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2026年10月18日 (日)

東宝製作「ミス・サイゴン」東急シアターオーブ(プレビュー公演)

<2026年10月17日(土)夜>

ベトナム戦争下のサイゴン。親の決めた相手と結婚する直前だった少女キムは、村が戦争に巻込まれて家族も家も一切を失ったところを、女衒に見つかりナイトクラブに売り飛ばされる。フランス人とベトナム人のハーフである経営者エンジニアによって店は米兵を相手に大繁盛。エンジニアはキムを「ミス・サイゴン」に仕立てて、上官のジョンに連れてこられたクリスに高く売り付け、二人は一夜を過ごす。互いに恋に落ちて結婚を誓ったところに、キムの婚約者だったトゥイが現れて自分と結婚するように迫るが、キムはクリスを選ぶ。だがベトナム戦争での米軍撤退に伴い二人は離れ離れになり、米国に戻ってエレンと結婚した後もキムを想って夢でうなされる。ベトナム軍で出世したトゥイはキムを諦めきれず、収容所にいたエンジニアにキムを探し出すように命じるが、見つかったキムはクリスの子供を産んで育てていた。子供に手を掛けようとするトゥイをキムは殺害、それを知ったエンジニアはタイのバンコクから米国への渡航を狙いキム親子を連れて逃げる。

有名だが初見。自分の理解のために粗筋を長めに書いたものの、これで前半部。観たことはないが蝶々夫人がこんな話ではなかったか、そういえば「マダム」バタフライに対して「ミス」サイゴンだな、とエンディングも含めて思ったり思わなかったり。古典を種にミュージカルを作るのはロミオとジュリエットからのウェスト・サイド・ストーリーを思い出す。今回だとベトナム戦争というアメリカ人にとっての圧倒的事実は、本国での観客への説得力に一役も二役も買っただろうと推測。

本編感想。役者全員熱演だったし、何度も上演されるだけあってアナログながらも舞台効果が存分に計算されてよくできていた。チラシや公式サイトの掲載順からエンジニアとキムが主役と思っていたが、キムとクリスの物語をトリックスターのエンジニアが食うような構成だったのが意外。ただ、キムとクリスだけだとあっさり終わってしまう芝居に毒っ気の強い華を添えるとともに、この胡散臭さもあってこそ兵士から見たベトナム戦争なのだろうなという役どころだったので、主役級を当てる理由もわかる。

ただし音響がいまいちすぎて入り込めない。錯覚かもしれないが役者の場所によって位置が微妙に調整されて聞こえたのは感心。ただしよほど声を張った場面でないと声が引っ込んで聞こえたし、ソロはまだしも2人以上が歌うと音が濁って歌詞がわからないのがストレス。団体で歌う場面は本当に歌詞がまったくわからなくて字幕を切に望む。2階正面でこれかと観ながら内心ぼやくレベル。

詳しくない音響について想像するに、無線マイクの接続先が1チャンネルしかなくて役者別に調整できず、全出演者からほどほどのところで音のバランスを取ったところ、誰にも向いていないバランスで仕上がったのではないか。その割にオーケストラの音楽は迫力たっぷりだったがあれは有線マイクで拾って個別調整したのか。プレビュー2日目かつ主要役者陣は全員初日だから調整中だった可能性もあるものの、ミュージカル初心者からは役者の熱演も台無しだったと酷評しておく。

主要役者メモ。エンジニアが駒田一、キムが屋比久知奈、クリスが小林唯、上官ジョンがチェ・ウヒョク、妻エレンが加藤梨里香、トゥイが吉田広大、ナイトクラブの女性などを演じたジジが藤森蓮華、キムの子供が原田奈央。粗筋で役名を挙げた主要役者陣もよいのだけど、個人的にはオープニングに近いところで歌ったジジ役の藤森蓮華の歌の演技成分との塩梅が良い感じ。

2026年9月27日 (日)

PARCO PRODUCE「ショーガール」PARCO劇場

<2026年9月26日(土)夜>

歴史上のカップルを描いた寸劇5本の前半と、歌って歌って踊って歌う後半からなるショー。

前半、割としょうもない寸劇と泣かせる寸劇を混ぜるあたりは三谷幸喜っぽいが、5本とも役を創りこんだ気配を見せる。一方後半は、3人だけなのに厚く聞こえる演奏をバックに洋楽邦楽をちゃんぽんに混ぜてたっぷり聴かせる。「Time After Time」はよかった。もともと演技の上手い2人だとは知っていたが、歌と踊りにサービス精神をここまで兼ね備えていたとは知らず。リラックスして観ている途中で、あれこれひょっとしてすごい役者をすごい贅沢に使っている舞台を観ているんじゃないか、と気が付く。

このくらいの舞台がいつも気軽に観られるといいなと思いつつ、一般観客の「このくらい」を実現するには演者には「かなり」のものが求められるなと、芸能芸術全般の常識を再確認。

2026年9月13日 (日)

劇団Papercraft「神のみぞ知る死」シアタートラム

<2026年9月12日(土)昼>

ある日、大学生が自分は神であると告白した動画をSNSに投稿する。子供のころに民の間に紛れて地に降りて、民と変わらぬ生活をして暮らすのだという。すると世界中で実は自分も神であると告白する人たちが出てきた。同棲していた男女のうち、男も神、しかも死神だと告白する。そんな男の会社の飲み会を女がこっそり覗いたところ、同僚も上司も死神で、そのバーは神だけが会員だという。そこで皆と仲良くなった女には、様々な神の悩みが集まり出す。

神と言えどもこの世では民(人)となんら変わりがない、という前半を経て、神と言えども民と同じような悩みからは逃れられない、という中盤で登場人物が捩れていくところからの展開が怪しさ一直線。人間が神を求めるに至るまでの経緯について、人は神であるという逆転設定を置いて描いた怪作。冒頭から終盤まで怪しい雰囲気を保つ作劇は、名前を知っている役者が出ていなければ危ない団体だと勘違いしかねないくらい100%「ケ」に充ちた仕上がり。その役者もきっちり演出家の趣味で集めたのがわかって、普段はもっといい人役が多い盛隆二や太田緑ロランス、久しぶりに観た村上航あたりの捩れ具合が新鮮。初見の他4人もいい感じ。場転の都合かアクティングエリアが上手か下手に寄りがちな美術だけが若干の難。席はがら空きだったので、後味の悪さも嫌な雰囲気も大歓迎、我こそは、と思う人は当日券で。

たまたまだが、前日に観た「ガリレイの生涯」の若い修道士の場面とシンクロするところがある。貧しい中で必死に畑を耕して育てる両親が、その作物を税として取上げられて苦しい生活を送る中で、神が天にいないのであれば、苦労も勤労と信じて生きてきた両親の行ないは無駄働きではないか云々(大意)と修道士がガリレイに訴える場面。あちらでは、教会や貴族が貧困を解決できないで税を無駄遣いする言い訳に教義と信仰を使っているとガリレイの台詞で非難していた。大道廃れて仁義すらなくなって善悪正邪倫理哲学の一切がぶん投げらつつある昨今、こういう人間と神との向合い方について考えるような芝居が求められるのかもしれない、とは余計な考察。

2026年9月 5日 (土)

PARCO PRODUCE「アメリカン・ドリーム」PARCO劇場

<2026年9月5日(土)夜>

アメリカで反共産主義が猛威を振るった「赤狩り」の時代。ホテルの一室では映画関係者の取調べが行なわれている。この日はなかなか売れない女優、人気監督、ヨーロッパから亡命してきた脚本家、そして当代一番の売れっ子脚本家の4人が呼ばれた。2人の委員が1人ずつ取調べをする中で、4人はどのように対応するのか。

ほぼ出ずっぱりの委員2人を演じる浅野雅博と中川大志が、紅一点の関谷春子と、三谷幸喜常連の浅野和之、山崎一、小日向文世を出迎えて1時間50分に中編4本を詰込んだ趣がある。「笑の大学」のバリエーションを想像させるシチュエーションながらも、あちらが笑いメインで構築していたのに対して、今作は笑いどころも多数用意しつつ真面目な話に正面から取組んだ意欲作。役者6人全員文句なしで、芸達者な常連組の芸を堪能しつつ、浅野雅博をあまり見かけない強面委員役で起用して成功させたのは慧眼。映像の使い方に映画監督もやる三谷幸喜の腕前発揮を見つつ、舞台美術や衣装の助けもあって、三谷幸喜らしからぬ渋くてお洒落な仕上がりは当時のハリウッド映画を目指したか。

この仕上がりにケチを付ける方が野暮なのは承知で、もう社会派要素抜きで笑いに笑える新作を三谷幸喜に求めるのは無理なのだろうなという諦めもあり。喜劇路線をこの規模で継げる人も今は思い浮かばない。喜劇路線というのもちょっと違って、いかなる真面目な話題であっても洒落のめして胸を張る気概というか。今の世の中、特にここ10年くらい、洒落を名乗って逃げようとする目に余る邪悪を叩き潰すために余裕がなくて、本物の洒落まで呼吸する余裕がなくなった。「笑の大学」は邪悪に、というのは業界的な邪悪というのが私の理解ですが、それに洒落以外徒手空拳で立向かうような芝居だった。

これは将来の売れっ子脚本家の登場に期待を残して。

2026年8月31日 (月)

キョードー東京招聘「シカゴ」東急シアターオーブ

<2026年8月29日(土)昼>

有名であれば何でもありの1920年代のシカゴ。浮気相手を殺したロキシーは刑務所に入るが、同じように浮気していた夫と妹を殺したヴェルマがマスコミに持てはやされているのを目の当たりにする。このままでは死刑になると言われている自分も同じようになりたいと、獄中を仕切るママに頼んで辣腕弁護士のフリンを紹介してもらい、起死回生を図る。

たぶん女性陣は脚の長さで、男性陣は筋肉の丸さで選ばれたのだろうなというダンサーを揃えて、身体をくねらせるフォッシーダンスたっぷりのミュージカル。踊らない役もあったし、同じ役者でも踊りと歌の場面を分ける工夫もあったけど、やはりいい演目。All That Jazzは好きなナンバー。ただし目を惹いたのはオープニングやパイナップル富豪令嬢を務めた女優と、英語がほとんど話せないハンガリー女性を演じた女優。最後に役者紹介があったものの名前までは字幕に表示されず聞き逃し。そして繰返しになるけど女性陣ダンサーの脚が長い。

THE ROB CARLTON「VISITORS」渋谷ユーロライブ

<2026年8月28日(金)夜>

とある外国のと屋敷の一室。屋敷の主人はかつてとある団体の代表まで務めた実力者で今もって陰然たる影響力を持っている。だが今度の代表戦では3人の候補者はいずれも拮抗しており、この主人の支持が得られれば勝抜けることが確実なため、屋敷詣でが行なわれる。これからは次世代に任せていく意向を持つ主人はどの候補にも肩入れしないようにするのだが……。

候補者3人を1人で演じて、館の主人と対する2人芝居。候補者と主人のやり取りは重々しさも出すためテンポよりもネタ勝負で散発的な笑いで進んでいたところ、最終版に力技の大ネタで一気に爆笑に持って行く構想力と腕前に感心しきり。舞台で観てこそ面白い1本。着替えの時間を確保するための場繋ぎ場面の数が多すぎて、作り込みが追付いていない場面がいくつかあり、暖まった客席が落着いてしまうのがもったいなかった。

2026年6月21日 (日)

梅田芸術劇場企画制作「BOOP! The MUsical」東急シアターオーブ

<2026年6月21日(土)昼>

人気者であるベティー・ブープは毎日撮影に大忙し。忙しすぎて、何でもない普通の1日を願っていたところ、発明家のグランピーが作った装置のことを知る。こっそり使ったところ、やってきたのは現代のニューヨークのコスプレ会場。そこでたまたま知合ったドウェインとベティーファンであるトリーシャの暮らす家で世話をしてもらえることになったが、家の持主である叔母はニューヨーク市長選の選挙参謀として大忙し。

昼に何を観ようかと探してチケットが手に入った都合で選んだ1本。あまり小難しいことを考えずに歌とダンスを楽しめるのは役者が役を消化して筋を進めてくれるから。やっぱり役者が歌とダンスの両方を兼ねている方がミュージカルは楽しい。今回はどちらもできる礼真琴がアニメキャラの主人公のキャラをよく掴み好演しつつ、おそらく一番踊らないトリーシャの鈴木瑛美子の声の圧が深くて耳を引き、その他役名持ちも全員好演。バックダンサー兼コーラスの面々が歌いまくりの踊りまくりで、1人ずつの名前がわからないのが残念なくらいの素晴らしい出来だった。

ダブルキャストのところだけメモ。ドウェインが松下優也、トリーシャが鈴木瑛美子、レイモンドが渡辺大輔、グランピーが東山義久。

2026年4月 5日 (日)

ゴーチ・ブラザーズ主催「ポルノ」本多劇場

<2026年4月4日(土)夜>

坂の多い町で弱者に優しい生活を訴えて立候補する男は、家では子供が欲しいと女から望まれるも、選挙でそれどころではない。選挙で有利になるために女に頼んで自分で足を折ると、ある日その女は若者の足を折って攫ってきて自分たちの子供だと言い出し男が慌てるが、選挙を考えてそのまま自宅での監禁を続けることを決める。その町で活動する着ぐるみ劇団では、団員が減って仕事が少なく、男のビラ配りをアルバイトで手伝う若者と、元劇団員の女性とが付合っている。また別の元劇団員の女性はテレビに出始めて運が向いてきたが立候補の男に坂から突落されて足を怪我して自宅療養していたが、ある日見知らぬ男性が入り込んで仰天する。早いファンかと思いきや家事全般をこなして妖精を自称する男を怪我した足では追出せずにそのまま日が過ぎるが。

同じ町を舞台に中編3本からなる長塚圭司の初期阿佐ヶ谷スパイダース時代の1本を、今回は松居大悟が演出。藤谷理子が見せつけて小野寺ずるとうぇるとん東がいい感じも、メインの1本で前田敦子が野田地図で何を学んだのかという映像向け演技で大ブレーキ、玉置玲央がそれに付合ってデチューンの演技でどっちつかずに終わる。筋だけ追っても犯罪交じりの歪な愛の話だし、初期阿佐ヶ谷スパイダースはエロありグロもっとありの脚本ばかりだから、役者のテンションが大前提。今からでも巻返してほしい。

ケムリ研究室「サボテンの微笑み」シアタートラム

<2026年4月4日(土)昼>

昭和初期ごろの東京、両親を亡くして長い兄妹。兄は温室で花を育てて気が向いたら売り、妹はめったに外出しないが、財産があるので暮らしていける。兄も妹もほとんど付合いはないが、兄が病気の療養でお世話になった元看護婦の夫妻と、兄妹の幼馴染で小説家になった男だけは年賀状をくれる程度の付合いがある。ある年、この夫妻と小説家が珍しく兄妹の家を訪れることが重なる。

いわゆる「いい人」が、自分からいろいろ動いて相手を見つけるのではなくたまたま知合って好意を持たれた相手にそれ以上の好意を抱いてしまうこと、なのに自分から積極的に相手を誘って楽しむでもなく2人きりになっても上手な会話を目指して間が持たないこと、優しさは自分が好意を持つ相手と嫌う相手とを区別せずに相手かまわず他人が傷つくのを防いで波風立たせないようにする形でのみ表現されること、好意を持っている普通の人なら自分から意識して距離を縮めていくこと、を芸達者な役者でこれでもかと表現する3時間10分。オチも含めて解像度が高すぎる。演技の基準が他よりもやややり過ぎなところにある赤堀雅秋と、狭い劇場で百面相を駆使する緒川たまきが、兄妹のいたたまれなさにはまり過ぎ。プロジェクションマッピングなしの固定舞台も、盆を使った無意識の好意の距離と、見えてもガラスで隔てられている庭向こうの温室とで場面を回す技術は職人芸。

2026年3月23日 (月)

ホリプロ/東宝企画制作「メリー・ポピンズ」東急シアターオーブ

<2026年3月22日(日)夜>

遊び盛りでいたずら好きな子供2人の家庭教師を探しては辞められてしまうバンクス家。父親は仕事に忙しく母親が新しい家庭教師を探そうとしたところ、急にやって来たメリー・ポピンズを雇うことにする。不思議な出来事が続くので子供たちは驚くものの却って警戒していたのだが・・・。

傘をさして空を飛ぶのとチムチムチェリーくらいしか知らなかったので観劇。子供の家庭教師だったのがそのうちもっと、という王道展開のよく出来た話だと知れて納得。いい歌が多いのと踊りまくるので楽しめた。役者はそれぞれソロでの完成度が高いものの掛合いがまだこなれておらず、これは複数キャストのプレビュー公演2日目でこの日の全員初日なのでこれからよくなるはず。メインキャストで一人だけ挙げるなら煙突掃除バートの小野田龍之介、あとコロスというかバックダンサーたちの踊りがよく動いていてよい。

後日のためマルチキャストのところだけメモ。メリー・ポピンズが朝夏まなと、バートが小野田龍之介、ジョージ・バンクスが小西遼生、ウィニフレッド・バンクスが知念里奈、バードウーマン/ミス・アンドリューが樹里咲穂、ブーム提督/頭取が安崎求、ミセス・ブリルが久保田磨希、ロバートソン・アイがDION、ジェーン・バンクスが辻乃之花、マイケル・バンクスが中西縁。

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