2009年12月22日 (火)

松竹制作「十二月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

<2009年12月19日(土)夜>

野田版鼠小僧。あと2つ。

酔っているのでこんなもんで失礼。

やっぱり野田版鼠小僧のスピード感、テンポのよさは素晴らしい。初演から特に演出は変わっていないけど(他の役者をネタにした台詞はたくさん増えていた)、再演に耐えうる名作です。再演でリラックスした勘三郎、軟派から悪役まで幅広く見せる三津五郎、短めの見せ場もきっちりこなす七之助など、役者も見ごたえ十分。このテンポのよさを支える野田芝居常連のスタッフも素晴らしい。

何度も書くけど、何でこのテンポと台詞回しが歌舞伎の標準にならないんだろう。これに比べると、一幕目の引窓なんてかったるくて観ていられないし、第一何を言っているのかわからない。外国人向けにはいざ知らず、日本人向けにイヤホンガイドが必要な芝居なんてそれだけで失格だ。伝統芸能づらしているんじゃないよ。このペースで芝居ができないならそんな役者は引退しちまえ。

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2009年4月26日 (日)

松竹製作「赤い城 黒い砂」日生劇場

<2009年4月25日(土)昼>

長年に渡って争いを繰返す赤い国と黒い国。赤い国の王女と戦場で対決した黒い国の戦士2人だが、敗れて捕虜となる。その争い以降、新しい兵器を導入して黒い国を圧倒した赤い国の王族に近づくひとりの男があった。

どこまでがシェイクスピアでどこまでが翻案なのかわかりませんが、ところどころの展開でシェイクスピアっぽさを感じさせなくもない脚本。役者の力不足がもったいない一本。

有名でない話でも伝わりやすいのは衣装の分かりやすさのお手柄。新感線に慣れて地味な殺陣に耐えられない自分でも楽しめる殺陣になっていたのは生パーカッションのおかげで、あれは良い発案なのでぜひ他でも真似して欲しい。

だけど役者が今ひとつ。片岡愛之助の戦士と黒木メイサの王女が結構大きな割合を占めるのですが、前者は格好よさとか野心などのシェイクスピア芝居に欠かせない要素が足りず、後者は華があっても演技が安定せず殺陣がいまいちなのも「あずみ」で観て以来かわらず。もう一方の主人公である中村獅童は遊びがすぎるしリズムが悪い。せめて誰か一人は実力十分の役者を混ぜればよかったのに。

その分脇で頑張っていたのは女王の姉である馬渕英俚可で、喜怒哀楽から意地悪まで、ひとつの出番の間に何度も切換えてしかもやり過ぎない演技で、正直出番を一番期待しました。あとは王の中山仁とか商人の中嶋しゅうもよいですね。2回目のカーテンコールにこの人たちが出てこなかったのは不満です。獅童と愛之助は引っ込んでいなさい。

一般小劇場の芝居に比べればずい分派手ではあったのですが、それでも新感線だったらどうだったかな、と想像しながら観てしまいました。

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2008年12月13日 (土)

俳優座劇場プロデュース「空(ソラ)の定義」俳優座劇場

<2008年12月12日(金)夜>

喫茶店を経営する父と、医者の娘。母は娘が2歳の時にいなくなった。娘は念願の留学が実現しそうだが、ちょうど妊娠し、同じく医者の夫と意見が食い違っている。というタイミングでいろいろな出来事が重なったある日の話。

青木豪脚本。表テーマに結婚の話を用意して、裏テーマに60年安保の政治活動を見せる。やや御都合な出来事を織交ぜつつ、かついかにも青木豪と言えなくもないけど、そこは上手に展開させつつ鋭い台詞をさらっと混ぜて、とてもよいお話。佳作です。

結婚生活に関する近頃の話と安保がつながるのかと思うんですけど、きれいにつながっていました。展開としてもそうなんですけど、メッセージというか、時間のつながりというか、それがとても腑に落ちた。いかにも安保な台詞もでてきますけど、それが本来のメッセージを引立てるスパイスだということがよくわかる。

並居るベテランを従えて松永玲子が主演だったけど、鮮やかに切替わる感情、目まぐるしく変わる表情、絶妙の声のトーン、一人勝ちになってもおかしくない素晴らしい仕上がりでした。同じ土俵に乗らずに自分の役を通した名取幸政や中嶋しゅうで、バランスが取れていました。普段だと縁の遠いベテラン俳優をこういうよい芝居で観られて幸せです。

それにしても結婚の話、この前の三谷幸喜もそうだったし、今度のKERA・MAPもそうだし、世の中そんなに結婚生活がやばいのか。世の中の変化に人間が追いついていないのか。

チケット半額デーだけでもありがたいのに、いい席が取れたので表情までじっくり堪能できて満足です。ひとつだけわからなかったのは客席の反応で、ここで笑うかという場面でも笑い声が聞こえたりして、なんというか、新鮮な客層でした。

あと、俳優座劇場の素っ気ない公演紹介ページはあんまりでしょう。改良を求む。

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2008年8月11日 (月)

松竹製作「八月納涼大歌舞伎 第三部 野田版愛陀姫」歌舞伎座

<2008年8月10日(日)夜>

戦国時代の美濃の国。領主齋藤道三の娘である濃姫は武将の木村駄目助座衛門に思いを寄せ、駄目助座衛門は濃姫の侍女であり隣国尾張出身の愛陀と相思の仲であるが、それは二人とも濃姫には内緒である。美濃が尾張から攻込まれて軍の総大将を決める必要が出た日、祈祷師にお告げを伺って決めようとする道三の性格を利用して駄目助座衛門を総大将に任命させるべく、濃姫は城下で評判の、しかし詐欺師の祈祷師と組んで、駄目助座衛門を総大将に就けることに成功する。戦には勝ったが、捕虜として捕らえられたのは愛陀の父にして尾張の領主である織田信秀。しかも愛陀と駄目助座衛門との想いが濃姫の知るところとなり・・・。

オペラの「アイーダ」が原作だそうですが、そちらは名前しか知りませんのでどの程度原作に忠実かはわからず。一部の名前をふざけているにも関わらず、堂々たる愛の物語を、戦国時代を舞台に違和感なく上演しています。歌はなくても十分面白い話で、史実の取入れ具合も含めて、よくできています。これを1時間20分で終わらせるというのだから、野田秀樹の演出のスピーディーさがわかります(第三部前半の「紅葉狩」は1時間5分しかなかったことが信じられないくらい遅く感じたのに)。

言葉遊びや節目の独白や最後のちょっといい長台詞(笑)は野田秀樹らしい脚本。派手な動きは映像(今回は映像も使ったんですよ)にまかせて、台詞回しも極力普通っぽいまま、いかに役者に物語と演技に集中してもらうかに力点を置いた演出ですが、それが役者の実力を引出すのに功を奏しています。

七之助の愛陀姫なんて本当の女性みたいでした。詐欺祈祷師の2人の、前半と後半の差もよかったですね。他もよかったのですけど、勘三郎だけちとキャスティングがきつかったかも(苦笑)。まあ、今までは勘三郎が主役だったから、今回は他の人の見せ場もたくさんあってよかったのではないかと。

場面転換の多い美術はがんばっていましたが、途中で壁が倒れそうになるアクシデントが何度もあり、ちともったいなかったです。最後の場面の小道具?のアイディア(観てのお楽しみ)はシンプルだけどよかったですね。

ま、時間に余裕があれば観ておいて損はありません。ということで自分は観てしまったので心を広くもって(笑)、当日券情報を。

  • 前売は売切れていても、1階席(上手桟敷席前の通路 + 通路上手側の約15枚くらい:一等席と同額)と2階席(一番後ろの24枚だったかな?:6000円)に補助席の第三部通しの当日券があります。幕見で並ぶのが面倒で余裕のある人はどうぞ。これは朝から売っているので勘違いで買い逃しのないように。
  • 前半の紅葉狩も含めて花道をほとんど使わないので、距離と頭上の圧迫感が気にならない人なら2階補助席でも十分です(ちなみに今回はそこで観ました)。
  • 17時半ごろで、幕見にはざっと60人くらいが並んでいました。日によってはもっと増えると思います。2日目からそれなりに仕上がっていますので、リピーターや様子見していた人の参戦による混雑が予想される後半より、前半でさっさと観たほうがいいかと。
  • 当日券の残り具合を、電話で問合せれば教えてくれます(ちゃんとHPに書いてあります)。全部自前でチケット販売している松竹ならではのサービスですね。便利です。

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2008年4月30日 (水)

東宝製作「ラ・マンチャの男」帝国劇場

<2008年4月29日(火)夜>

宗教裁判が横行する16世紀のスペイン。教会を侮辱した容疑で投獄された詩人のセルバンテスとその従者。牢名主に品定めの牢内裁判を開かれたセルバンテスは、自分の抗弁の代わりに即興劇「ラ・マンチャの男」を、囚人たちも巻きこんで上演する。年老いてなお読書が過ぎたため、ついには自分を騎士ドン・キホーテと思い込み旅を続ける男と従者の運命や如何に。

これも名前は聞いたことがあっても詳細は全く知らない芝居。ドン・キホーテは劇中劇だったことを初めて知った。見所が点在して途中は眠たくなったけど、最後は泣きそうになった。いい脚本です。ただし公式ページのストーリー解説は詳しすぎるので事前には見ないほうが無難。

朗々としゃべるけど音(おん)を重視しすぎて不自然な松本幸四郎は、正直いまいちでした。本編?である牢獄内の場面や、風車に向かう有名な場面などをあっさり終わらせすぎて、演出の強弱も不満。

その分を補って余りあるくらい松たか子がとてもよい出来で、あばずれ女と呼ぶほどではないのですが、強気で正直な女がはまっておりました。喧嘩の場面もきれいな立回りで、新感線の「メタル・マクベス」以来のできです。松たか子は暗い要素のある役だと魅力が出てくるようです。

夢は稔り難く
敵は数多なりとも
胸に悲しみを秘めて
我は勇みて行かん

よい歌詞です。それだけに「仕上がりがもったいない」という感想になってしまいます。2階席だったのですが、劇場が広すぎたのも物足りなさを助長していました。松尾スズキの演出、主演で、松たか子が大人計画に客演して、シアターコクーンで上演したらさぞかし面白いと思うのですが。

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2007年12月15日 (土)

東宝製作「恐れを知らぬ川上音二郎一座」シアタークリエ

<2007年12月11日(火)夜>

紆余曲折を経て役者になり一座を旗揚した川上音二郎。日本で興行を失敗して一座が解散となった彼は、新しい座員を募集してアメリカ公演を強行する。最初に公演を行なったサンフランシスコでこそ人気を博したが、売上を持逃げされてから苦難の連続。ようやくボストンで劇場を確保したが、今度は座員がストライキを起こす。起死回生の策として隣の劇場で人気の「ベニスの商人」を、ストライキに加わらなかった座員と、役者の素人だけで上演しようとする。

派手なキャスティングと万全のスタッフで臨んだシアタークリエの柿落とし。でも結果は、面白いけど値段に見合わない仕上がりとなりました。

何しろ実力派の揃った舞台なので、三谷幸喜は全員に見せ場を作るのですが、それがかえって冗長になってしまいます。

脇が達者なのは三谷作品の特徴ですが、今回も戸田恵子、今井朋彦、堺雅人は舞台を締めます。さらに飛び道具を最大限活用した瀬戸カトリーヌと堀内敬子には笑わせていただきました。残念だったのは主役の3人で、ユースケ・サンタマリアは上手いけれど地味で疲れ気味、常盤貴子は残念ながら下手、堺正章は上手いけれど声が枯れていてしかも一人だけ遅いリズムでの演技でした。

それにしても柿落としに合わせてそれにふさわしい、劇場を舞台にした作品を出してくるところは、三谷幸喜の制作面でのサービス精神は抜群であります。劇中劇やその練習の場面が特にいいです。

役者のファンならお勧め、そうでなければお金と時間次第、といったところでしょうか。

最後に新劇場のメモを2つ。一つ目は当日券。キャンセル待ちで30枚ほど出ていたが、最後の数名はおそらく買えていない。電話予約はぴあだが、購入時に身分証明証の提示が必要。窓口は2箇所で捌くも、チケット予約はコンピュータで順番に処理するので結局は並ぶ。2つ目は劇場。客席はまったく新しさを感じ「させない」シンプルな設計だが見易さは後ろの席でも容易。パルコ劇場を横に広げたイメージ。収容人数の割にロビーが狭い。廊下に段差が多数あったり、ボックス席の一部は客席を横切らないとたどり着けない。客席にスペースを割いてロビーや廊下を犠牲にした模様。その代わり休憩時間中なら客席内で飲食可能(ロビーにいたスタッフに確認)。

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2007年5月 3日 (木)

こまつ座「紙屋町さくらホテル」俳優座劇場(ネタばれあり)

<2007年5月2日(水)夜>

戦争中、観光客の減少に伴って、軍の慰問劇団兼稽古場に衣替えしたホテルでは、東京から有名俳優と有名女優を招いて入団審査中。ホテルの女主人はアメリカ帰りの日系人であるため、特高から監視されている。そこへやってきた薬の行商人は、宿泊と引換に入団することになる。実はこの行商人は、天皇陛下からの密命を受けて全国の陸軍施設の現状を隠密調査している海軍大将だった。その大将を尾行していた陸軍の密偵も、行きがかりで入団することになる。全員で3日後の芝居上演を目指すためにいろいろな騒動が起きる、昭和20年5月の広島。

劇中稽古に歌を絡めて、本当の演技指導まで取入れつつ、戦争へのメッセージを織交ぜるという面倒くさい構成をすっきり見せる、非常に良く出来た脚本。3ヵ月後はチラ見せだけで観客の想像に任せているのがよい。

戦争で苦労するのはいつも下っ端で(*)、戦争なんてやるもんじゃないし、戦時中の国家も勝手なことばっかり、守る国民を犠牲にしてとはどういう了見だ、だいたいどこにそんな物資を隠し持っているんだ、というメッセージはまあその通り。

私が食いついたのは「国民の被害が拡がったのは、終戦の決断を陛下に促さなかった私にも上層部の一員として責任がある(大意)」という海軍大将(辻萬長)の台詞。国を会社に、天皇陛下を社長に見立てれば、完敗(倒産)したのはトップの責任だろう、という翻訳をすると、井上ひさしの政治的意見も理解しやすいのではないかと。天皇機関説というか、天皇陛下社長(会長?)説、ですね(**)。なんでこんな見立てを行なったかというと、サラリーマンをそこそこやっていると、組織の長の責任というものにいろいろ言いたいことが(略)。

それよりも注目なのが、いろいろな演技指導や新劇初期の話。なんか残しておきたいと脚本家が思ったんでしょうか。前半終盤の稽古場面は相当面白い。名前を呼びかける場面は、役者の実力を試されているみたい。いろいろ説明される舞台関係者も実名ばかりで、特に築地小劇場の3人については、今回の会場である俳優座劇場に写真が飾ってあるという縁も。

役者(「俳優だ!」)は有名俳優役の木場勝己がいち押し。辻萬長、栗田桃子が続く。陸軍密偵役の河野洋一郎は現在場面がいまいち。有名女優役の森奈みはるは歌声が出ていない。言語学者役の久保酎吉は、手帳の長台詞が迫ってこなかったのが残念(他はよかったのに)。軍の現状を劇団に例えて説明する場面は会場の反応はいまいちだったけど、私は内心爆笑。

何度も上演されるだけの出来です。全員の紹介が終わる前半の前半までは遅いけど、残り4分の3はお勧め。今回は当日券は補助席のみ。多分最大でも15席くらいのはず。

チラシには前回公演のこちら方の感想が載っていました。こちらの方は今回も観たようです(ひょっとして同じ回だったのかも)。ブログからの引用とは最近の事情を反映しているな、掲載許可の連絡はあったのかな、と内容とは無関係なところに発想がすぐ飛ぶ今日この頃。

*:下っ端というのは見下した意味では使っているわけではない。為念。

**:芝居に政治が持込まれるのが私は嫌い。ここは芝居サイトなので、政治については論じない。純粋に、私が会社で(略)な連想が働いて、その副産物として拒否反応が少なく済んだ、ということ。為念。

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2007年1月 9日 (火)

松竹製作「朧の森に棲む鬼」新橋演舞場

<2007年1月6日(土)夜>

口先は天下一品だが喧嘩には弱い男。その口先を駆使して欲望のままに生きてきた男だが、迷い込んだ朧の森で鬼と契約し、朧の剣を手に入れる。直後に出会った武将を朧の剣で倒したことをきっかけとして、男は自分が王になるという野望を抱く。その野望を叶えるべく、武将の国に赴き、王や武将の妻に取入っていく。

いのうえ歌舞伎の松竹協力版。染五郎を主役に、新感線のメンバーや豪華なゲストを配役。徹底的に悪い男を主人公にするというのは、これまでの新感線を考えるとちょっと珍しい。

役者では主人公の弟分の阿部サダヲと、武将の妻の秋山菜津子が絶品な仕上がり。古田新太は盗賊団の頭領だが、いつにない役どころでむしろ新鮮。

ただ、肝心の主人公である染五郎が、悪人役をこなしきれていない。悪い男の凄みが感じられない。この人は格好いいが、二枚目よりは三枚目のほうが似合っている気がする。脚本がよく、周りのレベルも高いだけに、もったいない。

そうはいっても全体としては大満足。当日券でものすごくいい席が取れたので、チケットのない人も挑戦してみては如何。

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