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2023年11月 5日 (日)

チケットの多様化についてメモ

その1。歌舞伎の一幕見席。新型コロナウィルス前は全席自由で座席+立見位置の枚数だけ当日に発券、番号順に並んで早い者勝ちで席を取って、あぶれたら立見になっていました。

いまあらためて思い出そうとすると細かいところはあやふやなのですが、たしか売出しもその部が始まる本番何十分前とかじゃありませんでしたっけ。だから人気の演目のときは午後の三時ごろに歌舞伎座の当日券売場にずらっと並んでいたような覚えがあります。

が、いまはまず立見が廃止。座席も中央の席が前日からオンライン指定席予約出来るようになっています。両端は当日用に残してある完全自由席ですが、なるべく並ばせないようにという意図でしょう。人気者の公演で土日祝日に重なるときは事前に買っておくのがよさそうです。

その2。この秋の芝居を調べていたら、東宝が平日と土日祝日千秋楽とで値段に差をつけるチケット価格を導入していました。いつからだろう。たぶん本当に最近だと思うのですが。

参考までに載せておくと、帝国劇場で11月上演の「LUPIN」と日生劇場で12月上演の「ベートーヴェン」は、1000円差です。なお「LUPIN」は楽日に昼夜2公演ありますが、両方とも高い方の料金です。

平日
S席 16000円
A席 10000円
B席 5000円

土日祝日・千穐楽
S席 17000円
A席 11000円
B席 6000円

シアタークリエで11月上演の「ビロクシー・ブルース」は全席11000円で差はありません。

劇場は東急が運営している東急シアターオーブですが、11月上演の「天使にラブ・ソングを」は東宝製作で、これは値段に差をつけていますが、500円差です。

平日
S席 15000円
A席 10000円
B席 5000円

土日祝・千穐楽
S席 15500円
A席 10500円
B席 5500円

これ、チケットセンターが対応していないと思っていたんですけど、できていますね。

ちなみに劇団四季は上演回によってピーク、レギュラー、バリューの三段階に分けていて、これに一般向けと会員価格もあるのでややこしいのですけど、一般同士、会員同士で比べるとピーク10000円以下の席は500円差、ピーク10000円超の席は1000円差でやっています。ピークが土日祝日の昼、レギュラーが平日昼と土曜夜(日曜祝日は夜公演をやらない)、バリューが平日夜(実際は火曜の夜だけ)となっています。劇場ごとに値段が違って面倒なので料金は省略します。

こうやって料金に差をつけるのは小劇場のほうが早くて、特に公演初期を割引いて集客して口コミで以降の動員につなげるのが始まりだったはずです。

あとは劇場が主催に絡む公演を中心に、学生向けのチケットが安いですよね。半額とか、もっと安いところもあります。これは誰が始めたんだっけな。野田秀樹が東京芸術劇場の芸術監督になったときに若い人が観られなくなると先細りするとどこかで話していたのを読んだ記憶があります。

その野田秀樹は、野田地図「兎、波を走る」では高校生1000円とかやっていました。

S席 12000円
A席 8500円
サイドシート 5700円(25歳以下は、サイドシート3000円)
高校生割引 1000円(全席指定・税込/事前申込制/要学生証)

劇団☆新感線の「天號星」はヤングチケット2200円とかやっていました。

S席 14000円
A席 11000円
ヤングチケット 2,200円(来場時に22歳以下のみ購入可。当日引換券。開演30分前から整理番号順に「当日券受付」にて、年齢明記の身分証提示の上、座席指定券と交換。1人1枚まで)

話は戻って、平日と土日祝日で差をつける話がどのくらい広まるか、注目です。

2023年11月 2日 (木)

神奈川芸術劇場の芸術監督で長塚圭史が再任

公式サイト「2023/11/1 KAAT神奈川芸術劇場芸術監督の再任について」より。

10月24日に開催いたしました、公益財団法人神奈川芸術文化財団理事会において、長塚圭史KAAT神奈川芸術劇場芸術監督の再任が決議されました。

KAAT神奈川芸術劇場 芸術監督(再任)
長塚圭史(ながつか けいし)【劇作家・演出家・俳優】

現任期 令和3(2021)年4月1日~令和8(2026)年3月31日(5年間)
再任任期 令和8(2026)年4月1日~令和13(2031)年3月31日(5年間)

ここまで務まっているし、ようやく自分の立てた企画が前に出てくるころだし、まだ若いし、昨今のスキャンダルでも変なところで名前が出てこないし、早く決めないと本人の三年後の仕事の予定が決められないし、ちょっと早いけどまあええやろ、くらいな感じでしょうか。

実際、これで長塚圭史を放出するようなら次の芸術監督は誰も来てくれなくなると思うので、いい判断だと思います。本人は2年間の参与を経て現職に就いているので、5年後か6年後に参与が就任したら交代の合図、誰も来なかったらもう1期だと思います。それはこれから5年の成果を見て決めることになるのでしょう。

上からすればホールの活用を何とかしたいところだと思いますが、そちらは貸劇場に振って、劇場の色はスタジオと謎企画で出していくことになると予想します。

2023年7月11日 (火)

Twitterの閲覧制限が困るので当日券の案内はホームページでやってくれないかというぼやき

タイトル通りです。まあ制作側からしたらTwitterの方が楽ですよね。ちょいちょいと書込めばそれでいいんだから。

当日券の発売予定数見込みを書くならそれでいいんです。「若干枚」とか「余裕があります」とか「お立見だけになります」とか。

ただ、そもそも当日券を販売するかどうかすらホームページに載っていないのはもともとよくないと思っていました。ホームページこそが公式情報だろうと考える古い人なので、Twitterにだけ「当日券は開演の1時間前より販売します」とか書いてあるのが嫌いでした。

あと、たまに紛らわしいアカウントが出てくることもありました。もし客が全員ホームページからTwitterアカウントに飛ぶと考えているなら少なくとも私は違って、まず検索、うまく見つからなかったらホームページから、で探していました。が、ホームページにTwitterアカウントが載っていないこともありました。ならTwitterアカウントがないかというと、あって、そちらで情報発信していたりする。

そうしたらこの度のTwitter閲覧制限で、当日券情報がいまいちわからなくなりました。それでタイトルのぼやきになります。一番いいのは野田地図みたいに、当日券は全公演販売いたしますってチラシの時点から書いてほしいですね。

ちなみに閲覧数制限にひっかかるという話ではなく、私はTwitterをやっていないという話です。まあ、いまどきそういう人もいるってことで、ぼやきでした。

2023年6月23日 (金)

野田秀樹のヒロインが務まる女優がこれから出てくるか

新作ごとにどんどん扱う話題が重くなる野田地図ですが、「兎、波を走る」までいくと、もう普通の役者では背負いきれない話だなと思いました。だから高橋一生と松たか子というメインキャスティングに、多部未華子というサブヒロインはいい組合せでした。

ここ10年くらい、どんな人が出ていたっけと思って書いてみました。海外公演とか演劇道場とか、抜けているのがあるのはご容赦を。

・2012年「エッグ」妻夫木聡と深津絵里
・2013年「MIWA」これは未見ですけどまあ宮沢りえ主人公ですよね
・2015年「エッグ」同キャスト再演
・2016年「逆鱗」阿部サダヲと松たか子、このときの井上真央は良かった記憶があるけど脇でした
・2017年「足跡姫」妻夫木聡と宮沢りえ、このときから鈴木杏が良くなった記憶があるけど脇でした
・2018年「贋作 桜の森の満開の下」妻夫木聡と深津絵里、このときの天海祐希は名人の1人で門脇麦の早寝姫のほうがヒロインに近いけど脇でした
・2019年「Q」上川隆也と松たか子、志尊淳と広瀬すずの二組でしたけど、重い話をより多く背負ったのは上川隆也と松たか子です
・2021年「フェイクスピア」これは高橋一生主人公、このときの前田敦子は脇でした
・2021年「THE BEE」これは未見ですけど阿部サダヲと長澤まさみ
・2022年「Q」同キャストで再演

ヒーローは大雑把に、妻夫木聡と阿部サダヲと上川隆也と高橋一生です。そこに志尊淳が絡みました。

何となくですけど、ヒーローはこの後も出てくるような予感がするんですよね。最近の社会派な野田秀樹作品も、夢の遊民社時代も、その間も。名前は挙げませんが、スケジュールを押さえられるかはさておき、キャスティング候補に悩むことはなさそうです。

ヒロインは大雑把に、松たか子と宮沢りえと深津絵里のローテーションです。

そこに、広瀬すずとか長澤まさみとか多部未華子が少し入ってくる形ですが、どうでしょう。この人たちが「兎、波を走る」の松たか子の役を演じて、務まったでしょうか。務めて化けたかもしれないけど、きつかったんじゃないかと思います。

それだけ松たか子と宮沢りえと深津絵里は女優として大物なわけですが、中でも野田秀樹の言葉遊びと詩的な台詞をこなしつつ真面目な話題に耐えうる松たか子の強度はピカイチです。この「強度」というのが曲者で、これを持合せたヒロインが見つかるかというと、なかなか思いつかない。強度を持ったうえで実力、知名度、実績と揃った女優だと私は小池栄子が思い浮かびますが、小池栄子が野田地図に合うかと言われると、合わないよなあとなります。ちなみに宮沢りえは言葉遊びと詩的な台詞をこなしつつ人間のドロッとしたところを掴み取るのが上手い人ですね。深津絵里はその間です。異論は認めます。

調べたら野田秀樹は67歳でした。年に1本の上演で、再演も混ぜながらとなると、これから作られる新作は10本を切るでしょう。だったら松たか子と宮沢りえと深津絵里をローテーションして、サブヒロインを用意すればいいじゃないかという考えも湧きますけど、たぶんそう決めた瞬間に舞台が死にます。再演はさておき、新作できつい話を背負えるヒロインの務まる女優はなんとか発掘できないでしょうか。探せば名手はいるものなので、どこかには、いるはずですが。有名なワークショップでも見つかっていないとなると、いったいどこにいるんだろうという話です。

ちなみにそういう話を抜きにして新作でなく再演期待で言えば、近年上演演目の中では「足跡姫」が一番です。これはおそらく、いまの勘九郎が勘三郎を襲名するまで取ってありますよね。襲名披露の一環で歌舞伎座で「足跡姫」を上演、併せて野田地図でも上演すると予想します。なら時期はいつかというと、勘九郎の年齢と勘三郎の襲名年齢から10年後と予想されますが、できれば5年以内に再演してほしいです。

2023年6月16日 (金)

座・高円寺の芸術監督が佐藤信からシライケイタに交代

公式にリンクしようと思いましたけどPDFだからステージナタリーに貼ります。

座・高円寺では、現芸術監督である佐藤信が6月30日をもって任期満了を迎えることに伴い、杉並区によって次期芸術監督を募集していた。74名から応募があり、杉並区立杉並芸術会館芸術監督選考委員会にて審査を行った結果、このたびシライが次期芸術監督に選ばれた。なおシライの芸術監督としての任期は7月1日から2028年6月30日までの5年間だが、再任も可能となっている。

現芸術監督の佐藤信は1943年生まれなので、今年80歳です。そこからシライケイタは1974年7月生まれなので就任時点では48歳。ここから2期10年または3期15年、馬力をかけて盛上げてくれというのが選んだ側からしたら理由のひとつでしょう。

調べてみたら、座・高円寺が開館したのが2009年なので、佐藤信は66歳から初代芸術監督を3期15年にわたって務めたことになります。ただ、その前は世田谷パブリックシアターの初代芸術監督を1997年から2002年まで1期5年務めています。新劇場の立上げを、しかも面倒くさそうな公立(区立)の劇場を連続でやったのは、さすがに厳しかったろうと思います。蜷川幸雄がシアターコクーンの芸術監督に就いたのは64歳でしたがそれより年齢は高く、さらにあちらは串田和美が初代芸術監督を務めた後なので難易度も違ったでしょう。

ただ、自分は温泉ドラゴンを見たことがないので、シライケイタの作風がわかっていません。新芸術監督がどんな方針でくるのか、注目です。

2022年12月 2日 (金)

Bunkamuraがアクターズスタジオを開校(ただし1年限り)

こんなのが発表されていました。公式より

【速報】シアターコクーンがつくる演劇の学び場、準備スタート。
COCOON PRODUCTION 『コクーン アクターズ スタジオ』

(2022.11.23)

渋谷に、演劇の未来を拓く若者たちのためのアクターズスタジオが誕生!!
主任を務めるシアターコクーン芸術監督・松尾スズキをはじめ、第一線で活躍するBunkamuraシアターコクーンゆかりの講師陣が指導を担当します。
レッスンは演技のほかに、歌やダンス、パントマイム、時代劇の所作など。実践も交えながら1年間のカリキュラムを経て、演劇で求められる様々なスキルの習得を目指します。
さらに、シアターコクーンのプロデュース公演へ出演のチャンスがあります!

続報は、2023年2月までお待ちください!!

COCOON PRODUCTION
『コクーン アクターズ スタジオ』

主任:松尾スズキ(シアターコクーン芸術監督)

レッスン期間:2024年4月~2025年3月の1年間
レッスン場:Bunkamura館内 他

募集資格:18歳~26歳くらい
※演劇経験の有無は問いません。
※プロダクションや劇団に所属している方もご応募いただけます。
募集期間:2023年4月~7月 予定

※講師、応募方法など詳細は後日発表します。

主催/企画・製作=Bunkamura

■Twitterアカウント:https://twitter.com/cocoon_a_s (@cocoon_a_s)

コクーンの名前が入っていますが、シアターコクーンは2023年4月から2027年度中まで休館です。これも公式より

このたび、「Shibuya Upper West Project」の開始に伴い、オーチャードホールを除き2023年4月10日(月)から2027年度中(時期未定)まで休館することとなりました。この間併せてBunkamuraも経年使用による施設の補修や設備の更新などを行うとともに、新築される施設との一体化に向けた改修工事を実施する予定です。
なお、当社はBunkamuraの休館中も渋谷を含め東急線沿線の周辺施設や東急グループ各施設などで文化事業を継続してまいります。また、オーチャードホールにつきましては日曜・祝日を中心に営業を継続いたします。

つまりぱっと見、暇な時期を有効活用する話です。なので継続事業でないのです。今のところは1年で終わる単発企画です。

そう、期間が1年です。これどうなんでしょう。突然思いついて以前調べたことがありますが、どこもカリキュラムは最低2年が相場です。演技重視の実践寄りだと毎日授業を詰込むのにも限界があります。

何となく、プロデュース公演のスカウトがメインで、それをアクターズスタジオと銘打ったんじゃないかと邪推してしまいます。それはそれで機会だとありがたがる人もいるでしょう。ただなんとなく、スタジオとか研修所とか銘打ったからには毎年募集して毎年卒業させる継続事業であってほしいと願ってしまいます。

邪推に思い込みを重ねて悶々とするのはよくないので、素直に来年2月の発表を待ちます。

2022年9月23日 (金)

人格より前に能力と魅力が求められる業界の話

宮沢章夫が亡くなりました。ステージナタリーより。

宮沢章夫が、うっ血性心不全のため9月12日に東京都内の病院で死去した。65歳だった。
(中略)
宮沢は1956年生まれの劇作家・演出家・小説家。1980年代半ばに竹中直人、いとうせいこうらと共にラジカル・ガジベリビンバ・システムを立ち上げた。また、シティボーイズの作品を手がけたことでも知られている。1990年に遊園地再生事業団の活動をスタートさせ、1993年に「ヒネミ」で第37回岸田國士戯曲賞を受賞。主な著作に「東京大学『80年代地下文化論』講義 決定版」「時間のかかる読書」「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット 第3集」「長くなるのでまたにする。」「NHK ニッポン戦後サブカルチャー史 深掘り進化論」などがある。

私が芝居を観始めた時期がその劇場活躍時期より遅かったので、脚本演出両方手がけたもので観たのは2018年の「14歳の国」1本だけです。遊園地再生事業団名義でおそらく最後の公演です。あとは覚えている範囲で「ひょっこりひょうたん島」が共同脚本でした。なのでほとんど接点はありません。

2018年はすでに早稲田大学の教授で、公演のあった早稲田どらま館の芸術監督の肩書もありましたが、翌年に稽古場で役者を殴って事実上のクビになりました。そのころのTwitterのいろいろはこちらでまとまっています。昔から暴れがちな人だったようです。岸田國士戯曲賞の選考委員も辞退して、あとはあまり表だった仕事はしていなかったはずです。

前提として、私は暴力沙汰は苦手です。仕事で殴られたら何はさておき辞めて逃げます。そのうえで。

「14歳の国」はよくできた芝居でした。1998年の初演から20年経っても成立する脚本だったし、あの公演自体もよくできたものでした。前述の引用に載っている通り、脚本に限らず本の執筆もたくさん手がけています。過去の演出でどの程度暴力沙汰を起こしていたのかはわかりませんが、芸能界や出版界で活躍できるだけの能力を持っていたといえるでしょう。

世の中にはいろいろな仕事がありまた業界がありますが、雑に分類すると「赤点を超えれば問題ない仕事や業界」と「満点を超えない成果には意味がない仕事や業界」の2種類に分かれます。芸能界全体でとらえれば後者です。格好いい演技でも上手い歌手でも面白いトークでも、なんなら有名という知名度でも、琴線に触れるだけのピークを出せているから客は金を払います。赤点をはるかに超えていたとしても満点に届かないものに客は金は払いません。少なくともそれが単体で成立するだけの金を引張れません。

また別の雑な分類では「継続的な安定供給が求められる仕事や業界」と「成果が繰返し提供できるので1回の大成功が求められる仕事や業界」があります。芸能界の中には両方あると思いますが、映像や本などコンテンツと呼ばれるようなもの、客が金を払うものはたいてい後者に当たります。客は面白そうと思えばこそ金を払います。

芸能ごと全般が、そういうものです。そして困ったことに、能力だけでは足りません。そこに一定以上の魅力がないと一銭にもなりません。魅力とは琴線に触れるだけのピークを出せる人や持っている人で、いわゆる「客が呼べる」というものです。そして客を呼べる人はつねに不足しています。

そういう業界だからこそ、客が呼べる立場の人が威張る余地があります。威張りすぎて嫌われて干す人もいれば、それが金になるならかばって働かせる人もいます。客を呼べるだけの魅力があればある程度のアウトローには目をつぶってもらえるという点で、そういう人達がより多く流れ込むサイクルになっているとも言えます。

昨今はインターネットが発達したことと世間全般にハラスメントという概念が膾炙したことで、不行跡が伝えられると魅力にダメージが入って謹慎に追込まれるようになりました。が、能力はまた別の話です。場合によっては歪んだ人格が能力や魅力を生みだす面もあります。が、経緯はどうあれ獲得された能力というものはあります。

俗に「作者と作品は別人格」といいますが、これは作品は独立して評価されるべきという話だけではありません。客を呼べるだけの成果を出せる人の人格がまともなわけがないだろうという話も含んでいます。周りにかける迷惑の度合いに濃淡があるだけです。

繰返しますが私は暴力反対です。だからと言ってつまらないものに金を出すつもりもありません。私に限らずたいていの人が同じでしょう。だから昔から世間では、芸能界や出版界は堅気じゃない、まともな人間のつく職業ではないと区別していました。今でもそう考える人は多いでしょう。それは差別と呼ばれるレベルの区別ですが、人格よりも能力や魅力が必要な業界ではそうならざるを得ないからです。

それが最近、堅気と業界との境が曖昧になってきました。またハラスメントのない創作および創作環境の追求を試みる活動も出てきました。宮沢章夫の暴力沙汰からの隠遁は、その過渡期の出来事と言えます。

その活動がどこに落ちつくのか、金を払いたくなるコンテンツが引続き提供されるのかは、芝居なり本なりに金を払ってきた客の一人として興味を持っています。

2022年8月20日 (土)

ラノベは現代の時代小説

このエントリーは全部思い込みで書いていますから、証拠をよこせと言われてもそんなものはありませんし、こんな反例があると言われたら知りませんでしたごめんなさい、と最初に言い訳をしておきます。

20年くらい前までは本屋にたくさん新刊の娯楽時代小説がありました。今にして思えばあれは昭和から書いて名を知られた作家の晩年の仕事でした。池波正太郎とか藤沢周平とか、井上ひさしも一部そういう小説を書いています。だいたい戦国時代から明治初期くらいを舞台にした小説です。

その人たちが亡くなって、今でも時代小説の新刊は細々と出版されていますが、明らかに種類が違います。たぶん資料収集の多寡によります。実際にあった町や家や藩を調べたうえで、それをディテールに生かした話をつくるのと、設定だけその当時にしているけど現代小説でも違和感のない話をつくるのとの差です。あとは作家本人が幼少のころに街並みや着物など江戸時代の延長の文化に接していたかにもよるでしょう。作家の祖父母世代なら江戸時代の人ですし。

ただ、どれだけディテールを書きこんでも、世話物だったり、職人や武士の修行だったり、捕物帖だったり、武家のお家騒動だったりで、話自体にそこまでパターンはありません。娯楽フィクションに徹しても忍者かチャンバラか魔物退治です。山田風太郎みたいな。社会の仕組みを問うような話よりは、パターンの中で登場人物の機微をいかに描くかが主流だった気がします。

これをひねくれた眼で見ると、娯楽小説が多かったとも言えます。趣味で読書したい人が大半ですし、それなら肩ひじ張った物語より娯楽を読みたい人のほうが多いでしょう。でも、一定数いたんですよね。娯楽小説として時代小説を読む人たちが。

その人たちは年を取って亡くなったのでしょうが、同じ国の人間の、全体的な性格が10年や20年で変わることはないです。娯楽小説を読む人たちは今も一定数いるはずで、その需要はどこで満たされているか。

新型コロナウィルスが流行って、固い物語以外にライトノベル略してラノベを紙の本でもWebでもある程度読んで、ようやく気がつきました。娯楽小説を読みたい人たちの需要のかなりの部分はラノベが満たしていました。ここに現代の作家が集まっている。集まった人数が一定の閾値を超えて、量が質を産んでいます。裾野が広いほど山は高いというやつですね。

ラノベは経済圏が出来ていて、Webで公開、人気が出たら小説出版、向いていたら漫画化またはアニメ化です。漫画やアニメは一発当たると大きいこと、脚本ひいては原作の需要が高いのと、またWebで実物が公開されて反応も読めれば人気も予測しやすいこととがあいまって、活況を呈しているのが勝手な推測です。Webで人気を博した人がプロになって最初から小説出版になることもあります。

小説が一番当たりにくいように見えますが、底堅い需要があります。そもそも新刊を出さないと出版社が困るのが一番の理由でしょうが、それでも本屋で「何万部突破」の帯を眺めた感触では、まともな質のラノベだと1巻5万冊くらい売れています。出版されるに当たってWebで公開していた小説を削除するケースもありますが、宣伝を兼ねているのかたいていはそのまま公開されています。それを見比べると、ほぼそのまま本になるケースと、本になる過程で編集して洗練されるケースと両方ありますが、Webで無料で読めるものが多いです。なのに本の小説に金を払う熱心な読者層が、全国に5万人います。

たぶんここが重要で、目利きの役割を果たすとともに、実際の金の動きを読む指標にもなっています。小説ならアマチュアからプロまで裾野の広い作家と、この5万人の熱心な読者層とがあいまって、ラノベ界が形成されています。漫画化アニメ化で原作に興味を持った層が流れ込むと、この5万が上振れします。

ついでに書くと漫画やアニメまで含めて、大げさに言うと今の娯楽フィクションの業界はルネッサンスと呼べるくらいの花盛りです。日本の人口と過去のコンテンツの集積に支えられた今がおそらくピークで、この後は人口減とともに勢いが落ちます。芝居と違って文字のコンテンツは後に残りますが、時代の雰囲気も含めて今のうちに親しんでおくのがよいです。

話はラノベに戻ります。ラノベもテンプレートと言われるような展開はいろいろありますが、舞台設定として時代小説の扱う時代は抜けています。あるのかもしれませんが、読み始めた程度では見つけられません。

「なーろっぱ」と呼ばれるドラクエ風西洋中世で剣と魔法の世界で活躍、または王族との恋愛もの。中華皇帝またはその後宮で人助けと謎解き、または皇族との恋愛もの。日本だと平安時代までさかのぼって(あやかしが出たり出なかったりして)人助けと謎解き、または有能な貴族との恋愛もの。近代日本なら大正、現代日本だと必ずあやかしが出て人助けと謎解きに加えて有能な手助けとの恋愛もの。だいたいこんな舞台設定です。日本の戦国時代から明治初期くらいまでがありません。

あれだけたくさん出ていた時代小説がなんでないのか。身近すぎて吹っ飛んだ展開が書きづらいのか、すでに散々書かれて今さら書くネタが見つからないのか、生活習慣が近代化しすぎてなーろっぱのほうがむしろ書きやすいのか。

いろいろ理由は考えられますが、おそらく一番の理由は、女性主人公またはそれに準ずる女性キャラクターを出しづらいからです。活躍させるにしても恋愛させるにしても、戦国時代や江戸時代では動かしづらい。武家だと守られる姫みたいになる。チャンバラだとくの一になる。池波正太郎の「剣客商売」には田沼意次の隠し子で剣の腕前が一流の三冬というキャラクターが出てきますが、作中(後半)では主人公の息子の嫁です。活躍する回ももちろんありますが、読者がスカッとするにはちょっと遠いポジションです。

昭和の時代小説の中にはサラリーマンの悲哀に見立てた主人公が云々、なんて書かれたものもありますが、それは昔の話。いろいろ苦労はするにしても、やっぱりラノベは主人公が活躍してナンボです。あと恋愛要素があったほうが収まりがいいし、読者もそれを期待している気配があります。だから日本が舞台の場合、平安貴族の次が大正まで飛ぶ。どれだけ荒唐無稽でも、貴族という設定で女性の活躍の舞台を担保する。現代日本であやかしが出てきたら、それはあやかしと付き合えたり退治できたりする能力で女性の活躍の舞台を担保する。その場合、資料を調べてディテールを知るよりは、フィクションを成立たせる舞台設定のほうが必要度が高いです。ディテールは質の底上げに必要不可欠ではありますが、面白さの上限を引上げるのは舞台設定やプロットやキャラクター造形など別の要素です。

脱線すると、昔の時代小説は主人公の立場に違いはあれど、主人公が自分の人生に責任を負う視点がほとんどでした。ラノベだとこれが、能力のある主人公を、別の能力と権力のある周囲が助けたりかばったりする視点になります。「同じ国の人間の、全体的な性格が10年や20年で変わることはない」と書きましたけど、性格でなく世相で言えば、ここは大幅に変わったところです。

ところで、何でも芝居に関連付けて考えるこのブログでは、ラノベが広がることで舞台の原作としての位置づけがどうなるかを考えました。

漫画アニメが原作の芝居はいろいろ上演されています。元祖はたぶん「ベルサイユのばら」ですが、最近では漫画だと「SPY×FAMILY」とかアニメで宮崎駿だと「千と千尋の神隠し」とか。ここまで大掛かりでなくとも、コアな人気の役者をキャスティングした2.5次元はいろいろ上演されています。

何本かラノベを読んで舞台化できないか考えた感想は、結構面倒です。面白いかどうか以前に、上演しやすいかどうかの壁があるからです。

・空を飛ぶ:魔法はおそらくスタッフワークでなんとかなります。空を飛ぶのも単発ならがんばれます。当たり前のように空を飛ばれると、おそらく観ていてつらい演出になります。
・食事が売り:動きが出せないし、そもそも他人の食事を眺めて面白いことはありません。「孤独のグルメ」が成功したのは無料で観られるテレビだからで、最初から映画や芝居で金を払うメディアだったらあんなに流行りませんでした。
・ものづくりがメイン:これも動きが出せません。
・人間以外の動物や魔物が出てくる:背景的な位置づけならいいですし、台詞なしで戦うなら何とかなりそうですが、大きさの違う生き物と交流があると難しいです。あと盲点なのが馬です。もとがフィクションで成立させようと頑張っている世界に、二人一組で人間が中に入った馬が出てくるとぶち壊しの恐れがあります。馬車なら馬を登場させないで済みますが、乗馬や騎馬が当たり前のように出てくると厳しいです。
・子供から大人に成長する:ずっと子供ならそういう設定だと舞台のお約束である「不振の一時的停止」で通せますが、成長して背丈が大幅に変わる場合は扱いに頭を悩ませることになります。異世界転生もので子供時代が長いとこの条件が悪いほうに効きます。
・東洋貴族設定:これは衣装や美術に金がかかるのが難点です。西洋ドレスと館のほうがまだ手慣れてやりやすいでしょう。

ほしいのは「リアリティーより説得力」なので、なーろっぱでも何でも、原作で舞台設定詰め切れていないのは構いません。が、それを芝居にしたときに最低限のリアリティーを担保するための準備は必要です。上演しやすそうなラノベもたまにありますけど、少数派です。

だから本当は最初から脚本家としても活躍する人が出てくれるのが望ましいです。池波正太郎は芝居脚本が先で小説が後、井上ひさしもストリップ劇場のコントから始まって放送作家になってから芝居脚本を書いて小説が最後です。最近だとイキウメの前川友大が漫画原作をやっていました。三谷幸喜や宮藤官九郎も芝居をやりながら放送作家を経て映像脚本家です。芝居から始めて他に広がる人はいても、他から芝居へは流入が少ないのですよね。ぱっと思いつくのはCM業界から芝居にも手を広げた山内ケンジくらいです。

パソコンとインターネット環境があれば世界のどこでも書いて発表できる小説と、人が集まって上演しないと完結しない芝居との差はあります。でも原作上演ではなくオリジナルを依頼する団体が出てきてもよいはずです。やっぱり脚本形式で上演可能であることを意識しながら2時間なり3時間なりに収めるところにハードルがあるのでしょうか。

あと、時代小説が減ったと書いてきましたが、テレビで時代劇が減ったのは何年も前から言われてきたことです。いま新作で作られている時代劇はスタッフの技を維持する目的も大きいとどこかで読みました。だから歌舞伎と大河ドラマくらいしか時代劇が作れなくなる云々。

これはまったく根拠のない推測ですが、どこかで反動が来ると予想します。あと10年か20年くらいしたら、時代小説の名手と呼ばれる書き手が彗星のように突然現れて、そこから時代劇が作られて、息を吹き返すのではないかと期待しています。本当にただの勘ですが、そんな勘を言葉にするなら、やっぱり日本人の血が根強く時代劇を求める予感があるからです。それをもっと詳しい言葉にするなら、外国でも見かけるような多様化が進むほどに反動としてルーツを求める揺り戻しであったり、科学技術が発展しすぎて理解困難なことから人力と人間関係で理解できる世界が求められたり、です。

時代小説と入替りにラノベ経済圏が花盛りですが、これが芝居にどのくらい影響を与えるのかに注目です。

2022年6月30日 (木)

芸術監督蜷川幸雄の発掘仕事と胆力の話

ドライブイン カリフォルニア」で書き忘れたことがあったので追記です。公式サイトで松尾スズキがこんなことを書いています。

「ドライブイン カリフォルニア」三度目の公演である。
今まで再演されたわたしの作品は、
これをふくめて「愛の罰」「ゲームの達人」「ふくすけ」「マシーン日記」「悪霊」
「母を逃がす」「キレイ」「業音」「ニンゲン御破算」今年再演される「命、ギガ長ス」
と・・・・三〇年以上演劇を続けていると、
まあまあやっているなという感じになるわけであるが、
三度以上のものとなると、
「ふくすけ」「マシーン日記」「悪霊」「キレイ」と、四つほど。
ぐっと絞られたラインナップに「ドライブイン」は参入する、
ということは、自分の中でも「好き」
そして、それが許されるということは
「世間的評価がよろしい」ということになるのだろう。
現に、初演を見に来た蜷川幸雄さんのゴーサインをもって、
わたしはシアターコクーンという商業劇場に進出することになった。
いわば、わたしにとって初めての「外の世界に向かって開かれた」作品だといえる。
それに、わたしにしては「悪霊」とともに、
とても珍しい一幕もの(一部幻想的シーンははさまれるが)で、
良くも悪くも、めまぐるしい場面転換で知られる松尾作品の中では異彩を放つ、
わりと落ち着いた「芝居らしい芝居」であって、
松尾初心者の方にも、「あ、今、自分は何を見せられているのだろうか」という
時間のない入門編として、
いかがでしょうかとおすすめせずにはいられない一品となっております。
初演はみな、背伸びをして大人を演じておりましたが、
再再演ではむしろ大人になりすぎてはいまいかと
不安げな大人計画の面々を生暖かい目で見守ってください。
ゲストの皆さんとの邂逅も、松尾は楽しみでなりません。
では、その日まで、みなさん、お達者で。

松尾スズキ

この中の「初演を見に来た蜷川幸雄さんのゴーサインをもって、わたしはシアターコクーンという商業劇場に進出することになった」のくだりに注目です。

蜷川幸雄がシアターコクーンの芸術監督を務めた時期は1999年からです。シアターコクーンのサイトによると以下の通りです。

シアターコクーンでは、開館時から芸術監督を務めた串田和美氏の任期が96年で満了した後、99年より演出家の蜷川幸雄氏(~16年)が就任。2020年からは、作家・演出家・俳優の松尾スズキ氏が芸術監督に就任しました。

ちなみに1998年にはさいたま芸術劇場の芸術監督にも就任しています。この辺の経緯わからないのですが、串田和美が辞めて次の芸術監督を蜷川幸雄が打診された。さいたま芸術劇場の芸術監督もあるから時期はずらしてもらうとして、ラインナップが重ならないようにする必要がある。さいたま芸術劇場はシェイクスピアで話題を呼んで、シアターコクーンはそれ以外で話題を呼ぼうと、新鮮味を出せる若手を探したのでしょう。

もちろん蜷川幸雄がひとりで検討したわけはないでしょうが、面白いという話が挙がって自分で足を運んで観に行った。「ドライブイン カリフォルニア」初演は1996年12月、目いっぱい入れて定員294人のシアターサンモールです。同じ年の7月に岸田國士賞受賞の「ファンキー!」が本多劇場で上演されていますが、岸田國士賞の発表は年明けなのでまだ受賞は決まっていません。本多劇場はおそらく1994年の「愛の罰」とまだ2回だけです。大人計画の公式記録によればこのころは上演ペースが年に5-8本と狂っていますが1回あたりの公演日数は長くて2週間です。冒頭の通り松尾スズキにまだ商業劇場の経験はありません。

それでも自分の目で確かめて、3年半後の上演にゴーサインを出した。1996年当時だと61歳くらいでしょうか、並々ならぬ行動力と決断力です。ラインナップを決めるにあたって、そういう発掘作業を行なっていた。これぞ芸術監督という仕事です。その成果が2000年6月の「キレイ」です。私の松尾スズキ初見作でもあります。

芸術監督の似た仕事だと、新国立劇場は国内国外の既存脚本を使って、演出家を呼ぶ企画が多いです。演出家探しには熱心ですが、演劇研修所を持っているせいか役者を発掘している印象はありません。東京芸術劇場は、小劇場の劇団を探す芸劇eyesはよい企画だと思いますが、発掘しているというより機会を設けるという形のようです。昔より今のほうが東京芸術劇場は活発化していますが、発掘して推す印象はありません。三鷹市芸術文化センターはMITAKA "Next" Selectionがありますが、あれは発掘よりもSelection、今面白いものを選ぶという印象が強いですが、東京芸術劇場よりは推しています。ただしオファーから上演まで1年後とかそのくらいのスパンです。

そう考えていくと、その人の商業演劇の初の1本を任せるという決断、なかなかできるものではありません。

芸術監督の仕事の一端をのぞき見ることができた、という話でした。

<2022年7月2日(土)追記>

タイトルを更新し忘れていたので更新。

2022年6月29日 (水)

劇場によって全然違う芝居宣伝文

隔月で芝居情報を調べるのにチラシと劇場サイトを見るという古臭い手法を取っています。そのうちの劇場サイトの話です。

劇場がどこまで芝居の宣伝をするかはいろいろな条件に左右されます。貸公演だと書かないことのほうが多いですね。主催公演は真面目に宣伝文を書くことが多いようです。で、書くときの文章が劇場によって全然違います。実例を見てもらったほうが早いので4本集めてみました。見出しが太字なのはだいたい共通なので再現しましたが、フォントの色やサイズなどは無視しました。そのほうが文章の違いがわかります。

最初は世田谷パブリックシアターの「毛皮のヴィーナス」です。

新鋭の演出家・五戸真理枝がシアタートラムで初演出
人間が持つ根源的な欲望を描いたスリリングな二人芝居に、高岡早紀と溝端淳平が挑む

世田谷パブリックシアターでは8月~9月、シアタートラムにて二人芝居『毛皮のヴィーナス』を上演いたします。本作は、「トラム、二人芝居」と称し、新進の演出家を起用し、実力派キャストによる二人芝居を上演する企画のうちの一作です。

『毛皮のヴィーナス』は、“マゾヒズム” の語源にもなったオーストリアの小説家L・ザッヘル=マゾッホの小説から想を得て、米劇作家デヴィッド・アイヴズが舞台用に戯曲を執筆し、2010 年にオフ・ブロードウェイにて初演された作品です。その後ブロードウェイでも上演、さらに2013年にはロマン・ポランスキー監督により映画化もされました。オーディションを受けに来た女優と演出家、さらに戯曲の登場人物も交錯するという二重構造を駆使しつつ、人間が持つ根源的な性的欲望をスリリングに描き出していく、ライブ感あふれる舞台です。

本作『毛皮のヴィーナス』の演出を手掛けるのは文学座所属の五戸真理枝。上村聡史らのもとで演出助手として研鑽を積んだ後、2016年に文学座アトリエの会『かどで/舵』の『舵』で、初演出を果たしました。また、新国立劇場等の外部公演でもゴーリキーやチェーホフといった古典の名作を瑞々しい感性で演出し、脚光を浴びています。さらに、元々は劇作家志望だったということもあり、戯曲や小説からの脚色、童話の執筆にも積極的に取り組むなど、多彩な才能の持ち主です。そしていよいよ本作で世田谷パブリックシアター主催公演の演出デビューを飾ることになりました。

女優ヴァンダ役を演じるのは高岡早紀です。世田谷パブリックシアター主催公演へは3年連続の出演となります。三部構成の『愛するとき 死するとき』(21年、演出:小山ゆうな)では複数女性像を巧みに演じ分け、世田谷パブリックシアター×東京グローブ座『エレファント・マン』(20年、演出:森新太郎)ケンダル夫人役では知的な演技と優美な姿で観客を魅了しました。その確かな演技力と美貌で、謎多き女優・ヴァンダをいかに演じるか大きな期待がかかります。

ヴァンダに翻弄されながらも惹かれていく演出家・トーマス役は溝端淳平が演じます。シアタートラムへは、繊細な演技が好評を博した『管理人』(17年、森新太郎演出)以来の登場です。相手役の高岡とは舞台では3回目となる共演で、互いに信頼を寄せ合う「同志」のような二人のタッグが、本作の世界観をさらにパワーアップさせていくに間違いありません。

シアタートラムという限られた空間での、刺激的でライブ感あふれる二人芝居『毛皮のヴィーナス』、どうぞご期待下さい。

ストーリー
演出家のトーマスは、彼が脚色した戯曲『毛皮のヴィーナス』のヒロイン役のオーディションをするも、これぞ!という女優は見つからなかった。帰ろうとしたところに、オーディションに遅刻したという無名の女優ヴァンダが現れる。トーマスが求めるヒロイン像とは何もかもが違っていたが、強引なヴァンダに押し切られ、しぶしぶオーディションをすることになった。しかし相手役を務めるトーマスは、次第にヴァンダの演技に惹かれ出し、3ページで切り上げるはずだった読み合わせは、いつしか……。

次はBunkamura公演ですがシス・カンパニー製作の「ザ・ウェルキン」です。

12人の女性の手に委ねられた少女の命。
大胆かつスリリングに!残酷なほど正直に!
女性たちは自分自身と少女に向き合っていく。

英国の若手劇作家ルーシー・カークウッドの新作として、
コロナ禍直前の2020年1月末に英国ナショナルシアターにて開幕。
ロックダウンで中止になるまでの限られた上演でしたが、
サスペンスフルに展開する物語は大喝采を浴びました。
一人の殺人犯の少女と、陪審員となった市井の12人の女性たち。
猥雑で力強いエネルギーと笑いにも彩られながら、
男性支配社会に生きた18世紀半ばの女性たちの姿が浮き彫りに…。
気鋭の加藤拓也が初の翻訳戯曲演出に挑み、卓越した力を誇る俳優陣が激突!
演劇ならではの魅力に溢れた時間をお届けします!

あらすじ
1759年、英国の東部サフォークの田舎町。
人々が75年に一度天空に舞い戻ってくるという彗星を待ちわびる中、
一人の少女サリー(大原櫻子)が殺人罪で絞首刑を宣告される。
しかし、彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは免れることができるのだ。
その真偽を判定するため、妊娠経験のある12人の女性たちが陪審員として集められた。
これまで21人の出産を経験した者、流産ばかりで子供がいない者、早く結論を出して家事に戻りたい者、生死を決める審議への参加に戸惑う者など、その顔ぶれはさまざま。
その中に、なんとかサリーに公正な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベス(吉田羊)の姿があった。
サリーは本当に妊娠しているのか? それとも死刑から逃れようと嘘をついているのか?
なぜエリザベスは、殺人犯サリーを助けようとしているのか…。
法廷の外では、血に飢えた暴徒が処刑を求める雄叫びを上げ、そして…。

同じBunkamuraでも特設サイトの「世界は笑う」です。

ケラリーノ・サンドロヴィッチが描く、
昭和30年代新宿、笑いに魅せられ、笑いに取り憑かれた人々の奇想天外な人間ドラマ。
5年ぶりのBunkamuraシアターコクーンで、
豪華キャストを迎え、新作書き下ろし!!

劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が、2017年『陥没』以来5年ぶりに、Bunkamura シアターコクーンで新作公演を行うことが決定しました。

舞台は、昭和30年代初頭の東京・新宿。敗戦から10年強の月日が流れ、巷に「もはや戦後ではない」というフレーズが飛び交い、“太陽族”と呼ばれる若者の出現など解放感に活気づく人々の一方で、戦争の傷跡から立ち上がれぬ人間がそこかしこに蠢く…。そんな殺伐と喧騒を背景にKERAが描くのは、笑いに取り憑かれた人々の決して喜劇とは言い切れない人間ドラマ。

戦前から舞台や映画で人気を博しながらも、時代の流れによる世相の変化と自身の衰え、そして若手の台頭に、内心不安を抱えるベテラン喜劇俳優たち。新しい笑いを求めながらもままならぬ若手コメディアンたちなど、混沌とした時代を生きる喜劇人と、彼らを取り巻く人々が、高度経済成長前夜の新宿という街で織りなす、哀しくて可笑しい群像劇。

出演には、KERAとの3度目のタッグとなる瀬戸康史、2度目となる松雪泰子をはじめ、KERA作品に初出演となる千葉雄大、勝地 涼、伊藤沙莉、ラサール石井、銀粉蝶など、勢いのある若手から存在感が際立つベテランまで多彩な実力派キャストが顔を揃えました。 2009年より昭和の東京をモチーフに発表してきた「昭和三部作」シリーズをはじめ、日頃から “昭和”という時代への深い愛着を公言するKERAが、“昭和の喜劇人”を作品の題材とするのは今回が初めて。その挑戦に期待が高まります。

最後にパルコの「VAMP SHOW」です。あらすじ紹介が過去作紹介と合体しているのですがそこは目をつぶって引用。

三谷幸喜 作、幻のホラー・コメディ!
新たな血を求めて、21年ぶりに復活!!
全国を旅して暮らす、陽気な五人の男たち。
みんな揃って歌好きで、何故だか全員、夜行性。趣味は襲撃、献血カー。
苦手なものは、十字架で、大好きなのは―チュウチュウチュウ!?

本作は、1992年、サードステージのプロデュース公演として初めて上演された伝説の舞台。2001年にはパルコ&サードステージ提携プロデュースとしてPARCO劇場にてキャストを一新し、池田成志の演出で上演された、三谷幸喜作、異色のホラー・コメディです。
楽しく旅する5人組の吸血鬼。うっそうとした森に囲まれたさびれた山間の駅にたどり着く。駅には駅長と、電車を待つ女性が一人・・・。
西村雅彦、古田新太、池田成志(1992年)、佐々木蔵之介、堺雅人、河原雅彦、橋本じゅん、伊藤俊人(2001年)と、当時の若手実力派俳優が出演し、上演してきた幻の作品がついにPARCO劇場へ帰ってきます!

2001年版で出演していた河原雅彦が演出のバトンを受け継ぎ、キャストにはドラマ『最愛』や『ミステリと言う勿れ』などに出演し癖のある役も難なくこなす高い演技力で評価されながら、現在放送中の「恋なんて、本気でやってどうするの?」で不器用ながらも主人公の親友にアプローチする不思議男子・克巳を演じ普段の役とのギャップでTwitterトレンド入りも果たした岡山天音、映画『今日から俺は!!』や連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』に出演し、『インビジブル』では主人公の刑事人生を大きく揺るがせた事件で殉職した安野慎吾を演じたことも記憶に新しい平埜生成、映画『銀魂』やドラマ『勇者ヨシヒコと導かれし七人』に出演し、2022年春放送の『ユーチューバーに娘はやらん!』ではユーチューバーの不安定だが冒険家なタックタックを演じるなど多くの作品で抜群のコメディーセンスを発揮している戸塚純貴。獣電戦隊キョウリュウジャーで注目を集め、バンド女王蜂のMV(『KING BITCH』)出演や現在放送中の連続ドラマ『探偵が早すぎる?春のトリック返し祭り?』では、主人公に熱心にアプローチする会社の同僚・大谷和馬を演じ話題を呼んだ塩野瑛久、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』での頼もしい兄から、NHK連続テレビ小説『カーネーション』では不憫な次男、ドラマ『アンナチュラル』『シグナル』の連続殺人犯役と演技の幅が広く、どんな役柄でも自分のものにしてしまう個性派俳優尾上寛之と今後益々期待される若手演技派俳優たちが結集!
さらに、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』やドラマ『過保護のカホコ』『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』など話題作への出演が続いており、7月にはドラマ『雪女と蟹を食う』の出演も控えている注目の若手俳優久保田紗友。また、数々の舞台に出演し、連続テレビ小説『エール』や、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』など映像作品でも活躍、2022年には映画『20歳のソウル』の公開も控えている菅原永二の2人が加わり、全キャストが決定いたしました。

2022年版、新たな「VAMP SHOW」にご期待ください!

これまでのVAMP SHOW

山間の寂れた駅で、5人の青年がある女性と出会うことで始まる物語。
明るく楽しい旅行者の青年たちは実は吸血鬼で・・・。

初演は1992年。俳優・池田成志の「怖くてびっくりするホラーな芝居がやりたい」、から始まった本企画。中心に流れる話は魅力的でないと成立しない、と脚本を三谷幸喜に依頼。
三谷幸喜作品らしい笑いはもちろん、ゾクっとするホラー要素が加わり、若手俳優たちの演技合戦も魅力的な、見どころ満載の傑作ホラー・コメディが誕生した。

2001年版では、それぞれ演劇界を中心に実績を重ね、映像にも活躍の場を広げ注目されていた、堺雅人、佐々木蔵之介、橋本じゅん、河原雅彦、伊藤俊人らが演じ、舞台俳優の魅力と演劇の面白さを存分に発揮した。

そして、2022年。様々な作品で欠かせない存在となっている実力俳優が集まり、新たな「VAMP SHOW」が誕生する。

どうでしょう。

「毛皮のヴィーナス」は好ましいですね。芝居のあらすじがわかって、関係者紹介文も芝居関係の経歴で紹介しているところがよいです。可能な限り自劇場に出演した時の経歴で紹介するところは、長くやっている劇場ならではです。

「ザ・ウェルキン」の宣伝文も好ましいです。あらすじはきっちりわかります。そのうえで、多すぎる出演者の紹介はあらすじに混ぜて控えめにしつつ、脚本の評判を推していくというスタイルです。

「世界は笑う」は、KERA新作なので脚本が出来上がっていないでしょうからあらすじ紹介がないのは割引きます。とはいえ、KERAであることが一推し、さらに紹介不要な有名出演者で推していく、という姿勢は見て取れます。

「VAMP SHOW」の異質さがひときわ際立ちます。ホラーコメディだからあまりネタバレしてはいけないのはわかるのですが、出演者の紹介をすべて映像で揃えているのが他3サイトと明らかに違います。

この「VAMP SHOW」の文章に違和感を感じすぎてこのエントリーを書いています。出演者の舞台経験が少ないからしょうがないと言われればその通りですが、もう少し書きようがないものか。

と考え出すと、そもそも劇場サイトは誰に向けて情報発信しているんだとなります。劇場サイトを見て観に行こうと考える客がどれだけいるか。

出演者目当ての人は、出演者の公式サイトを見て決めるでしょう。その場合、劇場サイトに望むことは日程やチケットの公演情報であり、宣伝文は読まないと思います。

私みたいな人間だと、劇場と脚本演出出演者で最初のフィルターが働きます。そのうえであらすじを見て判断します。あらすじ以外の宣伝文は補足です。読んでも観に行く行かないの判断には影響しません。

芝居見物の大ベテランだとチラシで判断していると思います。劇場サイトに望むことは日程やチケットの公演情報であり、宣伝文は読んでいないでしょう。

芝居初心者はどうかというと、そもそも劇場サイトを見ません。たまたまチラシを手に取って興味が湧くか、テレビその他で紹介されていて気になって、人によっては劇場サイトで調べるのが導線だと思います。でも、調べて満足するのが大半、観に行くつもりの人は公演情報を確認したいのが目的です。宣伝文で観に行くことを決める人はごくごく少数と推測します。

そうなると誰向けの情報なのか。おそらく「VAMP SHOW」は、芝居を知らないマスコミ関係者に記事を書いてもらうための宣伝資料なのではないでしょうか。

ならば一般観客向けに宣伝文は不要か。そう言い切れないのが難しいところです。劇場サイトを読んだ側に与える印象というものがあるからです。売りになるものがあるかないかとはちょっと違います。宣伝文のひとつも書けない芝居では、制作の本気度が疑われます。そのうえで、何を宣伝に選ぶかで制作の趣味を無意識に訴えかけています。観客側は、宣伝文を見て決めるというより、宣伝文を含めた劇場サイト全体の雰囲気で制作の趣味と信頼度と本気度を測っています。

野田地図の「Q」を載せた東京芸術劇場のサイトを追加引用します。

野田秀樹×QUEENの衝撃作品、世界ツアー決定!
松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳らが奇跡の再集結!

イギリスを誇る世界的ロックバンド、クイーンが1975年に発表した傑作『オペラ座の夜』の世界観と、シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』の “その後の物語” =もしも2人が生きていたら…。という野田秀樹の着想が結び付き、2019年に東京で初演。舞台を14世紀のイタリアから12世紀末の日本に移し、両家の対立を源平合戦に見立てたこの奇想天外な構想は、初演時には7万人を超える観客を魅了し、第27回読売演劇大賞・最優秀作品賞を受賞した。

今回の再演では、松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳らの初演時のオリジナルキャスト全10名が奇跡の再集結。
このワールド・ツアーの企画は、初演の東京公演を来日観劇したクイーンの伝説的マネージャーのジム・ビーチ氏が絶賛しことを契機にクイーンのお膝元であるロンドン公演の計画が動き始めた。
東京・大阪公演に加え、ロンドン、台北を巡り、国内外4都市を巡るワールド・ツアーが実現。
日本の演劇史のみならず世界のエンタテインメント史に新たな1ページを刻む2022年版『Q』:A Night At The Kabuki。是非ともご期待ください!

ずいぶんと端的にまとまった宣伝文です。が、これでまとまるのは初演の実績、紹介無用の豪華出演陣、海外ツアーがあればこそで、例外中の例外中の例外です。東京芸術劇場は公演特設ページを作ったりしないので、サイトで読んだら同じ文章でもそっけないことこの上ありません。芸術監督の芝居をえこひいきにするわけにもいかないでしょうし、野田地図の本家サイトが本来の役目を果たすのかもしれませんが、それにしたってさすがにもうちょっと派手にしろよと言いたくなる劇場サイトです。普通の人はこんなそっけないサイトを見ても観に行く気にはなりません。

そう考えると、東京芸術劇場は最初から劇場サイトに求められる役割を公演情報提供と割りきったサイト、他の劇場は劇場サイトによる集客能力を信じているサイト、と言えなくもありません。どの程度意図されているかは別として。

書き終わって読み返したら我ながら何書いてるんだかと思いましたが、宣伝文ひとつとっても考え出したら悩ましい、という暇文でした。

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