ワタナベエンターテインメント企画制作「マスタークラス」世田谷パブリックシアター
<2025年3月15日(土)夜>
世界的なオペラ歌手のマリア・カラス。彼女が劇場で生徒を相手に公開指導を行なうマスタークラスが開催される。やってきた生徒を相手に指導を行なううちに、昔の思い出がよみがえる。
黒柳徹子がセゾン劇場の再演で演じたのを観て以来だから何年ぶりでしょうか。細かいところは忘れて臨みましたが、実はよくできた話だったのだなと観終わって感心していました。
前に観たときはマリア・カラスのとがったプライドと、生徒や他の有名な歌手に対して意地が悪い様子のところに笑っていた覚えがあります。今回それはそれとして、マリア・カラスが音楽に対しては真摯に臨んでいた面をそれ以上に強調する演出でした。で、そこを取出したら、考え方としてはやや古いものの、古いなりに筋の通った、そして極めるからにはひとつのことに打込むことが当たり前、当たり前にならざるを得なかった余裕のない時代で最高峰まで上り詰めた歌手の芝居に仕上がっていました。
それを演じた望海風斗も、出だしはやや硬かったものの後半は調子が上がっていました。宝塚トップも務めた喉の披露はほどほどに、だけど経験と貫録は引っさげて、いいマリア・カラスでした。他もなかなかいいのですが、演奏とスタッフ役の2人はともかく、歌手の3人が単体で観るといいのですがどうも馴染んでいない。歌唱力優先で選んだためか地の場面の調子まで大げさに過ぎる。これは公演後半になるほど馴染んでしっくりくるケースと見受けましたが、こちらはもう一度観るわけにはいかないので、演出でもう少し調子は均しておいてほしかったです。
あまり比べるものではありませんが、とはいえやはり黒柳徹子の芝居を思い出すと、前半最後の回想場面で「私は勝った!」と叫んだときのあの一声、あれで私は黒柳徹子を女優と認識したので、あそこにひとつピークがほしかったとは思いました。それは他の歌手に対して意地が悪い様子との裏返しなので演出に合わなかったかもしれませんが。まだ芝居に対してどんなものかと探っていたころに受けた強烈な印象というのはなかなか抜けないものだと、帰り道に自分も回想していました。