松竹主催「吉例顔見世大歌舞伎(夜の部)」歌舞伎座
<2025年11月8日(土)夜>
春駒売りに姿を変えた曽我十郎と曽我五郎の兄弟が父の仇である祐経と対面する舞踊「當年祝春駒」。伊勢で歌舞伎を演じる一座が義経千本桜を演じてまあまあ評判を取っているが、上演のために役者をなだめたり大道具のトラブルに応じたりで舞台裏は大わらわ、狂言作者が振回されている。そこに座元が慌ててやって来る。上演中の義経千本桜は座元が原案を出していたが、実は上方の人形浄瑠璃で上演されていたものを勝手に盗んで上演していたのだが、原作の作者が芝居見物にやって来るという。その場で上演中止などと言われたら大損害なので何とか全力で上演して認めてもらおうと考えるのだが、そう考えない人もいれば、こんなときに失敗する人もいて一層大わらわに「歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)」。
「當年祝春駒」は曽我兄弟ものってこんなに華やかな話だっけと考えながら美しい踊りを堪能。
「歌舞伎絶対続魂」は近年のオリジナル版は観た上で見物。義経千本桜も先月観たばかり。それなりに面白い場面も見所もあるもののオリジナルほどきっちり収まる脚本ではなく、個別個別の場面が独立感が強い。この辺は何度も上演して磨いてほしい。
こちらの不勉強を挙げれば、役者役はともかく、裏方の仕事が何をやっているのかよくわからなかった。大道具と附打と囃子方はわかっても狂言作者と座元と頭取の違いを前知識なしで理解できず。そこに拘らずとりあえず上演しようと頑張る人たちだと見做してしまえばいいと頭では分かるもののそれでは納得がいかない。三谷幸喜の芝居にしてはいささか不親切。
あとは客席。若い雰囲気がしたのは結構。だけど若干のネタバレ込みで書くと、終盤に「義経千本桜 川連法眼館」の場の一部を演じるけど、あの場の観客のノリが良すぎて公演1週間目にしてすでにリピーター多数かと疑われるレベル。ああいうのはこう、巻込まれるような感じで少しずつ盛上がるのが客席は望ましい。
役者寸評。現代風新作初演だと型に逃げられないので役者の役作りの地力が問われるところ、二日酔い役者の獅童がいい感じ。狂言作者の幸四郎は振回されたときの反応がややワンパターンになりがちなのが惜しい。座元の愛之助は何に慌てているのかわからないのでもっと工夫がほしい。あと目に付いたのは少しだけ出してほしい遊女役は、新悟でいいのかな、男女役のややこしいところを整理して上手。白鸚はちょい役すぎてもっと観たい。染五郎は現代風の劇展開はこれから。そしてこの大舞台にまったく負けない大道具の阿南健治と、なぜあそこまで可笑しくなるかの浅野和之は、さすが三谷作品を多数経験しているだけのことはあるし、期待した通りの間でやってくれるのがありがたい。
あまり花道を使わないのと、休憩挟まずの2時間5分で通してくれるのは親切だし、終わるのが8時前なのも遠方の人としてありがたい。ただ夜の部の開演が5時というのは結構慌ただしい。この日は昼に新宿で4時前まで別の芝居を観ていたので移動と食事仕込みで、せっかく銀座に行ったのにぶらぶら歩く余裕もない。歌舞伎だからそこはまあしょうがないとしても、やっぱり土日祝日は1時6時の開演がいい。
