座・高円寺企画製作「トロイメライ」座・高円寺1
<2024年12月21日(土)昼>
ピアニストとして名声を博したクララ。ピアノの師である父の弟子だったロベルト・シューマンとの恋と結婚生活の前半生、その終盤に出会ったブラームスに頼り頼られながら過ごした後半生を、手紙の往復とピアノ演奏で綴る。
劇場恒例になっていた「ピアノと物語」の、シライケイタによる新作。どうやらやり取りした手紙が本当にたくさん残っていたらしいが、どこまで本物かは不明。役者二人にピアニストだけど、クララは月影瞳が通して、前半はロベルト、後半はブラームスを亀田佳明が二役。結婚するまでも結婚してからも、そして亡くなってからもロベルトが大好きすぎるクララだけど、晩年になって順番は音楽が第一と自覚するのが、音楽家だなあという。
手紙の往復を読む形式だけど、役者二人は上手である以上に、役の内に込められた感情の大きさが素晴らしくて、この情熱が昔の人であり音楽家だよなという役へ感想と合せて、この内の感情の大きさを持てることが素晴らしい役者の条件だよなと気付かされる。あれならロミオとジュリエットのバルコニーの場面もできるのではないかというくらいの見事なテンションとコントロールだった。ピアノ演奏は秋山紗穂で、ピアノをねじ伏せる力強い演奏が素人のこちらにも良さがわかる好演奏。ピアノ演奏会を聴きに来たつもりでも楽しめたのではないかと感じたくらい。新作初演にして役者もピアニストも人を得られた上演と仕上がりだった。
ただ脚本については、脚本演出の本人が当日パンフに書いていたけど、当初ブラームスとのやり取りで書くつもりが、ロベルト・シューマンを出さないとクララが描けないと方針転換を余儀なくされたらしい。観た内容も含めて考えると、当初は「ピアノと物語」シリーズとして、女性にして音楽大学の初女性教授になったり、子供が戦場に兵士として出征したりしたクララに託して、もう少し啓蒙的な内容を目指していたのではないかと想像する。これが斎藤憐なら、もっとそういう要素を意図して多く取出したのではないか。その点はシライケイタがクララに負けたともいえるし、そんな小賢しい思惑など蹴散らすくらいクララのロベルト・シューマンへの愛が深かったとも言える。そして出世のきっかけを作った恩人の妻へ生涯尽くしたブラームスの、今時では流行らないかもしれないけど、あれも愛と尊敬の1つの形だった。