2023年下半期決算
恒例の決算、下半期分です。
(1)asatte produce「ピエタ」本多劇場
(2)範宙遊泳「バナナの花は食べられる」神奈川芸術劇場中スタジオ
(3)国立劇場主催「菅原伝授手習鑑 三段目/四段目/五段目」国立劇場小劇場
(4)劇団☆新感線「天號星」THEATER MILANO-Za
(5)梅田芸術劇場企画制作「アナスタシア」東急シアターオーブ
(6)ヨーロッパ企画「切り裂かないけど攫いはするジャック」本多劇場
(7)タカハ劇団「ヒトラーを画家にする話」シアターイースト
(8)劇団四季「キャッツ」名古屋四季劇場
(9)御園座主催「東海道四谷怪談/神田祭」御園座
(10)新国立劇場主催「尺には尺を」新国立劇場中劇場
(11)新国立劇場主催「終わりよければすべてよし」新国立劇場中劇場
(12)松竹主催「吉例顔見世大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座
(13)世田谷パブリックシアター企画制作「無駄な抵抗」世田谷パブリックシアター
(14)阿佐ヶ谷スパイダース「ジャイアンツ」新宿シアタートップス
(15)劇団四季「ウィキッド」四季劇場[秋]
(16)劇団四季「アナと雪の女王」四季劇場[春]
(17)株式会社パルコ企画製作「海をゆく者」PARCO劇場
(18)松竹主催「十二月大歌舞伎 第三部」歌舞伎座
(19)松竹主催「十二月大歌舞伎 第一部」歌舞伎座
以上作品の括りでは19本、チケットの括りでは20公演、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、
- チケット総額は 209100円
- 1公演あたりの単価は 10455円
となりました。上半期の16本18公演と合せると35本38公演で
- チケット総額は 373800円
- 1公演あたりの単価は 9837円
です。なお各種手数料は含まれていません。
また今シーズンも映画館で芝居映像を観ました。
(A)National Theater Live「オセロー」
(B)National Theater Live「ハムレット」
(C)National Theater Live「フリーバッグ」
(D)National Theater Live「リア王」
(E)National Theater Live「かもめ」
(F)ゲキ×シネ「薔薇とサムライ2」
(G)National Theater Live「スカイライト」
以上7本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、
- チケット総額は 20300円
- 1本あたりの単価は 2900円
となりました。上半期の1本と合せると8本で
- チケット総額は 23300円
- 1本あたりの単価は 2913円
です。なおこちらも各種手数料は含まれていません。
チケット単価は半期では1万円を超えました。通年でも1万円を超えるんじゃないかと心配していましたが、それは何とか1万円は切りました。下期も劇場閉館前だとか、新劇場見物がてらだとか、仁左衛門を観たいとかやっていましたが、ミュージカルだとかやったらこれです。
NTLiveはありがたかったですね。いい芝居もありますけどそれなりの芝居もあって、やっぱり海を渡って上映される芝居ですら当たり外れはあるものだとわからせてくれました。(C)(G)がよかったです。
東京まで交通費がかさむにしても遠征というにはおこがましい私でしたが、今年はついに芝居メインで名古屋に初遠征しました。観光も楽しみましたが、これでふらっと劇団四季を観に行ったのがよくなかった。めぼしい演目を観たろうかいという気持ちになって3本も観てしまいました。キャッツが1本目じゃなかったらこの気持ちにはなりませんでしたね。運がいいのか悪いのかわかりません。
そしてこれだけ観ておいて贅沢な話なんですが、気持ちが乗らずに観ていた芝居が多いです。体調不良なのか、年を取って体力が落ち来ているのか。ラインナップを眺めたら古典やロングランや再演が多いのは気分です。小劇場開拓する元気がほとんどありません。
下半期の寸評は、数少ない小劇場開拓で現代の社会芝居を小劇場仕立てで見せてくれた岸田國士戯曲賞の再演になる(2)、仕上がりに文句はあっても脚本に感心した(7)、全員が歌って踊れるミュージカルの(8)、今年の話題となった問題を古典に絡めた意欲作の(13)、ベテラン5人でごりごりの会話劇を見せた(17)、「天守物語」で出ている役者にも仕上がりにも感心しきりの(18)です。
下半期で1本を選ぶなら(2)か(13)で同点です。ただし通年なら、誰が観ても文句なしに楽しめてしかも扱うテーマもその2本に負けず劣らず社会性のあった三谷幸喜の「笑の大学」で決まりです。「笑の大学」を観たのはなんかもう3年前くらいのように思っていましたけど、今年だったのかと見返して驚きました。
今年は舞台寄りの芸能界の事件がまとめて出てきたようなところがありました。元気なときなら書いていただろう事件ばかりです。大きいところでは、ジャニー喜多川がお気に入りどころか片っ端から襲っていた性加害の話が事実認定されたジャニーズ話、猿之助がセクハラパワハラを暴露されて親と心中しようとして結局自分は死ねずに親殺しになった歌舞伎話、いじめと呼ぶにはきつい扱いだったところに新人公演責任者が自殺した宝塚話。猿之助は有罪が確定しましたけど、他の2つはまだ現在進行中です。この3つの話が大きすぎて、年末に薬物で捕まった小劇場出身役者がいましたけど、出演していた芝居の公演が終わるのを待ってから逮捕していたから警察も優しいな、くらいの感想しか持てませんでした。
そもそも芸能界は売れっ子が幅を利かせる世界ですけど、その中でもファンが甘いから内部でどれだけひどいことをしても売れっ子が許される業界として、頭文字を取ってもともとJKTと呼ばれていたそうですね。この呼び方は知りませんでした。ただ、個別の事件それぞれに、知っていた話と初めて知った話が混ざっていて、そこにそれはひどいという話とそれは当り前だろうという話とが混ざっていて、真面目に話すならきちんとブログに書かないといけませんけど、その元気がありませんでした。
芸能界全体で言えばジャニーズにとどまりませんけど、直接はジャニー喜多川の性加害をオイディプス王の枠組みで連想させつつ、さらにそれを無視するマスコミやファンを、駅に止まらなくなった電車や芸をしない大道芸人を配して描いた(13)は下半期渾身の1本だったと思います。
性加害なり暴行なりを加えた側の犯罪者を許す気はありません。ただ、芸能界は本来「芸を通じて出す本人の色気で客を誘惑する仕事」なんですよ。色気といってもいわゆるお色気だったり、上り調子の人間が出す勢いだったり、必死に何とかできるようにしようともがくところで出す執念だったり、芸で自由自在なところを見せて自信満々の覇気だったり、色気にもいろいろありますけど、とにかく、ただ上手いだけの芸では劇場まで客は足を運ばないんです。「すごいね」で終わりです。そうではなくて「きゃー」とか「うおー」とか言わせられて初めて客は財布を開きます。もちろん周りもいないと公演できませんし、周りの水準が公演の水準につながりもしますけど、それだけで客はお金を払いません。
だから芸能界は堅気じゃないと長らく区別されていました。観て聴いて楽しんでも、堅気の子女が演るものではないと。やむにやまれぬ事情のある人が飛び込むか、何をやっても堅気の仕事が長く続かない人か、どうしても表現に関わることしか出来なくてそれを仕事にする人か、そういう人がやっていたんです。そういう人たちを仕切るのに堅気のルールじゃ言うことを聞いてくれないから、興業を回すために乱暴な秩序もあった。そういう理解です。
なのにどうしてそれが堅気の世界と混じってきたんだろうな、というのが今年考えても考えきれなかったことです。世の中全般の常識が堅気寄りになってきたのは理由の1つでしょうけど、それだけではないだろうと思います。他のいろいろな社会状況を考えないといけないんですけど、元気が足りませんでした。乱暴な秩序だって、日本人を捕虜収容所で放置したらそういう秩序になってしまったと書いていたのは山本七平だったかな。「虜囚日記」だったかもしれない。とにかく考えないといけないことが多い。
ただ、芸能界であまりにひどいと言われているところがいったんドブさらいされたとしても、根本に「芸を通じて出す本人の色気で客を誘惑する仕事」というものがあるなら、またそのうちドブが溜まると思います。私は芝居だけなら割といろいろ観てきたほうだと思いますけど、上手いだけの芝居なら観ても褒めません。芸能界が本当にきれいになったら、色気を持つ人がいなくなって、客が金を払わなくなって、衰退するでしょう。(13)の書けなかった感想の代わりに「観客という立場である私個人との見解の違いにすれ違いも感じた。その点で『無駄な抵抗』というタイトルの正確さには深く同意する」と書いたのはそういうことです。一時的にでもドブがさらえるなら無駄な抵抗ではないと言われたらその通りですが。
そんなことをああでもないこうでもないと考えていたら、観た芝居の記録を取るので精一杯でした。チケット代に交通費も加えた出費がかさんでいるので、もう少しの間、古典なり他分野なりを一度気が済むところまで観て、そこからぐっと観る本数を落としたいです。
引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。