一番高い席の値段」を基準とします。実際にはその公演で一番安い料金を基準に上乗せを決めていると思いますが、そこはあまり穿つことなく素直に考えます。
また前回と同じく、伝統芸能や宝塚や海外来日モノの日本公演はまた別の基準になりますのでひとまず脇に避けます。
・無料:
観てはいけない。
・ - 3500円(旧2000円までの価格帯):
旗揚げしてすぐの場合。旗揚公演に限っては出来のいい可能性はあるが、数回公演してもこの値段だと手を出さない方が賢明。
・ - 6500円(旧3500円までの価格帯):
ある程度公演を重ねた劇団。規模の大きい劇場には向かない作風の劇団、ある程度売れた人たちが本公演とは別に上演したい場合、芸能人としてそこそこ売れていても舞台経験の浅い人が舞台を始める場合、長年公演しているが全然おもしろくない(動員数が伸びない)のでこれ以上の値段をつけることができない劇団、の4パターンが主。玉も石も多い、小劇場という言葉が一番似合う層。
・ - 8000円(旧5000円までの価格帯):
ある程度の評価を得られて、中規模以上の劇場で上演するに耐えうる質を維持している劇団が多い。コアな少数ファンを当てにした、つまらなくて売れない劇団もたまに混じる。スタッフワークのレベルも上がる。昔ならエンタメ要素必須の価格帯でも、近頃だと小劇場社会派系地味芝居でもこのくらいのチケット代はある。
・ - 13000円(旧8000円までの価格帯):
昔の小劇場から売れた劇団、あるいはその関係者を巻込んだプロデュース公演でいまとなっては事実上商業演劇になっている一群と、芸能系の商業演劇群とが混在しているレベル。小劇場系だとはずれが最も少ないと思うが、それでもはずれるときははずれるし、芸能系は言わずもがな。脚本家か演出家か役者に人気者が含まれ、スタッフワークは確実で金がかかっている。
・ - それ以上:
人気者を前面に押出しての価格帯。スタッフワークは確実で金がかかっており、その点ではチケット代について納得させてくれる。ただしスター頼みの面も大きく、芝居の出来を保証するものではない。役者目当てでない場合は、チケット代が高い分だけ外れたときの怒りも大きくなる。
こんなところではないでしょうか。以前は旧6500円までの価格帯を設けていましたが、「つなぎ」と書いていたくらいその当時でもあまり見かけないチケット代の価格帯でした。ですから割と強気なチケット代も珍しくなくなってきた昨今、上下の価格帯に吸収されて消えました。
以前はまったく観なかったので書かなかったこととして、ミュージカルがあります。できる役者が限られる、演目に海外翻訳物が多い、生演奏が入ることもある、と金の掛かる要素が多いため価格帯が高値安定しており、13000円スタートくらいでしょうか。16000円とか見かけますし18000円でも驚きません。こちらはチケット代から出来を判断することは不可能で、演目と出演者で判断することになります。
ちなみに、劇団四季のチケット代はなかなか相場に近いです。ただあちらは、ロングラン演目だと減価償却費だか契約当時の為替だか何か理由があって、一般レギュラー価格が13000円のところ、新作だと13500円になっています。会員価格だと1000円引きになりますが、今後もチケット代はじわじわと上がるのだと読取れます。
そしてここまで書いておいて何ですが、チケット代から出来を推測するのは近頃は成立たなくなってきているなと思います。
2004年当時は売る側としても提供できるものに見合った値段というのを意識していたような、チケット代の格とでも呼ぶべきものがありました。小劇場とか老舗新劇劇団とか商業演劇とか、互いの領分がもっとはっきり分かれていて、そこにチケット代の相場がありました。そこは2025年現在、存在しません。小劇場から芸能界に進出して活躍する人が増えて、小劇場と新劇劇団との間で脚本家や演出家レベルでの交流が盛んになり、テレビの影響力低下と海外ネット系オリジナルドラマや映画の作成が日本にも入って、ごちゃ混ぜです。
スタッフワークも、IT系ツールの発展で映像と音響はかなりのところまで作れて、機材よりも腕前とやる気次第になっています。なんだったら小劇場なのにLEDパネルまで導入する芝居が出てくるくらいです。
あとは役者の腕前も、平均値は今より数段下でした。だからこそ達者な役者のいる劇団は人気となり、大きくなり、人気の役者が抜けて終わる、というサイクルでした。そこを底上げしたのが、ここ30年近くの現代口語演劇の膾炙によって自然体の演技のイメージが広まったことと、海外のメソッドの流入でしょう。若くても上手い人は本当に上手いし、その数も増えています。小劇場と芸能界の両方でです。
余談ですが、その分だけ、昔の小劇場で「怪演」して名を上げたような役者が減っている気もしますが、あれは劇団の作風が「怪芝居」であることとセットです。探せばどこかにいるのでしょうし、近頃の自分の興味でなかなかその手の芝居は観られていないのですが、それでも「怪芝居」の数自体が減っているように思われます。
閑話休題。それらの結果として、安いチケット代の面白い芝居のレベルと、高いチケット代の面白い芝居のレベルとが拮抗しています。面白さの1点だけを問うなら昔だって拮抗していたでしょうが、それは脚本家兼演出家兼主宰のセンスで引張り上げられるだけ引張り上げた結果だったでしょう。それが今だと役者もスタッフも商業演劇と大差ないケースも出ています。違うのは上演劇場の広さだけです。
あとはSNSの広がりもあります。SNS宣伝の上手下手はありますが、だとしても昔よりも口コミの重要性が遥かに高い。
結果として、チケット代から出来を予想する意味が減りました。それは芝居の出来を予想する手掛かりが減ったことになりますから、観客にとってはかえって難しくなったと言えます。
上演側に取っても難しくなっていて、自分たちの芝居の観客層をよく把握して、口コミが広がる層を考えて、上手く嵌まったときにチケット代が足かせにならないようなところまで思いを馳せる必要があります。
それでも昔に比べたら今の芝居環境の方が面白いものが多いです。チケット代が上がっても外れ芝居はなくなりませんが、外れたときの不満要素は昔よりも減っていますし、面白い芝居の面白さは昔よりも上がっていますから、観客にとっては今の方が豊穣と言えるでしょう。作る側は昔よりも大変でしょうが、そこは納得の上で取組んでもらいたいです。
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