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2026年4月19日 (日)

野田地図「華氏マイナス320°」東京芸術劇場プレイハウス

<2026年4月18日(土)夜>

掘れば掘るだけ化石が見つかる発掘現場のはずがまったく見つからないため主任教授が交代になる。新教授が着任早々多数の骨が見つかるが、「骨伝導理論」を掲げる新教授が探しているのは太古の記憶を持つ天使の骨なので見向きもしない。それが現場助手の右腕の骨であるとわかり、新教授は現場助手の記憶を遡ろうとする。だがそれが不完全なうちに発掘スポンサーのお家騒動に巻き込まれ、師の研究を盗んだ泥棒扱いされて現場助手を攫われてしまう。

発掘から古代に遡ると言われると「パンドラの鐘」っぽいところ、今回はもっと個人に寄せてしんどいテーマを扱って休憩なしの2時間20分。終盤から最後は近頃の野田地図らしい形になるものの、海外公演知らんと言わんばかりの言葉遊びは割と野田地図を観ている自分でも置いていかれそうな勢いで、現代中世古代の3時代を扱うものの中世はただの役説明。途中の筋書きが整理不足、あるいは昔ながらのとりあえず流れに乗っておけで観るには本筋がみっちりし過ぎておふざけ要素を差込むのに時間が足りていない印象。

役者寸評。この日は1日2公演の夜だったせいか出だしがいまいちで後半に乗ってきた回なので前半は若干文句あり。それでも途中からとりあえず声張って身軽に駆け回った広瀬すずが野田地図ヒロインの流れを作って二重丸。阿部サダヲと深津絵里がまずまず。川上友里が真面目に観れば二重丸に近い出来もそのポジションには本筋を保ちつつ笑いも取るウワサスキー夫人の要素を求めたいのでもっと遊びもほしい、絶対できると信じたい。大倉孝二も同じ。野田秀樹は出番少な目だからいいとして、高田聖子、橋本さとしのベテラン勢が省エネモードに見えて残念、橋爪功はフラなのか台詞を思い出しながらやっているのか見極めがつかないのが困る。

野田地図は年々扱うテーマがしんどくなってベテラン領域の演技が必要になるのに、小劇場らしいノリがないとそもそも付いていけず、しかも身軽に走れる若い身体がないと立上げにも苦労する。若い役者の一層の発掘を野田秀樹には求めたい。探せば名手はいるはずなので。

2026年4月 5日 (日)

ゴーチ・ブラザーズ主催「ポルノ」本多劇場

<2026年4月4日(土)夜>

坂の多い町で弱者に優しい生活を訴えて立候補する男は、家では子供が欲しいと女から望まれるも、選挙でそれどころではない。選挙で有利になるために女に頼んで自分で足を折ると、ある日その女は若者の足を折って攫ってきて自分たちの子供だと言い出し男が慌てるが、選挙を考えてそのまま自宅での監禁を続けることを決める。その町で活動する着ぐるみ劇団では、団員が減って仕事が少なく、男のビラ配りをアルバイトで手伝う若者と、元劇団員の女性とが付合っている。また別の元劇団員の女性はテレビに出始めて運が向いてきたが立候補の男に坂から突落されて足を怪我して自宅療養していたが、ある日見知らぬ男性が入り込んで仰天する。早いファンかと思いきや家事全般をこなして妖精を自称する男を怪我した足では追出せずにそのまま日が過ぎるが。

同じ町を舞台に中編3本からなる長塚圭司の初期阿佐ヶ谷スパイダース時代の1本を、今回は松居大悟が演出。藤谷理子が見せつけて小野寺ずるとうぇるとん東がいい感じも、メインの1本で前田敦子が野田地図で何を学んだのかという映像向け演技で大ブレーキ、玉置玲央がそれに付合ってデチューンの演技でどっちつかずに終わる。筋だけ追っても犯罪交じりの歪な愛の話だし、初期阿佐ヶ谷スパイダースはエロありグロもっとありの脚本ばかりだから、役者のテンションが大前提。今からでも巻返してほしい。

ケムリ研究室「サボテンの微笑み」シアタートラム

<2026年4月4日(土)昼>

昭和初期ごろの東京、両親を亡くして長い兄妹。兄は温室で花を育てて気が向いたら売り、妹はめったに外出しないが、財産があるので暮らしていける。兄も妹もほとんど付合いはないが、兄が病気の療養でお世話になった元看護婦の夫妻と、兄妹の幼馴染で小説家になった男だけは年賀状をくれる程度の付合いがある。ある年、この夫妻と小説家が珍しく兄妹の家を訪れることが重なる。

いわゆる「いい人」が、自分からいろいろ動いて相手を見つけるのではなくたまたま知合って好意を持たれた相手にそれ以上の好意を抱いてしまうこと、なのに自分から積極的に相手を誘って楽しむでもなく2人きりになっても上手な会話を目指して間が持たないこと、優しさは自分が好意を持つ相手と嫌う相手とを区別せずに相手かまわず他人が傷つくのを防いで波風立たせないようにする形でのみ表現されること、好意を持っている普通の人なら自分から意識して距離を縮めていくこと、を芸達者な役者でこれでもかと表現する3時間10分。オチも含めて解像度が高すぎる。演技の基準が他よりもやややり過ぎなところにある赤堀雅秋と、狭い劇場で百面相を駆使する緒川たまきが、兄妹のいたたまれなさにはまり過ぎ。プロジェクションマッピングなしの固定舞台も、盆を使った無意識の好意の距離と、見えてもガラスで隔てられている庭向こうの温室とで場面を回す技術は職人芸。

2026年3月23日 (月)

ホリプロ/東宝企画制作「メリー・ポピンズ」東急シアターオーブ

<2026年3月22日(日)夜>

遊び盛りでいたずら好きな子供2人の家庭教師を探しては辞められてしまうバンクス家。父親は仕事に忙しく母親が新しい家庭教師を探そうとしたところ、急にやって来たメリー・ポピンズを雇うことにする。不思議な出来事が続くので子供たちは驚くものの却って警戒していたのだが・・・。

傘をさして空を飛ぶのとチムチムチェリーくらいしか知らなかったので観劇。子供の家庭教師だったのがそのうちもっと、という王道展開のよく出来た話だと知れて納得。いい歌が多いのと踊りまくるので楽しめた。役者はそれぞれソロでの完成度が高いものの掛合いがまだこなれておらず、これは複数キャストのプレビュー公演2日目でこの日の全員初日なのでこれからよくなるはず。メインキャストで一人だけ挙げるなら煙突掃除バートの小野田龍之介、あとコロスというかバックダンサーたちの踊りがよく動いていてよい。

後日のためマルチキャストのところだけメモ。メリー・ポピンズが朝夏まなと、バートが小野田龍之介、ジョージ・バンクスが小西遼生、ウィニフレッド・バンクスが知念里奈、バードウーマン/ミス・アンドリューが樹里咲穂、ブーム提督/頭取が安崎求、ミセス・ブリルが久保田磨希、ロバートソン・アイがDION、ジェーン・バンクスが辻乃之花、マイケル・バンクスが中西縁。

2026年3月 7日 (土)

Dialogue!「101分のペリクリーズ」シアター風姿花伝

<2026年3月7日(土)夜>

とある地方の領主ペリクリーズ。王の姫君に求婚するもその裏の話に気が付いて逃げ出す。船が難破して命からがらたどり着いた国で王の姫君と求め求め合い結婚するも、元の国に戻る船がやはり嵐に遭い妻は亡くなり娘だけが残される。元の国に戻って王となるため娘を世話になった国の領主夫妻に預けて育成を頼むが・・・。

だいたいこの粗筋で3分の2くらい。現代の服装に所々挟まるノリと勢いのよい演出でテンポよく進んで本当に100分で終わった。初見でも筋は分かりやすく迷うところなく、出演者の熱意は等しく高く、これが最高の上演とは言わないまでもシェイクスピアの精神としてはこれが正しいのではないかというくらいすんなり観られて楽しめた1本。アフタートークでもあったが槍勝負の場面を応援側で表現したのはよい演出。

この回はアフタートークあり。演出家と、自信もシェイクスピアを上演する瀬沼達也との対談。長いシェイクスピアを心配して周りに聞いたら休憩なしの100分が適当となったのでこの時間。タイトルは100分だと語呂がいまいちなのと時間きっちり終わらないと怒られるかもしれないと考えたから。まともに上演したら3時間コースのところを100分ありきと決めてテキストをカットしたが、そこはそれなりに展開も考えての上で実施。一部の台詞を他のシェイクスピア作品から持って来たり、女神の夢の場面を乳母の夢枕に変えて日本人に親しみやすいようにしたりと工夫もあり。観やすかったのは演出家の考えた構成も預かって大と得心。

2026年2月24日 (火)

ACT.JT主催「第12回 立合狂言会」国立能楽堂

<2026年2月23日(月)昼>

妻の実家に初めて挨拶に向かうのに儀礼を教えてもらおうと人に尋ねたら「音曲聟」。せっかく育てた作物を荒らしに来る鳥や獣を追払ううちに夜になり「狐塚」。旅人を泊めることまかりならんとお触れが出た中で旅の僧が一夜の宿を借りるために工夫する「地蔵舞」。宝を守るために夜に一人で見回りをすることになった「杭か人か」勝手に休んだ太郎冠者を叱るために出掛けた主人と次郎冠者だが居留守をつかわれて「叫声」。旅の鬼が人里を求めて歩くうちに夫の留守を一人で守る妻の家にやって来て「節分」。主人が留守の間に米蔵と酒蔵を守るように言いつけられて「樋の酒」。師匠の言いつけを言葉通りに守ろうとして「重喜」。金の値段を訊いてくるように言いつけられた太郎冠者だが勘違いして「鐘の音」。長命の薬となるかたつむりを探すように言いつけられて探した藪の中には山伏が休んでいたが「蝸牛」。

全体評では演目の順序は考えてほしいところ。狂言の演目は今風に呼べばネタ1つの短編をテンポ極遅の20分かけて上演するので、明るい演目といえどもそれだけで感心するのは難しい。身体か声のフィジカルを早目に押し出してわかりやすく感心する取っ掛かりから流れを作ってほしいところ。今回でいえば「叫声」「鐘の音」あたりか。個別評は出来を評するほど見きれなかったので省略。ただ、声が大きくてはっきりしているのはいいが、声質がきんと響く演者の多いことが気になった。古典ならもっと深い声を目指してほしい。

演者演目を一度に知るには丁度良いと考えて臨んだものの、前半5本後半5本で押して4時間40分コースは不慣れな古典を観るはさすがに体力が厳しい。とは言え、始まってすぐに寝ていた客も1人や2人ではきかなかったがあれはいったい何をしに来たのかと疑問もあり。生の舞台は客席から話を掴みに行くことも求められるもの。休憩時間に帰った客はむしろ良心的で、後半始まっていきなり正面席でいびきが聞こえたのはさすがに演者に失礼。

2026年2月22日 (日)

劇団アンパサンド「歩かなくても棒に当たる」東京芸術劇場シアターイースト

<2026年2月22日(日)夜>

マンションのゴミ捨て日。回収が早いためゴミ捨ての時間も8時までと決まっているが、間に合わなかったゴミをそのまま捨てたい各位。そこで思い出されるのが1年前に亡くなった住人の話。ルールを破るのが許せずにゴミ捨て日にはいつもゴミ捨て場の隣に座って見張っていたという。引越してきたばかりで初めて話を聞いて感心していた女性だが、どうも肩が重くて痛む。

劇団初見にして岸田戯曲賞受賞作。丁寧に積んだ前半を使って怒涛の後半を処理する展開はホラーコントとでも呼ぶべきもので、普通に考えれば強引なところ芸達者な女優6人の力を十二分に生かしたパワープレイに最後まで笑いっぱなしで押切られてシャッポを脱ぐ一本。これのどこが岸田戯曲賞なのか演出賞ではないのかと考えるも、後半の罰せられる順番の決め方はやはりセンス。チケット完売なので口コミプッシュは出さないけれども、観られてよかった。

新国立劇場オペラストゥディオ「ウィンザーの陽気な女房たち」新国立劇場中劇場

<2026年2月22日(日)昼>

仲の良い女房2人だが、片や嫉妬深い夫に悩み、片や娘の結婚相手に悩んでいる。そんな2人に色男と名高いドンファンが恋文を送る。恋文を届けられただけでも腹立たしいのにまったく同じ恋文であることに憤慨した2人は、ドンファンと嫉妬深い夫の双方を手玉に取って懲らしめる作戦を考える。

舞台と衣装は現代に移したものの歌も筋も変えていないと思われる1本。席は後ろでも距離の近い中劇場の生オケでやや声の隠れる場面もあったものの、おおむね堪能。嫉妬深い夫に悩むフルート夫人の有吉琴美、愛し合う娘アンナの谷菜々子とその相手フェントンの矢澤遼の3人がこの日は絶好調。これで5千円はやはりオペラの勉強にお得な1本。

2026年2月15日 (日)

新国立劇場演劇研修所演劇研修所「社会の柱」新国立劇場小劇場

<2026年2月15日(日)昼>

ノルウェーの海沿いにある小さな町。領事を務めるベルニック家の当主カルステンは造船業を営み町の経済を支え、公園を寄贈し、学校を作り、社会の柱として期待されるような名士である。その妻ベッティーも模範的な妻であったが、かつて弟のヨーハンと異母姉のローナが15年前に騒動を起こしてアメリカに渡って以来、影を引きずっている。町に鉄道敷設の話が挙がっているだけでなく、自前の船の整備に加えてアメリカの船が緊急修理でやって来たため造船業が忙しいある日、ヨーハンとローナがアメリカから戻ってくる。カルステンは2人に誰にも話していない負い目があった。

よくぞここまで問題を積上げたというイプセンの脚本は現代演劇のはしりと呼ばれるに相応しい1本。それだけに役者に求められるものも多く、言い訳出来ない万全のスタッフワークでこの演目を持ってきて千尋の谷に突落とす演出兼研修所長の宮田慶子は鬼畜半分親心半分か。主要人物を演じた役者は頑張りは認めるものの歯は立てど食いちぎって消化するところまでは届かず、オープニングの噂話も上滑りして休憩時間に登場人物図を見直す必要あり。造船業の現場監督の和田壮礼、支配人の森唯人、ベッティーたちの従兄ヒルマールの菊川斗希が役作りに揺れがあるとしても気になる場面あり。とは言え千秋楽でこの出来は観客として満足には至らず、役者各位には今後の奮起を望む。

2026年2月 5日 (木)

トライストーン・エンタテイメント/ディライト・エンタテイメント企画制作「いのこりぐみ」IMM THEATER

<2026年2月4日(水)夜>

とある小学校の放課後の教室。生徒の母親から担任を変えてほしいと言われて、まずは何があったのかを把握するために面談をすることになった教頭と、保護者と1対1では会えないため付合わされた教師が来校を待っている。過去にも学校に文句を言ってきたことがある母親に備えている2人だが、はたしてやって来た母親は担任を変えてほしいの1点張りで要領を得ない。

三谷幸喜の新作4人芝居。幕が開いて役者が出揃ったときにはきっとこうだろうなとオチは読めて、あとはそこまでどうやって話が流れるかを楽しむところ。その流れに観客席側の空間を使うのが若干反則気味なものの、適度な突っ込みもあって楽しめる。駄目押しのオチはさすがにどうだろうかと考えたものの、この日この時間ならぎりぎり成立たなくもないような設定だった。人称の使い方だったり、結論ははっきりとさせつつ観客によって肩を持ちたくなる役が微妙に違うだろうなという線を狙った脚本はさすが。1時間45分の長さもいい。

4人とも上手なところ、客に芝居を届ける演技の教師役の小栗旬と母親役の菊地凛子に対して、客の注目を自分に引付ける演技の教頭役の相島一之と担任教師役の平岩紙でタイプが分かれていた。どちらが好みかは観客次第なものの小劇場の観客が長い自分は後者の2人の演技に惹かれる。

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