2018年12月26日 (水)

月刊「根本宗子」「愛犬ポリーの死、そして家族の話」下北沢本多劇場

<2018年12月23日(日)昼>

母が駆落ちし父はアル中になって亡くなって祖母に引取られた4人姉妹。祖母も亡くなった後で上の3人は結婚して家を出たが、若い頃に引きこもりになった四女は飼犬と本だけに関心をつないで生きている。22才の誕生日を祝いに姉夫婦たちが集まるが、その最中に飼犬が死に、義兄たちが嫌いな四女は義兄たちのせいだと恨む。その直後に、いつも読んでいる本の作家から四女にSNSでコンタクトが届く。

高圧的、マザコン、浮気性と駄目な男性の見本市のなか、それを見ていた四女が何をどうしてどうなるか。男性の駄目さを描く腕前は冴えていて、特に浮気性の夫が妻に言い訳する場面は台詞も演出も秀逸。演じた田村健太郎の逆切れぶりが素晴らしく、イキウメの「図書館的人生」の爽やかなストーカーを思い出す。

それに反して駄目な男性と別れない女性陣の描き方は最後まで筆が鈍ったまま。納得させるわけでもなく、突き抜けるわけでもなく、消化不良のぬるぬるが残る。演技演出が上手な分だけ演劇的な突き抜けた感のなさが目立つ。タイトルにも入っている愛犬ポリーは開始早々に忘れ去られて、でもポリーを活用しようとした痕跡は残っていたので、一度書いたプロットに納得がいかず書き直したものと推測。だとしても観ていて納得のいかないラスト。

あと全員の演技に文句はないけど、根本宗子だけ声の小ささが目立った。自分の芝居だけでなく「水の戯れ」とか役者出演でもいい腕前の人なので惜しかった。細かいところでは、歌とダンスの場面で4人の女性陣が踊るとき、根本宗子ひとりだけが笑顔の場面があった。当日チラシだと振付も本人なので、そこまで目が届かなかったんだろう。

結局、根本宗子の不出来または不行届にいきつく仕上がり。主役が直前で体調不良で交代するという不利はあったけど藤松祥子は代役をこなしていたし、何より脚本が迷走していた。チラシ作成時点で脚本未完成だったとしても「一人の少女が自分と周りを信じて家族を変えるお話です」と書いてあのラストはどうなのか。本多劇場ではあまり見かけない質感に仕上がりましたと当日チラシで言われても、まずは質感より質がほしい。

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2018年12月10日 (月)

M&Oplaysプロデュース「ロミオとジュリエット」下北沢本多劇場

<2018年12月8日(土)夜>

2つの名家が反目を続けて勢力が二分されている街、ヴェローナ。一方のモンタギュー家の御曹司であるロミオは恋に破れたばかり。いたずら好きの友人にそそのかされて、もう一方のキャピュレット家が主催する仮面舞踏会に潜り込む。そこでキャピュレット家の一粒種の娘、ジュリエットと出会う。

「なるべくまんまやる!」という宣言通り、笑わせるためにところどころで役者に面白いことをさせたり台詞のニュアンスをいじったりしていたけど、だいたい脚本には忠実だった。なので粗筋は前回観た新国立劇場研修所版と同じ。シェイクスピアが生きていた時代はもっとごちゃごちゃ猥雑な雰囲気で上演していたはずだからこれもいけるはず、という狙いがあるとどこかで読んだけど、「ヘンリー四世」の佐藤B作を観たあとだと、そういう狙いも外れていないという予感はあった。で、結果は半分成功していて半分失敗していた。

先に成功していたところを書くと、まず笑い。このくらいいじっても耐えられる強度のある脚本だったというのはひとつの発見だった。その前提で、芸達者なベテランを配置して、崩し具合をコントロールしていた。

皆川猿時が飛び道具をこなしていたのはわかりやすいけど、ごく素直にいい感じの役者が多い中で細かくネタをこなして好感を持てたのがキャピュレット家の安藤玉恵と池津祥子と大堀こういち、大公の今野浩喜。そして意外にも三宅弘城のロミオも、年齢は高くとも身体が動く点で若々しさをカバーして、もちろん演技力もあって、成立していた。

抜群によかったのが神父役で、誰がやっているのかわからなくて終わってから確認したら田口トモロヲだった。真面目とネタの切替え、それでいて脚本の本筋にも関わる神父の真摯さを保ったあのバランスが、今回の演出に一番あっていた。「秘密の花園」の一風変わった演技よりもさらに上で、あの神父はもう一度観たい。ここを守ればあとはいくらでも崩せるという線を見極めていた模様で、その秘密が知りたい。一度にふざけるのは一人までとか声のトーンは一定の範囲を維持するとか、何かルールがありそうなのだけど分からずじまい。

スタッフワークでいうと、衣装を頑張ったのがいい感じ。あと半分は役者だけど、剣を使った喧嘩のアクションが身体にあたるすれすれで、観ていてどきっとした。

残念だったのが、ジュリエットの森川葵。キャンセル騒動からの代役で初舞台でジュリエットであの台詞量がきついのはわかる。ただそれら悪条件を差引いても、女優魂を感じさせてくれる台詞回しがなかったのは残念。強度のある脚本ではあるけど、それだけに特にロミオ役とジュリエット役は人材が求められる。三宅弘城があれだけ成立していたなら、いっそ片桐はいりとか連れてこられなかったか。

次に演出。ネタに時間を割くためか、長めの脚本を休憩無しの時間(今回約2時間15分)に収めるためか、全体にそうとう早回しの一本調子になっていた。登場人物が多いうえに脇役は複数の役者が兼ねるので、ある程度丁寧にやってくれないとややこしい両家の関係が頭に入りにくい。加えて、言葉にしづらいけど、本来の雰囲気を目指して入れたネタと、みんなロミオとジュリエットの粗筋くらいは知っているだろうという前提で崩したネタとが混ざっていたような印象。今回の演出だと後者のネタは混ぜてはいけないのではないか。どこがどうとは指摘が難しいけど。

スタッフワークでは音響が、どうも演出の雰囲気に沿っていない。今回の演出だと、笑わせるところと真面目なところの区別を客席にはっきり伝えるのが重要で、音響はそれを促進する役割があったはずのところ、いまいちわかりにくかった。

もっと猥雑な雰囲気を出せるはずという企画と演出の挑戦には敬意を表するし、所々成功はしていたけど、残念ながら満足には届かず。値段を考えたらなおのことこの出来では不満。「メタルマクベス」という名作を書いた宮藤官九郎にして、演出の狙いを整理し切れなかった、あるいは時間切れで詰めきれなかった印象。脚本の難しさを再認識する結果になった。どこかで再挑戦してほしい。

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2018年10月26日 (金)

KERA・MAP「修道女たち」下北沢本多劇場

<2018年10月25日(木)夜>

とある国の、主と聖女を崇める宗教の修道院。冬には毎年、この宗教の聖地とされる山荘のある村まで出かけて過ごす習慣に従って、出発の準備をしている。が、半年前のある「事件」のため、47人いた修道女たちの大半が亡くなり4人まで減って、新たに加わった2人を加えた6人しかいない。この宗教を快く思っていない国王に交代してから信者への迫害が続き、出発前から波乱含みだったが、果たして山荘に着くまでも着いてからも相手にされない事態が続く。生き残った修道女の一人と仲のいい村の娘と、その娘を気遣う村の男との世話でかろうじて山荘の生活を開始するが、そこからさらに数々の事件が起こる。

うっかり調べなかったら平日夜には厳しい3時間15分の大作。長い時間をフルに使った表の物語は信仰と罪と宗教と赦しを扱って生きるとは何なのかを描く壮大な一本。裏の物語は声を上げるべきときに上げられない時代の末路を予言的に、「ちょっと、まってください」よりは現実の直接的な連想を抑えるよう狙って描いた一本。張った伏線はきっちり回収するし、悲劇的な背景の中にも少し前のナイロン100℃を思い起こさせるノリで適宜笑いがあって飽きないし、ここ一番ではきっちり締めて、緊張感とクオリティのコントロールは折紙つき。

KERAが下手な役者を連れてくるわけはないし全員いいのは言うまでもないけど、鈴木杏がおいしくもややこしい役を見事にこなして、完全にベテラン女優の域。あとこの中では相対的にそこまで目立たない伊勢志摩の、出すぎず引きすぎずちょうどよいポジションを維持する技量は改めて見直した。今回スタッフワークもいつも以上に方向が揃った印象だったけど、雰囲気にあった音響と、普段の場面にも見栄えよく最後にそう見立てて使うかという美術と、単純ながら効果的な使い方を提供した映像を挙げておく。

今日見た時点では当日引換券をまだ売っているし、後ろや端の席なら当日券でもいけそうなので、ここはひとつ試してみてほしい。ただし繰返すけど3時間15分なので、その都合のつく人に限る。

<2018年10月28日(土)追記>

ひとつ書き忘れていた。今回、公演チラシがA4のものとA3のものと2種類あって、たぶんA3が正式版だと思われるけど、A4のチラシが表面に引用したエドガー・エンデの絵と裏面の修道女の絵、あれは線画というのか何というのか。どちらもものすごいはまっていて、観終わった後になったらなおさらA4チラシのほうがよくできていたと感じる。あれは何でA3のチラシまで作ったんだろう。A4チラシの取っておきたくなる素晴らしさは記録しておきたい。

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2018年6月 4日 (月)

M&O playsプロデュース「市ヶ尾の坂」下北沢本多劇場

<2018年5月26日(土)夜>

市ヶ尾の坂の横に住む3兄弟。両親はすでに亡くなり、長男と三男は地元で、次男は渋谷で働いている。近所に住む画家の妻は子連れの夫の後妻だが子供と上手くうちとけられないらしい。彼女に好意を持つ3兄弟は何かと家に呼んでおしゃべりを楽しむが兄弟同士で牽制しあって挙動不審である。

ミステリアスな女性が主人公のことが多い岩松了だけど、これは加えてミステリアスに見えないこともない男性3兄弟が絡む話。でも言わない台詞や微妙な仕草の隅々にたくさんの種を仕込んで観る側の想像力をかき立てるのはいつも通りの腕前。かついつも以上に冴えていて26年前の脚本とは思えないけど「描くために観ると観ているこちらが恥ずかしくなってくる」という台詞など今時の岩松了なら書かないであろう台詞にその名残が感じられる。水車小屋の話をする女性に焦がれる3兄弟の場面で3兄弟の気持ちを端的に表す照明がよい感じ。観ているうちにこちらの体温が上がってよくわからない興奮が残るという好調時の岩松了芝居に感じられる仕上がりを堪能。

後日更新するかも。

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2018年3月 1日 (木)

カオルノグチ現代演技「演劇部のキャリー」OFF・OFFシアター(2回目)

<2018年2月28日(水)夜>

おかわり

この時間に観られる芝居があまりなくて、昼間に観た芝居が重たかったから重い芝居を続けて観たくなくて、長い移動も嫌で、芝居以外の選択肢を取るには遅い時間帯で、帰ろう。と考えた瞬間に思いついた選択肢。同じ芝居を2回観ることはほとんどないのだけど、1回目がものすごく楽しかったのと、あのライブ感あふれる演技がどこまで作りこまれていたのか気になっていたのもあって下北沢へ。開演前のオクイシュージの口上、「今宵このとき数多の劇場で幕が開く しかし野口 幾千幾万の芝居の中で 俺はこの芝居を一番にしてみせる」だったか(適当)、あれでぐっと引込むようになっているのに今さら気がついた。格好いい。

違っていたのは気がついた範囲では
・前座でカーテン開けすぎとか喉が冷えるとかこれで学校公演1ヶ月くらいやりましょうよとかそういう細かいやり取り
・エチュードで脱いだミッキーへの突っ込み
・エチュードで先輩がミッキーにやらせる適当なストーリー(適当なところで止めた野口かおるにオクイシュージがまだ続きがあったんだけどねと返すと、え、そうだったんだと素に戻りそうになる細かいやり取りは面白かった)
・エチュードと稽古(だったか?)で客席にまで行こうとすること2回
・観覧車の場面で誤解したミッキーを抑える先輩の場面(口がキスのミッキーを手でがっちり押さえる形から頬を付けながら話す形に)
・結果を聞いたミッキーの泣く長さが少し長かったかも
くらい。前座とエチュードの場面を除いたらほとんどない。掛合いが掛合いを呼んでライブ感を出していく面はあるだろうけど、それでもあそこまで作りこめるものかと感心しきり。

モダンな演技なら同じ感情を再現して違う動作で演じるものだと言う人もいるかもしれない。でも椅子2つしかないあの狭い舞台では場面を想定して肝の動きを決めないと観る側が混乱するし、何より作りこまれた脚本があのテンポを求めている。繰返すけど、作りこんだ中にはライブ感まで含まれている。再演で、脚本家が演出したというアドバンテージはあっても、適切な声とテンポをあそこまで突詰めて再現していたのはさすがプロ。ちなみに脚本家が演出した一番のアドバンテージは選曲ではなかったかと推測。

野口かおるの声は劇場の構造か距離の問題か、1回目の近距離観劇ではすごい高音が響いていたけど、離れて聞くと聞きやすかった。オクイシュージの声は、持ち直したけど前座と口上は喉が冷えたどころか滑舌が悪くて一瞬脳梗塞かもと疑ってしまうほど(ごめんなさい)。さすがに1回目のほうが声は出ていた。あのテンションを突っ込み側で一週間続けるのはさぞ喉も体力も消耗するだろう。

勉強になったし、何より2回目でも楽しい芝居だった。千秋楽だからカーテンコール3回までは予想していたけど、まさかスタンディングオベーションする人が出るとは思わなかった。でもその気持ちはわかる。

「Love Letters」みたいに他のコンビでも上演しても面白そうな脚本。年齢が高校生のダブルスコア以上が条件とか。昼間に観た岡本健一と中嶋朋子とかでも務まりそうだし、染五郎あらため幸四郎と松たか子の兄妹出演とかチケット代2万円でも観る。ただこのいい意味での小劇場感、部員が2人しかいなくて廃部になりそうな弱小部活からの一発逆転感はやっぱり今回のコンビのはまり役であり当たり役だった。

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2018年2月25日 (日)

カオルノグチ現代演技「演劇部のキャリー」OFF・OFFシアター

<2018年2月24日(土)夜>

部員が次々と退部して、本来ならすでに引退しているはずの3年生男子が1人と、後輩の女子1人の2人しか部員がいない高校演劇部。毎年の演劇大会を控えるが、2人で上演できる面白い演目が決まらない。いっそやりたいものをやる、という方針で映画の「キャリー」を元に上演することを決める。2人で盛上がって本気で県大会を目指す機運は高まるも、脚本が書けない、音響と照明は助っ人を頼めても部員がいないから美術までは手が回らない、偵察に行ったライバル校は面白い。大会が迫るなか連日の猛稽古。果たして結果は如何に。

狭い劇場で着替え以外ほぼ出ずっぱりの2人芝居。今時こんなテンションの高い芝居を上演しているのかという、いい年して学ランとセーラー服を着た役者が演じる青春部活物語。観ていて相当楽しんだ。これを見つけて観に行った自分のフットワークの軽さをほめたい。

入江雅人の既存脚本らしいけど、あえてベタとは言わない、ツボを押さえてテンポの良い展開と数限りないボケとツッコミ。いわゆるいい話だけど間違いなく勢いを要求される脚本。後輩女子の野口かおるが開演前からサービス満点のテンションで、それを全部拾っていく先輩男子のオクイシュージという役割。これがどちらもはまり役だった。今までほとんど出演作を観ていなかったけど、野口かおるってこんな爆発力のある役者だったか、去年の「絢爛とか爛漫とか」を観ておけばよかったと悔やまれる事態。そしてオクイシュージが真摯というか、脚本に尽くす演技でそれを支えていた。勢いはあっても勢いに頼らない演技力は確かなものだし、劇中劇もきっちり仕上げていたし、ちゃんと学ランとセーラー服が成立していたし、顔芸も面白かった。しいて言えば野口かおるの超音波のような声がたまに耳に痛いけど、高校生役ならあのくらいでないとなとも思う。

ちまちました芝居や小難しい芝居はいらん、何よりもまずエンターテイメントとして楽しめないと駄目だろ、という人にはぜひお勧めしたい今回の芝居。ただし当日券だと桟敷席になるのでその点は注意。最前列で迫力満点だけど、この劇場では最前列のありがたみは薄いし腰がきつい。事前調査では100分だったけどざっと110分だった。かといってあれでペースが遅いとも感じなかったので、前座芝居で時間を使いすぎたか。

カオルノグチ現代演技はこれが最初らしいので、ぜひ今後も続けてほしい。

<2018年3月1日(木)追記>

千秋楽も観たので感想をアップロード。

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2017年12月 2日 (土)

ナイロン100℃「ちょっと、まってください」下北沢本多劇場

<2017年11月18日(土)昼>

謎の反対運動が繰広げられる町に住む、子供2人に元詐欺師の執事と女中がいる金持ちの家庭。間違い電話も日記に書こうとするくらい退屈すぎる日常だが、内実は借金で火の車なのを夫はしらず、妻と執事がやりくりしている。その家の庭に来たホームレスの家族は、妹が面識のないこの家の息子と結婚すると言っている。やがて家に侵入した妹はなぜか主人と結婚して妻が家を出て行き、ホームレスの家族も居つくことになるが、その父は庭でそれまでどおりの生活を続ける。

登場人物が突拍子もないことを言うと、他の登場人物が真に受けて劇中の設定が変わりどんどん進んでいく、粗筋が粗筋にならない芝居。不条理劇というものらしい。らしい、というのは、こんなに登場人物が真に受けて設定が変わっていく芝居のことをそう呼ぶのかどうかわからないから。「ゴドー待ちながら」も観たことがないくらい不案内。

先にメタなことを書いてしまえば、いろいろな物事がいつの間にか決まったり変更されたりして進んでしまい、しかも大勢の人間が納得してしまっているように見える今の日本の社会にたいして「ちょっと、まってください」「そのまま行くととんでもないことになりますよ」と言いたかったのだろうなと推測する。オープニングでマギー演じる詐欺師に「騙しているうちに嘘か本当か自分でも区別がつかなくなるので詐欺師はやめました」という台詞を言わせるのはずっと芝居を貫くトーンなのである意味親切な説明。芝居の最後に反対運動の一環で子供の声で、うろ覚えだけど「絶対賛成、絶対反対、あなたはどっち」みたいなコールを流したのは、何でも二分でしか判断しようとしない人たちへの皮肉。他にも劇中にそういうものが満載。こうやって書くと重苦しく見えるけど、それを筋には出さないであれだけ笑わせるのだからKERAはすごい。

ただ、全然不条理劇を観たことがない人からすると、とりあえずその環境は受入れるけど登場人物は釈然としないで振回されるのが不条理劇というイメージがある。その点、ベテラン劇団員は全体に流暢に演技しすぎて「釈然としない感じ」が足りなかったのではないか。もちろん上に書いたとおり、今の日本の状況を揶揄するなら流暢に転がしていくのは狙い通りだし、重いことを重いまま上演することを笑いの一人者であるKERAに期待はしないのだけど、それでももう少しナンセンス風味を控えた演技を探る余地があったと思う。

だから自分が今回印象に残ったのは執事役のマギー、ホームレス一家の妹の水野美紀、女中役の小園茉奈と、客演やあまりこれまで出ていない劇団員だった。マギーは最初から最後までずっと微妙な違和感を感じさせてさすが。水野美紀は兄と戯れる場面とか金持ちの夫に求婚されたと語りだす場面の、透明感というか現実感のなさというか、あの違う世界に入っている感じが好き。小園茉奈はごく素直な演技がこの芝居では生きた感じがするけど、今さら劇団員を育てるつもりがないであろうこの時期に劇団に執着するのはもったいないので、次の次公演は出演が決まっているみたいだけど、他にも出番を求めて成長してほしい。

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2017年10月 7日 (土)

ワタナベエンターテイメント企画製作「関数ドミノ」下北沢本多劇場

自動車が歩行者をはねたはずなのに、歩行者は無傷で自動車が大破、助手席の同乗者が瀕死の重傷となる。状況が不可解なため、再調査を依頼された保険調査員に集められた関係者たち。だが関係者の証言を再確認しても原因は不明のまま。話が行き詰ったところで、目撃者の一人が仮説を提案する。願いが何でもかなう人間が存在する「ドミノ理論」、その中でも思った瞬間に願いが叶う「ドミノ1枚」の人間がいたのではないか。提案した目撃者はこの仮説を確かめるためにある手段で調査を開始する。

自分が以前観たイキウメ本家はリライト版で、今回が初演版とのこと。演出の違いがあるにしても、印象が全然違ってもっとシリアスに。もともと面白い脚本が、全体にハズレのない役者陣でさらに面白く上演。その中でも目立ってよかったのは瀬戸康史と柄本時生だったけど、久しぶりに見た勝村政信ともっと久しぶりに見た千葉雅子の信頼感はさすがだった。いままで気がつかなかったけど、ひょっとして寺十吾っていい演出家なのかも。

勧められる仕上がりだった、といいたいけど、前回に続いて今回も前列端席を引いてしまい減点。しゃべっている役者の顔が見えないどころかその陰になって奥の役者まで見えない場面が多数。主なアクティングエリアは上手手前、下手手前、奥を含めた舞台全部の3パターンだったけど、席に近いエリアを使われたときのほうがむしろ見切れが激しい。端席より中央補助席のほうがいいのでそこは注意。

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2017年2月25日 (土)

M&Oplays製作「皆、シンデレラがやりたい」下北沢本多劇場

<2017年2月24日(金)夜>

メジャーデビュー前の男性アイドルの追っかけで知り合った女性3人。中の一人が経営するスナックに集まっては男性アイドルの話題で盛上がる。ある日、男性アイドルの寝顔を付きあっている女性アイドルがTwitterに投稿したことで炎上する。相手の女性アイドルが許せない3人は、貶める情報の検索や拡散に努めるが・・・。

役者の根本宗子は観たことがあったけど、脚本演出作品は初見。追っかけ以外は趣味も境遇も異なる3人の違いを、結構ひどいこと言葉でカラッとした笑いに紛れ込ませつつ、追っかけ側の思い込みや妄想論理を明快に描いた1本。今まで見逃していたのがもったいないと思わせる仕上がり。

途中ものすごい早口でまくしたてるのも含めて、いまどき珍しい1時間45分でお腹いっぱいの満足感。このスピード感と誇張感は最近細っていた小劇場のノリと笑いを使いこなしている。小劇場から大きくなった代表的な劇団から腕利き女優を3人集めるキャスティングからして趣味がはっきりしていて、よくぞ集めたという感じ。美術や衣装や音楽が芝居のトーンに揃っていて、目が行き届いていた。最後はあれだけのために人を集めたという思い切りのよさも魅力。

これで出演もやってかなり上手だから、できる人はできるんだなと思い知らされる。チラシに挟まっていたインタビューを読んだら学生時代に年間100本観てメモを残していたのもすごいけど、コメントのいちいちがはっきりしている。この前スズナリでやっていたと思ったらすでに本多劇場2回目だったのも納得の出来。観て損はしない。

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2016年3月17日 (木)

M&Oplaysプロデュース「家庭内失踪」下北沢本多劇場

<2016年3月11日(金)夜>

定年の男と、再婚した年下の妻。二人暮らしの家に、前妻との間の娘が戻ってくる。夫が気に入らないための別居だという。夫は会社の部下を週末ごとに様子見によこして、今では一家が夕食の用意を考えるくらい来るのが当たり前になっているが、本人は一向に来ない。

初日観劇。「蒲団と達磨」の後日談、らしいが、これだけ単発で観ても大丈夫。台詞と真意との乖離が激しいのはいつもの岩松了脚本だけど、そこをいつもより匂わす親切演出。妻への好意がこじれて不信な行動に出る夫たちに対して、そんなことは百も承知であきれているが表面上は合せている妻たちとのすれ違いを何組も描いて、タイトルに相応しい怪しさ満載。登場しない人物を使って話の奥行きを見せるあたりは安定の脚本術。

部下を誘惑する再婚妻を演じる小泉今日子も、出戻った小野ゆり子も色っぽくて、出てくる女優みんなをいつもどうやって色っぽくさせるのか、岩松了に訊いてみたい。その分男性陣は情けない役ばかり。その中でも本当に失踪して見せた不審な男を演じる岩松了は楽しそう。ただ、登場人物全員が何かしら情けない人たちのはずだけど、風間杜夫と小泉今日子の2人はもともと貫禄がありすぎて、その分だけ芝居が立派になりすぎた感もあり。贅沢な悩み。

「蒲団と達磨」よりもさらに間接的な芝居で展開するので、派手でスカッとする芝居を求めている人には向かないけれど、このくらいネチネチして観客に積極的に想像力を要求する芝居は珍しいし、それで質が高いものはさらに貴重なので、ぜひ挑戦してみては如何。

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