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2020年2月22日 (土)

青年団「東京ノート」吉祥寺シアター

<2020年2月21日(金)夜>

近未来。ヨーロッパで戦争が起きて、大量の美術品が日本に「疎開」されている。その疎開先のひとつである小ぶりな美術館には、有名な絵画が多数運び込まれ、その展覧会が開催されている。展覧会ついでに集まる親族、絵の寄贈先を探しに来た女性たちを案内する学芸員、展覧会見学で偶然出会った男女などが、一休みしたり積もる話をしたりする美術館ロビーでの一幕。

インターナショナルバージョンも観に行きたかったけどスケジュール調整にしくじって日本版のみ。以前こまばアゴラ劇場で上演されたときは背景の戦争がもっと前面に出ていたように記憶しているけど、今回はもっと人間関係に重点が置かれている気がした。人間関係、より、登場人物各人の寂しさ、と書いたほうが近い。戦争の可能性が身近になった世相を慮って演出が調整したか、観ているこちらの単なる思い出補正か。

仕上がりの評価は難しい。いつもはもっとギリギリと演技やタイミングを詰めているところ、今回は言葉にはしづらい細かい点がところどころギクシャクして、すんなり流れに乗れない。狙いがあってわざとなのか、単なる二日落ち(3日目だけど)か、インターナショナルバージョンその他の事情で稽古が足りなかったか。いつもだと同時会話の場面も意識すればその会話が聞こえるけど、今回は声が低くて聞こえない会話が何箇所かあったので、二日落ちだと推測。そんなにひどいわけではないけど、絶妙なバランスが売りの青年団だと目立つ。元家庭教師と教え子の場面はもう少し攻められたはず。

そんな中で登場人物の特徴を全開させて眼をひいたのが長女役の松田弘子。良い演技に惹かれた面もあるけど、どちらかというと自分がその役が気になる年齢になってきたのが眼をひいた理由か。重い空気になりがちな役が多いところにアクセントをつける学芸員の兵藤公美も好印象。

前回観たときに唐突過ぎて意味不明だった、別の学芸員が弁護士に突然絡む場面と「うちの館長はいい絵を手に入れるためなら金に糸目はつけないからね」という台詞。あれは、どちらも(早とちりはあっても)嘘をついていないのであれば、その美術館に昔からなじみがあった別の登場人物が1枚噛んでいるという裏設定かも、と今回思った。

翌日から3連休の夜公演のせいか、昨今の新型肺炎騒動のせいか、客入りがいまいちで左右2列ずつ当日パンフを含む配布物を置かずに空けている状態。これだけ当日券が余裕ならもう一度観たいけど、都合がついても控えがちになる昨今。あの劇場の広さと客席の規模で2時間以内なら大丈夫だろうと踏んでの見物だったけど、感想を書いている今も少し緊張している。なおこれで金曜日の夜かというくらい電車も空いていたのは、連休前なのか人口減なのか働き方改革なのか新型肺炎で旅行客が減ったのか新型肺炎で在宅勤務が流行っているのか、どれなのか。

2020年1月29日 (水)

トライストーン・エンタテイメント/トライストーン・パブリッシング主催「少女仮面」シアタートラム(若干ネタばれあり)

<2020年1月28日(火)夜>

宝塚にあこがれる少女と老婆は、宝塚の元スターが経営する地下にある喫茶店「肉体」をたずねる。おかしな客とおかしな店員にあしらわれながら、どうしても会いたいと懇願する少女を元スターは見初める。そこから繰広げられる「嵐が丘」の一節は演技指導か幻か。

唐十郎の1969年初演の岸田國士戯曲賞。女が男を演じる宝塚のお約束や、腹話術師と人形の主従関係といった「見て見ぬ振り」から、敗戦の焼け跡の記憶を「見て見ぬ振り」して地下鉄工事が進む世相を一刀両断させ、そこから満州まで話を飛ばす飛躍力はさすが元祖小劇場の唐十郎。適当なようではっとさせる台詞がたくさんあって、アングラと片付けられない説得力があるのはさすが受賞作。水道水を求める喫茶店の来店者の台詞を聞くと、野田秀樹の「パンドラの鐘」はこれが元ネタだったのではないかと思わされる。

この時代にこの脚本を選んだのは慧眼だけど、アングラ要素の多い脚本をそのまま演出してもつらいだろうし、かといって現代的に演出しすぎると脚本が死ぬ。結構頑張っていたけど、肉体と幻のほうに力点が置かれていた模様。あと、オリジナルはもっと猥雑だったであろうところ、ずいぶん上品に演出したなという感想。劇場がシアタートラムで上品さに輪が掛かったたのが惜しい。

伝説の宝塚の元スターに若村麻由美をキャスティングしたのが実にはまった1本。やけにそれっぽいので、真面目なのか笑うところなのか微妙に迷うところが「見て見ぬ振り」の脚本にはまる。もったいなかったのは腹話術師と人形を演じた武谷公雄と森田真和のパートが妙に上手なため独立したパートのように見えてしまったことで、もう少し本編に寄っていたらよかった。

ずいぶん台詞が多かったけど、これで1時間40分なのだから、昨今の長時間芝居の人たちは見習ってほしい。

2019年12月28日 (土)

世田谷シルク「青い鳥」シアタートラム

<2019年12月27日(金)夜>

クリスマスの夜の病院。入院して車椅子生活の年老いたチルチルとそのつきそいのミチル。そこにやってきた魔女が青い鳥を探せという。魔女からもらったダイヤのついた帽子をかぶったチルチルは立上がり、ミチルと、むかし会ったものたちと一緒に、青い鳥を探す旅に出かける。

ご存知メーテルリンクの青い鳥、と言いたいところだけど、探していた青い鳥が実は、というオチだけ知っていて原作未見。本来は少年少女のはずだけど、介護が必要な男性と介護する女性に置換えた、と当日パンフで断っていた。

大勢によるダンスパフォーマンス的な動きをした演技を大量に配しているのはもともとダンス畑の堀川炎ならでは。大勢登場するけど、それ以上に役が多くて、当日パンフの役名が役固定の一部役者以外はすごいことになっている。それをダンス的に動かして、全然混乱する気配がない。あれだけ動いても乱れずしかも音も出ないのは出演者みんなダンサー出身なのか。かといって台詞の大事なところもしっかり入れているので、ダンスがわからくても観られる。若干、原作読んでるだろと飛ばした気配が感じられる場面もあったけど、それでわからなくなるものでもない。

とにかく、青い鳥の原作が演出家にきちんと消化されて出来上がった舞台という感触がとても伝わる。観終わって、不思議だけどいいもの観た、という感想。「K.テンペスト」を観たときの感触に近い。観客参加型といわれてポンチョを着せられて、なんだこれはと思ったら最後の種明かしで「おお」とさせる芸の細かさ、私は気に入った。これは再演を計画してはどうかと世田谷パブリックシアターに勧めたい。

舞台は久しぶりにフラットなシアタートラム。この使い方を見たのは自分は野田秀樹「赤鬼」以来か。普段の上手下手(と一部正面)に客席を配置した挟み舞台(コの字舞台)で、細かい舞台装置はキャスター付きで都度出し入れさせて、センターに配置された上下できるカーテンで場面によって舞台を区切ったり、カーテンの開け具合で場面を変えたり、影を映したり。これらの工夫で役者が存分に動き回れるスペースを確保。オープニングでどの席もひとしく観づらい場面があると断っていたけど、かなり全方位にがんばっていたと思う。ついでに触れておくと美術の出し入れや一部演出を手伝う舞台スタッフ陣も、振付けの対象だったのか、なかなか良い感じだった。

そしてその美術を仕上げるのが照明で、客席も壁も天井も区別せず照らすことによる不思議な空間の中にいるような演出。線を出したり全体に照らしたり、スモークの炊き方も結構調整したのでは。普段の芝居ではあまり出番のない照らしかただけど、不思議な国を巡る話であり、またダンス的に演出された場面が多いから、とてもはまっていた。あれはよかった。

実はこの芝居、もともとこの日に芝居を観るつもりはなかったけど予定を変更して観る気になって、最初は他の芝居が候補だったけどそちらのチケットが厳しそうだからと変更して流れた、一番優先度の低い芝居だった。なのに観終わったらすごい満足感で、「観たいものから観る方針」なんて書いたばかりなのに大穴をひろってしまった。やっぱり芝居はふたを開けてみるまでわからない。年末を締めるのにふさわしい一本だった。

2019年12月 8日 (日)

Bunkamura/大人計画企画製作「キレイ」Bunkamuraシアターコクーン

<2019年12月7日(土)夜>

日本が3つの勢力に分かれて内戦を続けている時代。死体集めを生業にする一家に、長年誘拐されていたため記憶も知識も欠けている謎の浮浪少女ケガレが保護される。仕事を覚えて色々な人たちと関わるうちに、忘れていた過去をケガレが少しずつ思い出していく。

再々々演ということで初演以来欠かさず観てきて4度目の観劇(再々演)。最初に書いておくとスタッフワークは今回が過去最高。ビジュアル面は予算をかけたのが伝わる衣装美術照明映像に加えてプロジェクションマッピングも若干追加、音楽はオケを入れた以上に音響抜群だったのは劇場設備か音響スタッフの努力か。全方面で質が高く洗練されている。昔はチープなスタッフワークのほうがいいと思っていたこともあったけど、ここまで質が上がるとこっちのほうが絶対いい。

それもあって演出の絵作りが格段に映える。美術の構成はほぼこれまでと同じなのに、その同じ構成で同じ場面をやってこんなにキレイに見えるのかと驚いた。脚本は大筋は変わらないけどやや親切に、歌も追加されていて、役名含めて全体には整える方向で手直しされていた。初演では公演中に長期誘拐の事件が発覚して騒ぎになったけど、昨今の不穏な世情から、今回はむしろ内戦や死体集め稼業などの背景設定のほうがひょっとしてあり得る未来かもと想像させられて、脚本の深さにうならされる。

なのに感想は、役者の違和感も過去最高。ただし下手ではない。断じて下手ではない。だから観終わってからずっと理由を考えていた。以下、とりあえず思いついた仮説。

この脚本は、設定にも展開にも登場人物にも台詞にも小劇場の雰囲気が色濃く反映されている。どれだけ整えても、どれだけ世情とシンクロしても、それは消えないし、消したら別物の脚本になる。だから演出でも演技でも、小劇場の雰囲気が要求される。上手く説明できないけど、物語は物語として遊べるところではネタを仕掛けてくるある種のおふざけ精神だったり、多少強引な展開でも納得させる勢いだったり、ネタはできても真面目な演技は苦手だから頑張るような必死さだったり、そういういろいろが重なってかもし出す怪しさだったり。別な言い方をすると、演出で調整して仕上げないといけない。

だから大人計画のメンバーははまっていたけど(同じ役を経験した役者が多いこともある)、客演陣は脚本どおりのふざけた役をきっちり真面目に作り上げることで脚本と喧嘩した。出ている割合は客演陣の方が高いので、違和感の多い舞台になった。というのが仮説。自分の感想では、客演陣で健闘していたのはカスミお嬢様の鈴木杏で、脚本に真面目すぎたのは青年ハリコナの小池徹平と以外やジュッテンの岩井秀人。あとマジシャンは阿部サダヲだったけど、テンションは高くても健康的な雰囲気で、大人計画のメンバーで唯一違和感があった(もっとも、宮藤官九郎が演じたときでも違和感のあった難しい役ではある)。生田絵梨花/麻生久美子のケガレは健闘していたけど、お互いの同一人物感は前回のほうが上。

公演後半になるともう少しこなれてくるかもしれないけど、4日目6ステージ目の感想はこの通り。あと、今回は公式3時間40分、実測3時間45分で、前より延びているはず。見ていて間延びする場面はないけど、終演時間が気になる人はご注意を。

2019年11月15日 (金)

□字ック「掬う」シアタートラム

<2019年11月14日(木)夜>

父親が入院しており、ライターの娘が夫と離れて実家に泊まりこんで病院に通っている。母親はすでに離婚して家にはいないが、回復を祈願する母の奇行に巻込まれた兄夫婦はうんざりしている。叔母は介護に奮闘しているが、その娘の従妹はアイドルのコンサートのチケットが取れないことを気に病んでいる。みんな病院から引上げてはこの家に来て介護の愚痴をこぼす。そんなある日、父の知合いだという女子高生と高校時代の友人が転がり込んでくる。

劇団初見。声や音響にこだわりがありそうな印象だが、ちょっと疲れた状態で観に行ってしまったのでそれが裏目に。騒がしい場面のテンションの高さや場面転換中の音響が身体に堪える。そんな中でもこのテンションなら観られるという線を維持していたのは叔母役の千葉雅子や兄嫁役の馬渕英里何。

唐突にやってきた女子高生や友人を泊めてしまうところは演劇的な展開として受入れるとしても、家族の話といいつつ主人公の話からあまり飛ばないところが残念だし、その主人公を含めて登場人物の生活感が希薄。主人公からしてライター(小説家だったか?)の仕事をしている気配がない。何より登場人物の感情の描き方がしつこい。深いのでもなく濃いのでもなく、くどい。シアタートラムでこの値段を取るからには、より的確な台詞と適切な情報の出し方で磨き上げられた脚本を望む。

2019年11月 2日 (土)

世田谷パブリックシアター/エッチビイ企画制作「終わりのない」世田谷パブリックシアター

<2019年11月1日(金)夜>

中学生時代の「事件」から立直れず高校受験に失敗して以来、引きこもりになってしまっている悠理。両親と幼馴染と一緒に湖近くのキャンプに来たが、全員から立て続けに今後の進路を知らされて、気晴らしに湖で泳いだところを溺れてしまった、はずなのだが、目が覚めた場所はまったく見知らぬ場所だった。

オデュッセイアを原典にしたSFと言われて読んだこともないのに身構えていたけれど、終わってみればびっくりするほど直球のメッセージ。まったく見知らぬ場所に飛ばされる以上のイベントがあまりなくて、展開に緩急強弱が少なく、物語が淡々と進む。あと一応前振りはあったけど、飛ばされる設定の説明が後半に、しかも解説調で来てしまったので、若干言い訳がましく聞こえる。それで最後にメッセージが直球で来てしまうので、個人的には厳しかった。このくらい直球でないと今時は駄目なんだろうか。カーテンコールの拍手は刺さった人2に役者のファンで拍手している人3に戸惑った人5くらいの感触。

そこを役者でカバーするかというと、イキウメメンバーは抑え目、特に安井順平のくすぐりを封印して臨み、出ずっぱりの主役とその相手役に舞台経験の少ない若手を当てて、仲村トオルもバイプレーヤーになるという挑戦だらけのキャスティング。結果は村岡希美が孤軍奮闘の感。これがシアタートラムだったらまた印象は違っていたはずだけど、世田谷パブリックシアターの規模ではちょっと届いていないところが目立つ。スタッフワークが、とくに美術、照明、音響がよかっただけに、落差が目立つ。せめて演出でテンポだけでも上げられなかったか。

2019年9月19日 (木)

シス・カンパニー企画製作「死と乙女」シアタートラム

<2019年9月15日(日)昼>

独裁政権崩壊後。弁護士のジェラルドは反体制派だった実績を買われて旧政権の犯罪を調べる調査委員会の一員に任命される。その帰宅途中、タイヤがパンクして偶然通りかかった医師のロベルトに送り届けてもらう。ところがその声を聞いたジェラルドの妻ポーリーナはおびえだす。ロベルトが帰り夫婦の相談も終わった深夜、ジェラルドが調査委員会に任命されることを訊いたロベルトが戻ってきてお祝いを述べる。ジェラルドは遅いから泊まっていくように勧めるが、2人が寝静まった後にポーリーナはある行動を開始する。

ドイツ芝居だと思っていたらチリ芝居だった。チリという単語は出てこなかったけど、脚本家が独裁政権時代のチリで過ごした経験を元に書いたとのこと。雑に要約すると、かつて酷い経験をして復讐を誓っている人間が、その復讐を行なうことが次の酷い経験を生み出す状況におかれて、復讐を行なうことは是か非かという3人芝居。大人の芝居だけど若干バランスが悪い。

役者は宮沢りえが全力をぶつける仕上がりで、全力が素晴らしすぎて他の2人が負けている。あれでは2人がかりでも止められないので、そこを宮沢りえを矯めずに調整する道を探してほしかった。あとこれだけの芝居なのに演劇的爽快感にやや欠けていて、観客を結論に誘導するための演出が入っているような作為的な印象を受けた。たぶん段田安則の役作りに起因すると思う。演劇で作為的もへったくれもないのだけど、3人がぎりぎりで戦えば後は何とかなる脚本だったので、中途半端なリアリティよりもエネルギーや欲求のぶつけ合いを優先してほしかった。

散々ケチをつけているけど、観終わったらしばらく頭がぼうっとするくらいのラインは軽く超えている芝居。これで1時間半。海外の芝居は短時間で密度の濃い芝居が結構ある。今回の芝居は独裁政権崩壊という事実の前提があるけど、それにしても1時間半でここまで濃い芝居を日本で見つけるのは難しい。日本が舞台だと一見平穏な雰囲気の構築が重要だから時間がかかるというのはあるけど、それにしてももう少しこういう芝居があってもよさそうなのに。

2019年9月17日 (火)

ホリプロ/フジテレビジョン主催「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」世田谷パブリックシアター

<2019年9月14日(土)夜>

シャーロック・ホームズがワトソンとベーカー街に居を構えてから1ヶ月。スコットランドヤードのレストレード警部はホームズの才能を借りようとするが、本人からクイズを出されて追返される始末。そこに突然やってきて気絶した女性。目を覚ましてから事情を聞くと男に追われていたという。女性の話に観察結果と矛盾する点もあるのを気にしながら出かけたホームズだったが、その事件の裏には・・・。

原作の不明点を突いて架空の設定を仕立てる点、熱心なファンほどニヤニヤするように原作からいろいろ設定を借りつつホームズを知らない人でも楽しめる点、でも原作と矛盾が生じないようにつじつまを合せる点、謎解きは用意するけどそこに入りこまないで喜劇をメインに据える点、いずれも二次創作としてかくあってほしいポイントを抑える三谷幸喜の腕前はさすがファンというだけのことはある。原作を全部読んだことがある身としては満足。

そしていい役者をそろえるのも腕前のうちの三谷幸喜で、全員楽しめる。横田栄司のマイクロフト・ホームズがよかったのは事前の想像通りだったけど、八木亜希子のミセス・ワトスンがかなりよかったのは想像外だった。ハドスン夫人のはいだしょうこを差置いて歌ったりもするけど、それも(略)。むしろ柿澤勇人のシャーロック・ホームズが一番似ていないと思いながら観ていたけど、カーテンコールを観たらシャーロック・ホームズだった。いじけたり退屈したりする場面の多い役だったけど、あれはもっとシャンとした立姿の場面を多めに用意するべきだった。話としてそうなるのはやむを得ないけど、そこだけはもったいない。

チケットはいい値段だけど、いい値段分なだけきっちり楽しませてくれる。こういう芝居がもう少し増えたりロングランしてくれたりすると、客の選択肢が広がっていいのだけど、難しいか。

2019年8月25日 (日)

ワタナベエンターテインメント企画製作「絢爛とか爛漫とか」DDD青山クロスシアター

<2019年8月24日(土)夜>

大正時代。小説家と批評家の若者4人。処女作の評判がよかったものの第2作が書けなくて悩む男をよそに、他の3人は執筆も恋愛も楽しんでいる。月日が経つごとに事情が移り変わる春夏秋冬1年の様子を描く。

1993年の初演にして方々で上演を見かける有名作をようやく観劇。文学に対する態度と生活に対する態度と、それを許される環境と許されない環境、その他諸々。一言でいうと、若い。若いころでないと書けないであろう直截的な台詞の押収は会話劇というより論争劇で、だけどそれぞれの言い分がよくわかる。元ネタがありそうな作家4人の登場人物は、脚本家の頭の中で戦う分身を書き出して結論を出したような会話。ただ、その言い分が脚本家の頭の中で戦っていたんだろうなと思えてしまった一幕が微妙。後半はかなりノッてきたけど前半を取返すにはいたらず。ここからスタートしてもっと目指してほしい。

ただ観た回はそのノッてきた後半にハンデがあって、大きないびきを書いて寝ているおっさんがいた。2幕くらいからすでにうっすらいびきをかいていたけど、3幕後半から4幕ラストまでが盛大ないびきになって、特に作家、脚本家の境地を一人語りで聞かる4幕が台無しだった。届く範囲なら蹴っ飛ばしたのに、という状態。

感想は、もう一度まともな状態で見直したいのと、過去の公演をさっさと観ておくべきだったというもの。ただこの脚本は大正時代が舞台で、かつ文学論争にして創作論争なので、美術と衣装に多少手間はかかるけど、古びないのがいいところ。そのうちまた上演されるはずなのでその時もう一度観たい。あと今回男性版(モボ版)だけど女性版(モガ版)もあるようなので、そっちも観たい。とにかくもう一度まともな状態で見直したい。

2019年7月23日 (火)

世田谷パブリックシアター企画制作「チック」シアタートラム(若干ネタばれあり)

<2019年7月20日(土)昼>

父は仕事が上手くいかず浮気、母がアルコール中毒で両親の諍いが絶えないマイクは、学校でも目立たず目だった友達もいない。14歳のとき、同じ学年にチックという男子が転入してきた。特に絡むこともなかったが、夏休み前の最終日にクラスメートの女子の誕生日パーティーに誘われず一緒に帰ることに。その日は母がアルコール中毒のリハビリ施設に出かけ、父が浮気相手と旅行し、2週間は一人ですごすことに。そこへチックが「借りた」車でやってきて出かけようと誘う。なぜか車に乗ってしまったマイクだが、そこからどんどん遠くへ出かけることになるひと夏の物語。

2年前の初演の評判がよくて早くも再演された一本。ドイツの元は児童文学らしいけど、日本語の児童文学という言葉よりはもう少し上の年齢層、小学校高学年から高校生くらいがストライクとみたけど、それより上下の年齢でも十分楽しめる。旅先の出会いと友情、と片付けるにはもったいない物語。面白いだけでなく厳しい要素も入っているのが特徴で、マイクの両親に厳しい設定を当てたり、旅だけで終わらずその後始末まで描くところが今っぽい。

成功の理由はたぶん3つあって、ひとつは役者に恵まれたこと。チック役に柄本時生を当てて、ここに見た目から入れたのは大きい(笑)。終盤、裁判の説明から裁判官の説教に感じ入る場面、あれはよかった。土井ケイトのイザ役もスピンアウトするのがわかる魅力的な役づくり(リーディングまでは手が回らなかったのが残念)。ただ初演組を差置いて一番はまっていたのは今回唯一の初参加となる那須佐代子。今回マイクとチックは専任で、5人のうち他の3人が複数役を演じた中で、アル中の母親の場面は暴れる中にもいろいろな暴れ方を入れて、他の役では遊べるだけ遊んで、最後に何でも放り込む場面がいい。これまで何度か観ているけど、この人はやっぱり只者ではない。

二つ目はおそらく美術。天井のパネルがいろいろ活躍して最後もいいのはわかるけど、下は中央に四角い回転舞台、あとはシアタートラムの素舞台壁沿いにいろんなものを置いていただけ。そもそも多少の傾斜と階段があるだけの舞台を回転させるのは人力。それを回転させて何が変わるのかわからないけどいい感じになるのが不思議。美術がいいのか照明がいいのか迷うことが多いけど、今回は美術の要素が強かったと思う。劇場自体が持つ雰囲気を最大限使い切った引算の美術というべきか。最近よく名前を見かける乘峯雅寛の好調な仕事。

最後に翻訳。後で思い返して翻訳っぽくなかったことに気がついた。演出家本人の翻訳とのこと。元の話がしっかりしていたとはいえ、あれは役者と翻訳とどちらの功績が大きいのかわからない。たぶん翻訳のほうが強いはず。

あと直接関係ないけど、ロビーのポスターがスタンド・バイ・ミーとかハックルベリー・フィンの冒険とか夏の思い出とか、狙っていることに休憩時間に気がついてニヤリとしてしまった。たしか世田谷パブリックシアターはずっとポスターハリスカンパニーがポスター展示をやっていたはず。タイトルだけ知っていて中身のわからないポスターもあったので、誰か有志が解説してくれると嬉しい。

休憩を挟んで2時間45分という長さを感じさせなかった中で残念だったのは、もう少し若いときに観たかったなというのがひとつ。あと年齢層の高い客層でストライク世代が全然いなかったのがもうひとつ。中学生高校生だと部活で夏の大会の直前または真っ最中かもしれないけど、見切れのない舞台で当日券はまだいけたし、U24でチケットほぼ半額になるのでぜひ。もちろん大人でもぜひ。

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