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2020年6月28日 (日)

2020年上半期決算

恒例の上半期決算です。

(1)Triglav「ハツカネズミと人間」神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI

(2)トライストーン・エンタテイメント/トライストーン・パブリッシング主催「少女仮面」シアタートラム

(3)カオルノグチ現代演技「セイムタイム・ネクストイヤー」下北沢駅前劇場

(4)東宝主催「天保十二年のシェイクスピア」日生劇場

(5)松竹製作「菅原伝授手習鑑」歌舞伎座

(6)てがみ座「燦々」東京芸術劇場シアターウエスト

(7)青年団「東京ノート」吉祥寺シアター

以上7本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は42500円
  • 1本当たりの単価は6071円

となりました。歌舞伎は幕間で観たので通常価格、高くなったのは「天保十二年のシェイクスピア」の分です。他に「12人の優しい日本人」はYouTubeで観ましたけど、無料配信なのでノーカウントです。

2月21日に東京都のイベント延期アナウンス2月26日に政府のイベント自粛アナウンスなので、この期間に観た芝居は新型コロナウィルスの影響がまだそこまでではない時期でした。(5)のころからマスクの接客に気が付いて、(7)が客足に影響はあるものの滑り込みセーフです。なので芝居の感想は新型コロナウィルスの影響をそこまで気にしないで判断できました。文句なしによかったのが(3)(4)、よかったのが(1)(6)(7)、見どころはあったものの総合的に自分には響かなかったのが(2)(5)です。

最近の決算ではもっと細かい感想が続きますが、今回はこれ以上はありません。あとは新型コロナウィルス一色です。ひとつお断りを。何でもアベが悪いとコメントする人たちには閉口しました。初日の幕が開いてから演出家を交代して新演出をつける、新演出家もこれから決めると言ったら演劇関係者は全員ノーと答えると思うのですが、芝居ではなく自分たちの命がかかっている時に、それと同じことを政治家にやろうとしているとしか思えないコメントは優先順位を間違えていると考えて、このブログでは取上げませんでした。

で、自分の書いたエントリーです。

格好悪かった業界に対する批判的な話は、「新型コロナウィルス騒動で日本の芸術団体は団結していないし演劇業界はぶっちぎりで団結していないことがわかったという話」と、「新型コロナウィルスの補償問題で本当にドイツがよかったのか疑問になる記事から転じて文化芸術復興基金の話まで」の2本でだいたいまとまっています。

業界と比べて(相対的に)格好いい業界関係者の話は、正直に罹患を発表した「宮藤官九郎が新型コロナウィルスに感染」、前田史郎の「新型コロナウィルスかわからないのに発熱で中止を決めた五反田団の報告」、今回目にした舞台関係者の文章で唯一格好よかった「新型コロナウィルスに対する横内謙介の覚悟」の3本になります。

自分が芝居をどのように考えているかは、「不要不急で無駄だからこそ芝居は文化たりうる」で考えてみました。

だいたいこんな感じです。時間がないからどれか1本だけ選べと言われたら、横内謙介のエントリーを読んでください。

唯一明るい話題と言えば、小川絵梨子の新国立劇場芸術監督再任くらいです。こんな時代に再任されてかじ取りは難しいと思いますが、今までの日本にないパスからこのポジションについた人なので、乗りきってひょっとしたらさらに先まで行けるかもと内心期待しています。

こんな状況で芝居見物がどうなるかわかりませんが、もしこのブログが続くのであれば、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2020年5月 6日 (水)

12人の優しい日本人を読む会「12人の優しい日本人」YouTube

<2020年5月6日>

殺人事件の裁判の陪審員として集められた12人。審理に入って採決したら全員無罪を選ぶ。だがその結果に納得いかない1人が有罪に意見を変える。話し合おうという1人にほかの11人が様々な情報をぶつけていくなかで新たな発見が出てきて、陪審員たちの気持ちが揺らぐ。

「12人の怒れる男」を元にした三谷幸喜の名作芝居。今回は東京サンシャインボーイズ時代と同じ出演者を極力集めて、自宅からZoomで参加する企画。最初はライブと言って宣伝していたので見逃したと思ったら、(少なくとも)5月中はアーカイブを残すとのことで、追っかけて観られた。こちらから辿れます。無料です。

どうせネットで観るなら、舞台を撮影したものよりネット向けに企画されたほうがいいと思っていたところに見かけた企画だったので、どんな感じかと挑戦。自分が観たことがあるのは2005年のPARCO劇場版だけど、今回のキャスティングはWikipediaによると3演目に沿っている。演出に冨坂友を立てて、一応リーディングとは言っていたけど、台本は(あったとしても)見えない。登場人物が同じ部屋にいる設定で、投票用紙や地図など最低限の小道具は用意して、やり取りしているように見せるスタイル。途中、声の大きさが変わるところがあったけど、なにしろ元の脚本がよくできているので、多少のデコボコはあっても最後まで観られた。

内容は、無料だしまあ観てください、って感じなので、今回の企画の感想を順不同に。よかったところ。

・もっとネットワーク環境がグズグズになると想像していたけど、ほぼ大丈夫だった。これは時間帯が影響しているかもしれない。

・思ったより違和感がなかった。これはほぼ座った状態で進む会話劇を選んだところが肝。途中の喧嘩の場面に振りをつけていたけど、ああいう場面が難しい。

・後編は遅れてライブの時間内に観たけど、チャットは切った。私にはチャットのスクロールが目障りだった。

・団体名というか、上演団体企画名くらいはつけてほしい。付いていたのに気が付いていなかったので直しました。

・稽古期間がどのくらいだったかわからないけど、経験者と芸達者がそろって、やっぱり上手。特に声の距離感は、調整してきた感がある。

・元は2時間の芝居を前後半に分けたのは正解だった。2時間連続の視聴はきつい。前半は出だしで説明があるため1時間28分あるのだけど、最後10分くらいはダレた。たぶんこのスタイルだと連続は1時間が限界で、15分から30分くらいがちょうどよさそう。きちんと撮影された映像とはやはり違う。

・カメラ内に収まるように動きやカメラ位置も調整した感がある。挙手のところがいい感じ。

・ログインメンバーの名前に1号とか2号とかついているのが、今回の企画だとむしろ親切。ないと困る(後述)。

ここはなんとかならなかったというところ。次回があるなら対応を検討してほしい。

・Zoomの機能で自動的にログインメンバーの並びを変えられてしまうこと。本当は並び順が指定できるとよかった。前半と後半とで並び順が変わってしまうのが痛い。そこがログインメンバーの名前表示でカバーされていて助かった。

・ミリ秒を調整するような笑いはほぼできなかったけど、それよりは「全員がはっと気が付く」ような場面の演出が難しい。

・音の解像度というかレンジというか、とにかく音が揃っていないのがもったいない。手持ち機材で参加したのか、声にばらつきがある。あとオープニングやエンディングの音楽はだいぶ音が古い。こういうのは機材をそろえれば解決できるのか、専門家がマスタリングを行なわないとそろわないのか、どっちだろう。

・解像度低めとはいえ、カメラの画角が揃えられるとよかった。手持ちのカメラやスマホで参加したのかな。あと位置も、高さや前後が結構違った。今回の演目なら同じカメラで同じような位置(目の高さ)で揃えられるとよかった。

・照明は吉田羊だけリングライトを用意していたか? 人によってだいぶ違ったけど、照明はあったほうがいいのでいろいろ工夫してほしい。

・背景は自宅のままだったけど、部屋の背景画像を用意できたらよかった。そういう商売が出てくるかも。

・あまり直す暇もなかったか、梶原善が30代という脚本の設定は無理がある。そのほか何か所か調整したい。でもいっそ、陪審員を密室に閉じ込められないのでオンラインで参加してもらいました、という設定まで調整できたらベストだった。

・三谷幸喜がオープニングに出てくるけど、伊藤俊人は、とか余計なことは言わない。

・同じく三谷幸喜が後半に出てくるけど、三谷幸喜が一番稽古不足。試しに出てみたいのはわかるが、水準以上の役者に交じって水準以下の振舞をされるのはつらい。

まだこれからの手法で、いろいろノウハウが蓄積されたらいい線いけるようになりそうな予感はしました。

<2020年5月7日(木)追記>

企画名があるのを見落としていたので修正。

2020年2月22日 (土)

青年団「東京ノート」吉祥寺シアター

<2020年2月21日(金)夜>

近未来。ヨーロッパで戦争が起きて、大量の美術品が日本に「疎開」されている。その疎開先のひとつである小ぶりな美術館には、有名な絵画が多数運び込まれ、その展覧会が開催されている。展覧会ついでに集まる親族、絵の寄贈先を探しに来た女性たちを案内する学芸員、展覧会見学で偶然出会った男女などが、一休みしたり積もる話をしたりする美術館ロビーでの一幕。

インターナショナルバージョンも観に行きたかったけどスケジュール調整にしくじって日本版のみ。以前こまばアゴラ劇場で上演されたときは背景の戦争がもっと前面に出ていたように記憶しているけど、今回はもっと人間関係に重点が置かれている気がした。人間関係、より、登場人物各人の寂しさ、と書いたほうが近い。戦争の可能性が身近になった世相を慮って演出が調整したか、観ているこちらの単なる思い出補正か。

仕上がりの評価は難しい。いつもはもっとギリギリと演技やタイミングを詰めているところ、今回は言葉にはしづらい細かい点がところどころギクシャクして、すんなり流れに乗れない。狙いがあってわざとなのか、単なる二日落ち(3日目だけど)か、インターナショナルバージョンその他の事情で稽古が足りなかったか。いつもだと同時会話の場面も意識すればその会話が聞こえるけど、今回は声が低くて聞こえない会話が何箇所かあったので、二日落ちだと推測。そんなにひどいわけではないけど、絶妙なバランスが売りの青年団だと目立つ。元家庭教師と教え子の場面はもう少し攻められたはず。

そんな中で登場人物の特徴を全開させて眼をひいたのが長女役の松田弘子。良い演技に惹かれた面もあるけど、どちらかというと自分がその役が気になる年齢になってきたのが眼をひいた理由か。重い空気になりがちな役が多いところにアクセントをつける学芸員の兵藤公美も好印象。

前回観たときに唐突過ぎて意味不明だった、別の学芸員が弁護士に突然絡む場面と「うちの館長はいい絵を手に入れるためなら金に糸目はつけないからね」という台詞。あれは、どちらも(早とちりはあっても)嘘をついていないのであれば、その美術館に昔からなじみがあった別の登場人物が1枚噛んでいるという裏設定かも、と今回思った。

翌日から3連休の夜公演のせいか、昨今の新型肺炎騒動のせいか、客入りがいまいちで左右2列ずつ当日パンフを含む配布物を置かずに空けている状態。これだけ当日券が余裕ならもう一度観たいけど、都合がついても控えがちになる昨今。あの劇場の広さと客席の規模で2時間以内なら大丈夫だろうと踏んでの見物だったけど、感想を書いている今も少し緊張している。なおこれで金曜日の夜かというくらい電車も空いていたのは、連休前なのか人口減なのか働き方改革なのか新型肺炎で旅行客が減ったのか新型肺炎で在宅勤務が流行っているのか、どれなのか。

2020年2月11日 (火)

てがみ座「燦々」東京芸術劇場シアターウエスト

<2020年2月10日(月)夜>

幕末。子どものころから絵筆を取らせて絵を描かせていた、葛飾北斎の娘、お栄。母の勧めで結婚するが、初夜から夫を置いて火事観察に出かけてしまうほど絵が好きで、絵師を目指すも夫からは反対され、実家に戻る。だがその絵も、北斎にも兄弟子にも版元にも、近所のおかみさんにも未熟を指摘される。絵師になりたいのに書きたいものが何か迷うお栄は、機会があるごとに絵を描き続けるが・・・。

再演だけど初演未見。女が絵師になるための苦労、というよりは、周辺人物も含めて、描きたくてどうしようもないけど描けない芸術家の苦悩と挫折と成長、を描いたように見えた。その点「絢爛とか爛漫とか」を思い出すけど、今回のほうがより主人公を応援したくなる展開。一人複数役が普通だったため、蕎麦屋の夫婦が長屋の人、の展開が観ていてわからなかったのがもったいない(アフタートークでわかった)。

良い役者が多かったけど、版元の福本伸一と、複数役をこなした中で石村みかを挙げておく。スタッフワークはむき出しの木と不織布がそっけないようでいていろいろ変化をつけていた美術に、真面目に見たら江戸っぽくないのに気にさせなかった衣装とヘアメイクがよい仕事。まだ詰められる箇所はたくさんあるけど、総じて十分楽しめる仕上がり。

制作に注文として、調べても上演時間が見つからなかったので昼公演での見物予定を立てられずにこの日になってしまった。アフタートーク抜きで休憩なしの2時間10分だったけど、再演なら約2時間くらいは読めるだろうからホームページでもTwitterでもどこかに描いておいてほしい。

アフタートークは長田育恵と渡辺えり。あの台詞がいいこの場面が素晴らしい元気をもらった、と渡辺えりがパワフルに褒め倒して8割方しゃべり続けたので、内容をあらかた忘れてしまった。が、女が仕事をする苦労、という渡辺りの振りに長田育恵が乗っていたので、素直にそちらが主題だったのか、でも江戸で女絵師もいたはずだし、とか余計なことを考えたのも忘れた理由のひとつ。あと主人公が「俺」というのは永井愛か、父親も画家だし、と訊かれて偶然と返していた。それで永井愛が一人称に「俺」を使う人で、父親が永井潔という画家だと初めて知った。あれで笑っていた観客は玄人。

松竹製作「菅原伝授手習鑑」歌舞伎座

<2020年2月10日(月)昼>

その優れた手跡から、弟子への筆法伝授をと帝に望まれた菅丞相。だが今の弟子は頼むに足らず、腰元と駆落ちしたため勘当していた源蔵を呼寄せ腕前を確かめると、勘当は取りやめぬが秘伝を伝授する。折りしも、家来の手引きで逢引していた菅丞相の養女と斎世親王が、菅丞相の政敵である時平の家来に見咎められてしまい、2人は逃亡方々駆落ちしてしまう。それを皇位の簒奪だと時平に逆用されて、菅丞相は蟄居となってしまう。菅丞相の若君だけでも助けなくてはと源蔵が救い出すが、菅丞相は流罪が決定する。

初段と二段目のダイジェスト、なのかな。この後に国立劇場の文楽で今やっている三段目が挟まって、四段目の寺子屋につながるはず。寺子屋で若君をかくまっていた理由まではわかったけど、その恩義の深さが現代の自分には伝わらず、薄味。仁左衛門の菅丞相はどんなものかと観に行ったけど、ほとんど動かない、超地味な役どころ。品格と言われればそれまでだけど、つらい。その分他の役者に目が行って、玉三郎の覚寿が何と言っても一番。梅玉の源蔵もよかった。

東宝主催「天保十二年のシェイクスピア」日生劇場

<2020年2月9日(日)夜>

漁師上がりの親分が治めていた宿場。引退を考えた親分は3人の娘のうち、業突張りな上の娘たちではなく、養女だが心優しい末娘に縄張全部を譲りたいと考えていたが、お互いの思い違いから末娘は家を出ることになる。やむなく長女と次女に分けて譲ることになったが、相手を蹴落とそうとする2人のために宿場は2つの勢力にわかれてしまう。もともとこの宿場の生まれだが流れ者になって戻ってきた男が、この現状を見て、うまくのし上がってやろうと算段を働かし始める。

蜷川版を観て以来2回目。最後まで堪能して満足。やっぱりこの脚本は面白い。スタッフワークで洋風な音楽と振付をつけたのに対して、木場勝己がそこにいてしゃべるだけで良い意味の土着感が出て、古今東西風味が拮抗する。オープニングの曲のノリの良さは蜷川版と甲乙付けがたい。

オープニングの曲が終わって、出だしがやや低調だったけど持ち直し。浦井健治のきじるしの王次が出てきた瞬間の華やかさがすごかった。ああこの人はミュージカルが本家だ、ストレートプレイに出るのはもったいないんじゃないのかと場違いな感想。高橋一生の佐渡の三世次だけ、メイクや衣装も込みで独特に作りこんだ不気味さを前面に出していたけど、なのにこの芝居には合う不思議。終盤は独壇場だった。

「祝祭音楽劇」と題したとおりの出来で、開演して2日目3ステージなので調整の余地のある役者も若干見受けられたけど、客としてはそんなところを気にするより楽しんだほうが得。そういう1本。木場勝己が隊長役を務めているのがバランスの要だと思うので、観られるものなら今回もう1回観たい。

2020年2月 6日 (木)

カオルノグチ現代演技「セイムタイム・ネクストイヤー」下北沢駅前劇場

<2020年2月5日(水)夜>

それぞれ出張先と旅行先であるレストランで知合って一夜を共にした男女。互いに子供の写真まで見せ合うくらい心を許し、そのまま別れるに忍びなかった2人が出したのは、毎年一晩に限って同じ場所で会うこと。そして毎年お互いの配偶者の良いところと悪いところを伝えあうこと。

初日。前回とはうってかわって、翻訳物のストレートプレイを、まさかの挟み舞台にネタ演技も含めて直球の演出。本当に駅前劇場かと疑われるくらい品位に満ちた仕上がりに驚く。役年齢に応じて丁寧に声を変えてくる野口かおると、それに対抗しながら思わぬ特技も披露する山岸門人、どちらも初日からよい仕上がりで、しかもさらに伸びしろがありそう。スタッフもよかったけど第一に衣装を挙げたい。両面客席に配慮した美術もよかったけど両面に満遍なく見せた演技もよかった。

アメリカで上演すると近代史が重なるから、もう少しシリアスな要素が強くないと片手落ちになるところ、そこを追いすぎず2人の対話に寄せたのは演出判断か。直球の仕上がりすぎて演出の手柄がどこまでかはわからないけど、明星真由美の演出は結構よいのかも。

観終わって当日パンフを読んだら、これは飲み屋のトークから立ち上がったという、別の意味で王道な企画だと知って2度驚く。こんな芝居ができるなら毎晩でも飲んでほしい。

2020年1月29日 (水)

トライストーン・エンタテイメント/トライストーン・パブリッシング主催「少女仮面」シアタートラム(若干ネタばれあり)

<2020年1月28日(火)夜>

宝塚にあこがれる少女と老婆は、宝塚の元スターが経営する地下にある喫茶店「肉体」をたずねる。おかしな客とおかしな店員にあしらわれながら、どうしても会いたいと懇願する少女を元スターは見初める。そこから繰広げられる「嵐が丘」の一節は演技指導か幻か。

唐十郎の1969年初演の岸田國士戯曲賞。女が男を演じる宝塚のお約束や、腹話術師と人形の主従関係といった「見て見ぬ振り」から、敗戦の焼け跡の記憶を「見て見ぬ振り」して地下鉄工事が進む世相を一刀両断させ、そこから満州まで話を飛ばす飛躍力はさすが元祖小劇場の唐十郎。適当なようではっとさせる台詞がたくさんあって、アングラと片付けられない説得力があるのはさすが受賞作。水道水を求める喫茶店の来店者の台詞を聞くと、野田秀樹の「パンドラの鐘」はこれが元ネタだったのではないかと思わされる。

この時代にこの脚本を選んだのは慧眼だけど、アングラ要素の多い脚本をそのまま演出してもつらいだろうし、かといって現代的に演出しすぎると脚本が死ぬ。結構頑張っていたけど、肉体と幻のほうに力点が置かれていた模様。あと、オリジナルはもっと猥雑だったであろうところ、ずいぶん上品に演出したなという感想。劇場がシアタートラムで上品さに輪が掛かったたのが惜しい。

伝説の宝塚の元スターに若村麻由美をキャスティングしたのが実にはまった1本。やけにそれっぽいので、真面目なのか笑うところなのか微妙に迷うところが「見て見ぬ振り」の脚本にはまる。もったいなかったのは腹話術師と人形を演じた武谷公雄と森田真和のパートが妙に上手なため独立したパートのように見えてしまったことで、もう少し本編に寄っていたらよかった。

ずいぶん台詞が多かったけど、これで1時間40分なのだから、昨今の長時間芝居の人たちは見習ってほしい。

2020年1月14日 (火)

Triglav「ハツカネズミと人間」神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI

<2020年1月12日(日)夕>

大恐慌時代のアメリカ。農場で働くジョージとレニーだが、力は強くとも頭が弱いレニーが起こす問題で前に働いていた農場から逃げて、新しい農場にやってきた。幸い農場の社長には受入れられ、荷運び頭からも目を掛けられたが、社長の息子には絡まれ、その新妻は相手構わず色目を使っていつ問題を起こすか周囲を危ぶませる。自分たちの農場を持って独立するのが夢でも資金のないジョージとレニーだったが、事故で手を切落としたため仕事がままならない老人のキャンディが貯金をはたいて一口乗るという。少しだけ働けばもらった給金で夢がかなうと張り切る3人だったが・・・。

まったくノーマークだったけどマニアたちが興奮していたので予定を変更して千秋楽を見物。農場を渡り歩く生活の厳しさ、白人と黒人との間にある差別、農業生活と都会生活との差。老いて耄碌した犬を臭い、役に立たないからと平気で殺す場面(これは後に効いてくる場面でもある)や、勝手に話をするレニーを相手に話を続ける登場人物たちの行動は、希望やコミュニケーションが足りない現代の世相に通じるところがある。大恐慌時代ということは1930年代が舞台だけど、100年前の殺伐さに、100年経っても変わらないどころか悪化しているのではないかと疑われる人間の悩みが織り交ぜられた、超硬派な脚本。ついでに書くと松尾スズキの「母を逃がす」の元ネタかもと想像してしまう。

その脚本がよく伝わってくるところまで仕上がっていたけど、役者によってややムラがあった。そんな中で、頭が弱いけどその中で何らかの判断基準を持っていることを実に絶妙な線で演じて伝えたレニー役は素晴らしかった。こちらによれば内藤栄一であっているかな。全体に、演じられている場面はおおむねいいのだけど、過去にいろいろあった設定の登場人物が多いので、そこがもう少し反映されているとなおよかった。粗探しではなくて、一定以上の水準で上演されていたため、逆に脚本の手ごわさが伝わってしまったという痛し痒しな結果。稽古すればするだけ良くなりそうな雰囲気を感じた座組だったので惜しい。

小動物は布を丸めてあらわし、ほぼ平台と箱馬の置き換えだけで進める場面転換は見事だったし、場面転換以外は効果音だけ使ってBGMを流さなかったのも好感。客席は3方向を囲んだコの字形の自由席で、自分はとても観やすい席だったけど、観やすすぎたので、他の席がどうだったかは気になる。たぶん外れ席があった。

そのコの字形客席について、劇団アンケートとは別紙でアンケートが用意されるという珍しいケースだったので、せっかくだから書いておく。

(1)劇場に入った第一印象はいかがでしたか?
どこに座ろうか迷った。

(2)「その席」を選んだ理由を教えてください。
観やすい席を推測して選んだけど、選んだ理由は企業秘密。

(3)「その席」から演者のほかに、観客も視界に入ることについてお聞きします。該当する番号に○をつけてください。また、理由なども記して頂け得ましたらと思います。
特に気にならなかった。演者に集中できれば観客は気にならない。なお囲み舞台は好き。

(4)「劇場空間の客席設定」全体について、改善すべき点、気がついた点などありましたら自由に記述してください。
一列が長い割に足元が狭いので、客入れ最後に真ん中の席に座ってもらうために客席案内担当が椅子を抜いて客に後ろから入ってもらっていた。上手下手の客席は中央に通路を取ったほうがよかったのではないか。あと階段の段差がもっとわかるように太い明るい色のテープを貼っておいてもらえると助かる。

(5)ご自身が坐られた席以外で気になる席ありましたら、気になる理由と共にお知らせください。
最前列にベンチシートがあったけど、椅子でそろえてほしい。どんなにいいクッションが用意されていたとしても、ベンチシート、かつ今回は座面が低いので、それだけで腰の痛さを想像して坐りたくない。

最後に制作陣に注文。ひとつ目、当日パンフには役者名だけでなく役名も併記してほしい。役名と役者名の関連がわからない当日パンフは価値半減。役名を載せることでネタばれになるのを避けるならわかるけど、今回の芝居ならネタばれの心配はなかったはず。ふたつ目、当日券の販売情報をWebのどこかに載せてほしい。本家サイトとTwitterを調べたけれど、価格は載っていても販売時間がいつかは見つからなかった。何分前に販売という情報と、枚数の余裕の両方を載せてもらえると助かる。今時は、ホームページにはTwitterに掲載の旨を書いておいて、Twitterで毎朝更新する方法が多い。みっつ目。上演時間の目安を載せてほしい。初日前に見込みで1回、初日終了時点で見込み時間に変更があったら更新、が望ましい。昨今は3時間越えの芝居も多々あり、終わった後の予定を事前に立てるのに必要。