2023年11月
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2023年6月23日 (金)

2023年上半期決算

恒例の決算、上半期分です。

(1)パルコ企画製作「志の輔らくご in PARCO」PARCO劇場

(2)風姿花伝プロデュース企画製作「おやすみ、お母さん」シアター風姿花伝

(3)パルコ企画製作「笑の大学」PARCO劇場

(4)松竹主催「霊験亀山鉾」歌舞伎座

(5)ナイロン100℃「Don't freak out」ザ・スズナリ

(6)Bunkamura企画製作「アンナ・カレーニナ」Bunkamuraシアターコクーン

(7)松竹主催「四月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

(8)新国立劇場主催「エンジェルス・イン・アメリカ(第一部、第二部)」新国立劇場小劇場

(9)株式会社パルコ企画製作「ラビット・ホール」PARCO劇場

(10)イキウメ「人魂を届けに」シアタートラム

(11)ホリプロ企画制作「ファインディング・ネバーランド」新国立劇場中劇場

(12)国立劇場主催「菅原伝授手習鑑 初段/二段目」国立劇場小劇場

(13)木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」神奈川芸術劇場大スタジオ

(14)インプレッション製作「ART」世田谷パブリックシアター

(15)新国立劇場主催「白鳥の湖」新国立劇場オペラパレス

(16)野田地図「兎、波を走る」東京芸術劇場プレイハウス

以上、作品の括りでは16本、チケットの括りでは18本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は 164700円
  • 1本あたり(チケットあたり)の単価は 9150円

となりました。なお各種手数料は含まれていません。

また今シーズンも映画館で芝居映像を観ました。

(A)National Theater Live「レオポルトシュタット

こちらは1本のみで、

  • チケット総額は 3000円
  • 1本あたりの単価は 3000円

です。各種手数料が含まれていないのは同じです。

チケット総額も単価もかさみました。こんなに観ないつもりだったのですが、いろいろあったところに、劇場閉館前だとか、有名演目だとか、仁左衛門を観たいとか、未開拓分野に挑戦したいとか、そういういろいろもあってこうなりました。落語に歌舞伎にミュージカルにバレエに文楽は、さすがにやりすぎでした。

そして、これだけ観ても他に能狂言、オペラ、宝塚が足りないから、本当に日本の舞台は幅が広い。宝塚はまだ観たことがありませんが、個人的にはジャンルと思っています。

その分だけ数が少なかったいわゆる演劇ですが、翻訳物が多いですね。これだけ観て日本の現代芝居が(3)(5)(10)(16)の4本だけです。

寸評ですが、不慣れなジャンルは飛ばすとして、絶賛の(3)と圧巻の(16)、他の時期なら一番扱いになってもおかしくなかった完成度の(9)、好みは別れても劇団史上最高に繊細な作りの(10)、癖があっても見どころ十分だった(1)(6)(13)(14)でした。ここで(3)(16)は甲乙つけられません。一般受けなら(3)ですが、(16)に打ちのめされずして何の演劇趣味かとも思います。

観た数が増えた割りに、ブログは低調でした。いろいろあったのですが、いろいろあって、観劇録以外のブログがほとんど書けませんでした。

あとは、なんだか芝居を観て1本当たりで受取る情報量が増えた気がします。もともとそうなることを願っていたのですが、これが嬉しいかというと、必ずしもそうではありませんでした。昔は情報量が増えれば物語をもっと深く掘って客として楽しめるイメージでいました。今は物語以外の情報、たとえば現実との比較だったり、あるいは製作プロセスに関する想像だったり、評論家のような情報量が増えてしまって、素直に楽しむのがむしろ難しくなっています。

そしてその分だけブログで書きたいことを整理する必要があり、観て感想を書くまでの時間が長くなりました。それを諦めたのが(16)のエントリーです。普段からもっと雑な感想を心がけたほうがいいんじゃないかという気分になっています。バランスが難しいですね。

世間では新型コロナウィルスが二類から五類に移行して、コロナ明けみたいな雰囲気になっています。劇場のチケット購入から入場までの手続もほぼ元に戻っています。が、分類でウィルスがいなくなってくれるものではありませんので、そこはまだ警戒を続けたいと思います。

引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2022年12月29日 (木)

2022年下半期決算

恒例の決算、下半期分です。

(1)野田地図「Q」東京芸術劇場プレイハウス

(2)新国立劇場主催「レオポルトシュタット」新国立劇場中劇場

(3)まつもと市民芸術館企画制作「スカパン」神奈川芸術劇場大スタジオ

(4)松竹主催「平成中村座 十一月大歌舞伎」平成中村座

(5)シス・カンパニー企画製作「ショウ・マスト・ゴー・オン」世田谷パブリックシアター

以上5本、他に隠し観劇なし、すべて公式ルートで入手した結果

  • チケット総額は45100円
  • 1本あたりの単価は9020円

となりました。上半期の9本10公演と合せると

  • チケット総額は126850円
  • 1本あたりの単価は8457円

です。なお各種手数料は含まれていません。

単価が高いのは有名どころに偏っているからです。なぜ偏ったかというと本数が少ない中で優先度の高いものを選んだからです。なぜ本数が少なくなったかというと新型コロナウィルス第7波の時期に控えていたのもあるのですが、体調不良が酷かった。時間だけならもう少しあったのですが、観に行かないで静養していました。ニュースもあまり見ないようにしていたので世の中の動向に疎くなっています。「元気があれば何でもできる」という言葉の裏の意味をかみしめる半年でした。

そんな中で下半期に観に行ったのは初演を観たけど再演も観とけの(1)、有名な芝居の再演だから観とけの(3)(5)、好きな演出家の芝居だから押さえとけの(2)(4)でした。体調不良もあったので辛い評価が続いてしまいましたが、そんな中でも(3)はいいものを観た感じが得られてよかったです。ただし通年なら想い出補正込みで上半期の「ドライブイン カリフォルニア」になります。次点はほぼ同率で「美しきものの伝説」です。長年見逃し続けていた有名演目をばっちりの座組で観られた満足感は高いです。

ただ半年たって思い返すと違いもわかって、「ドライブイン カリフォルニア」は脚本だけでなく役者と演出までハマったうえでの総合力、「美しきものの伝説」は圧倒的な出来の脚本を土台に立ちあげた感じですね。「美しきものの伝説」は突詰めると同じ芝居が出来上がりそうなかっちりとした脚本でしたが、「ドライブイン カリフォルニア」は松尾スズキ以外が演出してここまできれいに立ちあがる脚本なのかわかりません。そういう意味では(3)も串田和美に負うところの多い芝居でした。

本数が2年連続で15本なのは偶然ですが、このくらいのペースもいいですね。やっぱり60本は観すぎです。年間50本を超えてくるとスタッフ含めて個別賞を選べるくらいになるのですけど、お金以上に時間と体力の重要性が高くなっています。

本数が少ないので芝居の話はこのくらいとして周辺の話題。

最初は何と言っても新型コロナウィルス。こと芝居に限っては、客側の対応は落ちつくことになりました。マスク着用と手指消毒が必須。発熱確認と来場者連絡先記載は省くところも出てきました。座席も最前列を開放する通常編成になってきているようです。劇場の換気能力に客席側の行儀のよさ、さらに上演側の予防が重なって、安全性が実証されてきました。

ただし上演側の予防が大変で、公演中に何ステージか中止になることは珍しくなく、公演期間の短い小劇場だとそのまま公演中止になることもありました。公演の大小に関係なく中止は起きていましたが、それはつまり公演の大小に関係なく対応している証拠です。損を覚悟で誠実に対応している関係者には感謝あるのみです。

新型コロナウィルス以外だと、半年前なら表現の自由で政治家が当選するか気にしていたところ、当選したらいっきに注目が減ってしまいました。代わりに、ここ数年いろいろあったセクハラパワハラの告発がさらに派手に吹き荒れました。年末にYahoo!ニュースのトップ記事で見かけて、これを書いていたら追加でもう1件見るとは思いませんでした。

この手の話は1本だけ、訃報をとっかかりに「人格より前に能力と魅力が求められる業界の話」を書きました。念のために何度でも書きますけど、私は自分が被害にあったら逃げるのでセクハラパワハラ反対です。が、客が対価を払っている価値が、能力や魅力という値付けの根拠がよくわからない業界であることを考えると、そんな素直な話になるものではないとも考えます。大げさに言えば芸能ビジネスの何たるかを問う話です。これに関連して本当はもう1本書きたい話があったのですが、先送りします。

最後に一般情勢の話。サル痘の話は立ち消えました。食料品事情は値上げが厳しいですが、もうどうにもならないということでおおむね受入れられている気配です。ロシアとウクライナは続いていますが、これを長引いていると表現してはいけません。戦争は月単位ではなく年単位で考える必要があるからです。そして防衛費増の話が年末に出てきましたが、明らかに中国警戒ですね。何事もなく済んでほしいです。

来年の目標は元気を回復させつつ厳選した芝居を観ることです。引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2022年7月 2日 (土)

2022年上半期決算

恒例の決算、上半期分です。

(1)松竹製作「三月大歌舞伎 第二部」歌舞伎座

(2)加藤健一事務所「サンシャイン・ボーイズ」下北沢本多劇場

(3)小田尚稔の演劇「是でいいのだ」三鷹SCOOL

(4)新国立劇場主催「ロビー・ヒーロー」新国立劇場小劇場

(5)イキウメ「関数ドミノ」東京芸術劇場シアターイースト

(6)日本総合悲劇協会「ドライブイン カリフォルニア」下北沢本多劇場(1回目)(2回目

(7)松竹製作「六月大歌舞伎 第二部」歌舞伎座

(8)鵺的「バロック」ザ・スズナリ

(9)新劇交流プロジェクト「美しきものの伝説」俳優座劇場

以上9公演10本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は81750円
  • 1本あたりの単価は8175円

となりました。なお各種手数料は含まれていません。

観ている本数の割りに単価が高いのは歌舞伎2本のせいで、それを除けば単価5000円弱です。やっぱり歌舞伎は高くつきます。

また今シーズンは映画館で観る芝居映像に初挑戦しました。

(A)National Theatre Live 2021「リーマン・トリロジー」(1回目)(2回目

と同じものを2回繰返しました。こちらは

  • チケット総額は6000円
  • 1本あたりの単価は3000円

です。各種手数料が含まれていないのは同じです。

自分の都合から振返ると、1月2月は新型コロナウィルスの第6波で引きこもり、3月に減少傾向になってきたので観始めたものの、4月5月は忙しいのと観たい芝居が公演中止になったのとでタイミングが合わずにまた減って、5月後半から6月で取返したのが主な傾向です。この中で思い入れがあって明確に観たいと願ったのは「ドライブイン カリフォルニア」です。このブログを始めることなった芝居だからです。

芝居を観始めたころは、今はなき「えんげきのぺーじ」というWebサイトに感想を書込んでいました。私の「六角形」という管理人名も「えんげきのぺーじ」で使っていたハンドルネームです。その後ブログが登場して、早い人たちは自分のブログを開設して感想をまとめていました。「ドライブイン カリフォルニア」の再演を観たのがそのころです。観終わった後、この面白さを長さを気にせずに書きたいという想いと、書いた文章は他人の管理するWebサイトにまかせるのでなく自分で所有したいという想いと、両方に突き動かされてブログを開設しました。

やりたくないことは多くてもやりたいことの少ない自分が、明確にやりたいと自覚して行動に移した数少ない事例です。そのような情熱をかき立ててくれた芝居として長年片思いして、それが高じて今回2回も観てしまいました。18年前の芝居を観て当時と同じくらいの満足感を得られたということは、当時でも高かったクオリティよりさらに高いクオリティで上演してくれたことになります。満足しました。当時と今回の関係者に感謝です。

SNSがあまり好きではなく今でもブログに書いているのは、「長文と所有」というこのときの想いが続いているからです。当時は18年も続くとは考えませんでしたが。その後、長い文章をブログでは書けるので短く表現できるようになりたいという願いが増えましたが、それは同じ内容をできるだけ端的に的確に表現したいという願いであり、140文字など決まった上限に収めたいという欲とは違います。

ちなみに「えんげきのぺーじ」は短文感想の自由投稿欄が、今でいうメインコンテンツでした。最初は文字数制限がなかったところ、長文感想を書込む人が増えたので、1本200文字くらいの文字数制限が導入された記憶があります(曖昧)。私は今も昔も文章が長くなりがちなので、なるべく短い文字数でたくさんの感想を書けるように、新聞の三行広告のような文体で書込んでいました。あのころの文体が今に残っていますね。今期だと(4)(7)(8)あたりにその名残があります。自分の文章の癖がいったいどこから来たんだと悩んでいたのですが、あのころの短文感想が理由だったかと思い至りました。時期によってムラがあってもブログを続けている理由のひとつに文章が上手くなりたいという願いがあったので、癖の由来に気がついて、この文章を書きながらちょっと感動しています。

ただ、本当に文章が上手くなりたかっただけなのかな、と改めて考えています。そもそも書きたいことがないのに文章の巧拙だけを問うてもしょうがなく、書きたいことがあって始めて文章の技術が必要になるのですから。

「ドライブイン カリフォルニア」の再演を観たときと同じ情熱を等しくすべての芝居に持っていたわけではない、それでも文章を書いていたのは自分の気持ちを整理して把握したいためであり、文章欲とは重なるところもあるけど似て非なるものだったのではないか。そんな基本以前の話を今さら考えています。

(9)を書いたとき、これは何日がかりになるだろうと身構えていたのですが、1日であっさり書けました。書きはじめるまでに2日ありましたし、それなりに時間はかかりましたが、書きたいことは初稿で書きだせました。文章が上手くなくとも、書きたいことがあっさり書けた経験を通じて、文章力の上達とは違うところにも自分の欲がありそうだと気が付きました。私が欲していたのは自分の気持ちを整理することで、その手段としての言語化や文章化とごちゃ混ぜにしていたようです。文章が上手くなりたい欲は間違いなくあるのですが、気持ちを整理したい欲はそれ以上に大きかったです。

振返ってみれば、観た芝居の好き嫌いを本当に自分の気持ち通りに判断できるようになったのはここ数年のことです。ブログに書いた後でいや待てよと悶々とすること幾たびか。そう言えるようになるまで本当に長かった。それが行き過ぎて、芝居自体の感想にとどまらず、メタな周辺情報が増えたよじれた感想が増えました。安からぬ木戸銭を払っているのだからもっと積極的に芝居に没入して楽しめばいいのにと自分で自分にツッコミを入れる日々です。一方で、周辺情報も含めた妄想を刺激するところまでが木戸銭の対価だと主張する自分もおり、そこは性分だとあきらめています。

そんな気分で上半期の芝居一覧を眺めると、新作が1本もありません。一応(4)は日本では初演だと思いますが当然公開は海外初演、他は古典も現代劇も再演ものばかりです。さらに大半は過去に観たことのある芝居です。気になっていたものをもう一度観るのはかまいませんが、初挑戦要素が少なすぎです。ならばそれが悪いか。そうでもない、むしろこれでもいいんじゃないかと最近は思えます。

好感度の高かった芝居を取上げると、過去の感想の疑問が解決できたり前作からの半分続きだったりで見納め気分になれた(3)(8)、お手本のようながっちりとした構成にぴったりのキャスティングを実現した(4)、ようやく観られてこれぞ新劇と堪能した(9)、そして上にも書いた通り思い入れのあった(6)、です。1本選ぶなら思い入れ抜きでも小劇場が生んだ名作と呼べる(6)、僅差で次点が(9)になります。

あとはやっぱり(A)ですね。西洋芝居は、古典はいざ知らず、近現代の芝居は(4)のようにはっきりしたテーマとがっちりした構成を持ったもの、あるいはエンタメに徹したものの両極端が多いと思っていました。が、会社の発展と倒産までを創業者一族の視点で描いて、雰囲気と余韻が支配する(A)のような芝居が大成功するあたり、偏見だったと反省します。原作はイタリアとのことで、やっぱりヨーロッパの文化は奥が深いです。舞台映画1本目にして緊急口コミプッシュを出して、思わず2回観てしまいました。

打率はそこそこ、当たった時の満足が大きい、さらに過去に気になっていた芝居がいろいろ観られた、本数は少なくても結果として満足、が上半期の総括となります。

あとは下半期に向けてです。ストレートプレイはミーハーに演目に選んで、古典やミュージカルを増やしてもよし、他の趣味の割合を増やしてもよし、もう少し肩の力を抜いて気楽に芝居を観ることが今後の目標です。目標に掲げている時点で力が抜けていないのが難点です。

新型コロナウィルス前は3年連続50本以上、2019年は63本観ました。観るのが仕事の人、まだ見ぬ才能を探す業界人、あるいはこの業界を目指して目と耳の修行をする人なら年間100本が目安のひとつとは以前から考えています。でも趣味で観る人には100本どころか50本でも時間と金と体力が一苦労です。年間の本数がそこまで多くない代わりに観ている年数が長くなったので、日本語のストレートプレイなら一般観客として最低限の鑑賞力は身に着きました。なので、本数を追うことは控える方針です。なお過去にも似た宣言をした覚えがありますので話半分で読んでください。

ただし鑑賞力とは別に選球眼という軸があって、一般観客には観ている演目を味わう鑑賞力よりも、好みに合う演目を選ぶ選球眼のほうが大事というのが最近の自分の意見です。これこそ養うためには本数が必要だったのですが、今後数年単位で観る本数が減ったら選球眼が維持されるか衰えるかは気になります。

芝居以外の話題だと、半年前に書いた話の続きですね。表現の自由を巡る話は、今まさに参議院選挙の最中で現在進行形です。新型コロナウィルスは、落着くかと思ったら次の変異株なのか人の移動が増えたのか、また陽性者が増加傾向にあります。戦争の話は、ロシアとウクライナは始まってしまいましたが、そこが難攻したせいか中国は自重していますので自重が続くのを願うばかりです。ただし物資物流の混乱はもうしばらく続きます。これらに加えて、新型コロナウィルス以外にサル痘の話、酷暑と電力の話、秋口以降の食料品事情がどのような形になるか、あたりがいま挙がっている話題です。

それでも日常は続きます。その合間をぬって、不要不急の文化で息抜きをして、また日常を生抜ければと願っています。引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2021年12月28日 (火)

2021年下半期決算

恒例の下半期決算です。

(1)Bunkamura・大人計画企画製作「パ・ラパパンパン」Bunkamuraシアターコクーン

(2)世田谷パブリックシアター企画制作「愛するとき 死するとき」シアタートラム

(3)Bunkamura企画製作「泥人魚」Bunkamuraシアターコクーン

(4)風姿花伝プロデュース「ダウト」シアター風姿花伝

(5)座・高円寺企画製作「アメリカン・ラプソディ」座・高円寺1

(6)座・高円寺企画製作「ジョルジュ」座・高円寺1

以上6本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は43400円
  • 1本あたりの単価は7233円

となりました。上半期の9本と合せると

  • チケット総額は151100円
  • 1本あたりの単価は10073円

です。なお各種手数料は含まれていません。

下期は上期よりも少ない本数に1万円越えの芝居を2本も混ぜたせいで、年間単価1万円を切ることができませんでした。そしてチケット代が面白さの保証にならないことを思い知らされた年でもありました。

チケット代は関係者の有名度に左右されるものであり、逆に言うとどれだけ面白くても高いチケット代を正当化するためには有名人を呼ばないといけないのが一般です。もちろん、有名人が集客力を盾にぼっているかというとそんなこともなく、実力や華があるからこその有名人ですし、集客力です。その辺は芝居の世界はやはりシビアで、応援する側にだって限度がありますから、客も制作者も、時間と財布をどれだけつぎ込む価値があるか常に問い続けています。つかみどころのない、しかもわかる人にはわかる芸という成果を客は求め、はっきり数字で出てしまう集客力という成果を制作は求め、その両方が一致しないことも珍しくない。そんな両極端な評価に四六時中さらされることを考えると、芸能は並の神経ではつとまらない商売であるとあらためて思います。

そんな中で、芝居関係者以外には地味オブ地味な小規模芝居にもかかわらず高めのチケット代をつけて、しかも芝居ファンならずとも観た人全員満足させたであろう(4)を下期の1本、かつ通年の1本に挙げます。(5)(6)もその作曲家の音楽好きなら満足できる出来でしたが、芝居好きとしてはゴリゴリのストレートプレイに軍配を上げます。

劇場オーナーとしてもっと安いチケット代から始めたプロデュースを毎年続けてここまで育て、時期によってチケット代に差をつけて口コミを促すような集客の工夫も取入れて、人気が出る前から発掘した演出家を起用し、少人数でも面白そうな脚本を探し、でもやるからには自分も出演して存分に実力を見せつけてくれる、那須佐代子の気合の集大成のような公演でした。

そして今回の演出は何度目かの登板の小川絵梨子。観た芝居が少ない中で上期の1本の演出家と重なりました。やっぱりこの人の演出を見逃してはいけない、と思いつつ、最高においしそうだった「検察側の証人」は新型コロナウィルスの第5波で挑戦すら見送りました。もったいない。

出演者側では通年から選んで、「東姫」の仁左衛門に1票を入れます。玉三郎と組んでのあの色気は双方ともすごかったのですが、私は仁左衛門を贔屓します。こちらも、古典寄りの歌舞伎を、勉強ではなく楽しむための道しるべとして、出演機会はなるべく押さえたい。なのにせっかく玉孝コンビで上演された「東海道四谷怪談」は新型コロナウィルスの第5波で挑戦すら見送りました。もったいない。ただ、1幕立見のない昨今、歌舞伎は気軽に観ることもままならないので、そこは財布との相談となります。

財布と相談も必要ですがもうひとつ、総額だけでなく単価が上がりすぎなので、自分の芝居選びの眼が偏ってきているのではないかと心配しています。偏ったって誰に悪いこともないのですし、己に自分の趣味を厳密に問うて偏るなら結構なことですが、見極めるのを放棄して高いほうが品質安定だろと安易になるのはよろしくない。そしてチケット代が面白さの保証にならないのは先に書いた通りです。新型コロナウィルスのため気軽に観に行けない例外的な時期だとしても、それは意識しておかないといけません。あらゆる観た芝居に楽しさを見出す達人の領域には程遠いので、体力の続くうちは選択眼くらいは磨いておきたいという思考です。

自分で書いていて、趣味を楽しむために趣味に対して厳しくなるという、本末転倒な領域で迷子になっているなと思いました。早くこの領域を脱け出してもっとリラックスして楽しめる領域までたどり着きたいです。

その他の話題です。芝居っぽい話だと劇場建替えとか芸術監督交代とかさいたまゴールドシアター解散とか、時の流れを感じさせる話題が多くありました。そして今年は延期されたオリンピックが開催されたのに、開催されたのかというくらい記憶がない。一番記憶にあったのは小林賢太郎の解任話です。が、そこはもう触れません。

さらに、引続き新型コロナウィルスに振回された1年でした。芝居関係ではクラスターもあれば中止もあれば感染者もあり、とても全部をブログにできる分量ではありません。その中でも一番気になったのは芝居でなく音楽イベント開催を強行した話です。

開催にあたっていろいろ適当に申告していたことがわかり、強行した理由がお上に突っ張るでもなんでもなく単にイベントでいっちょ稼ぎたいという、素朴と言えば素朴な理由だったことが後でわかりました。が、それを評して「単純に"ちゃんとしてない人"だった」「ダサい」という輪をかけて素朴な感想のツイートを目にしたとき、私の中にあったいろいろな思い込みが洗い流されました。「格好いい」ものは存在せず、それを格好いいと思いこむ自分および周囲の価値観の表れが格好いいの正体である、「格好悪い」もまたしかり、どちらも人の思い込みによる相対的なものである。そう考えたらいろいろ楽になりました。

まだ考えがまとまっていないところで大げさに書きますが、別に「格好いい」に限らずこの思い込み、なんというのか、人間は自分の外に「いい」と「悪い」を作りたがる、作らないと生きるのがつらいんじゃないかとうっすら思いました。それの最たるものが宗教なわけですが、宗教に限らず、何か基準を外に求めたがるとでもいいますか。全部を自分で引受けることの困難さといいますか。

適当に書いたので気にしないでください。以下は来年に向けての話題になります。

一番は自民党が参議院の立候補に漫画家を立てての表現の自由に関する話題です。ことさらに取りあげるのは、表現の自由なんて芝居関係者には自明のことと考えるのは早計だからです。もともと左翼的イデオロギーの強い舞台関係者の中に自民党大嫌いという人達が一定数いて、表現の自由より自民党嫌いを優先させるひねくれものが一定数出てくる可能性があります。私自身もその傾向がありますが、大義のために気に入らない奴のことを我慢するくらいなら、大義なんて蹴っ飛ばして気に入らない奴をけなすほうがいい、と思うことは度々あります。それが行き過ぎて、自民党を応援することになるくらいなら表現の自由をあきらめてもいいと言い出す関係者が出てこないか、比べられないものを比べて蹴っ飛ばす人が出てきてしまわないか、今からドキドキしています。出てこないことを願います。

次に新型コロナウィルスの話。第6波が来そうな現状ですが、国内はオリンピック後の3か月はかなり上手に推移してきました。が、日本だけが落着いてもまだ駄目で、世界経済がつながっている現代では、海外も落着いてくれないと混乱が収まりません。来年には収まってほしいですが、収まる気配は遠く、特に欧米は一向におさまりません。ワクチンを疑うから打たない人たちの気持ちはまだわかるのですが、あれだけ人が死んでも、買えないとか物がないとかの理由もなくマスクをしないのは、あれが文化なのか死ぬのが怖くないのか、さっぱり気持ちがわかりません。自分が感染するのを防ぐためのマスクではなく、他人に感染させるのを防ぐためのマスクなのが難しいところで、着けたい気分をそそってくれないのでしょうか。

(6)で書き忘れたのが、ああ2年前に観たかったという感想です。パリで社会活動を頑張ったフランス人文学者、という登場人物を素直に格好いいと思えたのは2年前までです。新型コロナウィルスに関連したヨーロッパの記事、それは悪いからこそ記事になるという偏りがあるのは事実ですが、それにしてもヨーロッパは、上は自国を守るのが最優先だし、下はとりあえず何でも気に入らなかったらデモをやるのが、よくいえば伝統だと感じました。別に間違ってはいませんが、日本は武士道の勇気と忠義、中国なら儒教の倫理と道徳のように、その国にないものが出てくるんだな、それが欧米だと自由平等博愛なんだな、という歴史をかみしめました。なんだか上から目線ですが、でも、(6)で主人公が活動にのめり込む終盤に、ちょっと引いてしまったのは事実です。

最後は戦争の話題です。新型コロナウィルスという世界的危機でも、世界は団結できないという歴史の貴重な1コマを体験中です。芝居でも映画でもマンガでも、全世界の危機には各国が一致団結して立ち向かうものなのに。で、直接は、中国が戦争を始めるかどうかです。台湾を取られたら日本の海上物流が死ぬので、日本も参戦せざるを得なくなります。そうなったら芝居どころではありません。そして、西は西でウクライナ周辺でロシアとNATOのにらみ合いが続いています。両方いっぺんに戦争になったらどうにもなりません。今年は無事でしたが、北京冬季オリンピックの後がどうなるかと言われているので、何も起きないことを願います。

波乱含みの1年に何事もないように祈りながら、果たして何本の芝居が観られるのか想像もつきませんが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2021年6月29日 (火)

2021年上半期決算

恒例の決算です。

(1)世田谷パブリックシアター企画制作「子午線の祀り」世田谷パブリックシアター

(2)シス・カンパニー企画製作「ほんとうのハウンド警部」Bunkamuraシアターコクーン

(3)劇団☆新感線「月影花之丞大逆転」東京建物BrilliaHALL

(4)松竹製作「四月大歌舞伎 第一部」歌舞伎座

(5)松竹製作「四月大歌舞伎 第三部 桜姫東文章 上の巻」歌舞伎座

(6)野田地図「フェイクスピア」東京芸術劇場プレイハウス

(7)松竹製作「六月大歌舞伎 第二部 桜姫東文章 下の巻」歌舞伎座

(8)世田谷パブリックシアター企画制作「狂言劇場 『武悪』『法螺侍』」世田谷パブリックシアター

(9)新国立劇場主催「キネマの天地」新国立劇場小劇場

以上9本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は107700円
  • 1本当たりの単価は11967円

となりました。高え。歌舞伎を一等席で3本観て、新感線に野田地図にあれやこれや。高くなるに決まっている。

言い訳をしますと、新型コロナウィルスの流行で観たい芝居を絞って、さらに感染推移をにらみながら行けそうな時期をぎりぎりまで見極めると席種を選ぶ余裕もなく、なんなら貴重な機会だから張り込んでもいいよねという気分にもなって、こうなりました。

芝居の絞り方ですが、(A)今のうちに観ておかないと今後観ることがかなわないかもしれない役者の出演作を中心に、(B)過去の経験で観たい芝居と、(C)何とか観ておきたい演出家とを並べたらこうなりました。

(A)は今回だと木野花、白鸚、仁左衛門、白石加代子、橋爪功、万作です。結果、ほとんどみんな元気でした。白鸚だけ、弁慶がきつすぎて危うかったですが、他の役なら多分大丈夫でしょう。(B)は(1)、(C)は野田秀樹と小川絵梨子です。本当は(B)にもう一本、薔薇を添えたかったのだけど、あそこだけ日程を合せられなかった。

これだけ厳選したら面白い芝居ばっかりに決まっています。さらに絞るなら、思いっきり笑わせてくれた(3)(9)、色気ってのはこういうものだと見せてくれた(5)(7)です。多少ひっかかることもありましたが、このご時世でストレートプレイでこれだけのコメディを見せてくれた総合力から、(9)を上半期の1本に選びたいと思います。個人賞だと孝玉のどっちだとなりますが、それは通年勝負で。

この新型コロナウィルス感染のさなか、わざわざ東京に出かけてまで芝居を観るに至った心境は「1年経つとさすがに厳しい」と「新型コロナウィルスの最中に芝居を観るにいたった雑感」に書きました。

新型コロナウィルスの話題は追いきれないのと疲れていたのとで、減らしていきました。それ以外でこのブログらしいエントリーは「昔も今もわからないものは面白くない」です。元Twitterに半分以上寄りかかったエントリーですが、この話題はもう少しまとめられるようになりたいです。

あとは久しぶりにマンガに手を出したら面白くて、それで思わず芝居を思い出した「芝居を観てマンガを読んでパロディあるいは文化の関連性と炭鉱のカナリアに関する雑感」を書きました。今読み返すと誰にもわかりませんねこれ。完全に自分用のエントリーです。書いたときは疲れていたことを思い出しました。

全体に、疲れていた半年でした。本を中心に、芝居と、音楽少々で生き延びたような気がします。だから文化は必要だ、とは言いません。「不要不急で無駄だからこそ芝居は文化たりうる」の立場は変わりません。不要不急だから役立つんです。必要ぶった文化はいりません。「西洋は芸術、東洋は芸能」というタイトルも思いついたのですが、タイトル止まりで書けませんでした。まとめられたらそのうち書きます。

新型コロナウィルスのワクチンが、年初だといつになるかと気をもんでいたのに、接種が加速して、このまま突っ走るかとおもったら供給不足がアナウンスされて、浮き沈みが激しいです。そしてワクチン接種が中途半端な状況でオリンピックパラリンピックは開催されそうで、ここに海外から大勢来たら感染拡大ついでにもっとすごい変異株が産まれるんじゃないのかなんて冗談がまんざら冗談でもないかもとなって、大変です。私は早くワクチンを打って気を楽にしたいので、待っています。そしてもっと気軽に出かけたい。

こんな状況なので、いろいろな立場で観に行きたくとも芝居見物を控えている人も大勢いるかと思います。ワクチン接種がほぼ全員に行きわたるまで、あと少し、と言えないのがつらいところですが、お互い気を長く持ちましょう。

引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2020年12月30日 (水)

2020年下半期決算

恒例の下半期決算です。

(1)東京芸術劇場企画制作「赤鬼」東京芸術劇場シアターイースト

(2)新国立劇場主催「リチャード二世」新国立劇場中劇場

以上2本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は14300円
  • 1本あたりの単価は7150円

となりました。上半期の7本と合せると

  • チケット総額は56800円
  • 1本あたりの単価は6311円

です。3年連続50本越え、しかも去年は過去最高の63本を記録したところから一転、一桁まで減りました。この本数で選評をするのも気が引けますが、通年の1本だけ、上半期の「天保十二年のシェイクスピア」を挙げておきます。東京公演終盤は上演中止、ツアーも中止となりましたが、祝祭感あふれる芝居を新型コロナウィルスが深刻化する前に観られてよかったです。

芝居以外の話はいつも長くなるので、年間を振返っての感想は「新型コロナウィルスで今年一年考えさせられた日本文化の中での芝居の位置づけについて」と「新型コロナウィルスで想像以上に真面目に上演対策と公演中止に対応していたけど当事者としての言葉を期待してはいけない日本の芝居関係者」に先行してまとめました。新型コロナウィルスに終始した1年でしたが、その中でも「日本文化はフィルタリングシステムという話」を見つけられたのが個人的には収穫で、いろいろ考えることが増えました。

あと書き忘れたのが配信について。いろいろな団体が無料で配信してくれていましたが、どうにも食指が動きませんでした。真面目に見たのは「12人の優しい日本人」だけです。他に数本、少しだけ観たものがありましたが、完走できずに止めました。パソコンの画面で観ると目が疲れるという体力的な理由もありますが、パソコンの画面で長時間動画のドラマを観ること自体に慣れていません。これだけ自宅で観られるコンテンツが充実している時代にもったいない話です。その分、本を読むことに時間を振ったら、思わぬ感想を持ったので「文芸性とエンタメ性とわかりやすさに心を砕くことについて」に書きました。

2021年の芝居展望は、微妙ですね。年末の新規感染者数と医療関係の逼迫(人によってはすでに崩壊しているとも呼ぶ)だけ見れば、1月の成人式ごろに緊急事態宣言が出てもおかしくないし出した方がよいと考えます。ただ、経済優先なのが今の政府なので、何とも言えません。

結局は上半期と同じく、こんな状況で芝居見物がどうなるかわかりませんが、もしこのブログが続くのであれば、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2020年6月28日 (日)

2020年上半期決算

恒例の上半期決算です。

(1)Triglav「ハツカネズミと人間」神奈川県立青少年センタースタジオHIKARI

(2)トライストーン・エンタテイメント/トライストーン・パブリッシング主催「少女仮面」シアタートラム

(3)カオルノグチ現代演技「セイムタイム・ネクストイヤー」下北沢駅前劇場

(4)東宝主催「天保十二年のシェイクスピア」日生劇場

(5)松竹製作「菅原伝授手習鑑」歌舞伎座

(6)てがみ座「燦々」東京芸術劇場シアターウエスト

(7)青年団「東京ノート」吉祥寺シアター

以上7本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は42500円
  • 1本当たりの単価は6071円

となりました。歌舞伎は幕間で観たので通常価格、高くなったのは「天保十二年のシェイクスピア」の分です。他に「12人の優しい日本人」はYouTubeで観ましたけど、無料配信なのでノーカウントです。

2月21日に東京都のイベント延期アナウンス2月26日に政府のイベント自粛アナウンスなので、この期間に観た芝居は新型コロナウィルスの影響がまだそこまでではない時期でした。(5)のころからマスクの接客に気が付いて、(7)が客足に影響はあるものの滑り込みセーフです。なので芝居の感想は新型コロナウィルスの影響をそこまで気にしないで判断できました。文句なしによかったのが(3)(4)、よかったのが(1)(6)(7)、見どころはあったものの総合的に自分には響かなかったのが(2)(5)です。

最近の決算ではもっと細かい感想が続きますが、今回はこれ以上はありません。あとは新型コロナウィルス一色です。ひとつお断りを。何でもアベが悪いとコメントする人たちには閉口しました。初日の幕が開いてから演出家を交代して新演出をつける、新演出家もこれから決めると言ったら演劇関係者は全員ノーと答えると思うのですが、芝居ではなく自分たちの命がかかっている時に、それと同じことを政治家にやろうとしているとしか思えないコメントは優先順位を間違えていると考えて、このブログでは取上げませんでした。

で、自分の書いたエントリーです。

格好悪かった業界に対する批判的な話は、「新型コロナウィルス騒動で日本の芸術団体は団結していないし演劇業界はぶっちぎりで団結していないことがわかったという話」と、「新型コロナウィルスの補償問題で本当にドイツがよかったのか疑問になる記事から転じて文化芸術復興基金の話まで」の2本でだいたいまとまっています。

業界と比べて(相対的に)格好いい業界関係者の話は、正直に罹患を発表した「宮藤官九郎が新型コロナウィルスに感染」、前田史郎の「新型コロナウィルスかわからないのに発熱で中止を決めた五反田団の報告」、今回目にした舞台関係者の文章で唯一格好よかった「新型コロナウィルスに対する横内謙介の覚悟」の3本になります。

自分が芝居をどのように考えているかは、「不要不急で無駄だからこそ芝居は文化たりうる」で考えてみました。

だいたいこんな感じです。時間がないからどれか1本だけ選べと言われたら、横内謙介のエントリーを読んでください。

唯一明るい話題と言えば、小川絵梨子の新国立劇場芸術監督再任くらいです。こんな時代に再任されてかじ取りは難しいと思いますが、今までの日本にないパスからこのポジションについた人なので、乗りきってひょっとしたらさらに先まで行けるかもと内心期待しています。

こんな状況で芝居見物がどうなるかわかりませんが、もしこのブログが続くのであれば、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2019年12月29日 (日)

2019年下半期決算

恒例の年末決算です。

(1)新国立劇場主催「骨と十字架」新国立劇場小劇場

(2)青年団国際演劇交流プロジェクト「その森の奥」こまばアゴラ劇場

(3)世田谷パブリックシアター企画制作「チック」シアタートラム

(4)東京成人演劇部「命ギガ長ス」ザ・スズナリ

(5)M&Oplaysプロデュース「二度目の夏」下北沢本多劇場

(6)五反田団「偉大なる生活の冒険」アトリエヘリコプター

(7)東京芸術劇場主催「お気に召すまま」東京芸術劇場プレイハウス

(8)DULL-COLORED POP「1986年:メビウスの輪」東京芸術劇場シアターイースト

(9)DULL-COLORED POP「第三部:2011年 語られたがる言葉たち」東京芸術劇場シアターイースト

(10)ワタナベエンターテインメント企画製作「絢爛とか爛漫とか」DDD青山クロスシアター

(11)松竹製作「秀山祭九月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

(12)犬飼勝哉「ノーマル」三鷹市芸術文化センター星のホール

(13)ホリプロ/フジテレビジョン主催「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」世田谷パブリックシアター

(14)シス・カンパニー企画製作「死と乙女」シアタートラム

(15)鵺的「悪魔を汚せ」サンモールスタジオ

(16)こまつ座「日の浦姫物語」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

(17)風姿花伝プロデュース「終夜」シアター風姿花伝

(18)野田地図「Q」@東京芸術劇場プレイハウス

(19)世田谷パブリックシアター/エッチビイ企画制作「終わりのない」世田谷パブリックシアター

(20)KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ドクター・ホフマンのサナトリウム」神奈川芸術劇場ホール

(21)松竹製作「連獅子/市松小僧の女」歌舞伎座

(22)□字ック「掬う」シアタートラム

(23)鳥公園「終わりにする、一人と一人が丘」東京芸術劇場シアターイースト

(24)KAAT神奈川芸術劇場/KUNIO共同製作「グリークス」神奈川芸術劇場大スタジオ

(25)Bunkamura/大人計画企画製作「キレイ」Bunkamuraシアターコクーン

(26)テレビ朝日/産経新聞社/パソナグループ製作「月の獣」紀伊国屋ホール

(27)新国立劇場主催「タージマハルの衛兵」新国立劇場小劇場

(28)KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」神奈川芸術劇場ホール

(29)TAAC「だから、せめてもの、愛。」「劇」小劇場

(30)世田谷シルク「青い鳥」シアタートラム

以上30本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果

  • チケット総額は211580円
  • 1本当たりの単価は7053円

となりました。上半期の33本とあわせると

  • チケット総額は368400円
  • 1本当たりの単価は5582円

です。3年連続50本越えどころか60本越え、しかも上半期下半期両方で30本達成という本数です。下半期の30本は本当は別の芝居で達成予定だったところ、当日券で蹴られてむきになって観に行ったのが(29)(30)です。せっかく上半期で抑えたチケット代が跳ね上がった理由は、仁左衛門弁慶を近くで観たいと思った(11)が筆頭、他に小劇場で宮沢りえが出演した(14)、ついにこの値段になった人気脚本演出家の(18)(20)(25)、1日上演で値段も高かった(24)、と大作続きだったのが理由です。

そして当たり芝居を分類するのが非常に難しいのですが、独断と偏見で分類してみます。日本社会の問題を時に深刻に時に笑いを交えて描いた(4)(6)(8)(12)(29)、国際的な問題が落とす、落としうる影を直接間接に背景に持たせた(2)(14)(24)(26)(27)、個人の生き方に問いかける(3)(17)(23)(30)、巨匠たちの大作すぎて無理やりにしても分類が難しいけど人間賛歌と名づけてみる(5)(18)(20)(25)、エンタメに徹した芝居が少ない中でも気を吐いていた(13)(15)、あたりでしょうか。観られてよかったという点では(10)(11)(28)も含まれますが、仕上がりと価格のバランスを考えるとここに挙げるのはつらいということで外しました。そうすると、30本中20本で打率6割後半。上半期よりも打率は上がりますが、チケット単価の差を考えたらこのくらいの打率で喜んでいられないところです。

そこから絞ると翻訳モノで(3)(17)(24)(27)日本モノで(4)(6)(12)、さらに絞ると(4)(24)(27)、もうここから先はサイコロを振って選ぶレベルですが、日本でこれからより深刻になる問題を笑いにくるめてたった2人+声で演じた(4)を下半期の1本とします。通年でもこれを推します。

そのほか、勝手に一部部門賞です。

まずは役者部門。主演男優は(18)で若き日のロミオを演じた志尊淳と、(27)の2人芝居から迷って亀田佳明の2人を挙げます。前者には華をなくさず今後も活躍してほしいという期待を、後者にはこれからどこに出ても水準以上の演技が見込めるという期待を、それぞれかけて選出します。主演女優は「あい子の東京日記」がすばらしかった中山マリ、(4)(24)で大活躍だった安藤玉恵と(17)でひりひりした演技を見せてくれた栗田桃子を選出します。中山マリは母を通じた半自伝を抑えた調子で演じて素晴らしく、安藤玉恵は「痴人の愛」がよかったときから気になっていましたが今年の2本は文句なし、栗田桃子はこまつ座の常連くらいのイメージだったのが一気に変わりました。3人も選ぶのかよと言われるところですが、ベテランの集大成、脂の乗っている絶好調期、確実に次のレベルに上った1本、と3人ともここで選ばないでいつ選ぶという出来でした。他にいい人もいたかもしれませんが、だとしてもこの3人の出来に疑う余地はありません。

助演男優は(15)で総務部長役が渋かった池田ヒトシを挙げます。似た人間が集まりがちな小劇場で世界を広げた点が助演という呼名にふさわしいと考えます。助演女優は「2.8次元」で自分は華を出しつつ他の役者も輝かせた豊原江理佳、「LIFE LIFE LIFE」の妻役と「キネマと恋人」の妹役とどちらもKERA演出で活躍したともさかりえ、(3)の複数役と(17)の弟の妻役とでなぜか目が行く那須佐代子の3人を挙げます。少人数の芝居が多いのでその場合に主演か助演か選びにくいのですが、感覚で分けさせてください。年頭の青年団の旧作短編集もそれぞれよかったのですが、あれは少人数が多すぎて選出に迷ってかえって外れてしまいました。

脚本演出部門では、どこまで演出をひとりで行なったのかは不明ですが、(12)がすばらしかった犬飼勝哉。世界の広がりを感じさせるあのクオリティが、さらにさらにさらに伸びていくことを期待します。

スタッフ部門では、(24)で現代的洋装だったり和洋折衷だったずばり和装だったりでギリシャ悲劇に拮抗したプランがみごとだった衣装の藤谷香子。(30)で暗い場面から目が覚めるような場面まで幅を持った照明で幻想の国を美しく作った阿部将之。この2人を挙げます。

あと美術もかかわりますが、囲み舞台部門です。劇場で囲み舞台を使いこなしつつ全方位の客席向けにも頑張ってしかも観て満足した企画として、東京芸術劇場シアターイーストの「K.テンペスト2019」、神奈川芸術劇場大スタジオの「ゴドーを待ちながら(昭和・平成ver.)」、シアタートラムの(30)の3本を挙げます。囲み舞台で稽古場の演出家席が見えると途端にけなしだす自分ですが、囲み舞台の形式は好きです。ちょうど違う劇場が揃っているのもタイミングがよく、こんな使い方もできると知られると嬉しい、このように使いこなしてくれる芝居が増えてほしい、と願って取上げます。それぞれ美術は串田和美、乘峯雅寛、杉山至です。

部門賞まで終わって、通年の感想です。

まずは今年芸術監督就任が発表された長塚圭史松尾スズキ。ここまできれいに就任先が決まるのかと天邪鬼な感想も持ちましたが、就任したからにはよい芝居を並べてくれるだろうと期待しています。慣れてきたころ、3年後のラインナップを楽しみにしています。

次に、少人数の芝居が多いこと。少人数が何人かは意見が分かれるところですが、考えがあって4人まで、とします。声だけの出演は数えず、複数本同時上演はばらばらに数えると、1人芝居が2本、2人芝居が5本、3人芝居が3本、4人芝居が5本です。数え間違っているかもしれませんが、15本は多い。芝居は大勢が登場するものだという先入観を持っていましたが、2割以上となるとそうとも言えません。あまり予算をかけられないという制作上の都合と、人数が少ないほうが深く濃く描けることもあるという創作上の都合と、両方あるのでしょう。人数が少なくてもいい芝居が創れることは(4)(27)が証明してくれましし、大勢ならではの芝居も上半期の1本「2.8次元」や(24)などがあります。役者の多寡で描ける内容に違いはあっても、質とは別物であることが証明された1年でした。

あと上半期に引続いて当日券で蹴られることが多かったこと。事前の売行きを見て避けた芝居もあったのですが、人気者の登場は見逃さない役者のファンとは別に、面白そうと思ったものを観に行く人がひところよりも増えている気配があります。次に景気が悪くなったらどうなるかわかりませんが、少なくとも都内では、モノよりコトに消費する人の選択肢として芝居が挙がっているのかなと推測します。

業界向けな話題では、2回の台風騒動をまとめたエントリー2本(9月10月)は、去年の台風騒動のまとめと合せて、台風に限らず雪その他の「事前に想定できる公演中止時の対応」の確立に役立ていただければ幸いです。また、カルチベートチケットの話から発展する成河の演劇論のエントリー「演劇は一生懸命見られると実はうまくいかないことの方が多い」は、ほとんど引用ですが読んでほしい、できれば元記事も読んでほしいエントリーです。

そして全体の感想。去年の感想でこんなことを書きました。

いい上演企画には大まかに2種類あります。仮に「現代の風潮を問う芝居」と「徹底的にエンターテイメントの芝居」と名づけます。昔だともう少し文学っぽい芝居も成りたったと思いますが、今は2種類の少なくともどちらかの要素を混ぜないと魅かれません。何故かといえば日本の生活も社会もここ10年で大変になったからです。観客側から見れば余裕はどんどんなくなっています。単によくできただけの芝居に大枚はたくような余裕はなく、ましてや外れ芝居を見守るような余裕もないので、観るからにはその芝居を観てよかったと実感できるような芝居が求められています。大変になった人たちの悩みをすくい取って励ますか、大変になった人たちを楽しませて明日への活力を与えられるか。大げさに言えば、2種類のどちらの要素も含まれない芝居は自己満足と言われても仕方がない世相になっています。

観に行く芝居を選ぶ基準は昔からそんなに変わっているつもりはなく、脚本演出出演に人が揃って興味をそそられるか、有名な脚本なので観ておきたいか、チラシなり他人の口コミなりに引かれて試してみるか、だいたい3つのどれかです。そのはずなのに、選んだ芝居にどうしても「現代の風潮を問う」要素が混じってくるし、観終わったらそこを評価してしまう。中身に社会的な要素が含まれる芝居が最近は非常に多いです。そこをもって「日本社会の問題」「国際的な問題が落とす、落としうる影を直接間接に背景に持たせる」「個人の生き方に問いかける」「人間賛歌」「エンタメに徹した芝居」と先に分類しました。

たとえば、今年最初の1本が痴呆の父の介護である「」から始まり、通年の1本である(4)は8050問題に介護も絡み、寝たきりの母の介護が重要な要素となる(29)から、入院した老人の介護にアレンジした(30)が続いて終わるというすごい偶然は、高齢化社会が身近にあることのあかしで、しかも日本社会だけでなく(今までの)先進国に共通の問題でもあります。だからこそフランスで「父」が執筆されたわけです。

あるいは、ギリシャ悲劇なのに国際的な問題に分類した(24)は、国同士の抗争、神を信じられない世界の有様は、2000年以上を越えて、分断の時代と言われる現代に通じるものを感じたのでそのように分類しました。

他に、表向きは少年の成長というロードムービーな展開である(3)も、人種(国籍)差別やLGBTといった要素を含んでいて、個人の生き方に問いかける面があり、一筋縄ではいきません。これから公演する芝居ですが、「ヘアスプレー」は脚本家のメッセージが直球です。日本でこの手の問題が今以上に議論されるか、隠れるかは微妙なところですが、そもそもこの手の問題が日本でここまで盛上がるほうが今まででは考えられませんでした。

分類には出しませんでしたが、「個人の生き方に問いかける」をもう少し身近に、介護や差別の問題にこだわらず家族の話を直接間接に取上げた芝居まで拡げるともっと多くなります。独断で数えると上半期は「父」「過ぎたるは、なお」「世界は一人」「隣にいても一人」「ベッドに縛られて / ミスターマン」「埒もなく汚れなく」「キネマと恋人」、下半期は(3)(4)(5)(15)(17)(19)(22)(26)(29)と16本です。家族とは何か、家族は無条件で肯定できるものなのかという古くて新しい問題含んだ芝居がこれだけ上演されているのは、家族というだけで当たり前と思っていたいろいろなことは当たり前ではないと考える人が増えている証拠でしょう。

そういう「当たり前と思っていたいろいろなことは当たり前ではないと考える人が増えている」理由として、SNSを通じたやりとり、似た考えを持った人たちの「横のつながり」が、国を越えて発展していることが大きいです。ただし、そうでない人たちの「横のつながり」も発展していること、同じ考えの人たちが集まることでどちらの人たちも考えが凝り固まって排他的になっていくこと、が進むことで、分断が促進されてしまうのではないか、に私は興味があります。それが端的に現れたのが下半期最大のトピックスと考えるあいちトリエンナーレの上演中止騒動です(「あいちトリエンナーレ『表現の不自由展、その後』のメモと芸術監督の仕事について」、「芸術の鑑賞ルールなんて教わったことがない」)。本件について、私はここまで炎上させた芸術監督に批判的ですが、それとは別に、(本人にその気があるかどうかは別として)炎上に加担した人たちの背景も想像したりします。

おそらくそこも2種類あって、ひとつは不満の捌け口とした人たち、もうひとつは攻撃されたと感じて攻撃しかえした人たちがいると思います。一番の問題として経済問題が大きく絡むはずですが、さらにその背景には、日常がたいへんでストレスにさらされている人たち、たとえば介護問題などで日常が精一杯の人たちだったり、仕事でそれこそそういう攻撃を受けてくたびれるような人たちだったり。そういう心境に置かれた人たちも、直接自分と関係ある出来事であれば是々非々の判断が働くでしょう。けど、自分と直接関係ない出来事でしかも国としての対応は終わっているのにいつまでも嫌味を言ってやがると相手国に反感ムードが仕上がっていたところ、その当の相手の国民から逆なでするような展示が出てきたら、反射神経で反感を持つのはある意味自然な反応です。

家族関係のような身近なものだって当たり前と思っていることが当たり前とは限りませんけど、常に全方位でそうやって是々非々を判断しながら生きるには経済的にも文化的にも余裕が必要です。世界でいまそれを兼ね備えている国はありません。そういう時代です。個人でもそう多くないでしょう。

ここで話はループして、生活が大変になった日本(に限らない今の先進国の)社会、芝居で描かれている社会問題、当たり前のことが当たり前でないかもしれないという不安、それぞれの価値観が相手「陣営」にとってストレスとなることがSNSで促進されてしまうこと、それらの衝突の結果が大炎上、と同時代の問題がいろいろな場所にそれぞれの形で出てきています。おそらく2020年はもっと出てくるはずで、芝居にも今以上に社会問題が取上げられると予想します。

そんな時勢で芝居に何を期待するか。これは2013年の決算で私が書いた文章です。

1年前の決算で「世の中の変化はもっと激しいはずで、あるいはその変化を早めて、あるいはその変化の影響を緩和して、あるいはその変化に立向かうための希望をみせるような、そんな動きを芸術が担えるのかどうかはやっぱり興味がある。」と書いた。これを改めて、人によって複数あるだろう芸術の定義の定義のひとつを「それを体験した人に、人生に立向かうための勇気を与える表現」としてみたい。

芝居にはやはり、個人から見た視点、個人を描く視点、個人を慈しむ視点がほしい。「Das Orchester」の中に、「演劇は言葉を扱う芸術だからか、簡単に扱えましたよ」というゲッペルスの台詞がありました。そちらに流されることなく、個人の側に立ってほしい。

私は、経済問題を含む厳しい社会情勢の中で、さらに当たり前と考えていたことが当たり前でないかもしれないと不安にさらされた時代を生きていくためには、横のつながりだけでなく個人の成長と確立が必要で、また個人の成長が全体の社会情勢の厳しさを緩和することにもつながると考えています。そのために、以前の引用を更新して、「厳しい社会問題や日常を可視化するところに留まらず、そこで個人がいかに人生に立ち向かうかまでを描いた」芝居、「物事の見方を変えて、排他的になっていた心をほぐし、人生はそんなに悪くないと思わせてくれる」芝居、あるいは「純粋に大笑いできて厳しい日常でつかの間のリフレッシュをさせて、明日もがんばるかと活力を与えてくれる」芝居、そういう芝居を希望します。

最後に余談です。これだけ偉そうなことを書いている私ですが、今年最後の仕事で「お前の考え方は当たり前ではない」とダメ出しされて年越しやり直しとなりました。これだけ芝居を観ても、自分のコンテキストを自覚する力や他人のコンテキストを想像する力に乏しいのはいかんともし難く、苦笑いするしかありません。ただ、当たり前と思っていることが当たり前とは限らないこと、当たり前と思っていることが当たり前とは限らないと考えている人はそう多くないことを、それぞれ意識することで、少しでも肩の力を抜いて暮らしていけることを目指します。

2020年は元号が変わって最初の正月、そして干支が回って子年。観劇本数が増えるか減るかわかりませんが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2019年6月29日 (土)

2019年上半期決算

恒例の上半期決算です。

(1)東京芸術劇場制作「」東京芸術劇場シアターイースト

(2)劇団東京乾電池「授業」アトリエ乾電池

(3)新国立劇場演劇研修所「るつぼ」新国立劇場小劇場

(4)タカハ劇団「僕らの力で世界があと何回救えたか」下北沢小劇場B1

(5)渡辺源四郎商店シェアハウス「過ぎたるは、なお」こまばアゴラ劇場

(6)松竹製作「二月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

(7)青年団「走りながら眠れ」こまばアゴラ劇場

(8)パルコ製作「世界は一人」東京芸術劇場プレイハウス

(9)青年団「隣にいても一人」こまばアゴラ劇場

(10)青年団「思い出せない夢のいくつか」こまばアゴラ劇場

(11)小田尚稔の演劇「是でいいのだ」三鷹SCOOL

(12)加藤健一事務所「喝采」下北沢本多劇場

(13)名取事務所「ベッドに縛られて / ミスターマン」小劇場B1

(14)パラドックス定数「Das Orchester」シアター風姿花伝

(15)燐光群「あい子の東京日記 / 生きのこった森の石松」ザ・スズナリ

(16)KUNIO「水の駅」森下スタジオ

(17)松竹製作「御存 鈴ヶ森」歌舞伎座

(18)シス・カンパニー企画製作「LIFE LIFE LIFE」Bunkamuraシアターコクーン

(19)松竹製作「実盛物語」歌舞伎座

(20)演劇ユニットnoyR「ニーナ会議」若葉町ウォーフ

(21)オフィスコットーネプロデュース「埒もなく汚れなく」シアター711

(22)イキウメ「獣の柱」シアタートラム

(23)オフィスコットーネプロデュース「山の声」GEKI地下リバティ

(24)まつもと市民芸術館企画制作「K.テンペスト2019」東京芸術劇場シアターイースト

(25)ジエン社「ボードゲームと種の起源・拡張版」こまばアゴラ劇場

(26)松竹製作「六月大歌舞伎 昼の部」歌舞伎座

(27)劇団青年座「横濱短篇ホテル」亀戸文化センターカメリアホール

(28)KERA・MAP「キネマと恋人」世田谷パブリックシアター

(29)serial number「機械と音楽」吉祥寺シアター

(30)ラッパ屋「2.8次元」紀伊国屋ホール

(31)松竹製作「月光露針路日本」歌舞伎座

(32)FUKAIPRODUCE羽衣「ピロートーキングブルース」下北沢本多劇場

(33)神奈川芸術劇場プロデュース「ゴドーを待ちながら(昭和・平成ver.)」神奈川芸術劇場大スタジオ

以上33本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は156820円
  • 1本当たりの単価は4752円

となりました。高い芝居を観ながらも、青年団の短編や歌舞伎の幕間チケットのおかげで、近年まれに見る単価5000円以下になりました。ただ33本は観すぎで、金額もさることながら体力がきついです。渥美清は昼夜の芝居を観てさらに映画を観るのがつらくなったと言っていたらしいですが、わかります。というかここに映画を足したら倒れます。観たい芝居と、この機会に観ておかないといけない芝居に、ここで試しておきたい芝居まで混ぜたせいでこの数になりました。ここで観たり試したりすることで、将来の候補を絞って楽になることを期待しての挑戦です。ついでに書くと、当日券で蹴られた芝居も数本あり、振返れば蹴られて良かったという数です。

結果、33本も試さなくてもよかったなというか、ありていに言えば外れもそれなりに多かったです。外れにも発見のある外れと純粋に外れとがあり、当たりにも大満足と一部不満はあってもそれを上回る満足で帳消しにするものとがあるので、総合的に満足できたかどうかでの判断となります。観たかった芝居では(7)(9)(10)(14)(18)(22)(24)、この機会に観ておかないといけないと思った芝居では(2)(3)(19)(21)(26)(27)(33)、ここで試しておきたい芝居では(1)(5)(15)(20)(30)、計19本が当たり判定です。この本数を観て6割弱ならまだ高いほうだと思います。

そこから絞ると、初期から面白かったことを再確認した青年団の(7)(9)(10)、ほぼ1人芝居で緊急口コミプッシュも出した(15)、不思議な雰囲気の(24)、ベテランが喜劇をつくるとこうなるんだという見本の(27)(28)(30)、古典を現代的に上演した(33)、歌舞伎もいいもんだと思わせてくれた(26)です。さらに上半期の1本まで絞ると、初見にして大いに笑わせてくれた(30)になります。(15)は緊急口コミプッシュも出しましたが、気に入ったのが2本立ての1本だったので、こちらを選ばせてもらいました。

あと、思い出深い1本として(22)を挙げておきます。初演が好きすぎて、思い入れが妄想の域まで達していたので、今回の再演を観て長文の感想を書いて、ようやく落着くことができました。ただ不思議なのは感想を書くときに出てきた文体です。芝居の感想と世間の出来事を混ぜて長文を書くのは初めてだったので内容の出来不出来はさておき、あの新聞の出来損ないのような文体はいったいどこから出てきたのかがわかりません。あるいは、長文の感想執筆に耐えうる文体の蓄積がなかったばかりにああなったのか。時間がなくてほとんど推敲しませんでしたが、次回長文を書く機会に推敲してどこまで読みやすくなるか試してみたいと思います。

上半期の話題は、明るいものでは長塚圭史の神奈川芸術劇場芸術監督就任予定発表です。今の白井晃から大幅に若返っての就任で、今後のラインナップに期待です。暗いものではキャラメルボックスの活動停止で、何気なく観ている芝居も相応のリスクや苦労があること、いつでも観られるわけではないことを改めて思い知らされました。そしてどちらも、時代が流れていることを感じさせる出来事です。

あとは上でも少し書きましたが、当日券で蹴られることが多かったです。単なる勘で理由を推測すると、芝居好きなら気になるという座組みに人気者を一人混ぜておくことで集客がぐっと変わるということに制作側が気がついたのか、背に腹は変えられないのか、規模を問わず起用するようになったのがひとつ。あと最近は役者の側、特に若手が、舞台に出ることを実力名誉修行箔付経験のように考えている気配があり、人気があって舞台出演に耐える実力の役者が、この規模の劇場でというか、小さい規模ほどありがたがって積極的に出演を望んでいる模様なのがひとつ。両方の思惑が合わさったように思います。さらに勘を続けると、小劇場出身者が映像に進出して活躍が目に付くようになった10年前くらいからが転機で、それが最近になって目立つようになった模様です。芸能事務所としても、ネット全盛で映像の力が相対的に弱くなって適当に舞台の仕事を入れたほうが長期的には得と判断しているのでしょう。ただ関係者一同いろいろ気をつけているなと思うのは、だいたい、演出家は限られるようです。

下半期はさすがに数を減らしたいのですが、観られるときに観ておけという気分もあり、どうなるかは不明です。

引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2019年1月 6日 (日)

2018年下半期決算

恒例の年末決算です。

(1)新国立劇場主催「消えていくなら朝」新国立劇場小劇場

(2)DULL-COLORED POP「1961年:夜に昇る太陽」こまばアゴラ劇場

(3)パラドックス定数「5seconds」シアター風姿花伝

(4)キョードー東京企画招聘「コーラスライン」@東急シアターオーブ

(5)パラドックス定数「Nf3Nf6」@シアター風姿花伝

(6)野田地図「贋作 桜の森の満開の下」@東京芸術劇場プレイハウス

(7)松竹製作「秀山祭九月大歌舞伎 河内山」歌舞伎座

(8)遊園地再生事業団「14歳の国」早稲田小劇場どらま館

(9)グループる・ばる「蜜柑とユウウツ」東京芸術劇場シアターイースト

(10)小田尚稔の演劇「聖地巡礼」@RAFT

(11)松竹製作「俊寛」歌舞伎座

(12)シス・カンパニー企画製作「出口なし」新国立劇場小劇場

(13)パラドックス定数「蛇と天秤」シアター風姿花伝

(14)東京芸術劇場主催「ゲゲゲの先生へ」東京芸術劇場プレイハウス

(15)新国立劇場主催「誤解」新国立劇場小劇場

(16)松竹製作「助六曲輪初花桜」歌舞伎座

(17)KERA・MAP「修道女たち」下北沢本多劇場

(18)青年団「ソウル市民」@こまばアゴラ劇場

(19)青年団「ソウル市民1919」@こまばアゴラ劇場

(20)神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」神奈川芸術劇場ホール

(21)M&Oplaysプロデュース「ロミオとジュリエット」下北沢本多劇場

(22)新国立劇場主催「スカイライト」@新国立劇場小劇場

(23)Bunkamura企画製作「民衆の敵」@Bunkamuraシアターコクーン

(24)シアター風姿花伝企画製作「女中たち」シアター風姿花伝

(25)月刊「根本宗子」「愛犬ポリーの死、そして家族の話」下北沢本多劇場

(26)カタルシツ演芸会「CO.JP」スーパーデラックス

以上26本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は157780円
  • 1本当たりの単価は6068円

となりました。上半期の26本とあわせると

  • チケット総額は316000円
  • 1本あたりの単価は6077円

です。そんなつもりはなかったのにまさかの2年連続50本越え達成です。ここまで本数が増えたのは、長く芝居を観ているなら有名な芝居は一度くらい観ておきたいという発想になったせいで、その分再演ものが多くなりました。チケット単価はここ数年の中では抑えたほうですが、それにしてもこれだけ観ると総額が馬鹿にならず、それ以上に交通費が嵩むのが財布には痛いです。なお数を観すぎたためか、夏以降に断捨離を高い優先度で進めていたためか、上に並べた26本が半年以内に観た芝居という実感が持てていません。3年前くらいの感触です。

下半期の収穫は、劇場提携公演中の(3)(13)、今もって古さを感じさせなかった(8)、繰返し上演される海外古典戯曲の(15)(20)(23)、青年団の代表作である(18)(19)など再演ものが多い中、気合の入った新作で気を吐いた(17)と、笑わされた(26)になります。この中で1本選ぶなら(17)になります。できれば土曜日の昼間で余裕のあるときに観たかった1本です。

通年では、下半期の(17)、上半期に口コミプッシュを出した青年団の「日本文学盛衰史」などを差置いて、パルコ/兵庫県立芸術文化センター共同製作の「テロ」を今年の1本に選びます。セットらしいセットもなく台詞だけで緊迫感がここまで作れると示した仕上がり、多様化した現代の問題をタイムリーに取上げた内容、観客投票で変わる結末など、本来なら口コミプッシュを出すべきだった1本です。その場で判断できなかった自分の不明を恥じます。

そのほか、勝手に一部部門賞になります。

役者部門。主演男優は「アンチゴーヌ」で新王クレオンを演じた生瀬勝久。圧巻の演技で、これ1本で拍手に値します。年明け実質2本目にこれを観たので、今年の観劇ではこれを越える男優がいないかと探すのが裏テーマでしたが、見つかりませんでした。主演女優は2人。カオルノグチ現代演技を立上げて「演劇部のキャリー」で絵に描いたような小劇場2人芝居で楽しませてくれた野口かおると、(15)で圧巻の絶望を演じてのけた小島聖の2人。まったく間逆のベクトルですがあのテンションには甲乙付けがたいです。

助演は挙げたらきりがないのでばっさり減らします。男優は「秘密の花園」と(21)で不思議な演技を見せてその理由が解明できない田口トモロヲと、(15)で大ベテランながらほとんど台詞のない役を演じてしかも存在感抜群だった小林勝也。女優は、ハイバイ「ヒッキー・ソトニデテミターノ」で支援センター職員が見事だったチャン・リーメイと、(18)(19)で中心人物を演じて青年団内での出演機会も上昇中の荻野友里。出演した芝居が自分の好みに近かったかどうかも加味してしまいましたが、挙げたらきりがないので、この4人とします。

脚本演出部門では、上半期に劇団公演で「ヒッキー・ソトニデテミターノ」再演と、さいたまゴールドシアターで「ワレワレのモロモロ」新作を作った岩井秀人。再演多めの人ですが、観たら外れがありません。下半期の「て」「夫婦」の再演を見逃したのが悔やまれます。「ヒッキー・ソトニデテミターノ」の当日パンフのコメントも記憶しておきたい見事なものでした。

スタッフ部門は、(15)でシンプルな舞台美術に大きな幕を使って美しかった乘峯雅寛と、(17)のA4仮チラシが単体でも芝居との関連でもきっちりはまっていた雨堤千砂子。この2人を挙げます。

企画は、1年で7本上演という上演計画を立てて今なお上演中のパラドックス定数とシアター風姿花伝。もともと劇場から申し出た提携案なので計画に融通はきくとしても、これを通した劇場の太っ腹もすごい。1本あたりの上演期間が短いのが難です。ここまで5本上演されたうちの4本を観て、事件に絡めた脚本を書く野木萌葱の才能に改めて気がつきました。2019年には新国立劇場で小川絵梨子演出の新作「骨と十字架」が予定されています。

なおその新国立劇場では2019年冬には月刊「根本宗子」が新国立劇場の中劇場に進出することが折込チラシで発表されており、劇団公演か共催かわかりませんが、劇場側が攻めたラインナップを並べようとしている気配が伺えます。目を転じて民間では、三谷幸喜が今さら感ですが6月に歌舞伎座初登場です。新橋演舞場でワンピースを上演するなど、あの手この手でジリ貧に陥らないように伝統芸能もいろいろな企画を立てています。

趣味で選んで偏っているとはいえ、2年で100本も観ると何となくイメージが湧くのですが、いい上演企画には大まかに2種類あります。仮に「現代の風潮を問う芝居」と「徹底的にエンターテイメントの芝居」と名づけます。昔だともう少し文学っぽい芝居も成りたったと思いますが、今は2種類の少なくともどちらかの要素を混ぜないと魅かれません。何故かといえば日本の生活も社会もここ10年で大変になったからです。観客側から見れば余裕はどんどんなくなっています。単によくできただけの芝居に大枚はたくような余裕はなく、ましてや外れ芝居を見守るような余裕もないので、観るからにはその芝居を観てよかったと実感できるような芝居が求められています。大変になった人たちの悩みをすくい取って励ますか、大変になった人たちを楽しませて明日への活力を与えられるか。大げさに言えば、2種類のどちらの要素も含まれない芝居は自己満足と言われても仕方がない世相になっています。

下半期で例を挙げると、かつての不倫相手との一夜の話がメインでありつつバックグラウンドに社会問題を織込んで深みを出した脚本が(22)で、完全エンターテイメントだったのが(26)で、読んだ批評では吉右衛門の演技が絶賛一色でしたが上演企画そのものには継承して育てた芸の披露以上の意味があったのか疑わしいのが(11)です。歌舞伎にとって芸の継承は大げさに言えば生命線ですが、それが今時の歌舞伎マニアでない観客に訴えるところがないのも事実です。これを解決して作り手と観客とをつなげるのは演出家や芸術監督の仕事で、だからこそ古典と古典の間に三谷幸喜を呼んで活性化をはかることになるわけです。なお、現代の風潮をエンターテイメント風に問うのが今時の理想で、だいぶシリアス路線でしたけど新作では(17)が代表です。この話題は独立したエントリーを書きたかったけど間に合いませんでした。できれば改めて書きたいです。

他にも書きたくて書けなかったエントリーはあるのですが、その代わりに「2018年の東京台風直撃の対応の記録」は、長くて読みづらい文章なのが難であるものの、このブログらしいまとめでした。観客として、公演中止の対応にもいろいろあることがわかって勉強になりました。願わくは、少しでも観客に優しい対応が芝居業界で標準化されますように。

2019年は本数が増えるか減るかわかりませんが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

<2019年2月19日(火)追記>

チラシを発掘して雨堤千砂子の名前が確認できたので記載変更。でもA4パンフ側に宣伝美術のクレジットがなくて、A3パンフにしか載っていなかったのが不思議。