2009年11月 1日 (日)

新国立劇場主催「ヘンリー六世(第一部、第二部、第三部)」新国立劇場中劇場

<2009年10月31日(土)一日中>

王座を目指した権力欲に取付かれた馬鹿共と、その巻添えで名誉を守って死んでゆく人たち。または「お前が言うな」の繰返し。

三部作一挙上演で、しかも重厚な役者が揃っていて、これは見逃せない。いろいろ考えて、当日券で苦労の末、首尾よくチケット取得。さすがスケールの大きさは別格で、観られてよかった。

三部揃うと、ある部の喧嘩が次で戦いになったり、この部の展開は前の部の出来事のためだったりするのがよくわかります。似たような名前が多く出てくるけど、それも順番に登場してくれるので、混乱も少ないです。笑ったり失笑したりする場面もそれなりにあって、肩がこる心配はありません。

どの部も独立しているけど、つながりを観るならやはり第一部から順に観た方がよいです。ちなみに第三部の後はさらに「リチャード三世」に繋がるのが順番ですが、今回でようやくリチャード三世のバックグラウンドや家系もわかりました。というか、ここまできたら「リチャード三世」も同時上演してほしいところです。

登場する役者は、台詞回しと声の張りが命の新劇ベテラン陣が中心。演技ももちろんいいけど、台詞を聴いていて非常に心地よいです。全員は挙げられないけど、それでも挙げずにはいられません。誰がいいかは人によるだろうけど、第一部の木場勝己と鈴木慎平、第二部の村井国夫と中嶋しゅうと久野綾希子と関戸将志、第三部の今井朋彦と岡本健一、そして三部を通して浦井健治と中嶋朋子がとてもよかった。

最高に素っ気ない舞台を照明で変化させて、現代の軍服を意識した衣装を多めに投入。王位を巡る争いの不毛さに、今の戦争の不毛さを連想させるのは予想の範囲内。ところが三部連続で(チケット購入から数えて)12時間も経つと、本当にずうっと戦いばかりが続くので、最後には「まだやってんのかよ不毛だな」と心の底から思えるようになるというおまけがつきます(笑)。だから冒頭のような粗筋になったのですが。あと、フランス人を馬鹿にしすぎではないでしょうか(笑)。あれが脚本に忠実だとしたら、昔からイギリスとフランスは仲が悪かったという証拠にできるくらいです。

ただですね、殺陣が緩いのはしょうがないとしても、選曲がダメダメでした。木場勝己がさらう第一部はまだ気にならないとして、第二部全部と、第三部前半は、まったりしすぎでぜんぜん乗れません。音楽で訴えかけるセンスに関しては、いのうえひでのり(今日見かけました)とか蜷川幸雄に完敗です。もったいない。

それを差引いても観る価値があると私は思いますが、落ちている人も見かけましたので、不安な人はやはり第一部から観ると、話がわかりやすくなっていいと思います。個人的には、予備知識の無い人が第二部をいきなり観ると、経緯と名前がすんなり入らないのではないかと思われます。第三部はむしろそうでもない。

当日券ですが、第一部は完売のキャンセル待ち(遅れたもので)、第二部はZ席が昼まで残っていてその後キャンセル数枚、第三部はほぼ全席種で大丈夫でした。どうやら通しで買っても座席は同じにならないようです。あと、舞台が客席側に張出しているので、1階席ならどこからでも円形劇場状態で距離は近くなるのですが、上手に池があり、そのせいでアクティングエリアまで距離が遠くなります。センターが一番なのですが、上手と下手で選ぶ必要があるなら下手をお勧めします。

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2009年9月 6日 (日)

演劇集団キャラメルボックス「さよならノーチラス号」紀伊国屋サザンシアター

<2009年9月5日(土)夜>

家業の倒産により夜逃げとなった家族。夜逃先が債権者に知られないようにと親戚の家に残された小学生の三男は、夏休みになって初めて自動車整備工場の2階を借りていた家族に会いにいく。友だちもいない環境で夏休みの宿題を片付けていたある日、整備工場の社長と「客」が話す会話を耳にしてしまう。

初演を観ていたにもかかわらずまったく内容を覚えていなくて、その点では新鮮に観られました。よくも悪くも、キャラメルボックスの芝居でした。その割には三分の二くらいは素直に観られて、思ったよりも楽しめたかな。私にとっては初演が初キャラメルボックスだったんですよね。内容は忘れても、主題歌の音楽だけは覚えていました。音楽の力はすごい。ちょっと音が割れていた気がするけど。

伏線張りでひたすら進める話が急激に転がる終盤が見所のひとつなんですが、その転がった話があっけなく収束するのもがっかりな点。そこはもっとぐちゃぐちゃになるよねー、とか嫌味を言うくらいなら観てはいけない。甘くないキャラメルはキャラメルではない。

役者もあの演技のトーンが揃っているけど、それでも客演の2人がいるおかげでいくばくかの安らぎが。あと坂口理恵は好演で、初演の印象も好演だったことを思い出しました。主人公の多田直人も比較的素直な演技でよかったです。しかし中学生3人組は、見た目はよいのですが、あの演技は受付けなかった、今の私には無理。

まあ懐かしさから観に行って、懐かしさの分だけ楽しめたので個人的にはよし。大阪公演がひどいそうなので、関西方面で興味のある人は当日半額券でふらっと行ってみてもいいかもしれません。

あと、当日券の受付についていい意味での一言があるんですけど、それは別エントリーで。

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2009年6月15日 (月)

新国立劇場主催「夏の夜の夢」新国立劇場中劇場

<2009年6月14日(日)昼>

だいぶ前のアテネ。貴族の娘ハーミアは、親が決めた婚約者ディミートリアスとの結婚が不満で、相思相愛のライサンダーと駆落ちする。それを事前に打明けた幼馴染のヘレナは、実はディミートリアスに夢中で、駆落ちのことを話してしまう。やがて4人がやってきた森の中では、妖精の王と王妃が喧嘩の真っ最中。さらに芝居の練習にやってきた素人役者たちが妖精に見つかってしまい、どうなることやら。

名前は有名でも今まで観たことがなかったシェークスピア作品を東京千秋楽に滑りこみで。後藤ひろひとが素直に書いたような(笑)、予定調和の王道ともいうべきドタバタ喜劇、面白かったです。本当です。

妖精の王と王妃が村井国夫と麻美れいって、苦しいんじゃないかと予想していましたが、ぜーんぜんそんなことない。王と王妃の威厳に、子供っぽさを足して、非常に生き生きとした2人でした。4人組は、正直もう少しリズムがいいとよかったのですが、小山萌子を中心に笑いもとって、なかなかよろしいです。素人役者の職人も、妖精たちのダンスや歌も、行届いた演技でよかったのですが、なんといっても妖精パックのチョウソンハが噂どおりの素晴らしさで、いたずら好きとはこういうことかというはしゃぎっぷりで、これはもう観ないとわからない素晴らしさです。バンドメンバーまで羽根を付ける細かさも含めて、全体に、とても雰囲気のよさを感じるカンパニーです。

シルエットで訴える美術+照明とか、違和感を感じさせない妖精の羽根とか、こういうの普段あまり観かけないけどいいなー、と思ったら、外国人スタッフも含めたスタッフワークになっていました。いい悪いではないんですけど、何なんでしょうね、この違いは。

3時間20分は長いけど、苦にならない仕上がり。国立の威力でチケット価格も控えめ。それだけに腹が立つのは、千秋楽ですらS席からZ席まで全席種で空席を作った新国立劇場の営業力(またはやる気、またはその両方)のなさ。再演でそれなりに計算もできたはずなのに、あれは役者やスタッフに失礼だ。おかげで駆けこみでも当日券で観られたんですけど、それとこれとは話が別です。

シェイクスピア初心者にこそお勧めしたかったんですが、残念ながら東京は終わってしまいました。次の機会を願ってください。

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2009年2月22日 (日)

ポツドール「愛の渦」THEATER/TOPS

<2009年2月21日(土)夜>

「サークル」による乱交パーティーが夜な夜な行なわれる、とあるマンションの一室。たまたま初めて乱交パーティーに参加するメンバーが揃ってしまったある晩の話。

ポツドール初見。岸田國士賞を受賞した作品の再演。途中からバスタオル一丁で通しますし、たまに出したりしてますし、セックス場面も少々登場しますけど、個人的にはエロさは薄めという感想。でも(だからこそ?)面白いです。

見た目から判断した性格と実際、普段の生活、序列の絶え間ない変化、自己評価の高低、など登場人物の見えない部分にどれだけ妄想をたくましくできるかが面白さを左右します。セックスという飾りたくても飾れない状況を用意して、登場人物の内面を描くのが目的なので、妄想したもの勝ちです。個人的には自己評価の高低が興味深かったです。が、台詞だけを追ってはダメで、目線のパスとか小道具とかを拾う必要があります。声で芝居を観る(聴く?)私は最初そのことに気がつかず、前半はだいぶシグナルを見落とした気分です。これから観る人はそこらへんも注意して観察しておきましょう。

役者は安定して観られましたが、当日パンフだけ読んでも役者と登場人物がなかなか一致しません。ひょっとして初見の役者ばかりかもしれませんが、小劇場も探せば名手がいるものです。たぶん合っている範囲でいうと、気をつかうところからぶった切るところまで女性陣で中心を担っていた内田慈と、いろいろこなす店員の脇坂圭一郎はよかったですね。

とてもよく出来ていたのですが、とてもよく出来すぎていて若干ライブ感に乏しい印象を受けました。これは多分公演後半でこなれてくるでしょう。あと当日券の席では見切れがいくつかありました。細かいところでは季節と日の出の時間とか。まあ挙げていったらきりがない。でも音楽と映像は、客席の無用の緊張をほぐすためだとは思いますが、もっとエロい方向に振ってもよかったのではないでしょうか。完全に好みの問題ですけど。

THEATER/TOPSの閉館に当たっては、よい演目をロングランで用意できたのではないでしょうか。エロ即却下というのでもない限り、観に行ってもよいと思います。当日券は今のところそれなりに用意されていました。

余談。これは舞台で観ないと面白さがわからない種類の話だと思うのですけど、これに脚本で賞をあげた選考委員はすごいです。読む人が読めばわかるんでしょうか。

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2009年2月 1日 (日)

オリガト・プラスティコ「しとやかな獣」紀伊国屋ホール

<2009年1月31日(土)夜>

昭和の高度成長期。他人の金にたかりながら人並以上の生活を続ける一家。その一家の息子が会社の金を使い込んだらしく、社長が両親を訪ねるところから始まる物語。

原作は新藤兼人脚本の邦画。映画は観たことがないけど、特に手を入れたと思しき場面はなかったので、それなりに原作に忠実なんじゃないでしょうか。この上演時間でもこれだけ起承転結が出せるなら、普段の芝居も短かくしてほしい(笑)KERA演出。

出てくる犯罪とか、お妾さんにある意味大らかな点とか、全体に昭和の古さはあるのですが、脚本は今でも面白い。かといって無邪気に笑うようでは想像力が足りないと言われてもしょうがない、やっぱりブラックコメディーです。過去にも舞台化されたとのことですが、いかにも舞台向きです。

緒川たまきとか大河内浩とか佐藤誓とか広岡由里子とか、台詞を自分のものにしていたメンバーに対して、浅野和之とか近藤公園とか、台詞に負けていたメンバーが混在していたのがもったいない。

私にとっては1時間45分でもこれだけの内容が詰込めるということを再認識させてくれた点で価値ある芝居。来週平日はe+の得チケが出ていたはずなので、それで観るとお得感が感じられていいと思います。

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2008年12月 7日 (日)

新国立劇場主催「舞台は夢 イリュージョン・コミック」新国立劇場中劇場

<2008年12月6日(土)夜>

行方不明の息子の消息を知るために、魔術師の元を訪ねた老父。魔術師は老父の願いを聞き入れて、息子の消息を目の前で再現してみせる。行方不明だった息子は紆余曲折を経て貴族の娘と恋に落ちて・・・。

フランスの古典脚本に、豪華な役者を集めて、芸術監督が演出した、新国立劇場気合の1本。ですが、非常に普通の仕上がりになったのがもったいない1本でもあります。

古典「喜劇」なので、やりようによってはいくらでも面白くできるはずなのですが、本筋の恋物語をものすごく堅い演出でまとめてしまったので、なんというか、喜劇にならない。劇中劇の構造なのでそちらを生かすようにしたかったのかと推測しますが、高田聖子がいろいろやって、後半の堤真一が軽めに仕上げて、一回だけ秋山奈津子が飛蹴りを披露して、しかもそれが成立していたのを観ると、これを松尾スズキが演出したらどうなっていたことかと残念でなりません。

この公演は席種によっても印象が変わると思いますが、A席から観た感想では、正面寄りの演出になっていたので、A席以外のほうがいいかもしれません。ちなみに、サイドでも見切れはほとんどなさそうなので、B席やZ席だとコストパフォーマンスが高いです。当日券でも売残っていましたのでこれから観る人はそちらを狙うのもありです。役者については秋山奈津子の全力投球と堤真一の口説き文句と健気な高田聖子と、とにかくいろいろ観られますので、私が言うほど芝居は悪い仕上がりではないですよ。むしろ役者の出来は素晴らしい。昼間に三谷幸喜を観たというタイミングの悪さが大きいです。

今回ひとつ収穫だったのはその席種で、もともと広い中劇場を、舞台を中央に持ってくることで狭く見せた使い方。2階席も禁止しているので、広めの青山円形劇場みたいで、どの席からでも非常に観やすいし、舞台との距離もそれなりに近いです。新国立劇場の公演は客の入りが悪いという噂もありますのでそれを防ぐためという可能性もありますが、災い転じてこれだけ演劇向けの舞台が組めるなら、今後もっとやりようがあると思います。ただ、マイクを使っていたせいか今回はたまに台詞が反響していて聞きづらかったです。あの役者陣なら演出にすらマイク不要だと思うのですが。大劇場(オペラ劇場)も台詞が反射していたので、劇場の構造のせいかもしれない。

唐突ですが、囲み舞台でも臨場感あふれるこんな芝居を観るにつけ、やっぱりシアターコクーンはよく出来た劇場だよなと思います。

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2008年7月27日 (日)

劇団☆新感線「五右衛門ロック」新宿コマ劇場

<2008年7月26日(土)昼>

豊臣秀吉を相手に盗みを働いて、釜茹の刑にされるところを逃げきった石川五右衛門。その五右衛門を助けたお竜が持込んだのが、月生石という貴重な石がたくさん埋蔵されているというタタラ島での盗み。誘いに乗ったはいいが、移動の船が嵐にあって難破してしまう。なんとかタタラ島にたどり着いた五右衛門が見たものは・・・。

2008年夏興行と銘打ったSHINKANSEN☆RXシリーズ。フルメンバーに豪華なゲストを迎えて、チャンバラあり、笑いあり、涙もなくはない、3時間半の一大芝居です。主要メンバーの顔見せが済むまでの前半1時間くらいがやや間延びするんですが、その後の展開が、ぐいぐい引込まれる面白さです。

ばれても差支えない範囲でちょっと書くだけでも、森山未來と川平慈英とのタップダンス競演とか、松雪泰子と高田聖子の女の対決とか、白波五人男風の口上とか、盛上がりどころ満載です。最後はスタンディングオベーションで、もう盛上がりすぎ。

とにかく役付きの役者が光っていたんですが、最近舞台づいている江口洋介とか、改めて見直した松雪泰子とか、いいですよね。一番よかったのは、出番が遅かったけど、高田聖子かな(カーテンコールでは笑顔がものすごくきれいだった)。古田新太は主役の割に出番が少なくて、しかも省エネモードっぽかったですけど(笑)、古田新太が目立たない舞台というのは周りのレベルが高い証拠で、結構なことです。

で、スタッフを見たら、限りなく蜷川芝居に近づいていました。結局このくらい大掛かりな芝居をやるためには、定番のスタッフになってしまうんでしょうか。今回の内容に文句はありませんが、贅沢をいえば大掛かりな芝居をうつ劇団には、大掛かりな芝居も勤まるスタッフの発掘もお願いしたいところです。途中で出てくるXXX(ネタばれ自粛)の衣装がよかったな。

で、芝居自体には文句がないんですが、S席がなかったので、うっかりA席を取ったら、おそらく劇場で一番観難い席でした。コマ劇場は初めてだったのですが、あんなに観やすい劇場だとわかっていれば、B席を選んだ方がお得でした。A席は見切れが多いのと、美術のよさが伝わらないのと、音響が体の横を通り過ぎて台詞が聞き取れないのと、とにかく残念だらけの席でした。

あとは当日券について。

  • 3時間半前に並んでもキャンセル待ちってのは人気公演すぎというか、当日券枚数少なすぎ。まあこの面子では全日程満員御礼で予算は組んでいるだろうから、それはしょうがない。
  • 約XX枚と看板に書かれた枚数も、どうも日によってだいぶ違いがありそう。
  • これは文句だけど、キャンセル待ちも一定枚数しか発行しないなら、最初から列をあそこまで長くしないで、大人計画みたいに一定数以上は並ぶのも切ってしまえばいいじゃないかと思う。
  • これも文句だけど、当日券整理にスタッフを、せめて一人は張りつけておけ。放置プレイはないだろう。「お一人様2枚まで」とはいえ、割込み上等な列は嬉しくないぞ。
  • 東京公演は千秋楽に限り、抽選方式を採用しています。早い者勝ちではないのでご注意ください。

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2008年4月 7日 (月)

the company「バーム・イン・ギリヤド」シアターモリエール

<2008年4月6日(日)昼>

ギャングや娼婦がたむろするニューヨークのあるダイナー(食堂)。かつて姉が常連だったこの店を訪ねてきたガーリーンは、やはりこの店の常連であるジョーと出会い、引かれあう。そんな2人の周りで起きるある秋の物語。

tptから発足したthe companyの実質旗揚公演。オフ・ブロードウェイと銘打ってシアターモリエールに30人の役者を詰込んでの上演。最前列の席が取れたのですけど、とにかくエネルギーがすごい。数は力なり(笑)。決して遅刻してはいけません。

複雑なお約束が存在するアクティングエリアを駆使して、同時に会話を進めたり、役者をそのまま転がしておいたりすることで、荒んだ日常が段々と明らかになってきます。そこで描かれるのは、エネルギーはあっても明日への希望を持てない若者で、それを閉塞感が強まっている今の日本で上演するあたり、脚本選びのセンスがいいです。一応主人公らしき2人はいるのですが、基本的にはそれぞれの登場人物が、それぞれの絶望を背負っており、その点ではどの登場人物の間にも上下はありません。エンディングの台詞にどんな感想を抱くか、そこは観た人それぞれのお楽しみ。

演出は客とのコミュニケーションをとりつつ、大勢の役者がいる迫力を利用しており、蜷川幸雄を想像できなくもない。ただこちらのほうが、どことなく洗練されているというか(笑)、荒んだ日常といいつつ熱い志のようなものが感じられるのは、役者が若くて真面目なせいでしょうか。名前も知らない人のほうが多かったですけど、みな上手でした。携帯電話の注意その他、客とのコミュニケーションを一番とっていた役者が気になったんですが、配役表を読んでも誰だかわかりません(苦笑)。どなたか御教授を。ただ、主人公の2人(パク・ソヒと宮光真理子)はいただけない。他がよい分だけよけいに目立つ。これから楽日までにどれだけ化けるかで芝居の質が変わる。

スタッフはtpt譲りの贅沢な布陣。この規模でこのスタッフってすごいことですよ。安心して観られます。

できれば引いた席からもう一度観たいのですが、それは無理なので諦めます。次回はグリングの青木豪が書下ろす脚本を世田谷パブリックシアターで上演です。楽しみすぎます。

その他細かい点。
・当日パンフに挟まっているあらすじ説明が、あらすじでなくネタばれになっています。事前に読まないほうが吉。私はこちらで事前に確認していたので助かりました。
・舞台上で煙草をたくさん吸っているのですが、客席に煙がこないようにエアコンの向きを調整していました。最前列でも臭いはほぼゼロ。この気配りは煙草が出てくる他の芝居でも見習ってほしい(* ひょっとして特別な煙草なのかもしれない)。
・公式ページで客席の空き具合を掲載していますのでこれから観に行く人は参考にしてください。しかも終わった公演は速やかに印を変更しています。さすがゴーチブラザーズの制作。これはもっといろんな劇団が実践してもいいと思うんですけど。
・ホームページではいきなりTシャツを売っています。観に行けなかった人も、買いそびれた人も買えます。これをがめついと言うなかれ。絶対に黒字にしてやるという執念を感じます。ここらへんの商売上手もさすがゴーチブラザーズ。

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2008年3月24日 (月)

二兎社「歌わせたい男たち」紀伊国屋ホール(ネタばれあり)

<2008年3月22日(土)夜>

ある都立高校の卒業式当日。元シャンソン歌手で、今は臨時の音楽教師として勤務しているミチルはピアノが苦手。体調が悪い上にコンタクトレンズを落としてしまい、楽譜を読めない。今後も勤務を続けたいミチルはなんとしても卒業式での伴奏を成功させたい。同僚の社会科教師である拝島の眼鏡がぴったりであることを思い出し貸してくれるように頼むが拒否されてしまう。日の丸掲揚、君が代斉唱に反対する拝島は、自分の眼鏡で君が代の伴奏の手助けをすることに抵抗があるという。眼鏡を貸してもらうための説得が、いつのまにか校長や他の教師も巻きこんだ日の丸、君が代論争になっていく。

幸運にも初演をベニサン・ピットの通路席かぶりつきで観られた名作。役者も美術もそのままに、脚本演出に細かい手直しを入れて再演。ホームページには「今回限り」と書かれているので、少なくともこのキャストでの再演はもうないでしょう。と思って観て来ました。

感想は、うーん、初めての人が観るならよく出来ているし笑いどころもたくさんあるしで楽しめるはずの仕上がりですが、脚本演出の細かい変更が私の苦手な方向に作用してしまい、初演の感動を再びとはなりませんでした。以下ひたすら初演との比較ですので、そんな比較のいらない方はここまでで。

初演だと、日の丸君が代なんてどうでもよい、何と言われようとこの仕事を手放すわけにはいかない、というミチル(戸田恵子)の態度が他の役やテーマの中和剤となっていたのですが、今回の演出ではミチルが徐々に真剣に考え込むような印象を受けて、中和剤らしさが半減していました。

拝島(近藤芳正)を説得する他の役は初演よりも嫌らしさが強調されていて、言い分を聴く以前に嫌悪感を感じさせるような台詞や演技が目立ちました。拝島は初演とそんなに変わらないのですが、結果として
拝島は嫌な役から嫌われる役->拝島がいい役に見える->拝島の言い分が(劇中の)正義のメッセージに近づく
という流れを感じてしまいまして、初演のウェルバランスが消えてしまったのが残念。特に、臨時教員は校長の指導に従わなくてもいい、と拝島がミチルに説明する場面で、校長(大谷亮介)が契約更新しないことをちらつかせるのは、初演にはなかったと記憶していますが、決定的に芝居のバランスを悪くした、非常に残念な場面です。

初演と比べて気の毒な面もあって、校長の演説場面は、初演では小泉元総理の真似を取入れることで笑いと批判のバランスを取っていました。今回はそこを石原都知事の真似に変更して対応していましたが、いまいちでした。一部福田総理の真似もしていたかもしれませんが、最近テレビを観ていないので真似されてもわからない(これはこっちのせいですけど)。

というわけで、初演を観てしまったために粗探しになってしまってもったいなかったというのが感想です。

補足:
今のところ私は日の丸、君が代については正直どうでもよいという立場なので、それに関する突っ込みはなしで。むしろ改めてこの芝居を観て、何を教師の責務とするか、何を教師の責務としないか、教師の責務を考えるときにどのくらいの範囲で考えるべきか、そっちのほうに興味をもちました。

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2007年12月15日 (土)

劇団、本谷有希子「偏路」紀伊国屋ホール

<2007年12月14日(金)夜>

女優を目指すために、娘が親の反対を押切って強引に上京して9年、劇団の仲間が売れていく中で自分の才能の無さに気がつき、しかも所属している劇団が解散することに。女優になることを断念して実家に戻ることを決めているが、親の反対に逆らった手前と、田舎の親切な空気に馴染めないため、踏ん切りがつかない。そんな状態で年末年始を過ごすために、お遍路参りの途中にある親戚の家にやって来た娘とその父。娘はこの機会に親に謝るのと、田舎の雰囲気に馴染むことを狙うが・・・。

ずいぶん久しぶりな気がする本谷有希子の芝居は、お得意の(?)自意識過剰な若い女性を軸にした騒動。なかなか面白かったけど、初日だったからか一部固い部分も。

自意識過剰な主人公に拮抗する登場人物として、突然切れる父親を配置して、二人の偏よった思い込みを中心に話は進行。父親役の近藤芳正が全開なのに対して、主人公役の馬渕英俚可がどうにも固い。固くなるのが役どころとはいえ、もう少し馴染んでくれば芝居が一段上がった出来になりそう。他にはすでに劇団員の感がある吉本菜穂子を筆頭に、加藤啓、池谷のぶえが緩急つけて盛上げる。江口のりこもまだ少し固かったけど、初日ならこんなものか。

脚本は楽しめたけど、途中なくても大丈夫そうな場面があったのと、最後に使われる伏線が出てきた瞬間にわかってしまったのがもったいない。

空間を上手に埋めた意味ありげな美術とそれを生かす照明、芝居の流れに沿って着替えられる衣装が非常に自然で、劇場の規模に見合ったスタッフワークの充実を感じさせる。ただし高い天井を生かした映像はオープニングこそ格好良かったが、そのあとはあまり上手に活用しきれていない感あり。あと残念なのが選曲で、これで終わりではないかと勘違いさせられる曲が3回くらい流れて、拍手のタイミングをはぐらかされた感じが残った。あの曲は確かナイロン100℃の「消失」でも使われていたような記憶があってデジャブ。

ちなみに終演後のロビーは何となく関係者だくさんな空気で、初日のためか認知度が上がったためか。

自分の自意識過剰とか偏見を突いてくれる本谷有希子の話が好きな私は満足。でも当日券狙いなら、日程後半をお勧め。

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