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2025年12月27日 (土)

座席と上演時間帯によるチケット代の値段差の実例

先日観た「ハリー・ポッター」は、舞台も長年手掛けているホリプロという芸能界大手が、劇場主のTBSと手を組んで、海外発の有名シリーズを持込んだ芝居です。魔法の世界が舞台なのは皆さんご存知のところ、そこで映像に逃げずにアナログにどうにか魔法を再現させようとする努力の塊でした。これを実現するには劇場の中に相応の仕込みが必要、かつそれを操るスタッフも専任で必要となります。必然的に劇場を借り切ったロングラン、それも日本風のロングランではなく、年単位のロングランになったのでしょう。

ロングランということはリピーターも含めてあの手この手で集客しないといけません。有名シリーズでファンも多いでしょうから、1回限りであれば吹っ掛けることもできるでしょうが、そういう乱暴なことでは年単位の公演を続けられません。とは言え、自社他社の役者を集めるホリプロも、スタッフも劇場も、もちろん海外の版権会社も、稼ぎになるから付合います。凝った仕込みも含めて安売りはできません。

稼ぐためには利益率が高いと言われるグッズに力を入れるのはもちろんですが、それだって観客が来てくれればこそです。ということで、舞台興行の基本であるチケット代については、できるだけ大勢のお客さんがやって来て、かつ、ぎりぎり高い値段で売りたいと制作サイドが頭を悩ませるわけです。

それで細かくわけたのがまず座席です。公演が終了したら消えてしまうでしょうから座席表が必要な人はダウンロードしておいてください。URLに241028と含まれているのでそこで一度見直したのかもしれませんが、昔の料金はわからないので現在最新を元に話を進めます。

以下、座席表を観れば一発でわかる会場の赤坂ACTシアターの説明です。1階はA列からY列まで25列あって、H列とI列の間が通路です。2階はA列からK列まで11列あり、F列とG列の間が通路です。横は1番から42番まで番号が振られており、1階は列によって14番から27番または28番までが、2階は列によって14番から28番または29番までがセンターブロックです(2階最後列のみ座席の都合で15番から27番)。

これを運営団体は7つのチケットに分けました。

・9と4分の3番線シート(特典付SSS席相当):1階I列(通路後ろ)のセンターブロック
・SS席:1階A列からN列まで(I列除く)のセンターブロック、2階A列のセンターブロック
・Sプラス席:1階O列からU列のセンターブロック、A列からR列までのサイドブロック、2階B列からD列までのセンターブロック、A列からC列までのサイドブロック
・S席:1階V列とW列のセンターブロック、S列からW列までのサイドブロック、2階E列とF列のセンターブロック、D列からF列までのサイドブロック
・A席:1階X列とY列、2階G列とH列
・B席:2階I列とJ列
・C席:2階K列

これを見てわかることは何でしょう。

まず、特等席は最前列ではなく、通路後ろのセンターであると示したことです。これは特典付きで値段を上げている席ですが、それも含めて劇場中で一番価値ある席だと公式が認めています。これはわかることで、例えば歌舞伎の世界だと「とちり席」が価値が高いと言われています。最前列からいろは順で数えて7列から9列目のことです。至近で贔屓の役者にかぶりつきたい人もいるでしょうが、それよりは全体が見える程度には離れているけどできるだけ舞台に近い席、これが芝居を堪能するには良い席だということです。

それに合せて、センターブロックとサイドブロックとで価値が異なると示しています。たとえ最前列でも(というか最前列ほど)角度が付いて芝居全体が見にくくなるよりは、少し後ろでも正面に舞台全景を収められるほうが好ましいということです。これもわかることで、役者が背中を向けていたり、役者が重なって向こうの役者が隠れたりするだけでなく、観ていて首が痛くなります。歌舞伎だと花道の役者の背中ばかり見ることが多い下手前方は「どぶ席」と呼ばれているくらいです。後ろは後ろで、舞台の「絵作り」の見え方に関わりますから、そこに差を認めるということです。

そして席が後ろに行くほど安くなるのは誰でも納得するでしょうが、1階後ろがA席になっているのは、これはおそらく芝居の内容と劇場の構造によるものです。2階席の張り出しで視界上方が遮られる席だからでしょう。「ハリー・ポッター」は高さも上手に使ったり、客席側に照明を当てたりしていましたから、客席の視界が開放的な席は仕掛けが全部見えて望ましいということでしょう。だから距離が遠くなる2階でも前方席がSS席、Sプラス席、S席扱いになっていると読取りました。

2階後方は席種を細かく設定していますが、これは距離が遠いとか、劇場の天井が目に入ってくる席といった舞台の見え方云々だけでなく、客寄せのために安い席を設けるならここしかないという判断と思われます。それでも、2階通路後ろ列が1階最後列と同じ値段なのは、先ほど書いた通り視界の開放度合いによるのではないでしょうか。反対に言えば、視界の抜けを気にしない芝居であればここまで(今回の)S席相当で扱われる可能性もあります。

座席による差の付け方はわかりました。ではその差を値段に反映させるとどのくらいの差になるでしょうか。ちなみに家族連れを当て込んでSプラス席とS席には子供料金も設けられています。以下の通りです。

席種 平日昼料金 土日祝昼料金 夜得料金
SS席 17,000円 19,000円 13,000円
Sプラス席 16,000円 17,000円 12,000円
Sプラス席(6歳~15歳) 12,000円 12,000円 8,000円
S席 15,000円 16,000円 11,000円
S席(6歳~15歳) 12,000円 12,000円 8,000円
A席 13,000円 14,000円 9,000円
B席 11,000円 12,000円 7,000円
C席 7,000円 7,000円 6,000円
9と4分の3番線シート 20,000円 22,000円 16,000円

9と4分の3番線シートとC席が若干特別なので一旦置くとして、SS席からB席までが平日昼と夜(土日祝日含む)だと6000円差です。土日祝昼料金は平日昼料金に1000円または2000円を上乗せしているため、SS席からB席まで7000円差です。単価の高い商業芝居である前提ですが、このくらいは差を付けないと納得してもらえないという判断です。

また時間帯別料金ですが、土日祝日の昼公演(と初日と千秋楽)が高いのは昨今の流行りです。客層の高齢化に伴って、および商業芝居固有事情としてその日のうちに帰りたい遠方客への不人気も相まって、夜公演の数が極端に少ない芝居もあるほどで、どちらかと言えば今の「ハリー・ポッター」もその部類でしょう。夜間料金がぐっと下がっています。だからここは最高値と最低値が5000円または6000円差と読むのではなくか、平日昼を基準にプラス1000円から2000円、マイナス4000円と読んだほうがよいです。夜でも遠慮なく来てくれる若い人には、あるいはこのくらい下げれば何とか奮発していいと観客に考えてもらうには、10000円ちょっとが限界と判断しているということです。

そして子供連れは家族を当てにしているということで、席によって3000円から5000円の値引きを付けています。大人が1人以上付いてくるならペイする、中学生だけで観に来るなら業界にとって将来有望のお客様の育成、という判断でしょう。

一番高い9と4分の3番線シートですが、平日昼料金で20000円です。これは高く売りたいのもそうですが、おそらく制作側として、何とか20000円のチケット代の実績を作りたいと考えたのではないでしょうか。公式サイトの説明では以下の特典が付いています。

ハリー・ポッターの世界観を存分に味わえるシートです。特別なデザインをあしらったチケットに加え、限定の非売品グッズをプレゼントいたします。
さらに、ほかのお客様よりひと足早く劇場ロビーにご入場いただき、魔法の世界を独占できる特典つきとなります。

反対に、一番安いC席ですが、ここは昼公演が日にち問わずで7000円、夜公演だけ6000円です。たとえ2階最後列でも安売りしすぎてはブランドに関わるというのが判断のひとつでしょう。ただ、もうひとつ事情がありそうです。それが5000円で売られるゴールデン・スニッチチケットです。

毎公演、わずかな枚数だけ発行される希少なチケットです。毎週金曜日からエントリー開始、翌週に行われる抽選で当選した方に、翌々週の公演を5,000円(税込)で購入できる権利が与えられます。
さらに、申込完了画面にあるSNSシェアボタンからシェアすると当選確率がアップ!
金曜日は魔法の世界への扉が開く日。
是非エントリーしてハリー・ポッターの世界に足を踏み入れてみましょう!

※各公演枚数限定で、座席はお選びいただけません。
※どなたでもエントリーできます。
※エントリーは、一度のエントリー期間につき、お一人様1回のみとなります。
※購入者本人のみがチケット引換できます。

エントリー期間

毎週金曜日13:00から翌週月曜日23:59まで

※一部対象外の公演がございます。
※混雑が予想されるため、受付開始直後、受付終了前の時間帯を避けたエントリーをおすすめします。

大人の事情に遠慮せずに書けば、売れ残りを出すくらいなら安くたって売った方がいいのですが、それで高い席が値崩れを起こすのは困りますし、安すぎて1000円とかで売っても信用に関わりますから、こういう売り方をしているのでしょう。ここはロングランならではの苦労ですが、これで普段芝居を観に来ない人に観劇経験を覚えてもらえるなら悪い事でもありません。ただし、5000円はほしい、5000円払うつもりがない人間はお断り、という制作の言い分もあるのではないかと推測します。それが席の値段のブランドイメージを守るためなのか、必要経費からの算出なのか、客層が荒れないように注意しているのかまではわかりません。全部ひっくるめての気もします。

とにもかくにも、席と時間帯によってこのくらいの値段差を付けてもいい、付けないといけない、と考えているのが分かる値付けでした。

個人的には1階後方と2階前方の席にもう少し差を付けてほしいと思いますが、ここでもうひとつ考えないといけないのは席種の呼び方です。S席というと実態はともかくいい席のように聞こえます。S席のある公演でA席だとやや落ちる印象があります。それで真面目に区切りと名前を付けるとSS席がSSSSS席になってしまい、シングルS席の価値がかえって落ちます。だからこそSS席、Sプラス席、S席と呼んでいるのでしょう。この辺は気分の問題ですが、気分は大事です。歌舞伎座ですら1階に特等席を認めるようになった時代に、新国立劇場の公演がA席B席と実直に呼んでいるのは馬鹿真面目で好ましいなと個人的には考えますが、それはすれた観客である私の意見です。年に1度でも芝居を観に行く人の方が圧倒的に少ない世の中で、せっかく芝居を観に行くなら特別なイベントであってほしいと期待する人たちの期待を否定しない。年単位のロングランを行なうならこのくらいの気配りは必要なことです。

他の劇場では、文中で上げた歌舞伎座、あとは劇団四季の各劇場が、通年上演しているので参考になるでしょう。ただ、花道が座席の価値に影響する歌舞伎座と、専用劇場を造る際になるべく見栄えも考えて作っている劇団四季なので、ここまでわかりやすい席種の違いではありません。あとは、劇団キャラメルボックス昔「全ての席で同じように芝居が見える、だから値段も同じを目指す」と言った趣旨の発言をしていた記憶がありますが、志はさておき物理的な違いが発生する席種でそれは難しいことです。

長々と書きましたが、今回の「ハリー・ポッター」の値付けは、観客にとって良い席とはどこか、値段差はどのくらいが適当なのか、プロの制作が考えた実例として、最大公約数の指標のひとつと呼べることでしょう。

<2025年12月28日(日)追記>

元公演感想エントリーへのリンクを追加。

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